畑は結果的に言うと成功した。
最初の頃は何度か失敗したが、彼らの奮闘により、どう言った環境で、どういったモンスターの魔石を肥料とするかによってワタシがシンクロノイズで作った効果がない『ただのタネ』を栽培によってどの種に変化するのかを突き止めた。
それで現在はいくつかを安定して生産し、ワタシが買い取っているが、今のところ『しあわせのタネ』や『ふこうのタネ』などのレベルに関わる物や『ふっかつのタネ』などの復活系アイテムは条件すらわかっていない。もしできたとしてもフェルズさんは自分たちで使うか、自分が買い取るから冒険者に無闇に売るなと言われてしまったため非売品になることは確実である。
ちなみにきのみ類は驚くほど簡単にできて、肥料の魔石に炎を使うモンスターの魔石を入れれば、やけどを治す『チーゴの実』ができる。毒を使うモンスターのを使えば、毒を治す『モモンの実』ができた。
ポケモン本編でも道端に植えれば時間を待つだけで収穫できるから栽培は楽なんだろうと思っていたけど、思ってた以上に簡単で驚いた。今ではゼノス達の食料の一つにもなっているぐらいだ。
レイ達はこれからいろんな条件や魔石肥料の量や種類を調整して色々と試してくれるらしい。本当にありがたい。
畑から取れたきのみやタネは使わない分をワタシが魔石と交換することにした。その魔石を食べるもよし、ワタシの商品を買うのに使うのもよし。その辺りの判断は彼らが決めるほうが良いと思ってそうすることにした。
そんなワタシは現在──
「僕的にはこのスカーフが良いと思う」
「後衛職として見れば喉から手がでるほどの品ばかりだな」
「店主。酒はないのか?」
「えー、こっちのタネだよ!」
「使い道ないでしょ。こっちの木の実の方がいいわよ」
「リボンと同じやつ……」
「『せんたくだま』を買うべきだと思います!」
何人か見覚えのある冒険者たちに囲まれていた。
ロキファミリアは現在、遠征に来ていた。
主目的は未到達開拓。59階層を目指すことだ。それとは別にディアンケヒトファミリアからの
その野営キャンプの中、さきほど身勝手な行動で隊列を崩し、お叱りを受けている最近リボンを付け始めた女の子がいた。
その名もアイズ・ヴァレンシュタイン。剣姫の二つ名を持つ英雄候補の1人であり、最近リボンをつけ始めたオシャレさんである。
そんな彼女が叱られている最中、団員の1人がテントの中に顔だけだして言った。
「問題と言うべきか分かりませんが問題が発生しました」
「ティオネ、何かあったのかい?」
「例の……モンスターの商人が近くに店を開いています」
「それは本当か⁉︎」
「モンスターの店主って言うと、ロキが客には積極的になって、喧嘩は売るなって言っていたアレか」
「リボン……!」
「あ、待つんだアイズ!」
アイズは正座の状態からフィンの制止の声も聞かずにテントを飛び出る。目的は商品だけではない。アイズには、かの商人に聞かなければならないことがあったからだ。
テントを出たアイズは辺りを見渡す。テントの準備を終えて夕食の準備をしているはずの団員達がいない。人気のなくなった場所で一際騒がしい場所に走って行くとそこには団員達が何かを囲んで騒いでいた。
「ちょっとごめん……」
団員たちの肉の壁を多少強引に押しのけて進み、その姿を捉えた。
少し前に水の迷都とも呼ばれるダンジョンの下層で出会ったモンスターそのものだった。
「いらっしゃ〜い。確か君は前にティオナと一緒にいた…」
「アイズ…アイズ・ヴァレンシュタイン」
「そうだ!アイズだ〜!よろしくね〜」
人混みの中、アイズの姿を見つけたモンスターの商人は気さくに挨拶をした。
やはりその姿を見て、他のモンスターのように憎しみや憎悪の感情が湧き上がらない自分に疑問を覚える。人間らしいからだろうか?いや、それは違う。たとえ人間らしいモンスターがいたとしても剣は動いただろう。
その自身の動作不良に悩まされ、少しの間、思考停止に陥っていると後ろから肩に手が置かれる。
「アイズ。気持ちはわからんでもないが……」
「まあまあ、リヴェリア。今はそれよりも彼?彼女?と出会えたことに喜ぼう。君もロキが持ってきたカタログの写しは覚えているだろう?」
後ろから追いついたリヴェリアとフィンは商品とされる品々を観覧する。そこにはいつの日か主神であるロキが神会の後に持ってきたモンスターの商人が作ったとされる商品のカタログの写しで見た通りの商品があった。
ぱっと目についただけでも、使った者を仲間含めて、病気や毒などを治すとされる『けんこうだま』。壁の中や水の上などの普段ならいけない場所を通過できるようになる『つうかスカーフ』。敵の急所がわかりやすくなる『ピントレンズ』。どれもが一度は目を疑った破格の性能の魔道具が目の前にある。冒険者として冷静沈着、ファミリアのまとめ役をやっている彼らでさえ興奮せずにはいられない。
「ラウル。ここに来るまでに稼いだ魔石を持ってきてくれないか」
「は、はい!」
フィンは少し離れたところで何か動揺しているラウルに頼み、商品の名札を見る。カタログに書いていた値段とは少し違う。具体的に言えば使い捨てとされる水晶型魔道具は知っているものよりも安くなっているものもあれば、高くなっているものもある。リボンやスカーフなどの装着型は全体的に高くなっているようだ。
それでも全て値段の割には破格の性能をしているものが多い。もちろんカタログには載っていなかった、おそらく新商品と思われる木の実や杖も見えるがその性能を疑うのは無理だ。
「さて、店主さん…でいいのかな?」
「店主でも商人でもカクレオンでも好きに呼んでね〜」
「カクレオン?」
「ワタシの名前〜」
「じゃあカクレオンと呼んでもいいかい?」
「いいよ〜」
「ありがとう。これらは新商品かい?新しく記載されたカタログはあるかな?」
「どうぞ〜」
フィンは手渡されたカタログを見つめる。やはりというべきか知らないアイテムも多い。追加されているのはタネや杖、木の実だけだと思っていたが、よくよく見れば新たなスカーフやメガネもあった。
「(これはロキも警戒するわけだ)」
フィンは素直にそういう感想を抱く。理由はその効果の数々ではない。ロキが写しを持ってきた時に聞いていた、カタログが記録された日から今日までの期間を考えたら、増えた商品の種類が多すぎることにある。
どこで生産しているのか。どうやって生産しているのか。それともどこからか仕入れているのか。そもそも個人なのか集団なのか。全てわからない。それでも新しい効果を有した魔道具の制作スピードが異常だと気づかされる。
「この商品名の横にバツが付いているのは?」
「それはね〜今手持ちにない商品だよ〜。そのカタログも魔道具で、自動で付けてくれるんだ〜」
「これもカクレオンが作ったのかい?」
「違うよ〜知り合いが作ってくれたんだ〜」
この一分にも満たない会話でいくつか情報が確定した。
まずは木の実や種は判断できないが、売り物となる魔道具を作ったのはカクレオン本人であるということ。そしてカクレオンに自分たちが知らない協力者がいるということ。
あまりにも簡単に話すので隠しているわけではないことが察せられる。だが、聞かれるのが嫌なラインは持っているだろう。その見極めをしながら話を続ける。
「リヴェリア、何か欲しいものはあるかい?」
「カタログを見せてくれ」
「はい。他のみんなも買いたい商品があったら勝手に買わずに僕かリヴェリアに相談してから買ってほしい」
団員たちに呼びかけると一部を除いてカタログを持つリヴェリアの元に集まる。自分はカクレオンと会話を続け、情報を引き出せるだけ引き出そうとカクレオンの方を見る。
そこにはカクレオンから買ったであろう青いきのみを食べているティオナの姿があった。
「ティオナ……君にもアイズのようにお説教が必要なのかな?」
「えー、いいじゃんこれくらい!これ一個50ヴァリスだよ?」
「確かにそうなんだけど…幹部の君がそれをしたら団員たちだって真似をしてしまうかもしれないんだ」
「なら団員全員に振る舞ったらいいんじゃない?どうせご飯の準備中だったからみんなお腹空いてるだろうし!」
そうやって注意しているとカクレオンがいた方向から、ドサッ…と何か大きなものが崩れ落ちる音がした。もうこの時点で予想はつきつつ、事実を確認するためだけに首を動かした。
そこには後頭部から煙を出して倒れ伏したロキファミリアの幹部、ベート・ローガがいた。
カクレオンが自分から冒険者を襲ったという記録はない。むしろ襲っても所持魔石と武器や防具以外の持ち物をいくつか無くなるかわりにダンジョンの1階層に送り届けてくれたという話もある。
このことからもしもダンジョンで死にかけた時、モンスターの商人を見つけて襲えば絶対にダンジョンの外へ連れ出してくれるんじゃないかと話題になったほど。
それに今まで話していて自分から人に危害を加えるようなタイプではなさそうと思ったところ。フィンの脳内ではベートが自分から喧嘩を売ったとしか思えなかった。
フィンはこの言うことを聞かない幹部たちに頭痛しながらとある話を思い出す。それはパーティーの1人が喧嘩を売った時に、パーティー全員が気絶させられ強制帰還することになった冒険者がいたとか。
ベート・ローガはロキファミリアの団員。しかも幹部。自分たちの仲間だ。その人物がカクレオンに沈められている。つまり次は誰がターゲットになるのかは一目瞭然だった。
そう、自分たちロキファミリアの全員だ。
「すまないカクレオン!ベートが何かしてしまったかな。もし彼が商品を壊したのなら弁償などをさせていただきたい!あ、アイズ!何があったか説明してもらってもいいかな?」
「ベートさんが戦いを挑んですぐに負けた……」
「うん、それは見たらわかる。その経緯を聞きたいんだけど…」
「ベートのやつが戦おうとして、わざとその辺の食べ物を無銭飲食したからかの。わしですら店主の動きが見えんかった!」
「ガレス!どうして止めてくれなかったんだ!?」
先ほどから親指が疼きまくって仕方のないフィンの肩に重く、少し柔らかい感触があたる。
「モモンの実。500ヴァリスだよ〜」
「お支払いさせていただきます………」
泣きたくなる現状を受け止めながら代金を支払うフィンの顔はしわしわしていたと後のラウル氏は語った。