辺鄙な山奥、そこにある村、から少し外れた場所には、小さな家がある。
その家では覗きやお触りが趣味の終わっている
今日もその家で
*
「全くもって忌々しい」
灰色の髪の女──アルフィアは黄昏の中で一人呟いた。
「あの日も、確かこんな空だったな」
三年前のとある日、
最後の英雄を育てるだとか、『終末の時計』を遅らせることよりも、もしかしたら次代の英雄達の踏み台になるという選択肢もあったのかもしれないが、その全てをおいて、残された時間を妹の子のために使うこと選んだ。選ばされた。
八年前、『最後の英雄を育てないか』、などと建前を使って自分達をこんなところに連れ込んだ女神の顔がアルフィアの頭の中をよぎる。
あの女神は最初からこうするつもりだったのだろう。
英雄と讃えられていたにも関わらず、今となっては一児の義母なんてものをやっている自分に、そしてそれにどうしようもなく幸福を感じている自分をアルフィアは自嘲した。
「まったく、忌々しい」
*
ダイダロス通りにポツンと存在している酒場で、カフカは黒い神と酒を飲みながら、オラリオを模した円形の盤に黒と白の駒を並べていた。
「それで、エレボス。勧誘はうまくいったの?」
「いいや。見事に振られたよ」
「ふふ、よかったわ。誰よりも讃えられるべき英雄達を黒い泥なんかで汚したくないもの」
「ああ、俺もそう思うよ」
エレボスの言葉にカフカはホッと息を吐いた。同時に黒の最強の駒二つを、ゲームが始まる前の盤上から隔離する。
次の瞬間、その空間は緊張で満たされた。
「……それでエレボス、計画に変更はあるのかしら?」
「……無い。
ここでカフカとエレボスは盤面を数手ばかり進める。二つの駒が消えたことで新しく最強になっていた一つの駒が盤面を支配していた。
都市最強、レベルⅥ、オッタルを示す駒だ。
「……ねぇエレボス、必要なら【
「……できるのか?」
「ええ、ちょっと私が
カフカはそう言いながらオッタルを示す駒を隔離した黒い駒と同じ場所に置いた。
エレボスはそれの意味を理解すると面白そうに笑みを浮かべた。
「なるほど、【猛者】はレベルⅦになるまで帰れないと言うわけか」
その後も少し会話を続けた後、
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「……それにしてもカフカ、お前とアルフィアの声は本当に似ているな」
「あらエレボス、そう言う貴方だってベルと声がそっくりじゃない」
「ベル?ああ、ゼウスと一緒にいた女の子か。冗談だろ?」
「あら、ベルは男の娘よ。ちゃんと貴方が『アストレアママァ〜!』って言った時と同じ声をしているわ」
「……いやいや、俺はそんなこと言わない」
「そうなの?でもヘルメスは言うわよ」
「……マジかよヘルメス」
そんなくだらない会話が、カフカとエレボスの最後の会話になった。