ミャンマー中部で3月28日に発生した大地震は、2021年の軍事クーデターから続く内戦で疲弊していた市民に追い打ちをかけた。国軍に抵抗する医療従事者の多くが職場放棄していたため、救急医療体制は貧弱な状態だ。軍事政権の発表では2700人以上の死亡が確認され、負傷者も増加の一途をたどる。一方で、国軍は少数民族武装勢力などへの空爆を続けている模様だ。
ミャンマーでは国軍による21年2月のクーデター後、職務放棄で国軍への抵抗の意思を示す「不服従運動」が広がった。多くの医療従事者が参加し、国内第2の都市マンダレーでは全体の8割近くに上っていたとの指摘もある。また、当局によって診療を差し止められた私立病院も複数あったという。医療体制が不十分な状況下で、当局による救護活動は進んでいないとみられる。
反軍政の民主派が樹立した「国民統一政府(NUG)」は、被災地での救援活動を優先するため、3月30日から2週間の戦闘停止を宣言した。国軍の支配地域でも、安全が担保されるならば不服従運動に参加中の医療従事者が救護に協力するとしている。
だが、軍事政権はこれらに反応していない。ロイター通信などによると、国軍は東部カイン州の少数民族武装勢力の拠点などへの空爆を続けているとされる。軍政トップのミンアウンフライン国軍最高司令官は1日、「再建に向けて、がれきを撤去し、鉄道や空港の修繕に取り組む」と述べるにとどまった。
震源に近いマンダレーの総合病院では、負傷者が続々と運び込まれて医薬品などが不足しているという。独立系メディア「ミャンマー・ナウ」は、猛暑の中で屋外駐車場にベッドが並べられていると伝えた。地震の影響もあって停電が続く首都ネピドーの病院では、夜間は発電機で照明をつけ、屋外で点滴などの治療が行われている。看護師はテントが必要だと訴えたという。
北部ザガイン管区では、戦闘を逃れた人々が身を寄せていた修道院も被災した。国際赤十字・赤新月社連盟のアジア大洋州地域の責任者、アレクサンダー・マテュー氏は「悲劇が積み重なっている。世界で最も弱い立場にある人たちがまたも大きな打撃を受けた」と交流サイト(SNS)に書き込み、被災者の生活再建まで長期的な支援が必要だと強調した。
内戦が続く中では、国外からの医療支援が被災地全体に行き渡るまでには時間がかかりそうだ。【バンコク武内彩】