赤いきつねの広告分析について質問してくれたメディア&有識者の方々への回答
2/25からXでのログインエラーで、Xサポートの対応を待っておりました。新しくアカウント(@EnjoCheckADLAMP)をつくりましたが、
本日3/28に元のアカウント(@EnjoCheck)にできましたので、今後は2つのアカウントで広告倫理について発信してきます。
赤いきつねの広告について、有識者やメディアから質問をいただいくことが続き、私の炎上への向き合い方を改めて掲載したく思いました。
本記事では、「表現の善し悪しを決める視点では炎上に向き合えない」と私が考えていることを述べるために、実際に私がメディアや専門家からの質問に回答した内容を記載します。
私のスタンスについて
私は市民の声を広告業界にやさしい形で届ける、というスタンスで広告分析をしております。広告自体を自分の基準で批判することはないです。
特にX(Twitter)で広告をリアルタイムで取り上げるときは、すでに存在する広告へのつぶやきや感情の表明を、社会に存在する文脈を加味し、分析してまとめています。
また、企業コンサルティングでは、広告主の広告案(アニマテック)について「ダメ」と言う立場にはなく、「こういう属性にはこういう理由で不快感を持たれる可能性がある。それでもこの表現を覚悟と説明責任をもって広告にしますか?」という多角的解釈の網羅を提示することで企業向けに広告リスクコンサルティングをしています。つまり、炎上を鎮火させる・予防するといったコンサルティングではないです。炎上はゼロにもできなければ、鎮火すれば良いというものでもありません。
炎上は汚点と捉えられがちですが、社会や市民の声を聞くチャンスです。企業にできることは、消費者の声に向き合うことです。
日本では炎上=消せない汚点という印象がありますが、イギリスでは過ちから学ぼうという姿勢があります。広告表現にも倫理にも正解はありません。そのなかで、思想と思考のシェアができる社会を育みたい
私の炎上に対するスタンスをNewspicksの記事やAD-LAMPのHPに書いております。
炎上は価値観の相違によって起こるため、ゼロにすることはできません。もちろん、企業側が特定の層に受け入れられない可能性を理解しつつ、それでも覚悟を持って広告表現やメッセージを選ぶこともあります。こうした選択は、「想定外の炎上」とは異なり、明確なポリシーや戦略に基づくブランディングの一環です。AD-LAMPは、そのような企業の選択を否定する立場にはありません。私たちが目指すのは、多様な価値観が尊重され、表明できる社会です。企業が意図せず誰かを傷つけてしまうリスクを最小限に抑えながらも、それでも発信を続ける覚悟を持つこと。そのプロセスを支え、共に考えることが、AD-LAMPの使命です。
さらに、今回わかりにくいとかんじられている、非直接的な性的文化表象(参照:「性的」という言葉の多義性と広告炎上記事)についても同様に、私は「ダメ」「この表現は公的に許される・許されない」と言う社会の基準を決める立場にはないです。
女性の表象で批判を受けている炎上広告。炎上理由は以下。
— 中村ホールデン梨華 (@EnjoCheck) February 15, 2025
✔️非現実的な女性表象
✔️男性版との頬の赤さの違い
✔️つまり男性視線の広告
そもそもアニメ文化が女性を性的に扱う目線が強いので、広告にアニメを使うときは企業側がリスク管理しなければならない時代。 https://t.co/OZucYHdPJU
まさに、今、直接的な性的文化表象を含んだり、アダルトコンテンツに誘導する目的であるエロ広告の規制が国会答弁で挙げられており、この議論は今から社会全体で行われ、基準を模索していくのだと思います。
総じて、私は広告のいい悪いを決めたいのではなく、
世に存在する解釈や価値観を顕在化することに価値を感じています。
それは、いい悪い、の一歩先である「建設的な議論の促進」のためです。
この言葉をポップに言うと、AD-LAMPのポリシーである
「炎上を学びに変える」という言葉になります。
そのほか、AD-LAMPでは炎上への向き合い方を確立するまでに読んだ文献の一部をHPに掲載しています。
また、2月16日に投稿したXでの広告分析から、2月17日に会社のメールに殺害&誘拐予告を受け、信頼する方からの助言を受け、対応として行ったオンラインセミナーの有料化について「マッチポンプ」と批判がありました。今まで国内外で100回以上無料での対談&WSを行ってきた&有料にしたのは2回目なので心外ですが、確かにマッチポンプと受け取られても仕方ないと考えます。
「炎上」「リスク管理」定義について
Q. 何をもって炎上広告と呼んでるの?
AD-LAMPではRetweetが 50 回以上されているものを炎上として扱う企業が存在すること[山口 2015]を加味して、該当の広告を炎上広告と呼んでいます。赤いきつねの広告も2月16日時点で80RTほどの「不快」「ほっぺが赤い」などの投稿が複数ありました。私は、いつものように消費者の声を取り上げて、文脈を整理して記事化したため、結果的に、炎上に参加する形になりました。
ただ、私は定量で広告事例を見て「炎上した・してない」とレッテルを貼ることには価値を感じていません。なぜなら、数が多かれ少なかれ、広告きっかけで出てくる消費者の声は「社会の問題提起」ひいては、広告に取り上げられにくい市民の「抑圧されていた声」であることが多いからです。
これらをポップに言うと「炎上は見えていなかったインサイト🔥」「炎上はゼロにならない」という言葉になります。
定量で炎上と言えるかどうか、の基準を考えるよりも、私は炎上を定性的に見る視点を重視しており、活動当初から、炎上を研究されている吉野ヒロ子先生の炎上の観方を一貫して重視しています。
企業や大学向けのセミナー、メディアで炎上について質問されたとき、引用しています。(参照:アドクロインタビュー、代理店向けセミナー など)
Q.炎上におけるリスク管理とは?
炎上はなくならないので、炎上させないためのリスク管理は行っていません。
リスク管理事業を行っているとうたっているのですが、私が行う「広告倫理についての発信」「リスク把握のための活動」とは少しずれた言葉であると認識しています。この「リスク管理」という言葉を使うまでには葛藤があったので2024年12月中旬にNewsPicksのトピックスオーナーとして発信する機会をいただくまでは「リスク管理」というビジネス視点の言葉ではなく
「広告倫理」という学術言葉を使っていました。
NewsPicksでビジネス文脈で記事を書くようになった事をきっかけに、現場で広告に日々向き合う方に分かりやすいよう「リスク管理」という言葉を使うようになりました。
広告の代案づくりに参加する方々には、「広告倫理についての発信」「広告業界に市民の声を届ける」といった言葉遣いをしています。(ただし、広告倫理の元英語Advertising Ethicsは国際広告学会でも、イギリスASAでも今は使われていない2008年ごろまでの言葉です。)
実際の有識者やメディアへのメールでのお返事
(一部、匿名にする&わかりやすくするために修正を加えています。)
Q. 赤いきつね広告炎上は、一般的に言う「性的」ではないのに、多くの人が問題視している新しい炎上例だと思う。「不快だから嫌」以外の言葉できちんと伝わるように翻訳したいのだけど、正直なところどこがどのように「性的」なのかイマイチ分からない。
広告についてお話ししたかったので、質問していただけるなんて、本当にうれしいです。読んでくださった分析記事では私の「性的」の定義があいまいで読者を混乱させてしまったと反省しております。
「性的」の解釈について、詳細を書きましたので、ご覧ください。
以下、上記の記事を読んでくださった前提で書かせていただいております。
いただいたご質問に対する私の回答としましては、以下になります。
こういうCMは全部ダメなのか?
・商品より登場人物に焦点が当たる
・male gazeの視線
職業上の立場から、私はダメとは思いません。広告主の炎上後の広告主のSNS上での発言から、女性消費者の不快感には取り合わない一貫した覚悟が見えることから、もともと女性をターゲットとしていなかったのだと考えます。女性消費者の感情を無碍にしてでも、男性に強く刺さる(ひいては結束感を強めるような)企業コミュニケーションを取ったのだと感じました。これは一貫した企業態度/ポリシーとして受け取れます。
私のクライアントが事前にこの表現について助言を求めた場合は、下記の情報を提供しています。
1.日本社会には赤いきつねのような表象が多い
日本社会にこのような表象の広告(政府機関、公共交通機関までも)が多く、西洋には少ないことから、日本文化とも恒常的なアニメ技法とも読み取れる。
2.このような表象は問題視されている
多くの表象が問題視されてきたことを広告主が知っていることが大事だと考えます。
問題視されている背景には、ビジネス利益の視点から離れ、社会視点では広告は
・社会全体および作り手の価値観が広告に表出するという前提がある
・広告に女性や社会弱者がステレオタイプ的に映されている
・広告は見えない教育として機能する
と解釈されるからです。
また、男性差別:女性差別=5:5の割合で存在する社会だったら、今回の非直接的な性表現を含む広告に対してここまで注目が行かなかったとも思っています。女性含む消費者の日本社会での苦しみが炎上を通して表出しているとも言えます。
「批判はあるけど、取り下げろとも言えない」といった判断/配信中止を要求できるほど、公益性に反している?
多くの有識者やメディア発信側は、日本のトップダウン&パワーバランスの強いの文化ゆえに、炎上事例をパターン分けし、広告主と消費者の均衡点(許されるレベル)を探す視点をお持ちと存じます。
私は、公共で許される均衡点(今回の広告の放映を停止するべきかの基準)は、決める事ができないのではないかと考えています。
理由としては、この赤いきつねの広告炎上(とそこに付随する「性的かどうか」「広告に文句を言う人が少数かどうか」の論争)は、本件だけではなく、過去に「女性が声を聴いてもらえなかった、ずっと企業にも、政府にも、社会にも声を聞いてもらえていない」という集団的な負の経験の蓄積だからです。
アニメ・萌え絵などのイラストが広告に使われることの議論が、建設的とは言えない形で行われてきました。その経験への集合知あっての赤いきつねの広告炎上なので、
この赤いきつねの広告1つだけ取り上げても炎上の本質(なぜ性的と捉えられているのか&不快感を起こすのか)は理解できなくて当然だと思います。
だからこそ炎上は「見えていなかった社会の声の表出」であり、広告だけの問題ではないと考えます。
回答としましては、消費者は「取り下げろ」の意見の表明は可能だが、今、日本でガイドラインも規制機関がない状況*で、この公益性の判断軸を「誰が」「どのように」決めるのかの議論はできず、したがって「バランスのいい基準」は存在しないと思います。
もちろん、エロ広告のような直接的な性表現を含む広告に対しては、ゾーニングによって見たくない人が見ずにすむように、棲み分けをはかるべきに賛成です(特にオンライン広告ではゾーニング可能だと思われます)。しかし、今回の赤いきつねの広告については、非直接的な性表現を含む広告なので企業の覚悟を持った判断がすべてになると思います。
*私の表現ガイドライン&規制周りの認識
消費者は唯一の広告審査機関であるJAROに配信中止指示を苦情として要求できるようになっています。しかし、実際には文化表象についてはJAROは対応していない/まだ議論できない状況と解釈しております。日本では文化表象についての公益性についてのガイドラインがなく、規制機関が機能していないからです。
メディアや有識者の方々に説明した私のスタンスをnoteでも掲載したのは、『許されるか許されないか』『炎上か否か』『性的かどうか』『不快感を感じた人は少数か多数か』といった、分析軸の模索および権威主義的に評価を求める質問が多かったからです。
私はそのような評価を下す視点ではなく、炎上から消費者の声をみえる化し、建設的議論につなげたい。炎上をパターンわけしたり、少数だから無視していいレベルと評価したり、性的とは言えないと声を抑えることでは、私がしたい『炎上を学びにする』には繋げられないのです。
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