【第5回】補助金取消は“処分”なのか?──法廷で問われる行政の責任と公正
2025年1月、私たちは「補助金交付取消処分」の違法性を問う行政訴訟を提起しました。
その中で、最も重要な争点の一つが「この取消は“行政処分”にあたるのか?」という点です。
つまり、「処分性」があるのかどうか。
この言葉は一般の方には馴染みが薄いかもしれませんが、行政訴訟では“入り口”となるほど重要な概念です。
■ 処分性がなければ、裁判もできない
行政訴訟では、対象となる行政行為に「処分性」が認められなければ、そもそも裁判で争うことができません。
では、処分性とは何か。
最高裁判例では、次の三要件が認定基準とされています。
【処分性の三要件】
公権力の主体による行為であること
法令に基づき一方的に行われる行為であること
国民の権利義務に直接的な影響を及ぼすこと
例えば、「行政指導」や「内部通知」のような行為は、これらを満たさないため“処分”とは認められません。
一方、税務署による課税処分や、建築確認の拒否、営業許可の取消などは、これらの要件を満たすため、行政処分として裁判の対象になります。
■ 最高裁令和5年11月17日判決(「宮本から君へ」事件)との関連
近年、補助金の交付や取消に関する行政の裁量権とその限界が、司法の場で問われるケースが増えています。
その中でも、最高裁令和5年11月17日判決、いわゆる「宮本から君へ」事件は注目に値します。
この事件では、映画「宮本から君へ」の出演者が薬物使用で有罪判決を受けたことを理由に、独立行政法人日本芸術文化振興会が同映画への助成金交付を取り消しました。
最高裁は、この取消処分が表現の自由を不当に制約するものであり、裁量権の逸脱・濫用にあたるとして、処分を取り消しました。
この判決は、補助金交付の取消しが、単なる行政上の措置にとどまらず、申請者の権利や自由に直接的な影響を及ぼすものであることを示しています。
つまり、補助金の交付や取消しは、処分性を有する行為として、司法審査の対象となり得ることが明確になったのです。
■ 本件の交付取消処分は、三要件をすべて満たす
私たちの事業に対して交付が「決定」された補助金が、事後に「取消」された――。
この行為は、以下のとおり三要件をすべて満たしています。
① 公権力の主体による行為
→ 中小企業基盤整備機構という、国が設立した公的機関によるもの。② 一方的に行われた行為
→ 弁明の機会もないまま、書面一枚で取り消し。③ 法的地位に直接影響
→ 他の採択案件(グリーン成長枠で採択された1億円規模の補助金)が無期限凍結。資金調達計画も狂い、社会的信用にも影響。
■ 行政はなぜ処分性を否定したがるのか?
もし処分性が認められれば、
行政手続法上の理由提示義務
行政不服申立ての対象となる
違法判断時には国家賠償責任が生じる
つまり、行政側の行動が“後から検証されるリスク”が高まるのです。
過去、補助金行政の分野では「これは契約解除だから処分じゃない」という主張が多くされてきました。
しかし、その主張が司法でも通用しなくなりつつあるのが、最近の傾向です。
■ 未来の補助金制度を守るために
この訴訟で処分性が認められれば、
今後、不透明な交付取消や事後調査によって、不当に事業が潰されることは少なくなるでしょう。
逆に、処分性を否定するような結果になれば、
事業者は一方的に補助金を取り上げられても泣き寝入りするしかなくなってしまいます。
これは、制度そのものの信頼にかかわる問題です。


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