何らかの理由で育てられなくなった赤ちゃんを親が匿名で託す、いわゆる「赤ちゃんポスト」のような仕組みと、母親の身元を病院の一部職員にのみ明かして出産する「内密出産」を東京都内の病院が31日に開始すると発表しました。

様々な事情で育てることができない生後4週間以内の赤ちゃんを親などが匿名で託す「赤ちゃんポスト」の仕組み「いのちのバスケット」（通称ベビーバスケット）を始めるのは東京・墨田区にある賛育会病院です。

また、妊娠・出産を知られたくない女性が身元を一部の病院職員などにのみ明かして出産する、いわゆる「内密出産」も受け入れるということです。

このような仕組みは、国内3か所目ですが、医療機関が運営するものとしては、熊本県の慈恵病院に続き、2か所目です。賛育会病院は、病院の一階に、24時間体制で親などが赤ちゃんを預けることができる部屋を設け、赤ちゃんが預けられたら、システムが作動して、1分以内に職員が駆けつけ、可能なら、職員が直接話す機会を得たいということです。病院のHPには「赤ちゃんへの手紙や記念の品物と一緒に預けることが可能です」「赤ちゃんは病院スタッフが健康状態を確認したのちに保護されます」「お部屋に入ってから、赤ちゃんに手紙を書くことや話をすることもできます。医療チームが重要なインフォメーション用紙をその場でお渡しします。」「お手紙の入った封筒がありますので必ず受けとってください」などと記されています。

そして、内密出産の場合、帝王切開か普通分娩かで費用は異なるものの、約50万円ほどかかる費用は「原則本人負担」だということです。病院側は「話し合いの上でどのようにお金を払っていくか相談する」と述べました。

「いのちのバスケット」「内密出産」ともに親に養育の意思がない場合、その赤ちゃんは要保護児童となるため、原則、東京都の江東児童相談所が、赤ちゃんを一時保護し、乳児院や里親などの養育先を探すことになります。（委託一時保護という仕組みがあり、児相は赤ちゃんの保護を病院に委託する形になる）

仮に、親の身元が判明した場合は、親の居住地の児相が保護します。また、親の戸籍に入れない場合、赤ちゃんの戸籍は単独で作られ、名前がわからない場合は、病院所在地の墨田区の区長が名前を付ける仕組みです。

賛育会病院は、1917年（大正6年）に東京帝国大学キリスト教青年会（東大YMCA）の有志が始めた無料診療をきっかけとして、その後、庶民を対象に日本で初めて開設された産院を前身とする総合病院です。

賛育会病院は、予期せぬ妊娠や孤立出産の悩みを抱える女性の増加や、乳児遺棄など痛ましい事件が発生しているなどの問題の解決に向け、「赤ちゃんのいのちを守るプロジェクト」を開始していて、「妊娠SOS相談」「赤ちゃんの保護」「内密出産」の3つを2024年度内に開始するとしていました。

このうち、思いがけない妊娠などで悩む人が相談できる電話相談窓口を去年7月に開設しています。

熊本の慈恵病院での運営を検証する部会の部会長を務めるなどし、こうした仕組みに詳しい関西大学の山縣文治教授は、病院が直接母親などと関わる機会が持てる場合は、子どもが将来、自分の出自を知りたいと言った時のために、「保護者の情報やこどもが生まれた時の状況について情報が入手できる可能性がある」と述べましたが、内密出産の費用を“原則本人負担”としていることについては、「この制度の利用者は、お金を負担できない可能性が高い人が多いということが大前提。本当に必要な人に（支援が）届かない可能性がある」と指摘しています。

山縣教授は、匿名で子どもを預けたり、内密出産したりする背景には、「責任を取らずに逃げてしまった男性。子宮があるために逃げ切れなかった女性」という構図があるとし、「その結果、女性がまるで子どもを捨てた、無責任な出産をしたという風に思われてしまっているが、男性が認知しないような状況での出産がその背景にはある。女性だけの積極的な意思とは思えない」と述べ、孤立した女性がやむにやまれず、こうした仕組みを頼る状況を分析しました。

国は「保護者が子どもを置き去りにする行為は本来あってはならない行為である」という見解で、いわゆる「赤ちゃんポスト」の設置について定めた法律はなく、設置する場合、自治体や国の認可は必要ありません。一方、内密出産について国は、「こうした出産を推奨するものではない」とした上で、2022年にはガイドラインを公表しています。

■賛育会病院のHP
https://akachanproject.san-ikukai.or.jp/babybasket/