腎臓移植は15年待ち
慢性腎不全に陥った患者が何故、海外に移植を求めるのか。ここで簡単に説明しておく。
腎臓が腎炎、糖尿病などで障害を受けると、その機能が失われていき、最後には正常な日常生活が営めなくなる腎不全となる。腎不全の最終段階では、尿が出なくなり、体内の老廃物やミネラルが排泄できないためやがて死に至る。
そうした患者を死から救う治療法が透析療法(血液透析)だ。透析療法とは、排泄機能を失った腎臓のかわりに体外のろ過装置を用いて血液を浄化する治療法だ。これを週3回、一回4時間程度続けて、生命を維持する。しかし、透析患者の5年生存率は60%、10年生存率は40%といわれてきた。
新たに透析の導入を開始した患者は、2017年に4万人を超え、それは2022年まで続いている。その一方で2017年から2021年まで、毎年約3万1000人から3万5000人の透析患者が亡くなっている。2022年はコロナの影響からか、3万8000人もの透析患者が死亡した。
慢性腎不全の根治療法は腎臓移植しかない。しかし、日本国内での脳死下、心停止後の腎臓移植は15年待ちといわれている。
1997年10月16日、臓器移植法が施行された。これによって移植する場合に限って脳死を人間の死と認め、脳死移植の道が開かれた。それからすでに27年の歳月が流れたが、移植に用いられる臓器が圧倒的に不足している現実は何も変わってはいない。
腎臓移植希望登録者数1万4810人(日本臓器移植ネットワーク2025年02月28日現在)。これに対して、2024年の心停止、脳死者から腎臓移植数は、わずかに138件だけだ。
世界各国で移植用の臓器は不足している。そのために2008年の国際移植学会で「移植が必要な患者の命は自国で救える努力をすること」という主旨のイスタンブール宣言が採択された。
「移植商業主義(臓器を商品として取り扱う方針や実践のこと)は、貧困層や弱者層のドナーを標的にしており、容赦なく不公平や不正義を導くため、禁止されるべきである」
臓器移植ネットワークが斡旋するのは、日本国内だけで、海外での移植にはまったく関与していない。
移植に希望を託す患者は、渡航移植を斡旋する組織を頼るしかなくなる。
イスタンブール宣言以前は、渡航移植斡旋組織は30社以上あった。それらが淘汰され次々に姿を消したが、それでも2019年当時は4社あった。その中の一つが「難病患者支援の会」だった。
2007年、菊池はNPOを立ち上げ、中国での移植を推進してきた。170人ほどの腎臓、肝臓移植を望む患者を天津第一中央病院臓器移植センターに送ってきた。しかし、コロナ禍で中国への入国が困難になり、菊池は新たな患者受け入れ先の開拓を迫られ、ブルガリア、ウズベキスタン、キルギス、ベラルーシでの移植ルートを確保した。
そして、ウズベキスタン、キルギスでは移植が思うように進まず、様々なトラブルが起きた。それが今回の逮捕に繋がった。