開業医が破産する時8
開業にあたり必要なステップとお金を書く。
開業関連本は多数あるが、費用や詳細について個別具体に書いているものは皆無。実際に開業していない人が、また聞きで書いてるのかと思うものも。
実際に開業してみて、分かったことがいくつかある。
開業にあたり、だいたいどれくらいの費用が必要なのか、手続き関係はどうするのか、などおおよその流れと費用を掴むのに参考になればと思う。
結論から言うと、「想像以上にかかる」。原因はコスト意識に疎い医者を食い物にする業者たち、そして医師会。
1)事業売買契約
継承するクリニックの院長と事業売買契約を結ぶ。
「営業権」と「内装および機器代金」が別。
前金をどうするか、とか、支払いの期日を決める。
売買契約にあたっては、「前クリニック(もしくは医療法人)の負債をきちんと清算する」という条項を設けることがポイント。
「営業権」には消費税はかからないが、「内装および機器代金」には消費税がかかる。
「営業権」は特に算出の目安はないが、おおむね1年間の利益に相当。売り手の事情によって変わる。
「営業権」の相場は、大体、合計で1500万から、相場は5000万くらい。売り上げが多いところだと1億円など。
その他、売り主の医者によって細々した条件がつくことあり(現在の雇用を維持することが条件、など)。
法人化していない個人事業主のクリニックの場合は、融資先は買い手の医師個人になる。保証人は必要ないことが多いが、奥さんが保証人になる場合もある。
法人譲渡の場合は、法人譲渡費用は買い手医師個人への貸付、院内の内装や機器代金、諸費用などは新法人への貸付になる。新法人への貸付は買い手医師個人が保証人になる。
法人売買費用は、まだ存在しない新法人への貸付として処理ができないので、買い手医師個人への貸付になる。
なぜこんなことを書いているかというと、実際、返済になると、個人への貸付だと、法人の利益から法人税を支払って法人の借り入れの返済、法人から医師個人へ給料を支払って、その給料の中から所得税、住民税、社会保険料を支払った後に個人の返済となるわけで、個人の借り入れの返済までに法人税、個人の所得税、住民税、社会保険料の負担となるので、返済に伴う税金負担が多い。
だから、できるだけ法人への貸付にしてもらうほうが税金面では有利、となる。
2)継承にあたり継続するか決めないといけないこと。
だいたい、下記のようなことを決める必要がある。
・薬、点滴、ワクチンの卸業者(メディセオ、KSK、アルフレッサ、東邦薬品、スズケンなど)
・備品の手配(針やシリンジや消毒液など備品。医師共同組合、アスクルなど)
・検査会社の手配(メディック、福山臨床検査)
・医療機器の手配(フクダ電子)
・電子カルテ(+レセコン)業者の手配(メディコム、M3デジカル、ダイナミクスなど)
・白衣、シーツのクリーニング業者の手配
・清掃業者の手配
・医療廃棄物業者の手配
・電話、ファックス、ネット関連の業者の手配
・賃貸物件の大家さんとの契約
・既存の事務員やナースの雇用を継続するかどうか
・看板工事の業者(名刺や診察券もやってくれる)
・内装工事の業者
・法人印の手配(ネットで注文するか、登記の時に司法書士に依頼)
・電子マネー、クレカ決済の機器の導入(融資担当者に聞くとよい、スクエアがおすすめ)
・マイナ保険証機器の導入
現在のクリニックの院長に、付き合いのある業者の名前と連絡先を聞くとよい。新しい業者にすると薬剤費を安くしてくれる。
3)継承にあたり必要なお金
だいたい、以下のような感じ。
・営業権、内装および機器代金(継承するクリニックによりバラバラ。最低1500万くらいから。高いと5000万~1億円。)
・医師会入会費(地域、市、県、国で合計500万くらい)、県と市は月払いで保険医協会も入れると月10万くらい。さらっと書いてるが、ぼったくりたもいいところだ。
・広告費(折り込みチラシ、クリニック1㎞圏内)(新聞折り込みチラシ1日あたり30ー50万くらい)
・求人広告費(1か月掲載で20-30万)
・求人応募者の面接会場(地域の公民会館の会議室にすると1日1万くらい)
・事務員とナースの制服(1人1万くらい)、事務員はともかくナースの制服はクリーニングに出すので2セットか3セットは必要。
・司法書士代金(法人譲渡で税込み55万。高いかも。)
・コンサル費用(コンサルに依頼した場合。おおむね500万+税、くらい)
・物件の敷金、家賃(物件の敷金+3月、4月の賃貸料金。家賃は概ね坪1万円くらい。都会だともっとする。だいたい300ー500万くらいみとけばいい)
・看板(クリニック玄関、物件の看板、垂れ幕など。50万くらい。)
・名刺、診察券(枚数によるが数万)
・内装工事(居抜きそのままで開業するのもあるが、天井と壁の壁紙交換をするだけで見違える。天井と壁紙交換、室内造作の塗装で費用は坪2~3万くらいになった。)
・エアコンの保守点検費用(年間20万くらい)
・レントゲン機器の保守点検費用(年間24万くらい)
・電子カルテ費用(だいたい月3-4万)
・ホームページのドメイン費用、保守管理費用
・運転資金(だいたい1500万くらい)
・クリニックのロゴ、院長似顔絵(ココナラで依頼すると良い。数万でやってくれる。著作権放棄をしてくれる作家さんにする。)
私の場合、ざっくり5000万くらいの借り入れになった。営業権+内装および機器代金の合計1550万のケースです。
明細はこんな感じ。
法人売買 1000万
機器売買 550万(税込)
医師会入会金 530万(地区医師会、市医師会、県医師会、日本医師会)
開業コンサル 550万(税込)
司法書士 55万(税込)
賃貸敷金 300万
家賃 55万(税込)(4月分)+27.5万(3月の半月分)
看板/内装(看板変更、壁紙交換) 120万
求人広告 25万
脈波計/心電図 130万(新古品、壊れていたので新しくした)
合計3342.5万
4月開業で3月半ばから家賃を支払っているケース。
残りは保守点検費用や運転資金。
ちなみに、
メーカーにもよるが、電子カルテの使用料金が月3-4万円、レントゲンの保守点検が年間24万円くらい。
火災保険が年間5万円。
税理士が月6万。
4)銀行融資について
お金は銀行融資でまかなうが、事業計画書、開業趣意書、印鑑証明書、免許証コピー、マイナカードコピー、過去3年の納税証明書、通帳コピー、診療研調査の結果、医師免許コピー、住宅ローン支払い明細書のコピー、
などを用意する。
事前に融資担当者と面接を行う。住宅ローンと同じように、いくつかの銀行に打診するのがよい。
5)診療圏調査を行う
継承しようとするクリニックの診療圏調査をすると良い。Appleやアンドロイド両方でフリーのアプリがある(任意の住所を入れると、500m、1km、2km圏内の標ぼう科目ごとの競合診療所の数と想定患者数を算出してくれる)。
診療科が内科の場合は、一般内科の他に糖尿病内科、消化器内科、呼吸器内科、循環器内科の1日患者数を合計したもので調べる。
継承するクリニックに駐車場があると診療圏は広がる。オフィス街のときは昼間人口で見る。オフィス街の方が競合は多い。
6)医師会への入会
地元の医師会に入会申請をする。医師会によっては、クリニック名の付け方、標榜科に縛りがあるので、事前に確認をしておいた方が良い。「個人名を入れないといけない」、「地域名を入れるのはNG」、など縛りがある地域もある。事前に医師会に確認する。Googleマップで周辺のクリニック名を調べるとよい。
医師会への入会費用は概ね500万くらい。地域医師会、市医師会、県医師会、日本医師会の合計です。まず地域医師会に入会し、その後順々に入っていく。入りたくないが。というより、今もって入る意味がわからない。
事前に入会への面談がある。地域の医師会館で行われる。入会にあたって推薦状も必要になる。だいたい書式は決まってるので、これまでの勤務先の同僚や上司、院長にお願いするとよい。
ちなみに、法人継承の場合、基本的に既存患者は再診料のまま。クリニックが新しくなっても、これまで通った患者さんは初診扱いにはならない。
7)Google広告の準備
法人継承の場合、Googleマイビジネスも既存クリニックを引き継ぐ。新たにGoogleマイビジネスを設定する場合は注意が必要。
同じ場所で2つのGoogleマイビジネスの設定がある場合は、ペナルティを受けてクリニックのホームページがGoogle検索から除外される場合がある。
Googleマイビジネスのアカウントを継承先の先生が把握している場合は、アカウント情報を聞く必要がある。古いクリニックでGoogleが勝手に掲載した場合、引き継ぐ場合は電話での確認が必要になるので、継承クリニックの電話番号を変える場合は、電話番号を変える前に事前にGoogleマイビジネスの引き継ぎを行う必要がある(超重要)。
ただし、低評価の場合は業者に依頼すれば、まっさらの状態にしてくれる。そういう業者はいくつかあります。
8)病院なびについて
東邦薬品がやっている病院案内のサイト。初診受付サービスを使うと、概ね初診1人につき1000円が必要。集患に役立つので、有料版を申し込んだ。
9)銀行の視点
銀行融資について。融資担当者の目線を把握することが大切。
経歴はもちろん大切だが、銀行側は借り手医師の金遣い、担保価値を調べる。収入に対してローンや生活費が高くないか、貯蓄がどれくらいか。
貯蓄が少ない場合には、それなりの理由が必要。奨学金の返済、親への仕送り、家の頭金など。事業用融資は固定金利ではなく、変動金利。大抵15年、よくて20年。
医師会入会を条件に地域の医療信用組合から借入ができる。医療信用組合は医師会が出資した銀行。だから、審査も緩い。逆に言えば、メガバンクや地銀に断られるというのは事業計画書に見通しの甘さがあるのかもしれない。
医師会に入るなら、金利も低くなるのでよいと。
融資の返済は開業年は利息のみ、開業2年目から利息+元本の返済。
10)つなぎ融資
個人への融資、法人への融資が決まっても、融資実行まで時間があり、業者への支払いが間に合わない場合は、借り手医師個人への「つなぎ融資」でまかなう。
つなぎ融資は融資合計までの金額が可能なので、当面必要な金額、請求書、振り込み先をそろえて融資担当者に相談する。
11)開業費用の経費算入
上記の開業費用は経費算入ができる。2-3年以内であれば過去に遡って算入できるので、利益が出た2年目くらいにまとめて算入するとよい。
12)法人継承の場合に必要なこと
個人事業の場合は個人の実印、法人譲渡の場合は個人の実印に、法人実印、理事長印、法人銀行印を作る。
法人譲渡の際は実務は司法書士が動くので、司法書士に法人の印鑑を依頼してもよい。
法人の場合は、理事3人、監事1人を決める。
理事は借り手医師自身、奥さん、子供のことが多い。
監事は利害関係者(税理士、顧問弁護士、コンサルなど)はなれないので、友人に依頼する場合が多い。該当者がいない場合は、法人登記変更担当の司法書士に相談すれば代わりが見つかるまでやってくれる(費用は無料)。
理事は特別な理由があれば2名にすることも可能。県に司法書士が交渉する必要がある。
ちなみに、借り手医師が理事長、理事に奥さん、奥さんの姉というケースだと、離婚した場合、理事会は2対1で先生が必ず負けますから、理事長報酬を増やすのを阻止されたり、法人売買に待ったがかけられるなど、注意が必要。
出資割合に関係なく、理事の1票は対等なので注意。
13)開業までのスケジュール
法人継承の場合、新規開業と違い、開業日が保険診療開始になるので、その前に保険医指定前講習を県の医師会館で受ける必要がある。
4月開業だと、だいたい3月末。日時は県医師会に問い合わせを行う。これをうっかり受けないと保険診療ができないので超重要。
個人開業の場合、4月に開業するには、3月に開業してそのまま診療体制を整えておく必要がある。このあたりは地域の医師会に聞くとよい。
なので、4月開業なら遅くとも2月には医師会入会申請をお勧めする。
14)求人広告と面接会場について
求人広告を出す場合は、面接会場をまず押さえてから広告出稿日を決めるとよい。求人を出したあとで面接会場を決める場合、意外に面接会場の空きがなく、求人応募から面接日まで期間があくと応募者の辞退がでることあり。
時給の条件が良ければ2週間くらいの広告で十分人材が集まる。求人業者の時給平均はクリニックの個人のホームページで応募しているものよりも高いので、そこに合わせると人件費はかさむが応募者は多くなる。
求人広告を掲載して2週間後の目途で面接会場を押さえるスケジュール感で、面接会場を押さえてから求人広告の掲載日を決める。
15)応募者の選定
面接日は、子持ちの主婦は子供の預け先の関係で面接を平日希望にすることが多い。
なので、子持ちはちょっとという方は、日曜日に面接をすると良い。ただし、こういう事をあからさまに書いたり言ったりすると実は労働基準法違反。
応募者の性格などは面接ではわからない。職務経歴書をワードで詳細に書いている人は、提出回数の多い人=転職回数の多い人=不採用経験になったことが多い人。今の職場の不満を言う人には注意。
ネットでの応募者管理は「おうぼうける君」が使いやすい。「AirWORK」は一斉メールができず、送信予定時間も決めれないので不便。応募者の属性はどっちも大差なし。
医療事務は未経験募集もいいが、当初は経験者との2人組になるので注意が必要。コンビニ勤務者は実務能力が高い人が多いが、世慣れしすぎている、ちょっと素行不良に見える人もいる。
若い人で独身の場合は、シフト時間にゆとりあるが、結婚して育休に入る率も高い。面接を当日キャンセルするのはほぼ20代。
30~中年の子持ちの場合は、午前中のみのシフト希望がほとんど。夕方、土日は入れない。
50歳以降の経験があって、子育ても終わった人はある程度融通が利くし、経験豊富なのでいい。土曜日に入れる方も多い。
ただし、自己主張の強い50代以降は職場をコントロールしようとする傾向もある(これも見抜くのは難しい)。
16)従業員の雇用保険など社会保険料について
おおむね、週20時間以上で雇用保険の費用負担が生じる。詳細は担当税理士に聞くと良い。
17)開業コンサルタントの立ち位置
勤務医をしながら開業する場合、いろんな手続きを代行してもらう必要がある。
最低限、保健所への書類の提出などはやってくれる。
継承クリニックの現院長が高齢の場合、メールでの連絡ができなかったり(電話連絡優先など)、それはこちらのストレス度にも関わってくるため、事前に確認した方がいい。
コンサル業のほとんどは「アイデアの提案」。しかし、そのアイデアを実行するのは自分自身。そこをわかってないと、いろいろストレスも溜まる。
一例ですが、求人応募者へ個別に連絡をとったり、面接会場を選定したり、面接日程を組んだりなども自分でやる必要がある。選考結果を伝えたり、履歴書の返送なども自分で。
検査会社や卸業者の選定、見積もりの依頼なども自分でする必要がある。
電話やファックスの継続や、各種取引先(清掃業者、医療廃棄物業者)との連絡(継続も、お断りも)も自分でする。
看板や内装工事も、業者の選定や工事日程の調整や大家への連絡と許可も自分でやる必要がある。
クリニック内の機器がきちんと動くのか、機器がどういう種類で今も使えるのか、電カル(レセコン)の有無、などのチェックも自分で行う。
調剤薬局にあいさつに行ったり、自分が処方する可能性のある薬剤の一覧を見せて、在庫の調整なども行う必要あり。
勤務医をしながらだと、電話にリアルタイムで出れないため、継承先院長や大家、調剤薬局の薬剤師などメールで連絡をとれるようにするとよい。
継承クリニックの現院長に自分のメールアドレスを渡して、現在の取引業者にメールアドレスをお伝えしてもらうのもよい。
コンサルによっては過去に取引した業者があると思うので、そのあたりは頼りになるかもしれない。
18)コンサルはどこから利益を得ているかに注目
このあたりは開業本によく書いてある。
卸会社や調剤薬局関連のコンサルはコンサル費用は安くても、その後に指定された卸の会社と契約が必須だったりする。
コンサルがどこから派遣されて、どこから利益を得ているのかを理解しておく。
19)各種提出書類
保健所への開業申請書の提出。
20)まとめ
クリニック売買費、医師会費やコンサル費、内装費、司法書士費、敷金と初月家賃、運転資金、などを入れると、ざっとみて最低5000万くらいは必要になる。


コメント
2いつか一緒に仕事してみたいですね😋
素晴らしい記事だと思います。とても参考になりました、ありがとうございます。