SDGs目標1「貧困をなくそう」を解説 今、私たちにできることは
SDGsの目標一つ目は、「貧困をなくそう」です。世界で起きている格差や貧困の問題についての現状や、世界や日本での取り組みを正しく理解する。それが、今まさに求められているものを私たちが提供できるようになることに直結します。本記事では、「貧困をなくそう」の内容から順に詳しく解説します。
株式会社Liberty代表取締役社長。滋賀県出身、同志社大学卒。在学中にアルゼンチンへ留学。また「世界学生環境サミットin京都」「World Shift in Osaka」へ参画するなど、積極的に社会課題の解決に寄与。現在は、都内でエシカルやサステイナブルな商材を扱ったセレクトショップを運営し、その経験を元にキャリア支援や講師業などもおこなっている。法政大学SDGsパートナーズでもあり、今後は「SDGs × 衣食住」をテーマに事業を展開予定。
目次
1.SDGs目標1「貧困をなくそう」とは
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)とは「持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書を基につくられた、2030年までに世界中で達成すべき17の目標です。
「持続可能な」開発目標なので、一時的に解決されても仕方がありません。人類がこれからも地球で暮らしていくために、世界が一体となって取り組むことが必要です。
SDGsは突然出てきたわけではありません。社会や環境の変化、戦争などを乗りこえてきた歴史があります。
SDGsの前身である「ミレニアム開発目標(MDGs)」は、貧困や飢餓の撲滅など八つの目標を掲げ、達成期限となる2015年までに一定の成果をあげました。その内容は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に引き継がれています。
「貧困をなくそう」はそんなSDGsのトップバッターとして目標1に掲げられています。
現在、世界では6人に1人の子どもたちが極度に貧しい暮らしをしている(参考:子ども6人に1人が 極度の貧困で暮らす ユニセフと世界銀行による分析)と言われており、先進国にとっても開発途上国にとっても解決すべき課題です。
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にこう記されています。
我々は、持続可能な開発を、経済、社会及び環境というその三つの側面において、バランスがとれ統合された形で達成することにコミットしている。
引用:「持続可能な開発のための2030アジェンダ(仮訳)」宣言 導入部2.(総論)
| 目標1.あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる | |
| 1.1 | 2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。 |
| 1.2 | 2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子どもの割合を半減させる。 |
| 1.3 | 各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。 |
| 1.4 | 2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、すべての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。 |
| 1.5 | 2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に対する暴露や脆弱性を軽減する。 |
| 1.a | あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する。 |
| 1.b | 貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。 |
引用:我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ p.15-16|外務省
2.貧困の現状と貧困がもたらす課題
(1)そもそも貧困とはどういう状態か?
貧困の定義はさまざまで、用いられる指標も複数あります。
一般的な定義としては、世界銀行が国際貧困ライン(貧困を定義するためのボーダーライン)を1人あたり1日1.90米ドル未満で生活する人々と設定しています。日本円で約220円相当です。
また、必要最低限の生活水準が満たされていない状態の「絶対的貧困」、すなわち生きることさえ難しい貧困と、ある地域社会の大多数よりも貧しい状態の「相対的貧困」、すなわち当たり前の習慣や行為を行うことができない貧困という定義もあります。
ミレニアム開発目標(MDGs)の指標では「絶対的貧困」の定義が用いられています。
世界的には、「絶対的貧困」を「極度の貧困状態」と呼ぶこともあります。
(2)貧困の現状
ユニセフと世界銀行の分析では、世界において、極度の貧困状態(1人あたり1日1.90米ドル未満)で生活している人は7億960万人です。そのうち約半数が子どもで、3億5600万人にのぼります(図1)。
図1 極度の貧困状態で暮らしている人の数と割合
また、極度の貧困状態で生活している人の地域別の割合はサハラ以南のアフリカや南アジアに特に多いですが、減少傾向にあります。
世界全体では1990年時点の35%から2013年時点では11%に減少。サハラ以南のアフリカでは54%から41%に、南アジアでは45%から15%にそれぞれ減少しています(図2)。
図2 極度の貧困状態で暮らしている人の数と割合の変化(1990年と2013年)
極度の貧困状態の減少ペースは近年、緩やかになりつつあります。このままでは、SDGsで掲げている、2030年までに極度の貧困状態で生活している人をゼロにする目標の達成は難しいかもしれません。
他方、日本における貧困の状況はどうでしょうか。先進国である日本の「貧困」の概念は極度の貧困状態ではなく相対的貧困です。
厚生労働省が発表した2018年時点の相対的貧困率は15.4%でした。18歳未満の子どもでは13.5%となっており、これは国民の7人に1人が相対的貧困であるといえます(図3)。
図3 日本の相対的貧困率の推移(1985〜2018年)
なぜ貧困が起きてしまうのか。その要因は国ごとに異なります。
世界では、情勢が不安定な国や紛争の影響を受ける国に暮らす子どもの貧困が目立ちます。また、極度の貧困状態にある子どもの多くが、農業をして暮らしている家庭の子どもです(参考:子ども6人に1人が 極度の貧困で暮らす ユニセフと世界銀行による分析)。
日本などの先進国では、子どもが属している世帯所得や各国政府の取り組み(社会保障給付や教育、就労支援などの社会移転)の充実具合が相対的貧困の要因になるかもしれません。
(3)貧困がもたらす三つの課題
貧困は、それだけでも苦しい状況を生むものですが、さらに次の三つの課題をもたらします。
課題①紛争
貧困率が最も高い43の国はすべて紛争の影響下にある国か、サブサハラ・アフリカ地域かのどちらかで、3分の1以上の国は両方に属しています。また、43すべての国で人口の5分の1以上が極度の貧困状態におかれています(参考:世界銀行「世界で最も貧しい国が持つ共通点」)。
課題②健康と保健
子どもが命を失う割合がもっとも高いのは、サハラ以南のアフリカ地域です。5歳未満で亡くなった子の死亡原因の多くは、肺炎、げりによる脱水症状など、医療体制が整っていれば予防したり治療したりできるものでした(参考:日本ユニセフ協会「SDGs CLUB」)。
図4 国ごとの5歳未満児死亡率(出生1000人あたり/2019年)
図5 5歳未満児の死亡原因(2018年)
課題③教育
小学校に通えない子ども5900万人のうち3200万人はサハラ以南のアフリカ地域に暮らしています。次に多い地域は南アジアで、1300万人にのぼります(参考:日本ユニセフ協会「SDGs CLUB」)。
日本でも「学校間格差」「家庭環境による格差」「学歴格差」などが問題になっており、それはコロナ禍においてさらに差が深まっていると言われています(参考:Teach for Japanコラム「教育格差―日本における現状とコロナ禍で拡大する格差とは?」)。
図6 学校に通えない子どもたちの割合(2018年)
3.貧困に対する世界の取り組み・日本の取り組み
貧困を解決するには世界規模の協力関係(パートナーシップ)が必要です。経済的な支援、人道的な支援、環境にやさしい科学技術の開発と普及など、やるべきことがたくさんあります。
(1)世界の取り組み
各国政府と政府関係組織が協力し、公的資金(政府開発援助Official Development Assistance:ODA)を使った援助や技術提供などをおこなっています。開発途上国へODAをおこなっている国は29カ国と欧州連合(EU)です。
2020年、主要な援助国のなかでODA支出額がもっとも高かったのは米国、次にドイツです(図7)。
図7 主要援助国のODA実績の推移(支出総額ベース)
たとえば、米国にはアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)という政府機関があり、経済成長、保健、紛争予防、貧困削減などのための資金と開発の援助をしています。
(2)日本の取り組み
日本政府は、ODAをおこないつつ、開発途上国の人たち自身の努力を支援し、経済成長を促す「自助努力支援」を大切にしています。
これは、支援が終わっても、途上国の人々が自らの手で、自分たちを幸せにする力をつけてこそ、本当に持続可能な貧困解決が実現するという考えにのっとったものです(参考:JICA ODAの基礎知識「6.世界の援助潮流と日本の取り組みについて」)。
また、事業を通じて世界の貧困の解消を目指す日本企業もあります。たとえば、京都のコーヒーメーカーでは、国際フェアトレード認証コーヒーを販売するほか、コーヒー生産者の生活を豊かにしつつ絶滅危惧種のオランウータンの保全につながる活動もしています(参考:京都 小川珈琲 SDGs宣言)。
4.貧困をなくすために私たちにできることは
貧困をなくすためには、国や企業の取り組みだけでなく、私たちひとりひとりの自発的な行動も重要です。たとえば、次のようなことがあげられます。
2. フェアトレード製品の購入と利用
3. ボランティア活動への参加、声をあげ続けること
以下、詳しくご説明します。
(1)支援団体への寄付や募金
貧困に苦しんでいる子どもたちを支援する団体への寄付や募金は、私たちにできるポピュラーな方法です。
日本では他の先進国と比較すると国民1人あたりのユニセフへの拠出額が低く、もしかしたら自分ひとりの寄付や募金で何が変わるのか……と思う人もいるかもしれません。しかし、ひとりだけでは小さな力でも、国を超えてたくさんの同じ思いをもった人たちが集まれば大きな力になります。
代表的な支援団体に、ユニセフと国境なき子どもたちがあります。
図8 国民1人あたりのユニセフへの拠出額
①ユニセフ(UNICEF:国連児童募金)
世界の子どものための国連機関で、約190の国と地域で活動しています。貧困や紛争など、最も困難な状況に置かれた子どもたちを最優先に、支援を届けています。
日本ユニセフ協会への2021年度の募金総額は約237億円で、うち83%は個人からでした。募金はユニセフのウェブサイトからでき、毎月定額で募金する方法と1回ずつ自分のタイミングで募金できる方法が用意されています。
②国境なき子どもたち
日本で設立された国際NGOです。世界中の貧困層の子どもたちへの教育支援に特化して活動しています。
2021年までに15カ国で18万人以上の子どもたちに教育機会を提供し、自立を支援してきました(参考:国境なき子どもたちウェブサイト「国境なき子どもたちとは」)。
1000円単位からの支援が可能で、支援の種類も選択できます。各ウェブサイトで収支・活動報告も公表されています。
その他の支援団体については、「国際協力」や「NGO(NonGovernmental Organization)」、「NPO(NonProfit Organization)」で検索するとヒットしやすいかもしれません。
(2)フェアトレード製品の購入と利用
私たちの生活に役立ちつつ、途上国へ支援をおこなえる身近な取り組みの一つです。「買い物は投票」だと言われるように、私たちひとりひとりの消費行動は社会に影響を与えています。フェアトレード製品には、コーヒー、紅茶、コットン、チョコレートなどがあり、これらを取り扱っているお店もたくさんあります。
①People Tree
東京・自由が丘や立川にある、フェアトレード専門ブランドです。
アジア、アフリカ、中南米など18カ国約145団体と共に、衣料品やアクセサリー、食品、雑貨などの商品を企画開発、販売しています。
②SLOW COFFEE
良質なオーガニックコーヒー豆のみをフェアトレードで輸入し、自社で焙煎(ばいせん)しているコーヒーです。
ブラジルやエクアドルなどで、農薬や化学肥料を使わずに丁寧に育てられたコーヒー豆には、生産者の「子どもたちに美しい自然ときれいな川を残したい」という思いが込められています。
③style table DAIKANYAMA
東京、神奈川、大阪にあるエシカル、サステイナブル、ヴィーガンがコンセプトのセレクトショップです。
コスメ・スキンケア・フードを中心としたおしゃれでかわいいアイテムを取りそろえており、全ての商品にはフェアトレードを含む「7つのエシカルテーマ」を付与しています。
私もブランドの理念に共感し、現在はstyle table DAIKANYAMA 代官山本店を経営しておりますので、ぜひ足を運んでみてください。
(3)ボランティア活動への参加、声をあげ続けること
実際に体験し、肌で感じる経験はとても重要ですね。世界では、子どもたちが声をあげ活動しています。これらの様子が、私たち自身が行動を起こすヒントになるかもしれません。
①JICAがおこなっている国際協力、ボランティア
青年海外協力隊やシニア海外協力隊で一定期間、海外へ赴く以外にも、日本国内で物品寄付やZoomでのイベントに参加することができます。
ちなみに、私の知人は小学生のときに使用していたランドセルをカンボジアへ寄付した経験があります。その後、お礼の手紙が届いたそうです。
②公益社団法人日本ユネスコ協会連盟
UNESCO(国連教育科学文化機関)や日本ユネスコ国内委員会(文部科学省内)と協力、連携して国内外の子どもたちへ教育支援をおこなっているNGOです。
身近なモノでの支援として、はがきや切手、未使用の金券、クレジットカードや各種ポイントサービスのポイントを利用した寄付も受け付けています(参考:日本ユネスコ協会連盟HP「身近なモノで支援する」)。
5.正しい情報を得てから支援を
2018年の西日本豪雨の時に、日本中から被災地へ寄付が集まったそうです。「私たちにできること」をそれぞれがおこなった結果ですね。
しかし、Twitterでは「#被災地いらなかった物リスト」が話題となったことを覚えていますでしょうか?(参考:日テレNEWS「#被災地いらなかった物リスト」を考える)
「私たちにできること」はさまざまあります。賛否両論あるかもしれませんが、国内外問わず「今、困っていることに対して、即物的に解決できるか」という観点はとても大事です。
困っているときに本当に役立つものや欲しいものは、現地の状況を知らなければ提供できません。
寄付・募金やボランティア活動を始めるにあたって、まずは、正しい情報を得ること。そして、正しい情報を知っている人や組織をとおして支援することが大事だと私は考えます。
(2023.9.20更新)ターゲットの一覧表の体裁を変更しました。
(2024.7.5更新)リンク切れURLを削除しました。