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さようなら「177」 またひとつ天気予報の歴史が変わる

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
筆者 日本気象協会時代「177」吹き込みの様子 (スタッフ加工)

私、電話の天気予報を吹き込んでいました

「♪ピンポンパンポーン・・気象庁予報部午後6時30分発表の天気予報をお知らせします・・・」

 電話の天気予報といっても、現代の人はほとんどピンとこないでしょう。TBSのNスタ番組スタッフが路上で35歳以下の人20人に聞いたところ、なんと19人が「177」が天気予報の番号だと知りませんでした。

 そして今年3月31日をもって、電話の天気予報は廃止されます。50年前に実際に天気予報を録音していた身としては、一抹のさみしさを感じざるを得ません。

名古屋から東京へ 「177」の吹き込み担当に

実際に鉄琴を使って吹き込んでいた
実際に鉄琴を使って吹き込んでいた写真:イメージマート

 今からおよそ50年前の1974年、私は名古屋の気象協会東海本部から東京本部に転勤してきました。転勤後、ほぼ最初に任された仕事が「177」と呼ばれる電話による天気予報の吹き込みです。当時、電話の吹き込みは天気概況をまず述べて、そのあとに予報を伝えていました。実はこの「概況を書く」というのが腕の見せ所で、ここで上手に書けるようになると、いよいよラジオの出演を任されるという仕組みになっていました。いわば、「177」はお天気キャスターになるための登竜門のような位置づけでした。

 また、電話の天気予報は単に天気を知るためだけではなく、家庭では小さな子が電話の掛け方を練習したというエピソードもあり、当時は暮らしの一部に溶け込んだ存在だったのです。

1988年に年間3億件ほどあった利用者が、約40年で2%程度に減った (スタッフ作成)
1988年に年間3億件ほどあった利用者が、約40年で2%程度に減った (スタッフ作成)

 

 実際に、台風などの異常時は利用者が1日100万件以上になり、1988年のデータでは年間で3億件の利用があったといいます。(Nスタ調べ)それが2023年には556万件と2%弱になったのですから継続は難しいのでしょう。

吹き込み時間の長さで県民性が分かる!?

 ところで全国の「177」に関連して、30年ほど前に面白いことを調べたことがあります。

 ことの発端は当時、私が出演していたTBS「ニュースの森」に届いた視聴者からのハガキでした。その方が言うには、東京と大阪では天気解説に費やす時間の長さが違うとのことです。簡単に言うと「大阪は要点や結論をごく短く伝える」だけに対して、「東京は長々とよく言えば懇切丁寧、悪く言えば冗長」というようなご指摘でした。

 これは面白いと思い、スタッフ3人がかりで全国47都道府県全部について、時間を測ってみたのです。(昔はこういうバカバカしいことを本気で調べていました)

 すると、視聴者の方のご指摘どおり本当に地域ごとによって録音時間が違っていました。一番短いのが岐阜県の58秒、大阪府は1分7秒で全国で二番目に録音時間が短く、その次が京都でした。逆に長いところはどこかというと一位が福井県の2分22秒、二位が石川県の2分20秒、三位は富山県でした。北陸が長いというのは天気が複雑というのがあるかもしれませんが、大阪や京都が短いというのは地域性もあるのでは、と妙に納得したことを覚えています。

録音から合成音声 そして廃止

 電話による天気予報が始まったのは1955年からです。上述したように当時は電電公社(現NTT)と気象協会の間に、ガラ電と呼ばれる直通電話が設置され、それで吹き込みをしていました。また気象協会も県ごとに支部がありましたが、これはほとんど電話の吹き込み用に置かれているような状態で、支部単体の経営は赤字だったと思われます。そんなこんなで合理化が推し進められるのですが、当時の私に経営的な視点は全く無く、地方支部が廃止になることをただただ残念と感じていました。

 私自身は1992年に気象協会を退職しましたが、1998年「177」にとっては一つの大きな節目を迎えます。それが合成音声の導入です。しかしその頃は、合成音声といっても、言い回しがおかしいところがあり、人間が大きく関与しないと使い物にならない状態でした。ところが近年の技術は素晴らしく、2019年からは合成音声完全自動化となり現在に至っています。

 そして今年(2025年)3月31日をもって、70年に及ぶ電話の天気予報に幕が下されることになったのです。

天気キャスターも無くなるのか

 当初は人間の声に頼るしか方法がなかった電話の天気予報でしたが、それが人間の手が介在しなくなり、さらにはスマホアプリなどの発達によって、今では自分の欲しい時に自分の知りたい情報が手に入るようになりました。

 こうしてみると、飛躍した考えかも知れませんが、テレビの天気予報も今後は自動音声に代わり、アバターの天気キャスターが気象解説をする姿が見えてきます。おそらく一部は確実にそうなっていくでしょう。

 ただ、人間の天気解説がすべてなくなるかというと、そんなことはなく、人以外に代替できない気象解説は残ると思います。

 では代替できない気象解説とは何か。それは具体的には分かりません。

 

 かつて産業革命のころ、「機械が自分たちの仕事を奪うのだから機械を壊してしまえ」という運動がありました。しかし、実際には産業革命を経て人間の仕事はむしろ増え、しかも多様化しました。したがってテレビに依存してきた天気キャスターの仕事も、今後徐々に変化し、多様化していくのだろうなぁと、「177」の廃止を受けて直観的に思いました。

 ちなみに、久しぶりに「177」にかけてみると、天気予報と波の予報、干潮満潮、注意報警報を教えてくれました。「週間予報を知りたい人は○○番へ」というアナウンスも。トータル2分15秒、現在は他の地域とどのくらい差があるのか気になります。

参考

雨風博士の遠めがね 著森田正光 新潮社刊

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ありがとうございます。
気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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