・新種のモンスター群の名称は幻想体と命名
・幻想体は独特なオーラを発しており会敵すればそれが幻想体であるとすぐに分かる
・ダンジョン全域に出現し一般のモンスターと同じく出現する階層によって強さは上下する
・幻想体は撃破した場合魔石ではなく武具とアクセサリー、[EGO武器]・[EGO防具]・[EGOギフト]を必ずドロップする(一部例外あり)
「こんな所かな…現在幻想体に関して我々が有している情報は?」
「そうじゃのう、色々と調べ回ったが噂ばかりでこれ以上のことは特に得られんかったわい。あとは闇派闘との関連性じゃが…」
「闇派闘は既に壊滅状態でこのような大規模なことを起こす力は無いだろう。それに敵に塩を送るような真似をするとは考え難い、奴らが絡んでいる可能性は低いと見ていいだろう」
ロキファミリア、『三首領』フィン・リヴェリア・ガレスは現在オラリオを騒がせている幻想体について議していた。
彼らは都市最強派閥の一角、その幹部だ。
既に下級団員やロキと協力し幻想体に関する情報を集めていた。
「フィン、幻想体…ギルドから衝撃ムカデと名付けられていたか。それと交戦し撃破したと聞いたがドロップアイテムはどうなった?」
「ギルドに強制的に回収されたよ。前例のない事態だったしあの場で断っても印象を悪くするだけだったからね、素直に渡した。EGOギフトを除いてね」
そう言いフィンは内ポケットから青みがかった金属のような物質でできた腕輪を机の上に置いた。
腕輪は天井の照明の光を反射し鈍い輝きを放っている。
「衝撃ムカデのEGOギフト、AEDDだ。既に装着した状態でのステイタス更新も行って詳細は確認済み、効果は敏捷+20と雷属性のダメージの減少だ」
EGOギフトの効果を聞きガレスとリヴェリアは少しばかり一驚する。EGOギフトによる恩恵が想像よりも大きかったためだ。
「敏捷20か…劇的にとはいかんが中々に大きく強化されるのう」
「だが本命は雷属性のダメージの軽減だろう。実質発展アビリティが1つ増えたようなものだ。発揮される場面は少ないがそれでもここぞという時に役立つ」
EGOギフトがどのような場面で役立つかを2人は話し合い思案していく。
「そこまで、自分から話題を出して何だが今深く話すことじゃない。リヴェリア、君の番だ」
パチンと一度手を叩き思考の海に沈んでいた2人をフィンは引き戻しリヴェリアにそう促した。
「…あぁ、すまないフィン。私の方だが中層の…」
その後も3人は情報を交換しあい日が暮れるまで異常事態に対するロキファミリアの対応を考えるのだった。
新たに発見された幻想体は2ヶ月で20前後、そしてその1体1体が無視できない被害を冒険者に与えている。
26階層に出現した体に刺さっている注射器と極彩色の舌が特徴的な幻想体、夢見る流れ。
全長3Mながら閃燕に匹敵するスピードを持ちモンスター・冒険者見境なく突進を繰り返す滅茶苦茶な行動をし短期間に多数の死傷者を出した。
23階層に出現したマリオネットの姿をした幻想体、ピノキオ。
相対した冒険者のステイタスをそっくりそのままコピーしコピーした相手に
影響を受けるのは1人のためパーティを組んだ冒険者によって討伐された…が運悪くコピーされたのが広域かつ高火力の魔法を持つ魔導士であったため2名の死傷者がでた。
5階層に出現した上部が黒色、下部が白色の球体のような形状の幻想体お前…ハゲだよ…。全身から頭髪のみをピンポイントに毛根ごと消し去る光線を放つという(ある意味)最凶の能力を持つ。
被害に遭ったのは27名でその内9名が女性だった。
最終的に髪の一部を消され過去最高に激怒した
ちなみにお前…ハゲだよ…の被害者は全員ディアンケヒトファミリアにより頭髪は再生され、爆笑していた被害者の主神達はしばかれた。
このような事が起こってもなおEGO目当てでダンジョンに潜る者は少なくない、そしてそれはロキファミリアの団員でも例外はなく…
「…いない」
銀の防具とサーベルを身にまとう金髪の少女…アイズヴァレンシュタインは眉を下げしょんぼりとしたオーラを発しながらそう呟いた。
彼女は現在幻想体のEGOを入手するためにダンジョンの26階層に来ていた。
本当はEGOの性能を耳にして直ぐにダンジョンに突撃しようとしたのだがリヴェリアに先んじてストップをかけられ行くことができなかったのである。
何回も何回も説得を重ね、愛剣の『デスペレート』も整備しポーションを用意してようやく下層まで行くことを許された。
幻想体の情報も集めやる気十分でダンジョンに潜った成果は大量の魔石とドロップアイテムのみ。
3日間幻想体が確認されたスポットを走り回って交戦するどころか見かけた回数もゼロ、これには心の中の小さなアイズも涙目である。
上空を飛ぶハーピィの鳴き声も心なしか自分を笑っているかのように聞こえた。
「どうしよう…」
アイズがリヴェリアに許可された時間は4日、あと1日残っているがこの調子では見つかりそうもない、一度地上に戻ってやり直そうかと下層と中層を繋ぐ水晶の洞窟の方向を振り返ろうとした。
その直後。
音が炸裂した。
岩を砕き、水面を割いてそれは一直線にアイズの額に向かい直進する。
幾度もの死線を越えて研ぎ澄まされた感覚がアイズの体を動かし死を回避させた。
デスペレートを抜きアイズは何かが飛んできた方向を警戒しながら睨んだ。
十秒程経ちそれは岩陰から姿を現す。
透き通る様な青く長い髪、美しい白い光が散りばめられたドレス、神々に匹敵する美貌、そしてそれら全てを帳消しにする半身を覆う禍々しい影と瞳孔も何もかもが黒一色の瞳。
「人…違う、それにこの気配は」
奇怪な気配を纏うその幻想体は黒い涙を流すその瞳でアイズを凝視した。
「…」
『…』
幻想体とアイズとの距離は7M、間に小川を挟んで相対する。
先に動いたのは幻想体だった。おもむろにに手を上げ、振り下ろす。
刹那、虚空から星座を模した柄のついたレイピアが出現する。そして次の瞬間、アイズの視界からレイピアが消えた。
アイズが体勢を低くし、滑るように横に回避すれば間を置かず先程いた場所にレイピアが深く突き刺さる。
「あれがさっきの攻撃…」
未知の怪物を相手にアイズは臆さず距離を詰める。そして己の持つ唯一の魔法を発動した。
「【
全身を風が纏う。7Mの距離を一瞬で殺しアイズは一閃した。
ガキィッと金属音がダンジョンに響き、風を乗せた一撃は弾かれる。衝撃で体勢を崩され、そこに細剣が捩じ込まれた。
「ッ風よ!」
足から風を放出し空中で無理やり方向転換を行い回避する。
(レイピアは複数本出せる)
4本のレイピアをまるで盾のように展開させる幻想体を横目にアイズは一瞬だけ思考をし後退、そしてもう一度接近する。
「今度はもっと強く…!」
旋風が剣を包みさらに破壊力と加速が生み出し振り下ろす。
2本のレイピアがその一撃を受け止め、3本目が追撃で剣を撃ち払う。風により弾かれた勢いを相殺、間を置かずにアイズは追撃する。
…が残った4本目のレイピアによってそれも防がれる。
アイズの頭上にレイピアが出現し射出される。アイズはそれを容易く回避するがそれだけでは終わらない。
1つを避ければ別の3つが死角から放たれ止まる隙が与えられない。
四方八方から即死級の攻撃が飛び交う中、アイズは攻撃を防ぎながら冷静に思考する。
(一度に出せるレイピアの数は4つで警戒しなきゃいけないのはレイピアの射出。本体は積極的に動こうとしないのと私を遠ざける様に攻撃してくることから有効なのは…)
近接戦闘、そう結論を出したアイズは風を足に集中させて地面を踏み込み突貫した。
接近するアイズの正面にレイピアを出現させて幻想体は遊撃した。
放たれた青光は吹き荒れる風により威力が軽減され受け流される。
射出の威力は強力だが軌道は真っすぐで予測は簡単だ。そう考えたアイズは狙われた場所にピンポイントに風を集中させた。
何千もの戦闘によって鍛え抜かれた観察眼と規格外の出力を誇る魔法によってアイズは障害を力ずくで突破する。
攻撃の対処ができればアイズにとって数Mの距離を詰めるのには1秒もかからない。風を使わない純粋な脚力のみで間合いに迫った。
幻想体が美しくも恐ろしい相貌を歪めレイピアを手に取る。
交差する2つの閃撃が火花を散らす。技量面ではアイズが上回るようで銀の軌跡が空中に走る度に幻想体の肌に傷が刻まれ少しずつ後退させる。
有利な状況、それでもアイズは一切攻撃の手を緩めず幻想体に新たなレイピアを出す暇を与えない。
剣激が50を超えようかというその時、幻想体の剣技が僅かに緩んだ。
アイズは風と共に飛び円月蹴を放つ。狙いはレイピアではなくそれを握る手。その細い足からは想像もできない苛烈な威力が幻想体の手を破壊しレイピアを地に叩き落とす。
相手は体勢を大きく崩し得物を失った。その隙をアイズは逃さない。
剣に大気流を乗せ、一閃。
下手な攻撃魔法を遥かに上回る風の一撃は幻想体を両断する。
『ーーーーッッ!?』
幻想体の叫びとともに現れた無数のレイピアは、しかしアイズではなく呼び出した主を貫く。
幻想体は啜り泣くような声と共にEGOを残し灰となった。
「…ふぅ、倒せた…これが…」
戦闘を終えたアイズは今回の目的でもあったEGOを確認する。
幻想体が使用していたものと同じデザインのレイピア、青いドレス、そして黒い涙を象った結晶。
鍛冶師ではない者から見ても上等な物だと分かるそれをアイズはバックパックに詰め込み急いで地上に戻った。
「ロキ…入りますね」
「んー? おーおかえりアイズた…何やその激かわドレス!?」
部屋に入るなりドレス姿に興奮してセクハラをしようとしてくるロキを慣れた手つきでベットに投げ飛ばし、アイズは口を開いた。
「幻想体を倒しました、この服と剣がEGOです」
「………え、マ?」
突然の発言にロキは目を見開き思わず聞き返す。
「はい」
「………………………………………EGO2人目来たぁぁぁぁぁぁっ! ちょい待ってな、直ぐステイタス更新の準備するわ!」
数秒フリーズした後ロキは歓声を放った。
ハイテンションでテキパキと動く己の主神を前にテンションについていけないアイズは少し困惑していた。
「EGO武器はアイズたんの得意な剣やし、EGOギフトも中々の性能しとるしで結構良い結果になったなーアイズたん」
「…はい」
自身のステイタスが書かれた羊皮紙に視線を走らせアイズは少しだけ微笑んだ。
アイズ・ヴァレンシュタイン
LV.4
力:E404→E405
耐久:F397
器用:C672
敏捷:C660→C662
魔力:B712→B713
EGO武器【鋭利な涙の剣】
装備時技量の高補正
EGO防具【鋭利な涙の剣】
全属性攻撃をわずかに軽減
EGOギフト【鋭利な涙の剣】
装着時 敏捷+15 魔力+10