あれからリドは語る。自分たちの望みを。
その内容はとてもシンプル。太陽を見たい。地上に出て太陽の光を浴びて生きていきたい。
太陽が存在しない迷宮という牢獄で産まれた彼らの単純ながら切実な願いだった。
ワタシは彼らの気持ちを理解することはできないと悟った。ワタシは普通の人間として生きてきた前世がある。彼らにも前世のようなものがあり、それのせいで見たこともない太陽を望んでいるのだとか。でもワタシは彼らのようなぼんやりとしたものではない。太陽の下で生まれ育った経験を持っているから彼らとのズレを感じていたのだ。
彼らが地上に出られない理由、それは人間の存在だろう。ワタシはあくまでもダンジョンの中だからこそ一部の人がワタシを商人として扱ってくれる。しかしその一部は全て冒険者。一般人は含まれていない。
何も知らない一般人からすれば喋れるとはいえモンスターはモンスター。姿を見せれば不安を煽ることになる。だからこそ冒険者は地上へ上がろうとするモンスターを倒すのだろう。
彼らは強い。しかし人間も同じぐらい強い。もしも強引に地上に出ようとすると誰かが死ぬことは間違いない。
なら他の解決策があるのか?と聞かれると何も答えられないのが今のワタシだ。
「オレッち達はあんたに感謝してるんだぜ」
「……どうして?」
「カクレオンさんが、人間たちト、商売を成功させタ、という前例ガ生まれたからです」
「もしかしたら平和的に地上へ上がって、人間と手を取り合いながら共存できるかもしれないって希望が見えてきたんだ。カクレオンのおかげでな」
今、聞いて少しわかった。彼らは太陽の光を求めてるのではない。人間と一緒に生きていくことを望んでいるんだ。だから同じ太陽の下で暮らしたいと願うのだろう。
「オレッち達が話した次はあんたの話をしてくれよ。どうして商売を始めようと思ったのか、なんでそんなに強くなったのかを」
どうしてワタシは商売をしているのだろう。そんなものの答えは一つしかなかった。
「みんなと同じだよ。前世の記憶ってやつを覚えているんだ。この姿のモンスターが商売をして、誰よりも強い姿を。それを目指しているからワタシは誰とでも商売するし、泥棒には地獄が生ぬるく感じるトラウマを植え付けることにしてるんだ」
「お、おう……なかなか過激だな」
それはワタシも思ってる。仲間のカクレオンを呼べないなら自分が分身すればよくない?って考えて分身を使って泥棒を懲らしめた時は、流石にやりすぎたかなって毎回思ってしまう。それでもカクレオンとしてやらないわけにはいかないから仕方ないね。
「それで、どうしてここで畑をしてもいいの?」
「先ほど、私たちハ、共存していきたいト、言いましたよネ」
「うん。その話とどう繋がるんだい?」
「オレッち達が人間と共生するのに1番単純な手はオレッち達と共生することで発生する利益を見せることだ。現にカクレオンは商売品という形で認められつつある」
実際最初の頃は盗みや強盗が多かったけど、来る人をある程度選り好みできるようになったのは誰1人として殺さず、商売として噂が広まってくれたおかげだろう。
「そんなカクレオンをオレッち達は支援したい」
「それはありがたいけど、まだ理由がわからない」
「カクレオンさんガ、人々ニ認知されるほど、私たち異端児ハ、共生できるかモしれないト、人々ノ方から認識されるのです」
「言ってしまえば、これからも異端児のイメージアップに役立ってほしいってことだな。それにここで畑をすればオレッち達が手伝える。みんな人間みたいに生きていきたいって話しただろ。だから少しだけでも人間がやっているようなことをできるようになりたいし、地上に出た時に稼ぐ手段を持っておきたい」
彼らはワタシが思っていた以上に未来について考えていた。ただぼんやりと意味もなく金を稼いでいるだけのワタシとは違って。
「……その話受けさせてもらうよ」
「ありがとう!」
ワタシは短い手を出し、握手を求める。そこにリドが大きな手でがっしりと握り、契約とは名ばかりの口約束が結ばれる。彼らの喜ぶ声や顔を見ると色んな意味で裏切れないな。
そこからワタシ達の農業開花は始まった。
まずは部屋を広げる。『おおべやだま』は自分たちのために使うため、ワタシが壁をぶち壊して広げて行った。
広がった部屋の土をワタシとフェルズさんが作った鍬で耕して貰っている間、ワタシは密かに実験していたことを試す。
まず、『ほごしょく』でワタシのタイプをくさタイプに変えて、ダンジョン内にある植物に対して『シンクロノイズ』を使った。
これは同じタイプにしか効果のないただの攻撃技だ。生物にしか効果がないように思われるが植物だって立派な生き物だ。効果がないわけがない。
植物は振動とともに爆散する。しかしその中にあった種だけは無事。しかし本来の種と色が違う。もしかしたら成功したのかもしれない。
ワタシは不思議だまやスカーフを作れた時から考えていた。どうしてワタシはポケダンのアイテムを作れるのか。今でも原理はわからないがワタシのポケモンとしての力が何か影響を及ぼしているのは確実だった。
なので今回も植物にこちらから波長を合わせながらポケモンとしての力をぶつけることでポケモン世界に存在する種にすることに成功したのだ。
「それで農業ってどうやるんだ?」
「ワタシもよく知らないんだよね」
とりあえず大事なのは水、光、栄養なのはわかる。水と光はなんとかなるとしてもダンジョンで肥料作りは難易度が高そうでどうするべきかと悩んでいるとワタシの目の前に本が置かれた。
「デメテル神から譲ってもらった農業本だ」
フェルズさんが持ってきてくれた本を捲る。かなり分厚いので地面に置きながら読んでいると肥料に関する記述を見つけ、肥料に魔石が使えることが判明する。
本当になんにでも使えるな魔石。ちょっと都合が良すぎる気がするがありがたく使わせてもらった。
後は種を植えて、定期的に管理するしかなくなった。
「カクレオンって最初に来た時と喋り方違くね?」
「商売中はキャラ作ってるからね〜」
「どちらノ、あなたも素敵だト、思いますよ」
「ありがとう〜」
ワタシはカバンを背負う。目的地は決まっていない。また、ぶらぶらと階層を移動してどこかで店を開く。それだけだ。
「じゃあまた来るね〜」
「おう、帰ってこいよー!」
「いつでもお待ちしておりまス」
手を振って外に出る。良い人たちだった。明日からも彼らのためにイメージアップにつながるように積極的に接客していこう。そう心に決めて歩き始めようとした瞬間、一つの疑問が浮上する。
「フェルズさん。なんでワタシはすぐに隠れ里に案内されなかったんですか〜?」
「バロールを単独で倒す実力を持ちながら、目につくモンスターを全て狩る者を里に連れて行けるわけないだろう」
「酷くないですか〜?」
「……過去の自分が見える魔道具を用意しておこう」