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第11話 : 終焉の軍議


 

 ──あの朽ちた城門の先に広がっていたのは、想像なんて生ぬるいもんじゃ語れねぇ、“現実の終末”だった。

 

 崩れかけた石造りの回廊。

 足元では床板が軋み、ひび割れた窓からは容赦なく風が吹き込んでくる。

 もはや装飾とは呼べないほど色褪せたカーテンが、鈍く揺れていた。

 

 埃と血と鉄錆の混ざった空気が、肺の奥をひりつかせる。

 一歩進むたび、靴裏に何かがこびりつくような、生温い嫌な感触があって。

 

 ──戦場の“なれの果て”。

 

 その言葉が、ぴたりと嵌まった。

 

 転がっているのは、砕けた盾。折れた槍。刃こぼれした剣。

 それらはもう道具じゃない。ただの亡骸だ。

 

 石畳にこびりついた褪せた血痕は、誰にも看取られず、誰にも祈られず、ただ黙ってそこに沈んでいた。

 

 ここは、本来──人が暮らしていたはずの場所。

 なのに、“生”の気配なんて、これっぽっちも残っていやしねぇ。

 

 まるで、空間そのものが“死”に馴染んでしまっているような……そんな、静かすぎる終焉の気配だった。

 

「…………」

 

 言葉なんて出るわけがなかった。

 ただ、俺の足音だけが、無慈悲に石の廊下に反響する。

 

 先を行く二人の少女に導かれるまま、俺は何も言わずについていく。

 苔に覆われた石壁。風化しかけた燭台。

 揺れる灯りが、廊下の奥に奇怪な影を落としていた。

 

 まるで、死者の背骨をなぞるような道だ──と、どこかで思った。

 

 やがて、眼前に現れたのは、鈍く光る重厚な鉄扉。

 

 黒の少女が、一言も発することなく、淡々と手を伸ばす。

 ──ギギギ、と鉄が擦れる音を残して、それはゆっくりと開かれた。

 

 その先にあったのは──

 

 広間。けれど、その広さに見合う活気などどこにもなくて。

 あるのは、ただただ空虚な空間。

 ……いや、抜け殻と呼ぶべきか。

 

 軍議室と呼ぶには、あまりにも荒れすぎている。

 栄誉も格式も失われ、ただ戦うためだけの場所に成り果てた空間。

 

 中央に据えられた円卓は、無骨な木製の造りだった。

 だが、そいつの天板は深く抉れ、乾いた血の痕がそこかしこにこびりついている。

 誰かが怒りに任せて拳を叩きつけたのか。

 あるいは──命の最後に、崩れ落ちる身体を預けたのか。

 

 天井も、壁も、黙り込んだままだ。

 けれどその沈黙は、まるで語ることすら拒んでいるかのようで。

 すべてを見届けた者だけが持つ、重さと静寂に満ちていた。

 

 円卓を囲んでいたのは、十数人の兵士たち。

 

 顔立ちに幼さが残る奴もいる。

 下手すりゃ、まだ成人に届いてねぇような少年まで混じってた。

 

 ──けれど、その瞳には。

 

 年相応の光なんざ、ひとかけらも宿っていやしなかった。

 

 怒りも、誇りも、恐れすらも──とうの昔に置き去りにしてきたような、深い、深い眼差し。

 

 瞳の奥に沈んでいたのは、“諦念”。

 希望でも絶望でもない、終わりだけを見据えた、澱のような静けさ。

 

 塗り潰された漆黒の感情。

 誰かに救いを求めるでもなく、ただ……受け入れていた。

 

 オラリオでも見た。

【闇派閥】が跋扈し、日常が崩れ、命が軽くなる音が日常に変わっていく中で──生きるために“死”へ慣れていった奴らの、あの目。

 

「…………」

 

 ……俺だって。

 何も変われてなきゃ──いずれ、同じ目をしてたかもしれねぇ。

 

 だが──

 

 こいつらの目は、それすら通り越していた。

 

 ただ諦めてるんじゃねぇ。

 もう、終わりまで全部飲み込んじまってる。そんな目だ。

 

 もっと深く、もっと静かに──

 まるで地の底に沈んだ湖のように、波ひとつ立たない絶望。

 

 分かってんだ。

 いつかじゃない。そう遠くねぇうちに、自分たちは確実に死ぬってことを。

 

(……こいつら、腹ァ括ってやがる。誰にも見られなくたって、泣かなくたって、覚悟だけは確かにそこにある)

 

 泣かねぇ。叫ばねぇ。助けなんか求めもしねぇ。

 祈りも、希望も、もうとっくにどこかへ置いてきた。

 

 ただ、黙って。

 静かに──死を受け入れている。

 

 それはきっと、“命を賭ける”なんて言葉じゃ追いつかない領域だ。

 

 名も、称賛も、誰の記憶にも残らなくていい。

 ただ、戦場に咲いて。音もなく、散っていく。

 

 ──無名の英雄たちの、眼差しだった。

 

 ……何も、言えなかった。

 

 この世界の構造だとか、歴史だとか、俺は何ひとつ知らねぇ。

 けどな──この空気だけは、確かに肌が覚えていた。

 

 これは、戦場の前夜だ。

 

 剣はまだ鞘に納まっている。

 血も、怒号も、悲鳴すらまだ上がっちゃいない。

 

 けれど、それでも──この場には確かに、“死”の気配があった。

 

 目には映らねぇのに、やたらリアルで、やたら濃厚な空気。

 鼻の奥に纏わりついて、肺の奥まで染みこんでくる。

 

 まるで、空間そのものが命の終わりを囁いているみてぇに。

 

 張りつめた沈黙の中、誰もが口を閉ざし、身じろぎすらせずにいるそのとき──

 

「──失礼します。では、始めますね」

 

 澄んだ声が、沈黙をひと筋に裂いた。

 

 銀の少女──エリーが、音もなく前へと歩み出る。

 つい先ほどまで見せていた柔らかな微笑は、今はもうどこにもない。

 代わりにそこにあるのは、覚悟を内に宿した凛とした表情。

 

 指先が軍服の襟元を丁寧に整える。

 その一連の動作すら、どこか舞台の幕開けを感じさせて──けれど、これから始まるのは芝居じゃない。

 名もなき兵士たちが命を懸けて挑む、現実の終焉だ。

 

「皆さん、改めて──ご苦労様です」

 

 その声は静かに、だが確実に軍議室へと染み渡っていく。

 

「現在、この拠点における生存兵士は二十六名。そのうち、戦闘継続が可能と判断される者は、十八名です」

「…………あ?」

 

 その報告は、あまりにも淡々としていた。

 けれど、その“軽さ”が逆に重かった。

 二十にも満たないその数字が、無慈悲な現実を容赦なく突きつけてくる。

 

 空気が、ひときわ強く凍りついた気がした。

 そして、思う。

 

 ──たった、それだけ、だと? 

 

「……おい、待てよ」

 

 気づけば、声が漏れていた。

 誰に向けたわけでもない。けれど、止まらなかった。

 

「ここ……“拠点”なんだよな? この城一つが、それだけの人数で守られてるってのか……? 本気で……そう、言ってんのか……?」

「…………」

 

 問いかけに、誰も返さない。

 返せるはずがなかった。

 

 この場にいる全員が、その現実を何度も噛み潰してきた。

 砕き、飲み下し、胃の底に沈め──痛みすら、もう感じなくなった連中ばかりだった。

 

 重たい沈黙が、ずしりと場に降り積もる。

 

「“拠点”というよりは……最後の“避難所”です」

 

 エリーが答えた。

 淡々と、けれど揺るがぬ声音で。

 

 その一言が、この場の意味を──絶望の深さを、容赦なく突きつける。

 

「ここは、始まりの森──ミルュクヴィズに築かれた、人類最後の砦。……いえ、“かろうじて人類が留まれているだけの最終地点”です」

 

 その語り口に、希望や慰めといった類のものは一切なかった。

 あまりにも静かに、あまりにも当然のように。

 まるで、涙を流す価値すら失われた世界の現状報告。

 

「周囲の都市や要塞はすでに壊滅。王都も堕ち、貴族たちも散り散り。王も、軍も……ほとんど残っていません。国という形すら、もう名ばかりのものになっています」

 

 その声に激情はない。

 けれど、言葉は刃だった。

 凍てついた刃先が、皮膚を裂くように、静かに、確実に胸へ突き立ってくる。

 

「退路は断たれました。撤退も、補給も、援軍もありません。残されているのは、この地で戦い、そして──終わらせるという選択肢だけ」

 

 言い終えた瞬間、室内の空気が一段深く沈み込んだような気がした。

 まるでこの空間そのものが、重力を増したような──そんな錯覚すら覚える。

 

「……だからこそ」

 

 少女が一歩、踏み出す。

 その足音すら、やけに響いた。

 

 声音には、驚くほどの澄みきった静けさ。

 怯えも、怒りも、迷いも──何一つ、そこには宿っていない。

 

 ただ一つ。

 “言葉を紡ぐ者”としての使命と覚悟だけが、凛と、その身体に宿っていた。

 

「明日、私たちは討伐隊を出撃させます。可能な限りの──全戦力を、投入して」

 

 その語尾は淡々としていて、それでいて、揺るぎがなかった。

 刃のように、静かに、鋭く。迷いという余地を一切許さぬ断言。

 

「目的は、ただ一つ。遥か彼方に君臨する“魔王”の討伐──そして、“人類の生存権”、その奪還です」

 

 ──その瞬間だった。

 

 胸の奥で、何かが“軋んだ”。

 軋んで、きしんで、ひび割れそうになるほどの感情のうねり。

 

 熱いのか、冷たいのか──そんなのすら分からない。

 ただ、濁流のように濃く黒く、ぐるぐると渦を巻く、正体不明の感情が内側を荒れ狂っていた。

 

(……何を、抜かしてやがる)

 

 勝てるかどうか──そんな次元じゃねぇ。

 そもそも、これは“戦い”ですらない。

 “生存権の奪還”? “魔王とやらの討伐”? ……何を、どの口が言ってやがる。

 

 違う。断じて、違う。

 

 これはもう、戦争じゃねぇ。抗争でも、反撃でもない。

 

 ──ただの、“終末”だ。

 

 この世界を、静かに、確実に終わらせるための……全員で迎える“最期”の、儀式に過ぎねぇ。

 

 あまりに静かで。あまりに無慈悲で。

 絶望そのものの言葉に、俺の中の何かが凍りつく。

 

 理解が、追いつかなかった。

 いや──理解したくなかった。

 

 本能が、拒絶していた。この現実を。

 

 気がつけば──睨みつけていた。あの銀髪の少女を。

 

 透き通る声で、まるで機械みてぇに命を数字に換えて語る彼女を。

 

 意味の通らない単語を並べて、仲間を、戦力を、死地に送り込もうとしているその姿を。

 

 ……本当に、それが“正しさ”だとでも思ってるのか? 

 この状況で、それが正解だと、誰に言えるんだ? 

 

 喉まで出かけた問いを、寸前で飲み込んだ、そのとき。

 

 ──ふと、気づいた。

 

 彼女の瞳の奥。そこにある、ほんの僅かな揺らぎを。

 

 見逃してもおかしくなかった。

 否、見逃した方がきっと楽だった。

 

 けれど、俺の目は、確かに捉えていた。

 

 それは──悔しさ。悲しさ。

 そして、何よりも深い、どうしようもない諦め。

 

 それでも、彼女は崩れなかった。

 

 ただ、立ち続けていた。

 まるで、それが唯一の答えであるかのように。

 

 崩れた瞬間に、すべてが終わると知っているから。

 自分が膝をついたが最後、この“最後の場”が音を立てて瓦解すると、心の奥底で理解しているから。

 

 だからこそ──崩れない。

 いや、“崩せない”のだ。

 

 その姿が、あまりにも眩しかった。

 

 だからだろう。

 俺の中で張りつめていた何かが、ゆっくりと、軋む音を立ててほどけていった。

 

 ずっと握りしめていた拳から力が抜け、肩が勝手に落ちていく。

 膝裏に、ずしりと重さがのしかかる。

 

(……冗談、じゃねぇのかよ)

 

 吐き捨てたい。喉の奥から、こみあげてくる理不尽への怒りをぶつけたかった。

 けれど──笑う奴はいなかった。

 

 誰一人、いなかった。

 

 真顔で、黙ったまま。

 視線すら逸らさず、誰もが“ここ”を、真正面から受け止めていた。

 

 そうか。そういうことか。

 

 ──これは夢じゃない。

 悪い冗談でも、悲劇の演劇でもない。

 

 これが現実だ。

 

 重くて、鈍くて、乾いた喉の奥を刺すように苦い──最悪の現実。

 

 そしてこの軍議室には、まるで未来という概念だけを締め出されたかのような。

 鈍く、重く、濃密な沈黙が、ぬめるように染みついていた。

 

 誰も声を上げない。

 誰も、席を立とうとはしない。

 

 だが、それでも──誰ひとりとして、背を向ける者もいなかった。

 

 ……いや、違う。

 もしかしたら、もう“選べない”のかもしれない。

 

 戦うことも、逃げることも、祈ることすらも。

 何もかもが手遅れで、選択という言葉すら過去に置き去られてしまったのかもしれない。

 

 これは勇気か。

 諦めか。

 それとも──死に場所を探し続けた者たちの、静かな終着か。

 

 部屋の空気は、ひたすらに張り詰め、どこまでも無音のまま、染み渡るように満ちていく。

 

「…………」

 

 そのときだった。

 

 呼吸のリズムがふいに乱れた。

 自分でも理由はわからなかったが、無意識に、顔を横へと向けていた。

 

 ──そして、視界に捉えた。

 

 あの黒き少女が、そこにいて。

 銀の少女が指揮官と呼んだ、寡黙なる存在。

 彼女は、俺を──ただ、じっと見据えていた。

 

 まるで、沈黙そのものを象ったかのような双眸で。

 語らず、責めず、導かず。

 けれど、その瞳には確かに、問いが刻まれていた。

 

 氷刃のように冷たく、容赦なく、真っ直ぐに、俺を射抜いてくる。

 

 ──お前は、どうする? 

 

 この、終わりかけた世界で。

 帰り道すら用意されていない討伐隊の列に並んでまで、その命を……何に、賭けるつもりなのか。

 

 言葉なんか必要なかった。

 その無音の視線が、すべてを語っていた。

 

 感情の揺らぎひとつ見せず、ただ凪のように静かなその顔。

 だからこそ、逆に容赦がなかった。

 

 選択肢なんて、とうに潰えたこの地で──それでも「選べ」と、問いを突きつけてくる。

 

 その眼差しは、正解も慰めも持たない。

 けれど、確かに……俺に意思を問うていた。

 

 だが──応えられなかった。

 

 言葉にならねぇ。

 喉の奥に引っかかって、出てこねぇ。

 ただ、立ち尽くすことしかできなかった。

 

 ……けれど、それでも──理解はしていた。

 

 ここは、もう“あの街”じゃない。

 

 神もいない。仲間もいない。

 あの、くだらなくて愛しい日常さえ……跡形もなく失われていた。

 

 この空間が、俺のいた世界とは根本から異なること。

 そして──俺は今、この瞬間、問答無用で巻き込まれたことを。

 

 抗う猶予もなく。選ぶ権利もなく。

 終焉へと突き進む、この絶望の戦いに。

 

 帰り道のない、地獄の最前線に。

 

 そして──

 

 この逃げ場のない“死地”の、その先に待つ──“何か”へと。

 

 

 


 

 

 

【モルド:戦士タイプ】

 体力 100

 攻撃力 100

 移動速度 0.001

 攻撃速度 0.001

 スタミナ 10

 成長速度 115% (さくらんぼ×15)

 

 

【ユー:戦士タイプ】

『守護者の剣 Lv.48 』(攻撃力+480%)

『グラム Lv.4 』(攻撃力+200%)

『守護者の鎧 Lv.63 』(最大HP+630%)

『キュイラス Lv.11 』(最大HP+1100%)

『ファントムブレード Lv.3 』(攻撃速度+9%)

『セブンリーグブーツ Lv.3 』(移動速度+9%)

『ククルカンの宝玉 Lv.1 』(メテオ威力+10%)

『肉×18』

『魚×18』

『野草×25』

『澄んだ水×13』

『野キノコ×10』

『イチゴ×9』

『ブドウ×11』

『空のボトル×18』

『キャベツ×12』

『トマト×12』

 

『ローグウィズデッド』略して『ログウィズ』。貴方は知っていますか?

  • 知ってるよ!
  • 知らないよ……
  • 絶賛周回中だよアホンダラ
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