原発などの原子力施設で事故が起きた場合に対応する医療機関には、去年8月現在、全国25の道府県であわせて293か所の医療機関が指定されていて、国はこのうち、被ばくした患者の治療などにあたる可能性がある216か所の医療機関に対し、原子力災害に対応するためのBCP=業務継続計画の整備に努めるよう求めています。
NHKは、先月から今月にかけて293か所すべてを対象にアンケートを行い、122か所から回答を得ました。
この中で、原子力災害に対応するためのBCPを整備する対象となっている医療機関は95か所あり、このうちBCPを整備したと答えたのは16か所で、およそ17%にとどまりました。
整備していないと答えた79か所の医療機関にその理由を複数回答で尋ねたところ、もっとも多かったのは
▽「人員や時間などの余裕がない」で39か所、
▽「一般的なBCPで対応できると考えている」が20か所、
▽「専門的な知識がない」が18か所、
▽「予算がない」が5か所、
▽「近隣の原発が稼働していない」が3か所でした。
一方、BCPを整備した医療機関に盛り込んだ内容を複数回答で聞いたところ、
▽被ばくした患者を受け入れる手順は14か所、
▽原発で事故があった場合にスタッフを確保する手順は10か所、
▽原発で事故があった場合に物資を確保する手順は6か所などと、医療機関ごとに内容にばらつきがある状況もうかがえました。
原子力災害時対応の医療機関BCP “整備している 約17%”
去年元日の能登半島地震では、原子力発電所周辺の医療機関も大きな被害を受け、診療の継続が困難になるケースもありました。
国は原子力災害が起きた際に被ばくした患者の治療などに対応する医療機関に対し、BCP=業務継続計画の整備に努めるよう求めていますが、NHKが対象となる全国の医療機関にアンケートしたところ、BCPを整備しているのはおよそ17%にとどまることがわかりました。
“BCP整備した 約17%” 進まぬ理由は
能登半島地震で大きな被害 経験踏まえBCP整備進める病院
石川県志賀町の北陸電力志賀原子力発電所から北におよそ8キロにある町立富来病院は、事故の際の対応に協力する医療機関に指定されていますが、去年の能登半島地震では大きな被害を受けました。
断水が1か月以上続き、入院患者を全員転院させたほか、一般外来の受け入れも一時、止めることになりました。
また、建物は、原発事故に備えて、放射性物質が入らないよう密閉できる構造になっていましたが、地震でゆがみ、扉が完全には閉じなくなってしまいました。
さらに、原発の近くを通らないと出勤できない職員がいるため、もし原発で事故が起きていたら、勤務できる職員がさらに少なくなり、人手不足が深刻になっていた可能性があるといいます。
富来病院の深山明彦総技師長は「建物がゆがんで密閉できなくなることは想定外でした。もしも原子力災害が起きていたら、避難計画のとおりに対応するのは厳しかったと思います」と話していました。
こうした経験を踏まえて、病院ではいま、医師や看護師などさまざまな職種の職員が集まる会議で、BCPの整備作業を進めています。
原発事故が起きた場合の出勤については、職員の住んでいる場所や年齢なども考慮したうえであらかじめ態勢を組んでおくことにしました。
会議のメンバーになっている看護師は、「自分は原発の向こう側に住んでいるので事故が起きれば病院から帰れなくなるか来られなくなるかどちらにしてももんもんすると思います。ただ、こうして計画を策定すれば自分の役割がわかり、今後に向けて助かると思います」と話していました。
BCPの整備を担当する深山総技師長は、「現実に合った当院なりのBCPが必要で、作るには労力がいります。原発事故を想定して考えるのは正直難しいですが、考えておかなければいけないことだと思っています」と話していました。
「人員 時間などの余裕なく」
アンケートでは原子力災害に対応できるBCPの整備ができていない理由として「人員や時間などの余裕がない」を挙げた医療機関が最も多くなりました。
新潟県南魚沼市にある魚沼基幹病院は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所からおよそ40キロの場所にあり、事故が起きた場合は患者の受け入れなどに協力する可能性があります。
この病院では、地震などの自然災害に対応するためのBCPは整備していますが、原子力災害に対応するBCPは整備できていません。
日頃から人手不足が課題となっていて、BCPを策定する時間的余裕もないことに加え、実際に被ばくした患者を受け入れるためのスタッフを確保できるかもわからないといいます。
また、県から配備される放射線の測定器や防護服などの資機材が不足していることも、BCPを作れない要因だといいます。
災害対応を担う救命救急センターの山口征吾センター長は、「防護服が40着では、何人か患者さんが来たらあっという間に消費してしまうと思います。また、地震が同時に起きた場合は、一般の患者さんと動線を分けなければならず、それを盛り込むとなると頭が痛いです。見本になるようなものがあるとよいですが、病院への支援が少ないと感じます」と話していました。
努力義務も整備率は把握せず
14年前の東京電力福島第一原発の事故では、医療機関自体が避難することになりましたが、十分な受け入れ体制がなく、避難中に亡くなる患者も相次ぎました。
多くの避難者を受け入れ、被ばくした人の治療などを行うため、事故のあと全国で新たに指定されたのが原子力災害拠点病院と原子力災害医療協力機関です。
3年前からは、これらの医療機関の指定要件に、「原子力災害に対応できるBCP」の整備が、努力義務として盛り込まれました。
ただ、所管する原子力規制庁によりますと、整備率は把握していないということです。
また、原子力防災を担当する内閣府も把握していませんでした。
今後のBCPの整備に向けて内閣府は、必要に応じて道府県と連携して支援していくとしています。
識者「少しでも整備進めていくことが大切」
原子力災害医療に詳しい福島県立医科大学の坪倉正治教授は、BCPの整備が進んでいない状況について、「福島第一原発の事故の経験があるにもかかわらず、対策は満足いくようなレベルには到達していない。医療現場では、ほかにやることがあったりどうやったらいいかわからないといったりした実情があり、幅が広く規模のイメージもしづらい原子力災害への備えは、優先順位が高まりづらい状況だと思う」と話しています。
その上で「BCPを作る過程で組織内で連携をとって準備していくことになるので、少しでも整備を進めていくことが大切だ。国が先行事例を示したり、見本となる計画を作ったりするような取り組みに手を付けることも大事だ」と指摘しました。
あわせて読みたい
-
-
-
南海トラフ地震臨時情報を受けて企業のBCPは?
-
-
-
-
BCPとは…あなたの企業は?どうやって作る?
地震や水害で企業が被災すると、企業そのものが存続の危機にさらされるだけでなく、地域にも大きな影響がでます。BCP(事業継続計画)がなぜ必要なのか、どう考えて策定すればいいのか。方法についても詳しく解説します。
-
-
-
-
ミャンマー大地震 軍 “犠牲者1000人以上” 救助活動続く
-
-
-
-
ミャンマー 大地震【各国対応】国連や米 ロ 中国が支援表明
-
-
-
-
岡山 山林火災の原因 伐採した木を焼却の際火が燃え移ったか
-
-
-
-
愛媛 今治 山林火災「熱源」は複数 週明けにも「鎮圧」か判断
-
-
-
-
トランプ大統領とカナダ カーニー首相が初の電話会談
-
-
-
-
パナマ運河の港運営権売却 来週予定の合意文書締結見送りか
-
-
-
-
“りんごの皮むき器”が空の安全に貢献 整備士のひらめき
-
-
-
-
皇居 桜見頃の「乾通り」春の一般公開始まる
-
-
-
-
生きたシカを襲ったクマ そのわけは?
-
-
-
-
政令市で最も女性が少ない議会 どう変わるのか
-