NHKの稲葉延雄会長は26日、長崎市の端島炭坑(通称・軍艦島)を扱ったNHK番組「緑なき島」を巡り、元島民に謝罪した。坑内とされる映像は韓国メディアに悪用され、戦時徴用に関する虚偽情報が拡散した契機とされ、元島民は令和2年11月以降、訂正と謝罪を求めていた。日銀出身の稲葉氏は5年1月の就任以降、機会をうかがっていたといい、今年2月に謝罪する考えを表明した。ただ、NHKの事務方は録画・録音や現場取材の禁止を突き付けるなど公開に後ろ向きな姿勢を示し続けた。
礼節持って出迎えた稲葉会長
「長きに渡って、つらい思いをさせてしまった。これから皆さんのお話を伺った後、私の方から思っていることをお話しできればと思っている」
26日午後5時、東京都内のホテルの会議室。稲葉氏は入室する元島民1人1人に頭を下げて出迎えると、こう述べた。
面談の場は稲葉氏の意向で設定されたものだった。
「緑なき島」の問題を巡ってNHKは昨年12月、元島民有志と東京簡裁で民事調停を成立させ、坑内映像は軍艦島ではないと訴える元島民と、認めようとしないNHKの法的な争いは区切りを迎えた。
NHKは、坑道で裸電球が使用される場面など一部映像について「端島炭坑内で撮影されたものであるという確認が得られていない」と認めた。ただ、全体としては「端島炭坑以外のものであるとの結論に至らなかった」という従来の見解を維持する〝玉虫色〟の決着を見た。
調停で元島民は名誉を傷つけられたとして謝罪を求めたが、NHKは応じなかった。
しかし、稲葉氏は2月12日の記者会見で「緑なき島」の坑内映像を巡って「個人として元島民の方々の名誉が傷つけられたことが続いた。大変申し訳なかった」と発言、NHK会長として初めて元島民に面会し謝罪する考えを表明した。
「上から目線だ」
にもかかわらず、NHKの事務方が打診した面談の条件は元島民の感情を逆なでするものだった。
2月21日、NHKは面談について①会場はNHK放送センター(渋谷区)②参加者は調停を申し立てた元島民と代理人弁護士③録画・録音は禁止─を打診した。
元島民の1人は戸惑いを隠さない。
「謝罪する側が謝罪される側に『来い』とは、世間の常識からして考えられない。NHKの上から目線にあきれる」
NHKの打診を前に、元島民は①元島民で参加したい人の参加を拒まない②マスコミに参加の声掛けをする③録画・録音を行う④面談で元島民の発言を拒まないでほしい─などの条件をまとめていた。
オープンな場での謝罪に元島民がこだわるのは、NHK会長が「緑なき島」の坑内映像について謝罪する姿が広く発信されれば、韓国などで端島について流布される「朝鮮半島出身者を虐待した地獄島」といったレッテル貼りを解消させる一助になると考えたためだ。
保守系議員が側方支援
ただ、元島民の力だけで、NHKに翻意させられる保証はない。
元島民側は、自民党の保守系グループ「日本の国益と尊厳を護る会」代表の自民党の青山繁晴参院議員らに相談する。護る会は長年、元島民を支え、国会審議でも「緑なき島」の問題でNHKを追及してきた。護る会は21日、元島民の希望に沿ってメディアの参加や録画・録音を可能とすることを求める要請書をNHKに提出した。
また、これに先立って自民党の「日本の名誉と信頼を確立するための特命委員会」(委員長・有村治子元女性活躍担当相)も12日、謝罪は公の場で行うよう求めて決議した。
一連の働きが功を奏したのか。会場は当初予定されたNHK放送センターから千代田区内のホテルの会議室に変更された。一方、直前まで面談の条件について、オープンな形を求める元島民側とNHKの事務方の細かな交渉は続けられたという。
NHKが各マスコミに「『緑なき島』をめぐる元島民との面談」を告知したのは26日午後2時前。面談開始の3時間前だった。(奥原慎平、下に続く)