ヴァラン
「ヘクター・・・大丈夫?」
「ああ。おまえこそ」
「うん。平気、私はーーー」
ヘクターと背中合わせに立つシュヴァインは小声で尋ねて、しっかりした返事にほっと安心していた。
取り囲まれていた。
途中で気づいて巻こうと走ったけれど、上手くいゆかず、街を迷走しているうちに敵は強行手段に踏み込んできた。
足早に通り過ぎようとした路地から手が伸びて、シュヴァインの腕を取られて引きずり込まれそうになり、慌てたヘクターがもぎ離そうとしたが、後ろに立った大男がどんと両手で押した。身体の小さな少年達はもろともに踏鞴を踏んで脇道へ倒れ込んだ。
人通りはまばらな通りだった。助けを求めることはあまり期待できない。
ほぼ同時に立ち上がったシュヴァインとヘクターは腕を引っ張った男に飛びつくような勢いで突進していた。
身構えた男の両脇をすり抜けて、背後で腹立たしげな舌打ちを聞いた。
ざまあみろと、ヘクターは心で笑ったのだがそれまでだった。
奥に数人、中心に立つ男はリーダーだろう。一見で他の男たちとは迫力が違った。
進めなくなった二人の前で、髭を蓄える細身が周りに目配せした。
わらわらと動いて網のように広がった6人の男達に包囲されてしまった。
網は体当たりでなんとか突破できようと、一方には大熊のような大男、もう一方は毒蛇のような危険な雰囲気の男が道を閉ざしている。
ヘクターは腰の下げていた中剣を抜いていた。
構えると男達が一歩離れて、シュヴァインは心配そうな顔になったのに気が付いた。
心配なのは、この状況の元凶の男たちよりもヘクターだということはもうちゃんとわかっている。
「そんな顔しなくても馬鹿はしないよ」
「無茶も駄目だ!」
男達から目を外さず言うと、すかさずそんな言葉が返ってきて、ヘクターは思わず苦笑を浮かべていた。
緊張感がない奴・・・。
ヘクター自身、直面している事態に正直、動揺しているのに。
上手くできるか。上手く、シュヴァインを守って逃げ出せるか。最悪、足手まといにならないですませられるか。
早鐘は打ち鳴らされ、体中に響く。それがヘクターの鼓動だった。
「全員で8人。みんな武器を持ってる。二人で剣で相手するのは無理だね・・・」
小さな声だ。でも怯えて震えている様子はない。
「だから、私がやる・・・」
耳を傾けていたヘクターに、低い風のような音が続いて聞こえた。
言葉ではなかった。知らない不思議な音で、歌のように高低があって流れている。
魔術の呪文!!
「おまえたち、俺達になんか用があるのかよ、忙しいんだよ。さっさと行ってしまえっ」
男達は無言だった。
ヘクターを無視して、シュヴァインを捕らえようと寄ってくる。
慌てて剣を振って払うヘクターは片腕にシュヴァインを抱いて動いて、建物に挟まれた狭い路地の壁に背を着けていた。
シュヴァインは半眼に呪文を唱え続けている。
そちらに集中していてあまり動けないのだ。手は身体の前に下げられたままだったが、組まれた指は忙しく印を組み結んでいた。魔術は呪文である音と身体で刻む印を必要とするのだから。
ヘクターが今、するべきことはシュヴァインを守って、男達にシュヴァインの邪魔をさせないようにすることだった。
しかし、リーダーの髭男はすぐに気がついてしまったようだ。
男のたちの後ろで抜かれた長い剣の切っ先はシュヴァインを目がけて矢のように迫ってきた。ヘクターはシュヴァインを守るために飛び出して、渾身で中剣を打ち下ろしていた。
少年皇帝が持ち歩く玩具を持った“玩具”程度にしかヘクターを見ていなかった男は予想外の妨害に一瞬驚いた顔をしたが、余裕は崩れなかった。
ただ玩具が子供に代わった、それ以上のことではないからだ。
男にとって、もう二度目のしくじりはない。
虫の域にはとどめなくてはならないシュヴァインと違い、連れ戻る必要のないヘクターを先に処分してしまおうと剣は横なぎにヘクターの胴を狙っていた。
「うわぁっ」とヘクターの悲鳴をあげた。
見えていたから飛び退こうとしていたときに、後ろから抱きすくめられたのだ、シュヴァインにーーー。
背に庇っていたシュヴァイン、身体に回された腕が白い光に包まれているのを見た。
「ヘクター、ありがとう。もういいよ」
光は膨れてヘクターも一緒になって光に包まれていた。
驚いたが、目の前に視線を戻すと血相を変えた男が頭上で大きく剣を振りかざしていてーーー。
今度は息を呑むだけで精一杯だった。
男の剣は振り下ろされなかった。
質量などないような光が石のように剣を跳ね返していた。
次の瞬間、二人を優しく包んでいた光が揺れて眩しくなって・・・。
夜空を彩る花火のように、散った。
ぎゃあああああああ。
うぎゃああ。
耳を劈く悲鳴・絶叫があたりを揺るがした。
でもすぐに消えた。
そして一瞬で戻った静寂の中で、今度は匂いだった。
匂い。
血の匂いと、焦げる匂いだ。
焦げる肉、肉。
人のーーー。
ヘクターは恐る恐る、視線を下げていた。
地面にだ。
厚みもある赤黒い物体と染みが石畳に広がっていた。
さっきまで無かったそれは、消えた男たちだと認めたヘクターは込み上げる嘔吐感に身体を振るわせていた。
胃のものが逆流し喉を上る。
でも先に地面に吐瀉物を撒いたのはシュヴァインだった。
「・・・おい・・・大丈夫、か?」
力無く蹲ってしまったシュヴァインをヘクターは覗き込んだ。
シュヴァインは真っ青だった。
こんな場所にいたって気分は良くならない。
抱きかかえるように支えて、ヘクターは人であった残骸を跨いで、ゆっくりとその場を後にした。
不思議だった。
シュヴァインを支えたことでヘクターは落ち着いて平気になっていた。
多数の人間を触れることなく葬るような途方もない存在でありながら、脆く膝を着いた姿に、自分が守らなくてはという、強い庇護欲あるいは使命感がヘクターの中に湧き起こっていたのだ。
そうでなければ拒絶感だったろう、というほどの衝撃を心は受けながらもシュヴァインが吐いたことで、ヘクターはある一線をあっさりと踏み越えてしまったのだ。
「大丈夫か・・・?どうして欲しい、薬とかいるか?」
「いらない。もう、大丈夫。落ち着いたから・・・」
顔色を心配そうに窺ってくるヘクターにシュヴァインは薄く笑顔を作っていた。
「無理するなよ。まだ真っ青だぞ?」
「おまえが傍にへばり付いて騒がしくして、無理させているんだろうが」
横から口を出したヴァランに、ヘクターはむっとむくれたが、一理あると認めて黙って引き下がって、床に腰を下ろした。
正面のソファーには毛布にくるまるシュヴァインが座っている。
もう一つのソファーには、シュヴァインとヘクターがザムジーニの店に帰り着いて僅かな後に、ひょこりと現れたヴァランがいた。
シュヴァインはもちろんのこと、ヘクターも度々重なる偶然を必然なのだろうと疑うようになっていたが、口には出さなかった。
厨房の奥にあるザムジーニの居間だった。
ザムジーニは夜に向けて料理の仕込み作業に厨房に立って、部屋には三人である。
「・・・そんな、気にすることないと思うよ・・・だってさ。向こうじゃなかったらこっちが、肉塊になってたかもしれないんだもんな・・・。それは嫌だし・・・」
床の上でヘクターは足首を持ち、身体を前に倒して柔軟を繰り返しながら、言葉を紡いでいた。
慎重に、何気なさ装いながら、しかし上目遣いだけは外さなかった。
不用意な言葉を言ってしまわないかと顔色を窺っているのだ。
気づいているシュヴァインは気を遣わせているなぁと苦笑を深めた。
「大丈夫だよ、私は、本当に。もともと心が冷たいから彼らを葬ったことは、そんなに気にしていない。・・・これは精神的なものじゃなくて生理的なものだよ・・・大きめの術だったから、施行して体力と魔力をごっそりと持っていかれて気分が悪くなってしまった。でも休んだから、だいぶ楽になってきた」
「本当に?だったらいいけどさ・・・」
普段から剣と魔術の鍛錬をしていると聞いていた。毎日鍛錬を繰り返していても、シュヴァインが言ったように気分が悪くなったのだろうかと疑うヘクターは素直に納得はできなかった。シュヴァインの意地っ張りな性格はもう充分知っているから。そして、きついことを言うわりに優しいことも。だから、心を痛めてはいないと言われても無理な話だった。
「うん、本当だから。だからそんな顔しないでよ。ヘクターのそんな顔を見ていると悲しくなってくるよ?」
銀髪をさらりと揺らして小首を傾げるようにシュヴァインは言い
「温かいもの、なんか貰ってくるよ」
言葉に詰まったヘクターは立ち上がった。
ヘクターは厨房のザムジーニに頼みに出ていって、部屋にはシュヴァインとヴァランだけになった。
嫌な静寂の破って、くくくっとヴァランが低く喉を鳴らした。
ヘクターに向けていた穏やかな表情が掻き消えたシュヴァインの眉がぴくっと跳ね上がって、振り返ると赤髪の戦士を睨みつけた。
「で、シュヴァインくん。本当の本当のところは?」
にやりと口の端を吊り上げた不穏なヴァランに、驚いたシュヴァインは釘を刺す。
「本当は、本当です!・・・ヘクターに変なことを言ったら許しませんよっ」
「生意気な子供ははたきますよ、シュヴァインくん」
尊大に腕を組むヴァランは不機嫌な顔を隠さない子供に、ふふんと愉しそうに笑っていた。
「いい顔をするねぇ。そういう可愛い顔をしていたら、あの小僧とどっこいどっこいだぞ?」
大人で帝国に所属する傭兵の軽口を、銀髪の子供で皇帝なシュヴァインは今度はつんとそっぽを向いて聞き流した。
どういわれようと、本当は本当だった。
ただしその他にも本当があるだけでーーー。
大きな術を使ったあとは軽い貧血のような状態になる。使った術は最高レベルのものではなかったけれど、少しふらりときた。
でもそれだけではなく、ヘクターと同様にシュヴァインも、記憶ではなく実際ははじめてだったのだ。知識ではなく、目の前で現実に自分が引き起こした阿鼻叫喚の地獄図は予想以上の衝撃を受けていた。敵がモンスターではなく人間だったこともあるだろう。
そして、もう一つ。
絶対に誰にも言えない暗い恐怖があった。
己とはいかなるイキモノだろうかーーーというものだ。
これからさき、どうなってゆくのだろうか。
それは今まで抱いてきた、未来ではなく、未来の自分に対する不安だった。
触れることなく、幾人をも一瞬で惨殺する自分、能力。
能力は純然たるもので、善でも悪でもないかもしれない。使い方次第でどちらにも成りうる純粋なものだ。
だったら、その能力を行使する意志たる自分は?
シュヴァインには、『善』と言い切る自信など無いと感じたのだ。
不安と恐怖と、妬みと僻みに凝り固まっている自分は、むしろ逆に近いはずーーー。
意味深に言う男はそんなことを気づいているのだろうか。
この男なら気づいているかもしれないと思った。
仕方のない本当だとしても、ヘクターには知られたくない、隠しておきたい想いだった。
「ヘクターには決して言わないでください、なにも、絶対」
「ああ。心配しなくてもおまえに不易になることは言わないさ。安心しろ」
ぎりっと奥歯を噛みしめるシュヴァインを、一変ヴァランは包み込むような穏やかな声になっていた。
誰よりも底意地の悪い態度でありながら来るなと言っても傍にきて腹立たしく、でも時々酷く優しい目をする。
どういう顔をして接したらいいのかわからなくなってくるヴァランはシュヴァインにとって、とても苦手な男だった。
居たたまれない沈黙の広がった部屋にヘクターが戻ってきてくれた。
温かいミルクの入ったカップを手渡されてシュヴァインは口を付けた。
「俺もミルクかよ」
ヴァランも渡されて苦笑いをする。
「ザムジーニがヴァランもミルクで充分だって言っていたぞ」
真面目に答えたヘクターにぷっとシュヴァインはミルクを吹いていた。
「ったく、おやっさんもそりゃあ、どういう意味だ・・・」
カップを持ってヴァランはヘクターと入れ替わりにザムジーニの元に出ていった。
「ザムジーニさんって、凄い人だね。ふつう、ミルクを大人の男の人に出すなんて考えないよ」
ヴァランが出ていったことで気が楽になったシュヴァインが笑って言い、密かに尊敬する相手を褒められて、シュヴァインが笑っていることも嬉しいヘクターは、笑顔で頷いた。
「うん。言葉数は少ないんだけどさ、時々の言葉がかなり効くよ、ザムジーニ。男だなあって思う。ああいう男になりたいな?」
少年らしい憧憬を抱くヘクターの気持ちはシュヴァインもよくわかった。
でも、シュヴァインはザムジーニという男をそれほど深く知らない。彼よりもヴァランの方がまだ親しいのだ。
「じゃあヴァランは?・・・タイプは違うけど、ヘクター、ヴァランとも親しくしているよね?」
「ヴァラン・・・」
しかし、ヘクターは少し考える顔になっていた。
「ヴァランは、俺とじゃなくて、おまえとじゃない?そんな感じがするけど。俺よりか、シュヴァインのこと一番に考えて動いていますってカンジ、それで俺はそのおまけというか・・・」
「それは、彼は帝国所属でジェラルドの友人だから」
「う・・・ん、そういうことなのかなぁ。でもとにかく俺は、なんか苦手だよ」
ヴァランの自分に対する態度は、シュヴァインと一緒でいろいろ試されている気がする。シュヴァインが心を試してくるなら、ヴァランは存在を試してくる。傍にいる資格があるのか、ヘクターの考えすぎかも知れないが、欠点付けられると引き離されそうでとても緊張するのだ。
シュヴァインのお目付役だった。シュヴァインはジェラルドという人の方をいつも気にしているが、ヘクターにとってヴァランだった。
ヴァランが現れると余計にへまをしないようにとぴりぴりしてくる。
ザムジーニとは違う重圧感を思い浮かべているヘクターの耳にシュヴァインのため息混じりの言葉が届いた。
「そうなんだ。一緒だね。私も苦手・・・」
「へぇ、そうなの!?」
テーブルにカップを戻して空いている手を取って、がしがしっと振った。
同じということがヘクターには素朴に嬉しいにだ。
「だよねっ、乱暴だし!!」
「乱暴?」
怪訝に眉を潜められて、慌てて言葉を足す。さすがに殴られて瘤をつくったことがあるとは言えない。
「ああ・・・ほらさ、見ていて乱暴者って感じじゃない?」
「それはーーー」
堅苦しくないと高評価しているので控えめのコメントになっていた。
「フリーファイターって、大抵いつもあんな感じで、伝統的な態度だから・・・」
その先はーーー。
さらに声を潜めて、ヴァランが部屋に戻ってくるまでひとしきり男の批判に盛り上がった。
褒めてもいたが、ぎりぎりの内容で、本人を前には危険で言えないそれを陰口というのだろう。
「嫌です。恥ずかしいから絶対嫌ですっ!」
腕を取られて仰け反って嫌がるシュヴァインに、ヴァランは別に怪しい真似をしようとしているわけではない。
顔色も完全に戻りきっていないシュヴァインに無理をしなくてもと、帰路を抱いていってやると言ったのだ。
「じゃあ、おんぶがいいか?どっちでもいいが」
「自分で歩きます!!」
顔を真っ赤にして真剣に嫌がっている様子に、ヘクターには不思議そうに言う。
「なんで?そんな恥ずかしいか?父ちゃんによく抱っこしてもらったよ、俺」
数年前までで、最近はやっぱり恥ずかしいとあまりなかったが、無理は良くないと思うヘクターは至って真顔に説得側に回っていた。
「お父さん?」
「ああ。ふつうに親子に見えるんじゃない?そんなふうに嫌がっていると人相の悪いいかにも人攫いだけど・・・」
「小僧、後でシメるぞ」
ヘクターに凄んでから
「おいこら。てめえは俺と親子に見えるのが不服だと言うのか?」
「親子・・・に見える?」
ドスを利かせたヴァランにシュヴァインは目を丸くしていた。
「俺が19の時の子供という計算だな。無理じゃ在るまいに」
話は急に生々しくなって動揺するシュヴァインはヘクターに救いを求めるように一瞬目を向けた後、正面の男を見上げていた。
「別に嫌じゃない・・・けれど・・・」
俯きながら、とても小さな声だった。
「そうか、じゃあーーー」
シュヴァインの身体がすくい上げられていた。
「あっ、ヴァランっ!」
「ああ・・・やっぱ。男の子だからこの方がいいか」
一度胸に抱いたが、もっと身体は高く持ち上げられて、肩車になった。
「ふふん。これで完璧に親子だな」
機嫌良く笑う男に上でシュヴァインの顔は強張っていた。肩車などはじめての経験である。ぐらぐらと落ちそうで、もう嫌だと騒いでいる余裕はなくヴァランの頭にしがみついていた。
「本当に見える?」
親子に見えるかと不安そうにヘクターに訊く。
「・・・うん。とても親子だ・・・」
じゃあなとヴァランは背を向けた。
長身の男の行動と肩に乗った高さに圧倒されていたヘクターは慌てて、追いかけて注意した。
「シュヴァイン頭下げて。戸口で頭打つよっ!」
夜になって再びヴァランはザムジーニの店に顔を出して、店を閉めた後奥でザムジーニと呑んでいた。
後片づけの洗い物をすませたヘクターが報告に顔を出すと、手招きして呼ばれていた。
酒も回ってヴァランは普段にも増して饒舌だった。
「小僧、おまえ、親父に肩車して貰ったことあるのか?」
「あるよ」
「そんとき、おまえ言ったか、上着を汚してしまうから靴を脱ぐますってよ」
言わんだろうなあ、と勝手に自分で決めて
「あいつはそこらのガキとは出来が違うもんな?」
大きな手が楽しそうにばんばんとヘクターの頭を叩いていた。
「やめろって。酔っぱらいオヤジっ!!」
悪意はなかろうと力の強の男に絡まれてヘクターは痛い。おまえもここに座れよ、と腕力に物を言わす男の腕を押し戻し、なんとか僅かな隙を見つけて逃げ出して、二階に駆け上がっていった。
階段の途中で一度、ヘクターはふと足を止めて階下を振り返っていた。
ヴァランはグラスを傾けながら、ザムジーニと話していた。
嬉しそうに、そこではとぎれとぎれにしか聞こえなかったが、まだシュヴァインのことだった。
逃げ出すまで、ヘクターもさんざん道中に交わした会話などを繰り返し聞かされていた。
まるで、ヴァランのそうした態度は酒場でヘクターのことを同席した相手に自慢げに話していた父親を思い出すもので、望郷の想いにヘクターは切なくなってしまったぐらいだった。
そしてそれほど、父親のようにシュヴァインを大事に思っているヴァランはやはりとても手強いお目付役だなあと思ったものだ。
嬉しくてしかたがないといった横顔ーーー。
「・・・あんな表情見せられるとさ、なんでもしてやりたくなるよなあ」
ザムジーニは穏やかに相づちを打つ。
「・・・やっぱりさ、いいもんだな・・・」
沈黙の末、そっとそんな言葉が呟かれたのをヘクターは背中で聞いた。
それがヘクターが知る、生きているヴァランの最後の姿だった。
20130716改