方法
「おまえは、まじめに戦っているのか!?」
アキレスだった。
部下を叱りつける非常に厳しい声だった。
見据えられたヘクターは驚いて、臨戦状態を解くときょとんとした顔をした。
「まじめにやってるつもりだけど?」
「他人の剣で?」
ヘクターの声は少々怯んでいる。そんな迫力だった。
「俺の、だよ。ヴァランに貰ったーーー」
「いつまでも他人の剣と防具を使って、それでまじめにやっていることになるのか?」
じっとアキレスの目を見た後、ヘクターは口をつぐんだ。そしてもうアキレスを見返さず、あらぬ方向に視線を泳がせた。
そのかわりに、シュヴァインが剣呑な気配を隠そうともせずアキレスの横顔を睨みつけた。
「携わると決めたなら全力を尽くすべきだろう。義務があるというわりはお粗末だ。やりたくないなら、全力で逃げるのも一つの選択肢だろうが、恐れるだけで全力で取り組まないでいるのは、背信であり、一番質が悪いことだと私は考えているーーー」
腕を組んで部屋の隅の壁にもたれて、しばらく場の静観を決め込んでいたアキレスが突然、口にしたのはそれだけだった。
さっきとは比べものにならない激しい沈黙がはじまったしまった。
途中で、重さに耐えきれなくなったヘクターが小さく、「怖えぇ」と漏らしてみたが解決にはならなかった。
ヘクターは背中を丸めて居心地悪く座っている。アキレスは壁に戻り、動かない。
シュヴァインはヘクターと同じテーブルの対角線に座っていたが、ヘクターは様子が気になったがとても見られるものではなかった。
アキレスは厳しいな、と思った。厳しく己を律し生きている男なのだ。じゃなければそんなことは言えない。
言っていることは正しいことだけど、自分には口にできないとも思った。
そして言われてしまったシュヴァインは、かわいそうだった。
とてもかわいそうで、ヘクターは悲しくなった。
だから。
考えたのだ。
痛い空気の中で、じっくり考えた。
なんだかよさそうなのが思い浮かんだ。
「俺さあ、思うんだよね」
なるだけ普通の声になるように意識しながらヘクターは言った。
「おまえは、俺が横で死ぬことばかり想像するようだけど、もちろん死ぬ気はないけど、死んでもいいと俺、思っているよ」
すかさず気色ばんだ形相で振り返られたが、まあまあ、少しだけ聞けよ、と制した。
「だからさあ、俺は横にいたいわけ。いっしょにいたいわけよ。だから一緒にいられるために、十年を使ったの。全部、ひたすらそのためだった。だから、最悪の場合、死んでもいいわけ、一緒にいられた結果ならば。でもさ、おまえがそんなにも気にするならさ・・・」
ことさらゆっくりと、噛んで含める口調にしゃべるヘクターに、アキレスはまどろっこしくて腹が立ってきたが、次の言葉には怒りは吹っ飛び、顎が外れるかと思うぐらい唖然とした。
前置きを終えたヘクターは、口調を改めきっぱり言った。
「俺が死んだら、おまえも死んでくれ」
言って、照れくさそうに笑う。
「ああ、もちろん、すぐにとは言わない。それにもしも死んだらの話だぞ。やることちゃんとやってからでいい、やることすべて、全部やってしまって暇になったとき、俺のところに来てくれ」
思いついた提案を言いおえたヘクターは、まるでなんだか恋の告白でもしたかのように、ひとしきり一人照れまくっていたが、シュヴァインが何も返事をしてくれないことが気になってきた。
シュヴァインを振り返り、
「駄目か?一番いい考えだと思ったが。それまでもそれからも、これなら俺は満足だし、おまえだって、俺は役に立つ、いいことずくめじゃないか!?」
「・・・それでいいのだろうか・・・そんなので・・・」
たっぷりと考えた末、不安そうに不安そうにシュヴァインは口にして、ヘクターはぱあっと破顔した。
「ああ、全然いい、いい!」
「・・・おまえ以外も、みんな、それで許してくれるだろうか・・・?」
「ーーー俺以外・・・?」
むっと顔を顰めたヘクターを余所に、シュヴァインは嬉しそうな顔になっていた。
解決策だった。それだったら出来る。命には命の償い。それならば最善であり、自分でも納得できそうだった。
任命し戦わせることで奪ってしまうことになる命に、己が償う方法があるとしたら。
金や貴金属、地位、名誉。そんなものはおかしいと思っていた。
そんなことで本当にいいのか、とは思うのだがヘクターが言うのであれば許されるのかもしれない。
命に対して、償いになり得るとしたら命ーーーきっと、そのとおりだ。
ずっと悩んで、先送りにしていたことに解決の手がかりが見つかった気がした。暗い闇に一筋の光が差し込んだ気持ちだった。
「ありがとう、ヘクター!」
「・・・いや、いいけど・・・」
白い大輪の花が綻ぶ。シュヴァインは満面の笑顔だった。
この皇帝を讃える美辞麗句な表現を、この顔、表情ならすべて受け入れられるだろうとアキレスに思わせるほどの。
提案者たるヘクターは、シュヴァインのみんな発言に、少々浮かない顔になっているが、嬉しそうな笑顔を向けられて喜んでいる。
そっと腕が伸びて、抱きしめられるにいたってヘクターは、一縷の不満も忘れて抱きしめ返した。
20130716改
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