皇帝とフリーファイター
「・・・目に障るな、どうにかならんものか・・・」
「それって、アキレス隊長、目障りってことですよね?」
ジェイソンがとても楽しそうな目をして聞くから、アキレスは溜息をついた。
「そんなわけないだろ」
「でも、そう言うことじゃないですか?」
「違う」
とりあえず断言してみたが、そんな言い逃れが通じていないことはわかっている。
「もしもその通りだと認めるから、おまえ、俺のために上手く退かせてこい、奢ってやるぞ、いや、命令だ」
「えっ」
「こんな場所にいらっしゃるのは陛下の品位に関わるから、とでも適当に言って帰ってもらってこい」
「え、俺がっ、ですか!?無理ですよ、嫌ですよ、だって、話しかけるの怖いですもんっ」
目を丸くしたジェイソンが、無理無理と真剣に命令拒否をして、アキレスはもう一度溜息を吐く。
「じゃあ、おまえら、誰かーーー」
行けと言いつける前に、蜘蛛の子を散らすように辺りにいたはずの隊員が居なくなっていた。
要するに、誰も行きたくはないのだ。
びびっている。
地位や身分という物に唾棄し、男は見てくれじゃない、実力だろ!と豪語する厳つい猛者共が、背を丸めてこそこそ逃げていったのには、まあ、十分な理由はあるにはあったがーーー。
どう扱ったらいいのかわからないのだ。
どんな態度を取ったらいいのか、わからない。
地位と身分的には最高ランクだ。少し前まで、遠すぎて視界にも入らないような相手なので、取るべき待度などこれまで考えたこともなかった。
見てくれは、これも最高レベルだろう。陛下よりも美しいとなればこれ以上もない肩書きになるはずなのに、密かに囁かれている噂もない。
実力はーーー。
フルフェイス男の剣技がまだ記憶に新しすぎて、言葉が喉に詰まったように出てこない。
そんな要素を全部合わせ持っている相手に、敬語だって満足に話せる自信もないなら、喋らないのが一番だと尻尾を丸めて逃げ歩いている隊員の様子が情けなくてたまらないアキレスだ。
だからもう自分で行く。
まとまらない集団が、さらにまとまらなくなっていては指揮に関わる。
なんせ、集合場所になっている楠の大木の根元で寝ていられるので、皆が遠巻きに散ってしまって集合もままならない状態になっている。
「陛下。こんな場所で眠っておられても風邪をひかれます。お部屋に戻られてお休みなったら、いかがですか?」
脇に膝を付いて控えると、アキレスは丁寧に声を掛けた。
すると腕の中に伏せていた頭が上がり、白い美貌が露わになる。
長い睫が震え、重そうに持ちあがり灰青色の瞳がアキレスに焦点を結んだ。
ひどく眠そうで、声は寝ぼけているようにゆったりだ。
「ん・・・。変なことを言う・・・」
変ではないと言おうとしたが、
「俺は、たいてい、野宿だよ、今さらだ。ベッドで眠らない率としては、おまえより俺の方が高いから慣れてるよ、心配いらない」
言葉の中味は、寝ぼけておらず聞いたアキレスは、むっとなる。反論できない。
「それは、そうでしょうがーーー」
「部屋に戻ったらすぐにバレる・・・休めないよ」
たぶん、その通りなのだろうが、アキレスだってアキレスの事情があるのだ。
「陛下がここにいらっしゃると、怖がって集まらないんですよ」
「誰が?」
「隊員です!」
あちゃぁ、アキレス隊長、凄い、それ陛下に言っちゃうんだとジェイソンが、離れた先で尊敬の目差しを送っているが、アキレスだって腹を括って向き合っているのだ。
が、やはりこの男は苦手だという結論に至った。
気だるげに首を傾げて見せた後、
「そんなこと・・・ぜんぜん、無いよ?」
少女のような笑みを浮かべてふわんと言った。
そして。
舌打ちする暇はなかった。
「フリーファイター男、総員集合!」
声を張りあげた。号令だった。
皇帝陛下直々の命令が下されたのだ。
それは空気を裂いてよく響く、覇気ある美声だ、とお世辞ではなく認めてもいいと思った。
でも、そのあとは、かくんと頭が落ちた。
もう目もほとんど閉じている。
「・・・ほら、みんな揃った・・・だから平気だ。・・・俺はもうちょっと、寝る・・・ヘクターが戻るまで・・・気にしないでくれていい・・・」
「・・・シュヴァイン陛下・・・」
「ねむいから・・・」
皇帝の号令に否応もなくぴしっと集まっていたが、皆で集まって取り囲んで、銀色の旋毛を見下ろすことになっている。
人相も風体も悪い傭兵の集団が、まるで寄ってたかって苛めているような構図になっていて囲む方も居心地は悪く、いいのかなあ、と妙な沈黙と動揺が広がった。
でもそんなこともまったくお構いなしにシュヴァインは膝を抱えてうつらうつら眠っているのだ。
「・・・あ、別に静かにして欲しいなどとは言わないから・・・普通にやってくれ・・・」
「承知いたしました!」
わざと大声で答えたアキレスに、隊員からの低い響めきが湧き起こったがシュヴァインからの反応はもう何も無く、気分もひどく削がれたので、それ以降はアキレスも普段の声に戻った。



20141122
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