SSブログ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

豪奢とは。 [イメージ・象徴]



TestingPoisonsOnCondemnedPrisoners1.jpg




「黄金の階段から、絹の紐、鈍色のうす衣、緑の天鵞絨と青銅の陽に向いて黒ずんだような水晶の花盤が入り乱れる間に、銀と眼と髪の毛との細線で、文に織られた掛布の上に、ジギタリスの花が咲くのが見える。
瑪瑙の上に、ばら撒かれた黄色い金貨、碧玉の円天井を支えるアカジューの柱、白襦子の花束と紅玉の細い鞭とは、水薔薇を取り囲む。
巨きな緑の眼、雪の肌した神のように、海と空とはこの大理石台に、若々しく強い薔薇の群れをさし招く。」

(A.ランボー、小林秀雄訳 「飾絵 Illuminations 」、『地獄の季節 Une saison en enfer』)



「豪華」と「豪奢」というのは、似ているようでなにか決定的に違うように思えます。
私が好きなのは「豪奢」。

「豪華」というとデラックスというか、贅沢というか、要するに金がかかってるなと。

でも、「豪奢」というと、蕩尽とか、デカダンスとか、
そういうニュアンスが入る。
要するに、金をかけて何らかの強烈な美意識が具現化されたようなかんじ。

豪華な建築というのはあるけれど、豪華な文学や美術というのはないような。
文学や美術におけるイメージは、やはり「豪奢」なんだと思う。

そしてそれはヘリオガバルスなんかに代表される古代ローマとか、古代エジプトとかにそのイメージが結びつく。

「実際、テルトゥリアヌスは怖ろしい動乱の相継いで起こった騒然たる時代、カラカラや、マクリヌスや、奇怪なエメサの大祭司ヘリオガバルスの支配していた時代に生きていたのであり、ロオマ帝国が根底から揺すぶられていた時代、アジアの狂気と異教の汚穢れが溢れんばかりに滔々と流れていた時代に、静かに説教をしたり、教義に関する著述をしたり、弁護論を書いたり、福音書講話をしたりしていたのであった。彼はこの上なく見事な冷静さで、肉欲を断つべきこと、飲食を節すべきこと、化粧を控えめにすることを勧告したのであったが、その同じ時代に、一方では三重の王冠を頭に戴き、宝石を縫い取りした衣服を纏ったロオマ皇帝ヘリオガバルスが、銀粉と金泥を撒き散らした王宮のなかを歩き回りながら、宦官たちに取り巻かれて、女のする針仕事に耽ったり、自分を「女后」と呼ばせ、毎晩のように、理髪師や皿洗いや闘技場の御者のうちから特に選ばれた「皇帝」に、次々に身をまかせたりしていたのであった。 この対照の面白さが彼を恍惚たらしめた。」

(ユイスマンス 『さかしま』)



ちなみに冒頭の画像は、先日の記事でも紹介した、私の大好きなカバネルの作品。
彼の作品には、とても豪奢でデカダンスなものが多いですね。

"Testing Poisons On Condemned Prisoners"
だなんてタイトルからして、あまりにもデカダンス且つ悪魔的で。

よくみると、クレオパトラの侍女と思われる女性のポーズが実に美しい。
このあたりは、やはり新古典主義の巨匠といったところ。


TestingPoisonsOnCondemnedPrisoners2.jpg


アルマ=タデマもヘリオガバルスをモチーフにした作品など(The Roses of Heliogabalus, 1888)、古代ローマ或いはギリシャの宮廷生活が主題となった作品を多く描いていますが、
寧ろ天上的な美しさに満ちていて、デカダンス度は低いという印象。


日本では、あまり豪奢というイメージがわかない。一般的には。

例えば日本の美というと、わびさびとかそういうイメージが入るけれど、
実は豪奢なものなのだ、ということに気づかされたのは、
谷崎の作品を読んだときです。

谷崎作品を読んで、私の中で日本の美のイメージが変わった。
それは、決して、わびさびのようなものではなくて、なんというか、
もっと強いものなんだと。
そして私は、わびさびなんてものに興味を失った。


「殿様や若旦那の長閑な顔が曇らぬように、御殿女中や華魁の笑いの種が尽きぬようにと、饒舌を売るお茶坊主だの幇間だのと云う職業が、立派に存在していけた程、世間がのんびりしていた時分であった。女定九郎、女自雷也、女鳴神、-当時の芝居でも草双紙でも、すべて美しい者は強者であり、醜いものは弱者であった。誰も彼も挙って美しからんと努めた揚句は、天稟の体に絵の具を注ぎ込む迄になった。芳烈な、或いは絢爛な、線と色とがその頃の人々の肌に踊った。
馬道を通うお客は、見事な刺青のある駕籠かきを選んで乗った。吉原、辰巳の女も美しい刺青の男に惚れた。」

(谷崎潤一郎、「刺青」)



このような江戸の粋、或いは遊郭なんかのイメージというのは、
かなり豪奢なものを想像させる。

吉原、辰巳の女も美しい刺青の男に惚れた、だなんて、
ほんとに粋だなあ、って思う。

例えば、博物館なんかで、古い着物なんかを見ると、
ああ、豪奢だなあ、と思ったりする。

そんなものを着ているのがあたりまえだった時代、
それはとにかく豪奢な時代だったんだろうなあ、と想像してみたりする。

今の時代、昔と比べて豪華なものは増えたけれど、
はたしてどれだけ豪奢なものがあるだろうか。








Lawrence Alma-Tadema

  • 作者: R. J. Barrow
  • 出版社/メーカー: Phaidon Inc Ltd
  • 発売日: 2003/10
  • メディア: ペーパーバック



地獄の季節 (岩波文庫)

地獄の季節 (岩波文庫)

  • 作者: ランボオ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1970/09
  • メディア: 文庫




ランボー詩集 (新潮文庫)

ランボー詩集 (新潮文庫)

  • 作者: ランボー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1951/10
  • メディア: 文庫



刺青・秘密 (新潮文庫)

刺青・秘密 (新潮文庫)

  • 作者: 谷崎 潤一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1969/08
  • メディア: 文庫



さかしま (河出文庫)

さかしま (河出文庫)

  • 作者: J.K. ユイスマンス
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2002/06
  • メディア: 文庫



ブックマークボタン
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1