忘れもしない。あれはワタシが最強のカクレオンを目指して修行をしていた頃。
ちょうど一つ目のクソデカ破壊光線モンスター、たしか本によるとバロールとかいうバケモノを倒して、そろそろ店を始めようと考え始めていた。
原理はわからないが不思議だまの作り方もわかったし、リボンやスカーフもモンスターのドロップアイテムを使って手縫いで作れることがわかった。
当時は知らなかったが、カドモスというモンスターの皮を使って作った商人カバンを作り、様々なモンスターが落とす糸で記憶にある通りに絨毯を作った。
もう商人として始める準備は全て終わったと思い、人が多い上の方で店を開こうと移動している最中に気づく。
ワタシ…この世界のお金持ってない。
金になるアイテムや魔石は持っていた。でもワタシはカクレオンでモンスターだ。換金してくれるとは思えない。でも種金がないとお釣りも渡せないし買い取りもできない。
お金をどうやって稼ぐか頭を悩ませている時、フェルズさんに出会った。
フェルズさんはワタシにこの世界の商売に関する本やワタシの持っている魔石を一部換金してくれた。うーん、感謝してもし切れない。
そんなフェルズさんと久々に出会ったのでワタシは悩んでいることを一つ相談すると解決できるかもしれないと、次の日、つまり今日、案内してもらっていた。
「フェルズさん。畑が作れる場所を教えてくれるって本当ですか〜?」
「ああ。だがその前に会わせたい者たちがいる」
会わせたい者たち?ダンジョン内で誰に会おうって言うんだ。冒険者なわけはないと思う。フェルズっていうと悪いがめちゃくちゃ怪しい見た目だ。灰色のローブで服の上から見えるだけでもかなりの細身。ゴーストタイプと言われたら納得してしまいそう。そんな人が紹介したい人たちってどういう人なんだろう。やっぱりローブの集団なのかな?
フェルズの紹介だし悪い人ではない…と信じたい。
「ここだ」
虫系のモンスターが多い苔洞窟のような階層の何もないところで止まる。見渡しても壁にめり込んでいる青白い水晶が多い印象を受けるだけで他には何もない。
そう思っていると一際大きい水晶にフェルズさんが触れる。すると水晶は最初からなかったようにだんだん透明になり、最後には消失した。
その消えた水晶の向こうに道が現れた。
もしかしたらあの水晶はポケダンでもあった色の鍵を持っていないと進めないけど宝箱が落ちていたりする場所なのでは?
「待て」
ワクワクが止められなかったワタシは思わず先に行こうとするとフェルズさんに止められた。
顔は見えないが真剣そうな声色でフェルズは言った。
「先に言っておくがこの先にいる彼らを攻撃してはならない」
そんなワタシが目に入った人を攻撃するバーサーカーみたいな。なぜそんな忠告を?ワタシこれまで人を殴ったことなんて1…3……6回ぐらいしかないのに。
その疑問は隠された道を歩いているうちに自己解決した。
なぜフェルズさんがわざわざワタシに攻撃するなと言っていたのか。その理由は彼らだった。
「ようこそ我が同胞よ!」
そう、両手に別々の武器を装備しているリザードマンが叫ぶ。
「お待ちしておりましタ」
人とそんなに変わらない。でも両手に翼のように見え、若干飛行しているセイレーンが歓迎の言葉を述べる。
「あなたが最近噂の商人さんね!」
「フェルズさんから聞いていましたが本当に見たことがないモンスターなんですね」
「このカバン自分で作ったの?すごーい!」
見たことのあるモンスターから本で知っているだけのモンスター、全く情報がないモンスター全員が人の言葉を話してワタシを歓迎してくれた。
「あの〜、彼らはいったい?」
「彼らは
「いらっしゃ〜い」
ワタシはいつも通り、絨毯を広げて商品を並べる。
ただし今日のお客さんは人間の冒険者ではない。
彼らとフェルズさんから彼らの話を聞いた。
人の言葉を理解し、ダンジョンの意思とは別に自分の意思を持つモンスター。それが彼ららしい。種族はバラバラでなぜ生まれるのかも、いつから存在していたのかもわからない。
ただ、ワタシのように人の前に姿を現して何かをするのはとても珍しく、大抵のゼノスはここのような隠れ家で集団で暮らしているそうだ。
そんなところにワタシがお呼ばれしたのはワタシもゼノスの1人だからだとか。でもワタシの場合は前世の、ここではない世界の記憶がある。なんならモンスターではなく、ポケットモンスターだ。似ているだけで別のモノでは?と思いました。
でもカクレオンの商人としてはモンスターに商品を売買するなんて絶好のチャンスを見逃せるはずもなく。それに何か望まれているような視線も感じたのでみんなの前で商店を開くことにした。
「支払いハ、魔石でも、良いですカ?」
「いいよ〜。買い取りもやってるからドロップアイテムでもいけるよ〜」
「アイテムの効果はこれに書いておいたから読んでね〜」
ワタシは最近お客さんが多くなってきていちいち説明するよりも説明書を書いた方が複数人のお客さんが来た時に対応しやすいと考えて作っておいたのだ。
それと同時に商品名がわかりやすいように立て札も立てておいた。
「これハ、本当ナの?」
「どれ?」
「この『おおべやだま』、という、魔道具のことです」
「本当だよ〜」
『おおべやだま』使えば壁を破壊して一つの部屋を作ってしまう不思議だまの一つ。
このダンジョンでは破壊しすぎると骨のようなモンスターが現れる。その判定に引っかからないことはすでに検証済みだ。
「マジかよ!それがあれば今まで未開拓領域の
そう、ワタシの呼び方が決まったのか部屋の隅から戻ってきたリドが言った。
「隠れ里?」
「ああ、ここ見たいな俺たち異端児が住処にしてる人間にまだ見つかってない安全階層をそう呼んでるんだ」
ワタシの場合は環境に溶け込めば人間をやり過ごせるけど彼らには不可能だ。どうやって人間にも他のモンスターにも襲われずに暮らしてきたのか少し疑問だったが納得がいった。
彼らも彼らでたくましく生きているのだろう。
「それでこの玉はこの魔石どのくらい分なんだ?カクレオンが来るってフェルズから聞いてからみんなで集めたんだ」
そう言い、キラキラと少年のように目を輝かせたリドから受け取った魔石を数える。
とても多い。集団ということもあるが全員がかなり強いのだろう。特にリドは白い階層でも戦えると思う。
そんな彼らが集めた魔石の総額と『おおべやだま』の値段を計算してもかなりのお釣りが出るほどだった。
「まいどあり〜♪」
商品とお釣りを渡す。
それから他の商品もいくつか説明の後、何個か売れて今日は店じまい。そろそろ本題に入りたいと思ってフェルズさんに聞いた。
「畑が作れる場所はどこですか〜?」
「ああ、そうだったな。忘れていてすまない」
なんかしっかりしてそうな雰囲気だけどそこそこ抜けてる人だな。そんなうっかりさんなフェルズさんが指を立て、地面を指差した。
「ここだよ」
「ここって隠れ里のことかい?」
「そうだ。ここならば人もモンスターも寄りつかない。そしてこの階層は植物が根を張るためか土が場所によって存在している。ダンジョンの中で作物を育てる環境としては18階層の安全階層の次には良い環境だろう」
確かにその通りだ。テレビで見た程度しか農業の知識はないけど土があって、植物が育つ実績も存在する。少し下の階層が水の階層だからか湿度も良い。これ以上は望めないだろう。
「でもいいのかい?ここってみんなの場所なんだろう?」
「だからこそだ」
「どうして……?」
「あー、それはオレッち達から話させてもらってもいいか?」
リドの目が変わる。先ほどまでのワタシとの交流を楽しむのではない。自分たちの願望、あるいは憧憬を語る大人のようになる。周りの目や顔つきも同じ。種族ごとに表情が違うかもしれない。でも全員の心が一致しているためかそれがわかってしまった。
「まず、それを話す前にオレッち達についての話をさせてくれ」
仲間とも同胞とも少し違う。それを彼らも理解したのだろう。だから彼らはワタシに話をするのだ。自分たちのことを理解してもらうために。ワタシのことを理解するために。