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第8話 : 追憶に触れし刻


 

 契約の儀が終わると同時に、あれほどまでに張り詰めていた神聖な気配は、徐々に──まるで潮が引くように──穏やかな温もりへと変わっていった。

 

 まるで神話の幕がひとまず閉じられたかのように。

 木造の家の居間に流れ込むのは、懐かしい“日常”の香りだった。

 

 丸卓の上で揺れる湯気。開け放たれた窓の隙間からは、涼やかな風がそっと吹き込む。

 カーテンが優しく揺れ、風鈴がかすかに音を鳴らすその光景は──ほんの数分前、神と剣士の間にかわされた契約の重さを忘れさせるほど、穏やかだった。

 

「──よし、それじゃあ……ついでだ、お前らも久々にステイタスを更新していくか」

 

 唐突に響いたオグマの声に、丸卓の空気がふわりと揺れる。

 仮面の奥では、いつものようににやけた笑み。だがその声音には、観測者としての研ぎ澄まされた眼が潜んでいた。

 

「ユーの初期値が“アレ”だった分な……逆に気になってきただろ? お前らの“今”も、ちょっと覗いてみたくなったわけよ」

 

 膝を叩きながら立ち上がる神に、ツッコミ混じりの声が飛ぶ。

 

「ついでって何だ!? デリカシー皆無か、神ィ!」

「ふふーん♪ じゃあ、その“ついで”のトップバッターはあたしね。今のうちにプリティー指数が跳ね上がってるか、しっかり確認させてもらうわよ、オグマ様!」

 

 ウィンクと共にくるりと回転、軽やかに背中を差し出すスコット。その背に、陽気な空気が宿る。

 

「いや、それは測れんが」

「はぁ!? そこが一番重要でしょ!? 冒険者たるもの、外見美も含めて戦力よ! 戦・力!」

 

 くだらない、けれど微笑ましいやり取りに、居間の空気がじんわりと和らいでいく。

 

 オグマは針を器用に弾きながら、ため息まじりに肩をすくめ──

 だが、その指先に宿る動きは、寸分の狂いもなく研ぎ澄まされていた。

 

「……ったく、口のほうは絶好調だな。ほら、じっとしてろ。さくっと終わらせてやる」

「やだ、なんか信頼できる熟練の職人さんみたいな響き。よろしくお願いしまーす♪」

 

 いつものようでいて、どこか誇らしげな──そんな空気が、そこにはあった。

 

 冗談まじりのやり取り。軽口の応酬。

 けれど、そのひとつひとつの言葉の端には、仲間としての歩みを確かに感じ取れる、ささやかな温度が滲んでいた。

 

 そして、結果はというと──スコットの【ステイタス】は全体的に微増。

 能力値は小さく成長していたものの、新たなスキルや魔法の発現は見られなかった。

 

「……ん〜、まあ、こんなものよね〜。想定の範囲内って感じ?」

 

 肩をすくめ、気怠げに笑いながらも、その顔にはどこか満足げな色が浮かんでいた。

 進んでいる。わずかでも確かに、自分の足で──

 

 そんなスコットの背中に、オグマが仮面越しにぼそりと呟く。

 

「むしろお前は“喋り”のステイタスだけ天井突き抜けてんじゃねーのか……?」

 

 するとすかさず、スコットがウィンク交じりに返す。

 

「それ、“スキル”じゃなくて“スキャンダル”ってやつかもね?」

 

 その一言に──

 

「言い得て妙すぎるっ!」

「いやもう、逆に怖ぇよ……その自覚……」

 

 ガイルとモルドが思わず吹き出し、居間には朗らかな笑い声が咲いた。

 つい先ほどまで神威が満ちていた空間とは思えないほど、柔らかな空気が広がっていく。

 

 そして、次に進み出たのはガイルだった。

 

 無言のまま、少しだけ首を回し、静かに背中を向ける。

 その動きに迷いはなく、余計な言葉もない。

 ただ、積み重ねてきたものを、受け止めるだけの覚悟がそこにはあった。

 

 オグマの指が流れるように動き、神の血が再び小さく背に刻まれる。

 やがて貼り付けられた羊皮紙が、すっと剥がされ、

 

「──まあ、こんなもんだな。……日々の積み重ねってやつだ」

 

 結果に一喜一憂することなく、ガイルは小さく頷いた。

 その横顔には、確かな自信と、揺るぎない実直さが浮かんでいて。

 

 そして──最後に、残されたのはモルドだった。

 

「……ちっ、どうせ何も変わっちゃいねぇってのによ……」

 

 不満げにぼやきながらも、その歩みは止まらない。

 ガイルの隣にいた足を一歩前へ出し、観念したように背を向ける。

 

 その姿に、オグマは針を持った手をそっと見下ろすと──ふと、静かに、けれど確かに呟いた。

 

「……いや。今回は、ちょっと違う気がしてんだよな」

 

 その一言が落ちた瞬間、室内の空気が僅かに震えた。

 

 それは、いつもの軽口でも、神の気まぐれでもない。

 仮面の奥からにじみ出るのは、絶対者としての本能。

 ただの予感ではない──これは、神託に近しい“確信”だった。

 

 針が皮膚をかすめ、神の血が一滴──滴る。

 淡く滲む紅の輝きが、背に神威の軌跡を描く。

 オグマの指が舞うように動き始め、神聖なる文字が刻まれていく。

 

 ──だが。

 

 その瞬間。

 

 ぴたり、と。

 空気が、凍りついた。

 

 まるで時の流れが唐突に止まったかのように。

 動いていた神の指先が、そこで沈黙した。

 

「……ん?」

 

 低く漏れる一音。

 だが、その一音には、明らかに“何か”を察した響きがあった。

 

 背を向けたままのモルドが、眉をひそめる。

 その様子に、スコットとガイルも、直感的にただならぬ気配を感じ取り、無言で身を乗り出す。

 

 ──そして、静かに。

 

「……そうか」

 

 オグマが呟いた。

 

 仮面の奥から発せられたその声は、驚きではなかった。

 歓喜でもない。

 それは──安堵の声だった。

 

「ようやく……お前も、“変わる時”が来たか」

 

 声には、遊びの色がない。

 仮面の下にあるのは、冗談を愛する神の顔ではない。

 そこにあったのは──

 

 “父”としての眼差し。

 そして、“神”としての微笑み。

 

「……オグマ?」

 

 訝しげな声を漏らすモルド。

 その背中越しに、スコットとガイルも、緊張の面持ちで差し出された羊皮紙を覗き込む。

 

 そして──

 

「……!」

 

 三人の目が、同時に見開かれた。

 

 それは、ただの“成長”ではなかった。

 “上昇”ですらない。

 そこに刻まれていたのは、かつての自分を越え、“今”の自分すら突き抜ける、明確な──

 

 “覚醒”。

 

 


 

 モルド・ラトロー

 Lv.1

 

『力』 :C 693

『耐久』:E 429

『器用』:F 379

『俊敏』:E 487

『魔力』:I 0

 

《魔法》

【】

 

《スキル》

追慕憧景(アスペラ・メモリア)

・追憶の顕現

・肉体の戦没英雄(エインヘリアル)

 


 

 

 そのスキル名を、目で追った誰もが息を呑んだ。

 それは、どこまでも詩的で、どこまでも重たく、そして美しい響きを持っていた。

 

 “追慕”──

 それは、過去への憧憬。

 

 “憧景”──

 それは、己が追い求める存在の残影。

 

 スキルの文言すら、彼という男の心を映す鏡のように、静かに佇んでいた。

 

「……っ」

 

 スコットが息を呑んだ音が、妙に大きく響いた。

 隣でガイルが、まるで雷にでも打たれたように硬直する。

 

 そして──その視線の先にいた、モルド本人。

 ただ、立ち尽くしていた。

 まるで、自分の名を刻んだ墓標でも目にしたかのように。

 

 目の前に掲げられた【ステイタス】──

 そこに、初めて刻まれた“何か”を、彼は黙って見つめていた。

 

 それは、決して数値の増加でも、能力の向上でもない。

 

 ──“存在の証明”。

 

 誰かを追いかけ、背中の中で芽吹いた、祈りにも似た想い。

 それが、いま初めて形になったのだ。

 

 その名は、

 

 ──【追慕憧景(アスペラ・メモリア)

 

 ただの力ではない。

 ただの能力ではない。

 それは彼の心が紡いだ、奇跡だった。

 

 ──そして、神が口を開く。

 

「……下界の子供たちは、やはり面白い」

 

 ぽつりと零されたその声は、嘲笑でも戯れでもない。

 仮面の奥で細められた眼差しには、確かな喜びと──慈しみが宿っていた。

 

「たったひとつの想いが、魂の構造を変える。それはまるで──繭を破り、羽を広げる蝶のようだ」

 

 神としての探究心。

 そして、親としての誇り。

 その両方が綯い交ぜになった声音に、誰も何も言葉を返せなかった。

 

 ただそこにいたのは、静かに、けれど確かに、“一歩を超えた者”だけ。

 

「モルド……あなた、まさか……」

 

 スコットの声色が変わっていた。

 軽妙な皮肉や冗談の響きはどこにもない。

 そこにあるのは、確かな敬意と、揺るぎない真剣さ。

 

 ガイルは沈黙のまま、羊皮紙に刻まれた文字をじっと見つめ──やがて、息を吐くように小さく笑った。

 

「……すごいな。ホントに、出るんだな……スキルってのは」

 

 その声は驚きではなく、どこか、祝福に似ていた。

 苦楽を共にしてきた仲間だからこそ分かる、その“重み”。

 

 そして、オグマは何も言わず──ただ穏やかに微笑んでいた。

 仮面の奥に浮かぶその笑みは、決して大げさなものではなかったけれど。

 それだけで、誰の胸にも伝わるものがあった。

 

 それは、誇りだった。

 

 誰かの背を追いかけ、歯を食いしばり、足を止めずに走り続けた男が──

 ようやく辿り着いた、『自分だけの証明』。

 

 ただ憧れたわけじゃない。

 ただ羨んだだけでもない。

 心の底から、傷だらけの手で、祈るように伸ばし続けたその先で。

 

 ──ようやく手にした、“形”。

 

「……あの時から……」

 

 ぽつりと漏れた呟きが、静寂の空間に波紋のように広がっていく。

 

「……あの時から、俺の中には……ずっと、あんたがいたんだな……」

 

 それは、言葉という形を借りた、想いの奔流。

 理屈ではなく、ただ心が震えたまま零れ落ちた真実。

 

 モルドの頬を、静かにひとしずくの涙が伝う。

 それを拭おうともせず、彼はゆっくりと顔を伏せた。

 

 すぐ隣で、スコットが無言のままそっと背に手を添えた。

 ガイルもまた、何も言わずその横に立ち、ただ静かに寄り添う。

 

 ──何度、追い抜かれただろう。

 ──何度、心が折れかけただろう。

 

 それでも歯を食いしばり、必死に這いつくばって、足を踏み出し続けてきた。

 目を逸らし、心をごまかし、それでも前へ進むしかなかった。

 

 でも……今、ようやく。

 ほんの少しだけ、自分のことを、誇ってもいい気がした。

 

 ──あの背中に。

 誰よりも遠く見えたその背に。

 いま、ようやく“向き合う覚悟”が、己の中に芽吹いた気がしたから。

 

 そして──

 

「………………よくやったな」

 

 ぽつりと、オグマが呟いた。

 

 それは神託ではなかった。ただの言葉。

 だがその声音には、父のような温もりが宿っていた。

 

 威厳でも命令でもなく、静かに寄り添うような響き。

 仮面の奥から紡がれたそれは、“神”ではなく、“親”としての在り方だった。

 

 モルドの肩が、僅かに揺れる。

 

 ──その一言が、どれだけ彼を救ったのか。

 

 けれど──

 

 その静かな余韻を、真っ向からぶち壊すのもまた、神である。

 

「──なぁに泣いてやがんだ、モルドぉ!! これってつまり、そういうことだよなァ!?」

 

 豹変。

 

 慈しみの仮面は一瞬で剥がれ、仮面の奥から飛び出したのは、豪快極まりない軽口と嘲笑のミックスボイス。

 

 さっきまでの“しんみりタイム”はどこ行った!? 

 

 ──いや、誰もが心の中でツッコんだ。が、声に出す暇もなく。

 

「ユーの奴に憧れちまったんだろ!? 追いつきてぇって思っちまったんだろ!? 過去を知りてぇ、そう願っちまったんだろォッ!?」

 

 畳みかけるような言葉に、ぐいぐいと詰め寄る神。

 モルドの顔が、怒りと羞恥でみるみるうちに茹で上がる。

 

「いい歳こいた成人男子がよォ! しかもゴリッゴリの戦士型がなァ! 初対面の男にメソメソしながら惚れてんじゃねぇッ!! 気色悪ィィィッッ!!」

 

 もはや悪意を通り越して、謎のハイテンション芸にすらなっていた。

 

「──てめぇぇぇぇぇッッッ!!!」

 

 ついに臨界突破。モルドの拳が唸りを上げて振り上がる。

 

「うわっ! ちょ、待った待った! 顔は! 顔はやめてっ! 仮面がッ!! この仮面、演出の生命線なの!! 壊れたら神威が半減すんのォォ!!」

「知らんわ! まとめて木っ端微塵にしてやるッ!!」

「いやいやいやいや! いくら神って言ってもな!? 肉体は一般人ベースなの!! ファルナ持ちの本気パンチ食らったら、普通に俺、成仏しちゃうのおおおぉぉぉぉ!!」

「黙って灰になれぇぇぇッ!!!」

「──ぶべらっ!? グヘェエエエエエッ!!!」

 

 ──ズドン! 

 

 爆音とともに、オグマは椅子ごと壁際に吹っ飛んだ。

 仮面の耳飾りがひとつ、寂しげな音を立てて床を転がる。

 

「ふっ……喋りすぎたな……」

 

 床に崩れ落ちた神は、満身創痍でありながら、どこか満ち足りた笑みを浮かべていた。

 まるで、打ちのめされることすら、祝祭の一部であるかのように。

 

「いや死ぬなっ!? てか、まだ終わってねぇからな!!」

「ちょ、待て待て待てッ! 二発目はダメェッ!! マジで俺、昇天するヤツだから!!!」

「安心しろ、三発目まである!!」

「──ひぃぃっ!? スコット、ガイル、マジで今だけ神助けしてぇぇぇっ!!」

 

 ──大混乱。全力の怒号と、全力の悪ノリが交差する。

 

 その有様を、スコットは額に手を当てながら、ひとつ大きく息を吐いた。

 

「……はぁ。泣いて、怒って、笑って……ほんと、情緒のジェットコースターね……」

 

 対するガイルは、半ば呆れたように肩をすくめ、しかしどこか満足そうに言った。

 

「でもまあ……これが、うちの“日常”……だな」

 

 喧騒の渦の中、赤く傾いた夕日が障子越しに差し込む。

 その光は、ぐしゃぐしゃな神の仮面も、拳を握る男の背も、そして並んで立つ三人の姿も、まるごと優しく照らしていた。

 

 ──騒がしくて、不器用で、だけど確かに、あたたかい。

 

 それは彼らが、“同じ場所”にいるという証だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 =====

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて──部屋の片隅でぐったりと転がる一柱の神を放置したまま、空気は騒乱から思索へとゆるやかに移り変わっていった。

 

 モルドに宿った、新たなる【スキル】。

 

 その正体と可能性を巡って、自然と議論が始まる。

 

「『追憶の顕現』……って、つまりは誰かの記憶をなぞるのか? それとも……俺の?」

「それより『戦没英雄化』って何よ。……モルド、あなたまさか戦場で寝そべってスルー狙うとか?」

 

 スコットが肘をつきながら真顔で言い放ち、モルドが盛大にしかめっ面を作る。

 

「おい、なんだそれ。俺の未来、雑すぎんだろ」

 

 思案するように腕を組むモルドに、スコットはいつもの調子で頬に指を当て、芝居がかった声で付け加える。

 

「言葉通りに受け取るなら、記憶と変化が鍵なんじゃない? 誰かの記憶を辿って──その力を再現する、とか」

 

 スコットが指先で羊皮紙をとんとんと叩きながら、半ば推理じみた口調で言った。

 

「変身って線も捨てきれねぇな。例えば、俺の身体が光って──覚醒とか?」

「スーパーモルド化?」

「いやいや、それはさすがに語感がダサ……いや、クセになるな」

「絶対、技名叫ぶ系よそれ。『モルド・インパクトォ!』ってね」

「それはちょっと……やってみてぇかも……」

 

 冗談めいた掛け合いに、一瞬、場が緩む。

 だが──その流れに釘を刺すように、ガイルがふっと真顔に戻る。

 

「……でも、今のところ何も起きてないんだよな」

 

 低く、重たい声。

 彼の視線はモルドの背から紙片へと戻り、じっと見据えていた。

 

「身体の感覚も、力の流れも──いつもと変わらない。数値が跳ね上がったってわけでもなし、スキルの発動条件もよくわからん」

 

 その言葉に、部屋の空気がほんのわずかに緊張を取り戻す。

 

 まるで、期待という名の熱が、静かに霧散していくようだった。

 

 ──これは、ただの称号なのか? 

 それとも、“鍵”をまだ手にしていないだけなのか。

 

 そんな中、ぽつりとスコットが呟く。

 

「……ねぇ、もしかしてだけど。対象との接触が必要なんじゃない?」

 

 その呟きは、小さくも確かな波紋を落とした。

 

 ──空気が変わる。

 

 冗談半分の議論が止まり、全員の視線が、ぴたりと同じ一点を捉える。

 

 赤いマント。鋼の剣。無言で在る、“彼”。

 

 言葉もないのに、誰もが理解していた。

 まるで、そこに答えがあると、最初から決まっていたかのように。

 

「……試してみるか」

 

 ぽつりと落とされたその一言に、揺るがぬ意志が宿っていた。

 

 モルドがゆっくりと立ち上がる。ぎしり、と床板が控えめに軋んだ音を立てる。

 

 仲間たちの視線を背に受けながら、重みある足取りで前へと進んでいく。

 

 その先にいるのは、変わらぬ沈黙を纏った赤き剣士──ユー。

 

 彼もまた、何も言わずに立ち上がる。

 ただその身に、何かを拒むでもなく、問うでもなく。

 受け入れるような、深い静けさを湛えて。

 

 モルドが、ぴたりと歩みを止めた。

 至近──互いの呼吸すら感じ取れる距離。

 

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、戸惑いがその手に宿る。

 

 だが、次の瞬間。

 彼は覚悟を込めるように、そっと手を伸ばした。

 

 静かに差し出された掌。

 

 それに、赤き剣士が応じる。

 無言のまま、何も問わず、ただ受け入れるように。

 彼の手が、そっと重なる。

 

 ──その指先が、わずかに触れた瞬間。

 

 世界が、落ちた。

 

 光が掻き消え、音が消失し、空間すら無に沈む。

 

 まるで舞台の幕が音もなく降りるように。

 現実の終幕、幻想の開幕。

 それは“記憶”という名の物語のプロローグ。

 

 夢か、幻か。誰かの追憶か、それとも、未来の片鱗か。

 

 ただひとつ、否応なく理解できたことがある。

 

 ──この一瞬で、世界は確かに“変わった”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 =====

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 間抜けな声音だった。自分でもそう思う。

 

 けれど、仕方なかった。思考が現実に追いつくより先に、口が動いてしまったのだから。

 

 ──気づけば、俺は森の中にいた。

 

 木造の家はない。囲んでいたはずの仲間たちの姿も、あの胡散臭い仮面の神の気配すら、どこにもない。

 

 代わりに耳に届いたのは、風に揺れる葉擦れの音。鳥の鳴き声。木々がきしむ、湿った空気の音。

 どれも知らないはずなのに……なぜだ。やけに懐かしく、胸の奥がざわついた。

 

 見知らぬはずの空間なのに、肌に触れる空気が妙に馴染む。

 息を吸えば、草と土と、微かに甘い花の香りが肺を満たす。

 

 ……おかしい。

 

 なにもかもが初めてのはずなのに、体が怯えない。

 むしろ、懐かしいものに触れたときのような、説明できない安心感すらある。

 

 俺は、ゆっくりと胸に手を当てる。

 

 ──これは、夢か? 幻か? それとも──

 

 封じられた記憶の断片なのか? 

 

「……ここは、一体どこなんだよ」

 

 誰に向けたわけでもない独白が、風にさらわれて森の奥へと溶けていく。

 

 返事はない。もちろんだ。だが──

 

 肌が、空気を拒絶していた。

 心が、鼓動を早めていた。

 背筋に、理由なき緊張が這い上がってくる。

 

 理屈じゃない。頭よりも、魂が先に察していた。

 

 何かが起こる。

 ただの幻じゃない。これは──

 

 記憶だ。

 

 誰のものかもわからない。けれど確かに、自分の中にある感覚。

 

 ──そして、始まる。

 

 追体験と邂逅の、最初の記憶が。

 

 

 


 

 

 

『To Be Continued……』

 

ってね。

 

 

『守護者の剣 Lv.48 』(攻撃力+480%)

『グラム Lv.4 』(攻撃力+200%)

『守護者の鎧 Lv.63 』(最大HP+630%)

『キュイラス Lv.11 』(最大HP+1100%)

『ファントムブレード Lv.3 』(攻撃速度+9%)

『セブンリーグブーツ Lv.3 』(移動速度+9%)

『ククルカンの宝玉 Lv.1 』(メテオ威力+10%)

『肉×18』

『魚×18』

『野草×25』

『澄んだ水×13』

『野キノコ×10』

『イチゴ×9』

『ブドウ×11』

『空のボトル×18』

『キャベツ×12』

『トマト×12』

 

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