作:生まれてきてくれてありがとう
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夕暮れの陽が、障子越しに淡く滲んでいた。
木造の古家──その居間にて、年季の入った丸卓を囲むのは、三人の冒険者と一柱の神。
外では風が木々の葉を優しく揺らし、軒先の風鈴が、涼やかに一度、鳴った。
その音が、静寂に小さな波紋を落とす。
空気は静謐。それでいて、何かが始まる予兆のような緊張を孕んでいて。
言葉のかわりに、それぞれのまなざしが、卓の中央に交差していた。
そして──
「……これで、全員の意志が揃ったな」
そう口を開いたのは、仮面の奥に笑みを隠した獅子の神。
その声音は、普段の飄々とした軽やかさとは異なり、どこか儀式の始まりを告げるかのように静かで、確かなものだった。
神──いや、オグマは畳の上に胡坐をかき、仮面の奥で何かを愉しむような気配を漂わせて。
そして、にやりと口角を吊り上げる。
「──ってことはつまり。正式にパーティ組むってことで、いいんだよな? いや、いっそ……うちのファミリアに加入、ってことでいいのか?」
その提案めいた問いに、モルドが鼻を鳴らした。
そして、どこか誇らしげに肩を揺らし、言い切るように応じる。
「ケンカ売ったからにはよ、もう背中預けるしかねぇだろ。……こっちはもう、とっくに腹ァ括ってるぜ」
その横で、スコットが小さく肩をすくめる。肘を卓に乗せ、涼しげに笑ってみせた。
「本当なら、こっちから無理やり付きまとってやる気満々だったけどね……本人の意志があるなら、それに越したことはないし〜。ほら、うちの新人、なかなかイケてるでしょ?」
まるで自慢の弟でも紹介するような口ぶりだったが、それに静かにツッコミを入れたのは、ガイル。
「いや、新人って言うには……規格外だろ、どう考えても。俺ら三人、束になっても絶対敵わない位の……」
言いながら、どこか呆れたような、でも悔しさを滲ませたような笑みが浮かんでいて。
「……ま、すぐに追いつくけどな」
軽口のはずなのに、不思議と本気が滲んでいた。
その一言に、場の空気がふっと緩む。
互いを認め、受け入れる者たちだけが生み出せる、確かな温度がそこにはあった。
夕暮れの光が、傾いた障子の隙間からやさしく射し込む。
木目の浮いた丸卓に、温もりのような朱を落としながら──静かに、その場を包み込む。
その柔らかな光に照らされながら。
輪の中でひときわ静かに佇む、赤いマントの男が口を開いた。
「……よろしく頼む」
それは、ひどく控えめで、聞き逃してしまいそうなほど小さな声だった。
──けれど、それでよかった。
その声は確かに、そこにいた全員の心へと届いて。
言葉という器では収まりきらない、静かで、まっすぐな意志がそこにはあったから。
胸の奥が、じんわりとあたたまっていく。
それは火種のような、けれど確かに消えることのない炎。
照れ隠しのように、あるいは誇らしげに。
三人の冒険者たちは、誰からともなく微笑んだ。
その笑みにはもう、最初のぎこちなさはなく。
──同じ卓に座る仲間としての、誇りと信頼が、そこにあった。
一瞬の静寂が、場を包む。
しかし、その余韻を、祝福の音が打ち破った。
オグマがぱんっと両手を打ち鳴らす。
まるでそれは、契りを祝う神殿の鐘。軽やかでありながら、どこか神秘を孕んだ響き。
「いや〜、いいねいいねぇ! これぞ“始まり”ってやつよ!」
神は、愉快そうに胡坐をかいたまま天井を仰ぐ。
仮面の奥から放たれる声音には、戯けたような調子が含まれていたが──その裏には、明確に確信と敬意が宿っていた。
「小さな火種でも、物語ってのはいつだってそこから燃え上がる。お前ら今、しっかりと序章の一行を刻んだぜ。いや〜、たまらんねぇ!」
言葉を紡ぎながらも、その視線はまっすぐに四人をを射抜き。
ふざけた口調とは裏腹に、その目だけは真剣そのもの。
──遊びの顔で語る、神の本気。神性の輪郭が、微かに滲む。
そして、ぽつりと呟いた。
「さて、それじゃあ……最後の仕上げといこうか」
そう言って立ち上がったオグマは、懐から一本の針を取り出す。
金でも銀でもない。飾り気もなければ、魔力の輝きもない。
ただの、鉄針。
裁縫にも使えぬ、粗雑なそれは──
しかし、神の手に握られた瞬間。
その意味が変わる。
無色のそれは、確かに“神具”と化していた。
人と神が契りを交わすための、ただ一度きりの儀式の道具に。
「名もなき剣士よ。ようこそ──【オグマ・ファミリア】へ」
仮面越しの声音は、驚くほどに静かだった。
だが、その響きは確かに、雷鳴のように部屋の空気を震わせて。
「俺の子として、正式に迎え入れる」
祝福の言葉と共に、オグマは手を伸ばす。
その動きは厳かで、迷いなく──まるで儀式という舞台での、一糸乱れぬ所作のようだった。
その指先が、いままさに男の背へと触れようとした──その刹那。
「待て」
場の空気を裂くように、ひとつの声が響いた。
低く、鋭く。だが不思議と澱みのない、研ぎ澄まされた音色。
まるで刃が鞘から抜かれる瞬間のような、静謐な緊張を孕んでいて。
それは、紛れもなく彼の声だった。
その一言だけで、場の空気が一変する。
祝福の空気は凍りつき、神の手がぴたりと宙に止まった。
男の瞳は、迷いなく神を見据えていた。
揺れることも、逸れることもない。
そこに宿るのは、揺るがぬ意志。ただ、それだけ。
「縛られるのであれば、必要ない」
静かに、しかし明確に放たれたその一言は、契約を拒絶するという単なる意思表示ではなかった。
それは、己の在り方を貫く宣言。
何者にも縛られず、どのような支配にも屈さず。
己の足で進み、己の刃で道を切り開く。
それが、この男が選んだ“生”だった。
「行動の制限。義務。命令。そうしたものに囚われるのであれば、神の恩恵など──私には不要だ」
一語一語を噛みしめるように紡がれた声は、静かだった。
けれどその静けさこそが、鋼よりも硬い意志の証明。
言葉の奥に滲んでいたのは、誇りと孤独、そして深い喪失。
誰にも癒されることのなかった傷を、その背に隠した者だけが持つ、凛とした冷たさだった。
その瞬間、居間の空気が凍りつく。
まるで世界そのものが、言葉の重さに圧し潰されたかのように。
息を呑む音さえ消えた。
誰もが言葉を失い、動けずにいた。
──ただ、一柱の神を除いて。
「──バァァカッ!!」
間髪入れず、爆発のような声が響いた。
それと同時にオグマが仰々しく立ち上がり、肩を揺らして笑いながら、ぴしりと指を突き出す。
その矛先は、言うまでもなく──三人の眷属たち。
「見てみろよ、この自由気ままなバカどもを! 命令? 規律? なにそれおいしいの? 俺の話なんざ一度でもまともに聞いたことあるかァ!? こいつら!」
仮面の奥から覗く眼差しは、呆れかえるどころかむしろ楽しげにすら光っていた。
その言葉にすかさず、三人の冒険者が一斉に噛みつく。
「失礼ね!? 一応報告・連絡・相談は心がけてるんですけど!?」
「俺もそんな適当じゃねぇっ!!」
「……いや、モルドはまぁ、確かに当てはまるかもな」
スコットは怒鳴り、モルドは吠え、そしてガイルは素直すぎるほどに認めた。
瞬間、弾けたように笑いが満ちた。
張り詰めた空気は音を立てて崩れ、居間には、家族のような温もりが広がっていく。
その中心で、オグマは仮面の奥に満足げな笑みを浮かべながら、ぽつりと──
「なぁ、ユー。お前もいずれ、あんなふうにテキトーになれよ?」
それは冗談とも、願望ともつかぬ、神のささやき。
だが、確かに彼の本心だった。
そして、その軽口の余韻が消えぬうちに──ふいに空気が変わった。
ふざけていたはずの声音が、急激に色を失っていく。
仮面の奥、獅子の瞳がじり、と細められ、まるで狩人が標的を見据えるように鋭さを帯びた。
「それに、だ──」
その一言は、まるで森を割って響く獣の咆哮。
理性と好奇の狭間で微笑む神の本質が、ついにその姿を覗かせた。
「【神の恩恵】を持たず、【ステイタス】にも頼らず……それでいて、あれだけの剣筋──」
語尾が尾を引くように揺れる。
その唇は、歓喜にも近い興奮でわずかに吊り上がっていた。
静かな語り口に秘められたのは、ただの賞賛ではない。
──それは、飢えだ。
未知という名の“答え”を欲する、神の本能そのもの。
「──ならば問おう」
声色が変わった。
仮面の奥から漏れる響きは、まるで契約の儀を始める巫のように静かで、しかし底に澱のような熱を孕んでいて。
「もしお前が──【ファルナ】を宿したらどうなる?」
一拍置いて、言葉が続く。
「【ステイタス】を得たお前に、どれほどの“変化”が訪れる? どんな【スキル】が芽吹き、どんな【魔法】が目覚める? どれだけの“可能性”が、その身に封じられている……?」
それは、問いというより、もはや呪文だった。
神が、自らの欲望を包み隠さず吐露する、神託にも似た宣言。
──その声音には、抑えきれぬ“渇き”が滲んでいた。
空間にいた誰もが、瞬間的に悟る。
この男は本気だ、と。
ふざけたように見せかけた仮面の裏に、確かに“神性”が宿っている。
それは欲望。けれど、俗世のそれとは明確に一線を画す。
──それは、神にしか持ち得ない“原初の衝動”。
すなわち、『未知』への飽くなき探求。
未踏の領域を切り開く歓喜。
未定義の存在を、最初に定義するという悦び。
「この下界にまだ、こんな逸材が埋もれていたとはなぁ……」
感嘆とも、溜息ともつかぬ調子で呟いたその声に、仮面の奥の瞳が細められる。
──そして、その視線を正面から受け止めていたのは、赤き剣士。
ユーはただ、静かに。
言葉を返すこともなく、感情を見せることもなく。
けれど、確かに、神の視線を拒むことなく受け止めていた。
「……なぁ」
「……確かに、気になるわね」
「俺も……ちょっとワクワクしてきたかもな」
モルド、スコット、ガイル──三者三様に口を開いたその声には、戸惑いと興味、そして胸の奥に灯った小さな火のような高揚が混じっていた。
未知の扉が、音もなくゆっくりと開かれようとしている。
その先に待つものが希望か、それとも災厄か──そんなことは、きっと誰にもわからない。
だが、それでも彼らは目を逸らさなかった。
「ま、デメリットなんざ、これっぽっちもねぇよ」
立ち上がっていたオグマは座り直し、胡坐をかいたまま、肩を軽くすくめて笑う。
「強いて言えば……俺のダジャレが今後ちょっとだけ増えるくらいか? ま、それは覚悟して耐えてくれや」
悪びれる様子もなく、どこか楽しげに。いたずら好きな子供のような声音で──だがその目だけは、鋭く真っ直ぐに“その者”を射抜いていた。
次の瞬間。
神は、自らの指に、針を突き立てた。
ぷつり、と音を立てて、滲む赤。
それはただの血ではない。天より流れし者がこの地に滴らせた、契約と奇跡の『
仮面の奥から、凛とした声が響いた。
「さあ──覚悟があるんなら、背を見せろ。……じゃなきゃ、始まらねぇ」
たったそれだけの言葉に、室内の空気が静かに、けれど確実に張り詰めていく。
その声には、神としての“意志”が確かに宿っていた。
重く、静かに──しかし、冗談の通じない本気の響きが、部屋の空気を染める。
男は、何も言わない。
ただ、真正面からオグマを見据えた。その視線は剣そのもの。迷いも怯えもない、凪のように静かな意志がそこにあった。
やがて──
彼はゆっくりと立ち上がると、無言のまま背を向けた。
その所作は、まるで答えなど言葉にする必要もない、とでも言うかのようで。語られぬ思いが、静かに背中に宿る。
まっすぐで、孤高で──どこか寂しげなその背は、紛れもなく“剣士”のものだった。
オグマの仮面の奥で、ふっ、と口角が持ち上がる。
にやりと、僅かに笑った。だが、それは一瞬のこと。
次の瞬間には、笑みは霧のように掻き消え──代わりに、場の空気そのものがぴんと張り詰めた。
空間が震える。
誰が息を呑んだかもわからぬほどの、沈黙。
音すら逃げ出すような静けさが、居間を支配していく。
神が“本気”を見せる時──それは、誰にも踏み入れられぬ聖域の扉が、そっと開かれる瞬間。
「──いいか?」
静かに、けれど空気を震わせるような声が、仮面の奥から漏れた。それは宣告のようで、祝詞のようで。何より、神託のごとき響きを持っていて。
「我が司る《言霊》の名において……今この瞬間より、お前を、我が眷属として迎え入れる」
その言葉と同時に、神の指先から── 一滴の赤が零れ落ちる。
それは紛れもなく、神血。
粛然と垂れたそれは、迷いなく男の背に触れ──
瞬間、世界が脈打つような衝撃が走った。
青白い光が、細い糸のように背へと這い、静かに輪郭を描き、淡く、確かに、輝いて──やがて、ふっと消える。
それは、確かに交わされた契約の証。
見届けながら、オグマはふわりと手を掲げ、まるで舞い踊るかのように指を走らせる。
神速で紡がれるのは、千年も前より受け継がれてきた“記録の詩”。神聖なる文字──祈りにも似た旋律──が、男の背へと刻まれていく。
その所作は儀式であり、祝福であり、詩であり、誓いだった。
立ち昇る神威は、居間の空気すら別物へと変え、重く、濃密な神の領域を作り出していく。
「さて……気になる初期ステイタスは、と──……おお……?」
オグマの指が、ぴたりと止まった。
その声音に含まれた微かな揺らぎ。演技ではない。いや、演技であってたまるかというほどの動揺が、そこには確かにあった。
仮面の奥──一瞬、神の気配が揺れる。
だがそれも、ほんの刹那。
「……なるほどね」
神はすぐさま仮面の下に笑みを戻し、何事もなかったかのように指を再び滑らせる。神速で記された刻印に、羊皮紙をぴたりと重ね、背から静かに剥がし取ると──それを、ふわりと掲げた。
「──完了」
その声は凛と澄み、儀式の終幕を告げる鐘のように響いた。
その瞬間、モルド、スコット、ガイルの三人が、反射的に前のめりになる。
「おおっ、ついに……ついに来たか……! 初めての、ユーの【ステイタス】──!」
期待と興奮が混ざったその声が、空気を震わせた次の瞬間。
だが──
「………………え?」
掲げられた羊皮紙。その記録には──
すべてが、空白だった。
スキルも、魔法も、能力値さえも。記されたのはただ、無垢な“零”の羅列。
あまりに整然とした“無”がそこに在った。
ユー
Lv.1
『力』 :I 0
『耐久』:I 0
『器用』:I 0
『俊敏』:I 0
『魔力』:I 0
《魔法》
【】
《スキル》
【】
──沈黙。
「…………え?」
最初に声を漏らしたのは、スコットだった。裏返った声が、あり得ない現実に空間を揺らす。
「ま、まっさら……!? ステイタス
ガイルはぽかんと口を開けたまま、まるで時が止まったかのように石像と化す。一方、モルドは眉間に皺を寄せながら、頭をわしづかみにして呻いた。
「おいおい……あんだけの剣筋とフィジカルしておいて……これが“ゼロ”? いや、夢か?」
そして。
場に衝撃と困惑が充満するなか、ひとり──真っ先に声を上げたのは、神だった。
「──ハッハッハッ!! 最高じゃねぇかァ!!」
椅子を軋ませ、身体を揺らしながら、オグマが高らかに笑い出す。仮面の奥、その瞳には驚愕も落胆もない。ただひたすらに──
“純粋無垢な歓喜”が、煌々と宿っていた。
「いいね、いいねぇ、実にいいッ! これぞまさしく“ゼロからの物語”だろうがァ!」
オグマの叫びが、弾けるように居間を満たす。
「これぞ、まさしく下界のロマンっ! これぞ、まさしく下界の未知ッ!!」
熱気が、空気を震わせた。
「まっさらなステイタス!? スキルも魔法もなし!? つまり、それって──」
勢いそのまま、椅子ごとひっくり返りそうになりながら跳ね起きた神が、両腕をこれでもかと広げる。
「無限の可能性しかねぇじゃねぇかァァァァッ!!」
もはや演説のように両手を振りかざし、仮面の奥から興奮を炸裂させる。
「ゼロから始まる空白のキャンバス! どんな未来が描かれる? どんな奇跡が飛び出す!? それをっ……この目で見届けられるってだけで……」
それは留まる事を知らず。
「ワクワクが……ドキドキが……止まらねぇッ!! なあ、モルド、スコット、ガイル! これヤバくね!? 俺、今すげぇ興奮してるんだけど!!」
拳を震わせ、息を弾ませるオグマ。まるで天啓を受けた預言者のごときテンションに、周囲の三人は──
「……ま、まあ、オグマ様が幸せそうなら……それでいいんじゃない?」
「情緒がジェットコースター通り越して、もう神話だよな、ほんとに」
「これが……毎日かよ……オレの胃、早死にするぞこれ……」
呆れと疲労と、ほんの少しの笑み。けれどその空気は、どこかあたたかい。興奮する神と、それに付き合う眷属たちの姿は、確かに“家族”のような何かを感じさせるものだった。
──その中心で。
ひときわ静かな存在がいた。
赤いマントを手に下げる名もなき剣士は、沈黙のまま。
何も語らず。何も誇らず。
ただそこに、確かに“在る”という事実だけで、存在感を放っていた。
だが──
その背には、青白く淡く揺らめく“神の文字”。
そして、その下に刻まれた一本の剣の紋章──神の恩恵と呼ばれるそれは、確かに燃え盛るように宿っていた。
まるで、運命を刻印された者の印。
神に選ばれ、己を選び返した者にのみ与えられる、唯一のしるし。
小さな部屋の空気が、ゆっくりと、だが確実に変わっていく。
世界が、静かに動き出した──その瞬間だった。
=====
騒がしい。
目の前の光景を眺めながら、私はそう思った。
視線の先、その中心。
今も尚、楽しげに、豪快に、高らかに笑い声を挙げる者。
──神だ。
「…………」
私は今、不思議な感情を抱いている。
神とはもっと遠く、崇高で、触れてはならぬ存在だと思っていた。
けれど目の前のその神は──実に人間くさい。
大声で笑い、無邪気に騒ぎ、時には仮面越しに真剣な眼差しすら覗かせる。
そして、そんな神を遠慮なく罵る眷属がいて、突っ込みを入れる者がいて、
茶化し合い、笑い合い、叱り合うその様子は──あまりに奔放だった。
常識など、ここでは意味をなさない。
……だが、不快ではなかった。
笑い声。冗談。くだらない、しかしどこか温かい会話の応酬。
そのすべてが、まるで異国の風景のように、私の知らぬ“世界”を淡く浮かび上がらせていく。
思い出せない。
けれど──確かに懐かしさのようなものが胸を撫でた。
……私は、かつてこんな風に誰かと笑い合ったことがあっただろうか?
それとも、最初からそんな感情すら知らずに生きてきたのか?
答えは出ない。記憶の霧は晴れない。
けれど、この賑やかな空間が、どこか遠くに置き忘れた光景に似ている気がして──
私は、ほんのわずかに目を細めた。
私はただ、『声』を追い続ける存在だ。
名前も、記憶も、過去のすべてを喪ってなお、この魂に刻まれた、唯一つの祈りのような願い。
それだけを頼りに、私は生きている。
だから、本来──彼らと関わる理由など、どこにもなかったはずだ。
巻き込むべきではない。
利用するべきでもない。
孤独に、無言で、ひたすらに歩み続ける。それが、私という存在の在り方だった。
──なのに。
胸の奥が、かすかに疼く。
それは鋭い痛みではない。
むしろ、触れたくなるほどに、どこか温かい痛みだった。
柔らかな火種のように、ひそやかに、私の中で灯っている。
「…………」
あの剣士は、手を伸ばしてきた。
全身全霊でぶつかり、膝を折って、頭を垂れ──そして、言葉をくれた。
“共に戦いたい”と。
“仲間でいたい”と。
滑稽だった。未熟だった。戦いにはならなかった。
それでも──あの目は、真っ直ぐだった。
迷いも、嘘も、一片もなかった。
あの視線に。
あの声に。
私は、きっと……ほんの僅かに、救われてしまったのだろう。
だから──
少しくらい、歩調を合わせてみるのも悪くはない。
そう、思ってしまった自分がいた。
「…………」
この道が、果たして回り道なのか、それとも思いがけぬ近道なのか──それは、まだわからない。
けれど。
彼らと交わす、この一歩一歩が。
やがてあの『声』へと至る架け橋になるのならば──その刹那の重なりこそ、意味を持つのかもしれない。
だから今は、ただ目を向ける。
戯れ合う神と、その子らを。
あまりに脆く、雑で、喧しい。それでも……温もりだけは確かに、そこにあった。
まだ遠い。だが、手が届かぬ距離ではない。
指先の先──もう少し、踏み込めば触れられる場所に。
「…………」
……無論、私の本質は揺るがない。
進むべき道は変わらない。
邪魔をする者は斬る。
道を阻むなら排除する。
存在を消し、二度と前に立たせない──それが、例え何者であったとしても。
だが今、少なくともこの瞬間。
私は彼らを、“障害”とは認識していなかった。
──『声』は、今もなお、どこかで私を呼んでいる。
それが幻だったとしても。
辿り着いた先に終焉が待っていようとも。
それでも、私は止まれない。
立ち止まる理由が、どこにもないのだから。
進む。
ただ、それだけを胸に刻んで。
──そして、これはまだ“終わり”ではない。
きっと、ようやく立ったばかりなのだ。
この世界での、本当の“始まり”に。
『守護者の剣 Lv.48 』(攻撃力+480%)
『グラム Lv.4 』(攻撃力+200%)
『守護者の鎧 Lv.63 』(最大HP+630%)
『キュイラス Lv.11 』(最大HP+1100%)
『ファントムブレード Lv.3 』(攻撃速度+9%)
『セブンリーグブーツ Lv.3 』(移動速度+9%)
『ククルカンの宝玉 Lv.1 』(メテオ威力+10%)
『肉×18』
『魚×18』
『野草×25』
『澄んだ水×13』
『野キノコ×10』
『イチゴ×9』
『ブドウ×11』
『空のボトル×18』
『キャベツ×12』
『トマト×12』