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作:生まれてきてくれてありがとう
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第7話 : 神の契約


 

 夕暮れの陽が、障子越しに淡く滲んでいた。

 木造の古家──その居間にて、年季の入った丸卓を囲むのは、三人の冒険者と一柱の神。

 

 外では風が木々の葉を優しく揺らし、軒先の風鈴が、涼やかに一度、鳴った。

 

 その音が、静寂に小さな波紋を落とす。

 

 空気は静謐。それでいて、何かが始まる予兆のような緊張を孕んでいて。

 言葉のかわりに、それぞれのまなざしが、卓の中央に交差していた。

 

 そして──

 

「……これで、全員の意志が揃ったな」

 

 そう口を開いたのは、仮面の奥に笑みを隠した獅子の神。

 その声音は、普段の飄々とした軽やかさとは異なり、どこか儀式の始まりを告げるかのように静かで、確かなものだった。

 

 神──いや、オグマは畳の上に胡坐をかき、仮面の奥で何かを愉しむような気配を漂わせて。

 そして、にやりと口角を吊り上げる。

 

「──ってことはつまり。正式にパーティ組むってことで、いいんだよな? いや、いっそ……うちのファミリアに加入、ってことでいいのか?」

 

 その提案めいた問いに、モルドが鼻を鳴らした。

 そして、どこか誇らしげに肩を揺らし、言い切るように応じる。

 

「ケンカ売ったからにはよ、もう背中預けるしかねぇだろ。……こっちはもう、とっくに腹ァ括ってるぜ」

 

 その横で、スコットが小さく肩をすくめる。肘を卓に乗せ、涼しげに笑ってみせた。

 

「本当なら、こっちから無理やり付きまとってやる気満々だったけどね……本人の意志があるなら、それに越したことはないし〜。ほら、うちの新人、なかなかイケてるでしょ?」

 

 まるで自慢の弟でも紹介するような口ぶりだったが、それに静かにツッコミを入れたのは、ガイル。

 

「いや、新人って言うには……規格外だろ、どう考えても。俺ら三人、束になっても絶対敵わない位の……」

 

 言いながら、どこか呆れたような、でも悔しさを滲ませたような笑みが浮かんでいて。

 

「……ま、すぐに追いつくけどな」

 

 軽口のはずなのに、不思議と本気が滲んでいた。

 

 その一言に、場の空気がふっと緩む。

 互いを認め、受け入れる者たちだけが生み出せる、確かな温度がそこにはあった。

 

 夕暮れの光が、傾いた障子の隙間からやさしく射し込む。

 木目の浮いた丸卓に、温もりのような朱を落としながら──静かに、その場を包み込む。

 

 その柔らかな光に照らされながら。

 輪の中でひときわ静かに佇む、赤いマントの男が口を開いた。

 

「……よろしく頼む」

 

 それは、ひどく控えめで、聞き逃してしまいそうなほど小さな声だった。

 

 ──けれど、それでよかった。

 

 その声は確かに、そこにいた全員の心へと届いて。

 言葉という器では収まりきらない、静かで、まっすぐな意志がそこにはあったから。

 

 胸の奥が、じんわりとあたたまっていく。

 それは火種のような、けれど確かに消えることのない炎。

 

 照れ隠しのように、あるいは誇らしげに。

 三人の冒険者たちは、誰からともなく微笑んだ。

 

 その笑みにはもう、最初のぎこちなさはなく。

 ──同じ卓に座る仲間としての、誇りと信頼が、そこにあった。

 

 一瞬の静寂が、場を包む。

 

 しかし、その余韻を、祝福の音が打ち破った。

 

 オグマがぱんっと両手を打ち鳴らす。

 まるでそれは、契りを祝う神殿の鐘。軽やかでありながら、どこか神秘を孕んだ響き。

 

「いや〜、いいねいいねぇ! これぞ“始まり”ってやつよ!」

 

 神は、愉快そうに胡坐をかいたまま天井を仰ぐ。

 仮面の奥から放たれる声音には、戯けたような調子が含まれていたが──その裏には、明確に確信と敬意が宿っていた。

 

「小さな火種でも、物語ってのはいつだってそこから燃え上がる。お前ら今、しっかりと序章の一行を刻んだぜ。いや〜、たまらんねぇ!」

 

 言葉を紡ぎながらも、その視線はまっすぐに四人をを射抜き。

 ふざけた口調とは裏腹に、その目だけは真剣そのもの。

 ──遊びの顔で語る、神の本気。神性の輪郭が、微かに滲む。

 

 そして、ぽつりと呟いた。

 

「さて、それじゃあ……最後の仕上げといこうか」

 

 そう言って立ち上がったオグマは、懐から一本の針を取り出す。

 

 金でも銀でもない。飾り気もなければ、魔力の輝きもない。

 ただの、鉄針。

 裁縫にも使えぬ、粗雑なそれは──

 

 しかし、神の手に握られた瞬間。

 その意味が変わる。

 

 無色のそれは、確かに“神具”と化していた。

 人と神が契りを交わすための、ただ一度きりの儀式の道具に。

 

「名もなき剣士よ。ようこそ──【オグマ・ファミリア】へ」

 

 仮面越しの声音は、驚くほどに静かだった。

 だが、その響きは確かに、雷鳴のように部屋の空気を震わせて。

 

「俺の子として、正式に迎え入れる」

 

 祝福の言葉と共に、オグマは手を伸ばす。

 その動きは厳かで、迷いなく──まるで儀式という舞台での、一糸乱れぬ所作のようだった。

 

 その指先が、いままさに男の背へと触れようとした──その刹那。

 

「待て」

 

 場の空気を裂くように、ひとつの声が響いた。

 

 低く、鋭く。だが不思議と澱みのない、研ぎ澄まされた音色。

 まるで刃が鞘から抜かれる瞬間のような、静謐な緊張を孕んでいて。

 

 それは、紛れもなく彼の声だった。

 

 その一言だけで、場の空気が一変する。

 祝福の空気は凍りつき、神の手がぴたりと宙に止まった。

 

 男の瞳は、迷いなく神を見据えていた。

 揺れることも、逸れることもない。

 そこに宿るのは、揺るがぬ意志。ただ、それだけ。

 

「縛られるのであれば、必要ない」

 

 静かに、しかし明確に放たれたその一言は、契約を拒絶するという単なる意思表示ではなかった。

 

 それは、己の在り方を貫く宣言。

 何者にも縛られず、どのような支配にも屈さず。

 己の足で進み、己の刃で道を切り開く。

 それが、この男が選んだ“生”だった。

 

「行動の制限。義務。命令。そうしたものに囚われるのであれば、神の恩恵など──私には不要だ」

 

 一語一語を噛みしめるように紡がれた声は、静かだった。

 けれどその静けさこそが、鋼よりも硬い意志の証明。

 

 言葉の奥に滲んでいたのは、誇りと孤独、そして深い喪失。

 誰にも癒されることのなかった傷を、その背に隠した者だけが持つ、凛とした冷たさだった。

 

 その瞬間、居間の空気が凍りつく。

 まるで世界そのものが、言葉の重さに圧し潰されたかのように。

 

 息を呑む音さえ消えた。

 誰もが言葉を失い、動けずにいた。

 

 ──ただ、一柱の神を除いて。

 

「──バァァカッ!!」

 

 間髪入れず、爆発のような声が響いた。

 それと同時にオグマが仰々しく立ち上がり、肩を揺らして笑いながら、ぴしりと指を突き出す。

 

 その矛先は、言うまでもなく──三人の眷属たち。

 

「見てみろよ、この自由気ままなバカどもを! 命令? 規律? なにそれおいしいの? 俺の話なんざ一度でもまともに聞いたことあるかァ!? こいつら!」

 

 仮面の奥から覗く眼差しは、呆れかえるどころかむしろ楽しげにすら光っていた。

 その言葉にすかさず、三人の冒険者が一斉に噛みつく。

 

「失礼ね!? 一応報告・連絡・相談は心がけてるんですけど!?」

「俺もそんな適当じゃねぇっ!!」

「……いや、モルドはまぁ、確かに当てはまるかもな」

 

 スコットは怒鳴り、モルドは吠え、そしてガイルは素直すぎるほどに認めた。

 

 瞬間、弾けたように笑いが満ちた。

 張り詰めた空気は音を立てて崩れ、居間には、家族のような温もりが広がっていく。

 

 その中心で、オグマは仮面の奥に満足げな笑みを浮かべながら、ぽつりと──

 

「なぁ、ユー。お前もいずれ、あんなふうにテキトーになれよ?」

 

 それは冗談とも、願望ともつかぬ、神のささやき。

 だが、確かに彼の本心だった。

 

 そして、その軽口の余韻が消えぬうちに──ふいに空気が変わった。

 

 ふざけていたはずの声音が、急激に色を失っていく。

 仮面の奥、獅子の瞳がじり、と細められ、まるで狩人が標的を見据えるように鋭さを帯びた。

 

「それに、だ──」

 

 その一言は、まるで森を割って響く獣の咆哮。

 理性と好奇の狭間で微笑む神の本質が、ついにその姿を覗かせた。

 

「【神の恩恵】を持たず、【ステイタス】にも頼らず……それでいて、あれだけの剣筋──」

 

 語尾が尾を引くように揺れる。

 その唇は、歓喜にも近い興奮でわずかに吊り上がっていた。

 

 静かな語り口に秘められたのは、ただの賞賛ではない。

 ──それは、飢えだ。

 未知という名の“答え”を欲する、神の本能そのもの。

 

「──ならば問おう」

 

 声色が変わった。

 仮面の奥から漏れる響きは、まるで契約の儀を始める巫のように静かで、しかし底に澱のような熱を孕んでいて。

 

「もしお前が──【ファルナ】を宿したらどうなる?」

 

 一拍置いて、言葉が続く。

 

「【ステイタス】を得たお前に、どれほどの“変化”が訪れる? どんな【スキル】が芽吹き、どんな【魔法】が目覚める? どれだけの“可能性”が、その身に封じられている……?」

 

 それは、問いというより、もはや呪文だった。

 神が、自らの欲望を包み隠さず吐露する、神託にも似た宣言。

 

 ──その声音には、抑えきれぬ“渇き”が滲んでいた。

 

 空間にいた誰もが、瞬間的に悟る。

 

 この男は本気だ、と。

 

 ふざけたように見せかけた仮面の裏に、確かに“神性”が宿っている。

 

 それは欲望。けれど、俗世のそれとは明確に一線を画す。

 

 ──それは、神にしか持ち得ない“原初の衝動”。

 

 すなわち、『未知』への飽くなき探求。

 未踏の領域を切り開く歓喜。

 未定義の存在を、最初に定義するという悦び。

 

「この下界にまだ、こんな逸材が埋もれていたとはなぁ……」

 

 感嘆とも、溜息ともつかぬ調子で呟いたその声に、仮面の奥の瞳が細められる。

 

 ──そして、その視線を正面から受け止めていたのは、赤き剣士。

 

 ユーはただ、静かに。

 言葉を返すこともなく、感情を見せることもなく。

 けれど、確かに、神の視線を拒むことなく受け止めていた。

 

「……なぁ」

「……確かに、気になるわね」

「俺も……ちょっとワクワクしてきたかもな」

 

 モルド、スコット、ガイル──三者三様に口を開いたその声には、戸惑いと興味、そして胸の奥に灯った小さな火のような高揚が混じっていた。

 

 未知の扉が、音もなくゆっくりと開かれようとしている。

 

 その先に待つものが希望か、それとも災厄か──そんなことは、きっと誰にもわからない。

 

 だが、それでも彼らは目を逸らさなかった。

 

「ま、デメリットなんざ、これっぽっちもねぇよ」

 

 立ち上がっていたオグマは座り直し、胡坐をかいたまま、肩を軽くすくめて笑う。

 

「強いて言えば……俺のダジャレが今後ちょっとだけ増えるくらいか? ま、それは覚悟して耐えてくれや」

 

 悪びれる様子もなく、どこか楽しげに。いたずら好きな子供のような声音で──だがその目だけは、鋭く真っ直ぐに“その者”を射抜いていた。

 

 次の瞬間。

 

 神は、自らの指に、針を突き立てた。

 

 ぷつり、と音を立てて、滲む赤。

 

 それはただの血ではない。天より流れし者がこの地に滴らせた、契約と奇跡の『神の血(イコル)』。

 

 仮面の奥から、凛とした声が響いた。

 

「さあ──覚悟があるんなら、背を見せろ。……じゃなきゃ、始まらねぇ」

 

 たったそれだけの言葉に、室内の空気が静かに、けれど確実に張り詰めていく。

 

 その声には、神としての“意志”が確かに宿っていた。

 

 重く、静かに──しかし、冗談の通じない本気の響きが、部屋の空気を染める。

 

 男は、何も言わない。

 

 ただ、真正面からオグマを見据えた。その視線は剣そのもの。迷いも怯えもない、凪のように静かな意志がそこにあった。

 

 やがて──

 

 彼はゆっくりと立ち上がると、無言のまま背を向けた。

 

 その所作は、まるで答えなど言葉にする必要もない、とでも言うかのようで。語られぬ思いが、静かに背中に宿る。

 

 まっすぐで、孤高で──どこか寂しげなその背は、紛れもなく“剣士”のものだった。

 

 オグマの仮面の奥で、ふっ、と口角が持ち上がる。

 

 にやりと、僅かに笑った。だが、それは一瞬のこと。

 

 次の瞬間には、笑みは霧のように掻き消え──代わりに、場の空気そのものがぴんと張り詰めた。

 

 空間が震える。

 

 誰が息を呑んだかもわからぬほどの、沈黙。

 

 音すら逃げ出すような静けさが、居間を支配していく。

 

 神が“本気”を見せる時──それは、誰にも踏み入れられぬ聖域の扉が、そっと開かれる瞬間。

 

「──いいか?」

 

 静かに、けれど空気を震わせるような声が、仮面の奥から漏れた。それは宣告のようで、祝詞のようで。何より、神託のごとき響きを持っていて。

 

「我が司る《言霊》の名において……今この瞬間より、お前を、我が眷属として迎え入れる」

 

 その言葉と同時に、神の指先から── 一滴の赤が零れ落ちる。

 

 それは紛れもなく、神血。

 

 粛然と垂れたそれは、迷いなく男の背に触れ──

 

 瞬間、世界が脈打つような衝撃が走った。

 

 青白い光が、細い糸のように背へと這い、静かに輪郭を描き、淡く、確かに、輝いて──やがて、ふっと消える。

 

 それは、確かに交わされた契約の証。

 

 見届けながら、オグマはふわりと手を掲げ、まるで舞い踊るかのように指を走らせる。

 

 神速で紡がれるのは、千年も前より受け継がれてきた“記録の詩”。神聖なる文字──祈りにも似た旋律──が、男の背へと刻まれていく。

 

 その所作は儀式であり、祝福であり、詩であり、誓いだった。

 

 立ち昇る神威は、居間の空気すら別物へと変え、重く、濃密な神の領域を作り出していく。

 

「さて……気になる初期ステイタスは、と──……おお……?」

 

 オグマの指が、ぴたりと止まった。

 

 その声音に含まれた微かな揺らぎ。演技ではない。いや、演技であってたまるかというほどの動揺が、そこには確かにあった。

 

 仮面の奥──一瞬、神の気配が揺れる。

 

 だがそれも、ほんの刹那。

 

「……なるほどね」

 

 神はすぐさま仮面の下に笑みを戻し、何事もなかったかのように指を再び滑らせる。神速で記された刻印に、羊皮紙をぴたりと重ね、背から静かに剥がし取ると──それを、ふわりと掲げた。

 

「──完了」

 

 その声は凛と澄み、儀式の終幕を告げる鐘のように響いた。

 

 その瞬間、モルド、スコット、ガイルの三人が、反射的に前のめりになる。

 

「おおっ、ついに……ついに来たか……! 初めての、ユーの【ステイタス】──!」

 

 期待と興奮が混ざったその声が、空気を震わせた次の瞬間。

 

 だが──

 

「………………え?」

 

 掲げられた羊皮紙。その記録には──

 

 すべてが、空白だった。

 

 スキルも、魔法も、能力値さえも。記されたのはただ、無垢な“零”の羅列。

 

 あまりに整然とした“無”がそこに在った。

 

 


 

 ユー

 Lv.1

 

『力』 :I 0

『耐久』:I 0

『器用』:I 0

『俊敏』:I 0

『魔力』:I 0

 

《魔法》

【】

 

《スキル》

【】

 


 

 

 ──沈黙。

 

「…………え?」

 

 最初に声を漏らしたのは、スコットだった。裏返った声が、あり得ない現実に空間を揺らす。

 

「ま、まっさら……!? ステイタス全部(オール)ゼロ!? スキルも魔法も何にもない……だと!?」

 

 ガイルはぽかんと口を開けたまま、まるで時が止まったかのように石像と化す。一方、モルドは眉間に皺を寄せながら、頭をわしづかみにして呻いた。

 

「おいおい……あんだけの剣筋とフィジカルしておいて……これが“ゼロ”? いや、夢か?」

 

 そして。

 

 場に衝撃と困惑が充満するなか、ひとり──真っ先に声を上げたのは、神だった。

 

「──ハッハッハッ!! 最高じゃねぇかァ!!」

 

 椅子を軋ませ、身体を揺らしながら、オグマが高らかに笑い出す。仮面の奥、その瞳には驚愕も落胆もない。ただひたすらに──

 

 “純粋無垢な歓喜”が、煌々と宿っていた。

 

「いいね、いいねぇ、実にいいッ! これぞまさしく“ゼロからの物語”だろうがァ!」

 

 オグマの叫びが、弾けるように居間を満たす。

 

「これぞ、まさしく下界のロマンっ! これぞ、まさしく下界の未知ッ!!」

 

 熱気が、空気を震わせた。

 

「まっさらなステイタス!? スキルも魔法もなし!? つまり、それって──」

 

 勢いそのまま、椅子ごとひっくり返りそうになりながら跳ね起きた神が、両腕をこれでもかと広げる。

 

「無限の可能性しかねぇじゃねぇかァァァァッ!!」

 

 もはや演説のように両手を振りかざし、仮面の奥から興奮を炸裂させる。

 

「ゼロから始まる空白のキャンバス! どんな未来が描かれる? どんな奇跡が飛び出す!? それをっ……この目で見届けられるってだけで……」

 

 それは留まる事を知らず。

 

「ワクワクが……ドキドキが……止まらねぇッ!! なあ、モルド、スコット、ガイル! これヤバくね!? 俺、今すげぇ興奮してるんだけど!!」

 

 拳を震わせ、息を弾ませるオグマ。まるで天啓を受けた預言者のごときテンションに、周囲の三人は──

 

「……ま、まあ、オグマ様が幸せそうなら……それでいいんじゃない?」

「情緒がジェットコースター通り越して、もう神話だよな、ほんとに」

「これが……毎日かよ……オレの胃、早死にするぞこれ……」

 

 呆れと疲労と、ほんの少しの笑み。けれどその空気は、どこかあたたかい。興奮する神と、それに付き合う眷属たちの姿は、確かに“家族”のような何かを感じさせるものだった。

 

 ──その中心で。

 

 ひときわ静かな存在がいた。

 

 赤いマントを手に下げる名もなき剣士は、沈黙のまま。

 

 何も語らず。何も誇らず。

 

 ただそこに、確かに“在る”という事実だけで、存在感を放っていた。

 

 だが──

 

 その背には、青白く淡く揺らめく“神の文字”。

 

 そして、その下に刻まれた一本の剣の紋章──神の恩恵と呼ばれるそれは、確かに燃え盛るように宿っていた。

 

 まるで、運命を刻印された者の印。

 

 神に選ばれ、己を選び返した者にのみ与えられる、唯一のしるし。

 

 小さな部屋の空気が、ゆっくりと、だが確実に変わっていく。

 

 世界が、静かに動き出した──その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 =====

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騒がしい。

 

 目の前の光景を眺めながら、私はそう思った。

 視線の先、その中心。

 今も尚、楽しげに、豪快に、高らかに笑い声を挙げる者。

 

 ──神だ。

 

「…………」

 

 私は今、不思議な感情を抱いている。

 

 神とはもっと遠く、崇高で、触れてはならぬ存在だと思っていた。

 

 けれど目の前のその神は──実に人間くさい。

 大声で笑い、無邪気に騒ぎ、時には仮面越しに真剣な眼差しすら覗かせる。

 そして、そんな神を遠慮なく罵る眷属がいて、突っ込みを入れる者がいて、

 茶化し合い、笑い合い、叱り合うその様子は──あまりに奔放だった。

 

 常識など、ここでは意味をなさない。

 

 ……だが、不快ではなかった。

 

 笑い声。冗談。くだらない、しかしどこか温かい会話の応酬。

 そのすべてが、まるで異国の風景のように、私の知らぬ“世界”を淡く浮かび上がらせていく。

 

 思い出せない。

 けれど──確かに懐かしさのようなものが胸を撫でた。

 

 ……私は、かつてこんな風に誰かと笑い合ったことがあっただろうか? 

 それとも、最初からそんな感情すら知らずに生きてきたのか? 

 

 答えは出ない。記憶の霧は晴れない。

 けれど、この賑やかな空間が、どこか遠くに置き忘れた光景に似ている気がして──

 

 私は、ほんのわずかに目を細めた。

 

 私はただ、『声』を追い続ける存在だ。

 名前も、記憶も、過去のすべてを喪ってなお、この魂に刻まれた、唯一つの祈りのような願い。

 それだけを頼りに、私は生きている。

 だから、本来──彼らと関わる理由など、どこにもなかったはずだ。

 

 巻き込むべきではない。

 利用するべきでもない。

 孤独に、無言で、ひたすらに歩み続ける。それが、私という存在の在り方だった。

 

 ──なのに。

 

 胸の奥が、かすかに疼く。

 

 それは鋭い痛みではない。

 むしろ、触れたくなるほどに、どこか温かい痛みだった。

 柔らかな火種のように、ひそやかに、私の中で灯っている。

 

「…………」

 

 あの剣士は、手を伸ばしてきた。

 全身全霊でぶつかり、膝を折って、頭を垂れ──そして、言葉をくれた。

 

 “共に戦いたい”と。

 “仲間でいたい”と。

 

 滑稽だった。未熟だった。戦いにはならなかった。

 それでも──あの目は、真っ直ぐだった。

 迷いも、嘘も、一片もなかった。

 

 あの視線に。

 あの声に。

 私は、きっと……ほんの僅かに、救われてしまったのだろう。

 

 だから──

 少しくらい、歩調を合わせてみるのも悪くはない。

 そう、思ってしまった自分がいた。

 

「…………」

 

 この道が、果たして回り道なのか、それとも思いがけぬ近道なのか──それは、まだわからない。

 

 けれど。

 彼らと交わす、この一歩一歩が。

 やがてあの『声』へと至る架け橋になるのならば──その刹那の重なりこそ、意味を持つのかもしれない。

 

 だから今は、ただ目を向ける。

 戯れ合う神と、その子らを。

 あまりに脆く、雑で、喧しい。それでも……温もりだけは確かに、そこにあった。

 

 まだ遠い。だが、手が届かぬ距離ではない。

 指先の先──もう少し、踏み込めば触れられる場所に。

 

「…………」

 

 ……無論、私の本質は揺るがない。

 進むべき道は変わらない。

 邪魔をする者は斬る。

 道を阻むなら排除する。

 存在を消し、二度と前に立たせない──それが、例え何者であったとしても。

 

 だが今、少なくともこの瞬間。

 私は彼らを、“障害”とは認識していなかった。

 

 ──『声』は、今もなお、どこかで私を呼んでいる。

 

 それが幻だったとしても。

 辿り着いた先に終焉が待っていようとも。

 それでも、私は止まれない。

 立ち止まる理由が、どこにもないのだから。

 

 進む。

 ただ、それだけを胸に刻んで。

 

 ──そして、これはまだ“終わり”ではない。

 

 きっと、ようやく立ったばかりなのだ。

 

 この世界での、本当の“始まり”に。

 

 

 


 

 

 

 

『守護者の剣 Lv.48 』(攻撃力+480%)

『グラム Lv.4 』(攻撃力+200%)

『守護者の鎧 Lv.63 』(最大HP+630%)

『キュイラス Lv.11 』(最大HP+1100%)

『ファントムブレード Lv.3 』(攻撃速度+9%)

『セブンリーグブーツ Lv.3 』(移動速度+9%)

『ククルカンの宝玉 Lv.1 』(メテオ威力+10%)

『肉×18』

『魚×18』

『野草×25』

『澄んだ水×13』

『野キノコ×10』

『イチゴ×9』

『ブドウ×11』

『空のボトル×18』

『キャベツ×12』

『トマト×12』

 

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