「いらっしゃ〜い」
商品の仕入れと水泳練習として滝登り*1をしてから店を広げて早々にお客さんが来た。
すごく可愛い女の子が来た。この水の階層では珍しいがかなり前に見かけたエルフの集団よりは珍しくない。
「本当に商売してるの?」
「やってるよ〜地面に置いてあるのは全て商品だから買いたいものや聞きたいものがあったらいってね〜」
悪意は感じない。それどころかワタシの巻き巻きしている尻尾に触りたがっているぐらいだ。
「これが噂になってる魔道具なの?」
陽気な子の後ろから髪の長い褐色肌の美人さんが現れる。同じ地域の人なのかな?いや、顔も似てるし姉妹かも。だとしたら陽気な子のお姉ちゃんかな。
「どんな噂かは知らないけど使い切りの魔道具だよ〜。例えば今持ってるそれは『とびつきだま』直線上で1番近くにいる相手に飛びつくよ〜。近くに誰もいなかったら壁に飛びつくから気をつけね〜」
「えー、なんか微妙だね」
「ワタシもそう思ってるよ〜。だから値段は10000ヴァリスなんだ」
ポケダンでも使い道があんまりなかったアイテムだけど、この世界だともっとないんだよね。不思議なダンジョンみたいな一直線の道は少ないし壁に当たると普通に痛い。ワタシも使い道がわからなくて困ってるんだよね。捨てるにしても場所がないし、あのフェルズって人にサンプルとしてすでに渡したから売る以外ないんだよね。でも売れない……。
「これ買ってもいいかしら?」
「いいよ〜。でも本当にそれでいいの?」
「ええ。使い道は思いついたから。それで支払いは魔石か現金なのよね?」
「そうだよ〜。魔石がなければアイテムの買い取りもしてるからドロップアイテムも現金にした後使えるよ」
美人さんが袋から取り出した魔石を受け取る。フェルズさんって人から商売をやるならと貰った、魔石の値段やどのモンスターが落とした魔石なのかなどを書いてある本とドロップアイテムの換金について書かれた本で得た知識どおりに査定する。およそ10000ヴァリスだ。正確に言えば10523ヴァリス。ほぼニアピンになるように渡せるのは彼女たちの経験から来るものなのだろう。
「はい、お釣りの523ヴァリスです〜♪」
「これを使って事故に見せかければ団長と……」
うーん、聞かなかったことにしよう。ワタシはモンスターだからちょっと人間の事情はわからない。人間にはこの『とびつきだま』の使い道があるのだろう。
「それでキミは何か買っていく?」
「キミじゃなくてティオナって呼んでよ」
「わかったよ〜ティオナ」
「それで店主さん!この青いスカーフってなんなの?これも魔道具?」
「それは『ぼうぎょスカーフ』だよ〜。耐久が上がるよ〜」
「ステイタスが直接上がるなんて面白い魔道具だな〜!アイズもこっちきて見てみなよ!面白い品いっぱいあるよ!」
そうティオナが叫ぶと岩陰に隠れていた金髪の女の子が姿を現す。アイズと呼ばれた子はティオナとは反対にワタシに対して特に警戒しているように感じ取れた。
ワタシは悪いモンスターじゃないんだけどな。人も襲わないし騙さない。ただ商売を楽しんでいるだけ。こんな善良なモンスターこのダンジョンで他にいないと思うんだけどな〜。
「いらっしゃ〜い。剣は抜いたままでいいけど商品を壊さないでね〜」
「………」
警戒を解くためには信用させることじゃない。相手を理解して許容することだ。……と昔読んだ本に書いてあったことを実践した。
「そういえば店主さんってどうやって商品見分けてるの?水晶玉タイプの魔道具もスカーフタイプの魔道具も全部同じ色なのに…」
「ワタシはティオナよりも目がいいからね〜」
目がいいと言っても動体視力や距離の話ではない。色彩感覚の話だ。ワタシはこの体になって気付いたのだが人間には認識できていない色がいっぱいある。人間には認識できない色が混ざっているおかげでスカーフも不思議だまも色が少し違って見えるのだ。
ちなみに初めて作ったやつはどの効果のやつかわからないから色を覚えたら自分で使って効果を見てから、次作れた時に店に並べるようにしている。
「強くてオススメの商品とかないの?アイズも気になるでしょ」
「うん……」
うーん強くてオススメか……。難しい注文だ。ワタシはこの世界についてよく知らない。ダンジョンについては人一倍詳しいと思うがそれは構造やモンスターについてであって、この世界のダンジョンの仕組みなどについてはないに等しい。
そして戦いにおいてもワタシは人間の闘い方を知らない。元は人間とはいえ、前世で喧嘩すらしたことがないワタシがアドバイスできる戦い方はカクレオンとしての戦い方ぐらいだろう。
たぶんレベルアップのシステムもワタシと彼女たちでは違う。話によれば現在生きている最高レベルは7だとか。レベル1つ上げるのに数年かかる世界。でもワタシは覚えている技的にレベル50は超えている。なんなら100になっている自信すらある。それでもこの前見たレベル4の冒険者とそこまでの差があるように感じなかった。
ワタシが使うから強い物。ポケダンだから強い物。このダンジョンだから強い物。彼女たち人間が使うから強い物。その見極めが肝心となるだろう。
ワタシは熟考の末に3つのアイテムを提示した。
「一つ目は『ひかりのたま』。使えばその階層全体が見渡せて敵と落ちているアイテムが全てわかるよ。ついでに下へ続く階段の位置も〜」
「何それ超便利じゃん!落とし物しても見つけられるし使いながら地図書けばマッピングしやすいし」
なるほど。この世界だと地図を自分たちで書く必要があるのか。いや、地形は変わらないしどうなんだろう。地上で他のパーティーが書いた地図とか売ってないのか?それとも未到達の階層で使うのかな?
「二つ目は『スペシャルリボン』装備している間、魔法の威力が高くなるよ〜」
「私たちにはあまり関係は無さそうだけど、リヴェリアやレフィーヤは喜ぶんじゃないかしら?」
たぶん魔法職の人たちかな。まあ、この子達は全員剣を持ってるから近接なんだろうな。特にティオナが持ってる武器とか身長よりも大きい双刃刀だし見た目以上にパワーあるんだろうな。まあ、それは人のこと言えないけど。
「最後は『マッハリボン』これはシンプルで、足が速くなるよ〜」
「速くなるってどのくらい……?」
「ごめんね〜ワタシも詳しくはわからないんだ」
わからない。ポケダンだと20上がるとかだった気がする。他のバフアイテムもよくわかっていない。本編だとプラス6からマイナス6までバフあって一つ変わるごとに0.5倍上下するのだが、ポケダンの仕様だとどうだったか、全然わからない。ワタシは雰囲気でポケモン不思議のダンジョンをしている。
「それじゃあさ!試しに付けてみてもいい?それなら具体的にどれだけ速くなったのかわかるし、商品がよかったらあたしたちが買うかもしれないし」
「う〜ん、お試しか……」
カクレオンの商人としてはお金を払わずにこの絨毯を出た瞬間、目の前にテレポートして払えなかったら地獄を見てもらいたい。でも具体的な人間側の数値を知りたいのも事実だ。
「だめ……?」
「……付けたまま逃げないでね」
ワタシは渋々ながら許可を出してしまった。
これは仕方ないと思う。お人形さんみたいに綺麗な子が首を傾げながらオモチャで遊びたい子供みたいに聞いてくるんだもの。
「行ってきます……」
アイズが可愛らしいリボンを身につけずに走り去っていく。
これは検証のためだ。同じルートを走ってリボンを装備した状態と装備していない状態で比べた時にどれだけ時間に差が生まれるかも知るためだ。これが1番わかりやすい。
後は装備した本人が速さの上昇を実感できるのかも知りたい。ワタシは実感できたし、そこそこ素早くなった気がした。彼女はどうだろうか?
この階層を二周回り終えたアイズからリボンを回収しながら感想を書くことにした。
「どうだった〜?」
「速くなってた……」
「本当に!?めちゃくちゃすごいじゃん!」
それって速いのだろうか、遅いのだろうか。ワタシ自身スピードに拘った機会があまりないからよくわからない。でも勝負の世界でこれだけ上がるのなら申し分ないのでは?
「たぶん……ステータスが20近く上がってる……」
「付けるだけで20も上がるなんて…」
「レベル5のアイズがそれだけ上がるならレベル1なら200ぐらい上がるかも!」
「多分それはないかな〜。20固定だと思うよ〜」
「それはそれで強そうね。レベルが上がっても使い続けられるわけだし」
確かにそういう見方もあるのか。やはり人間の感想を聞くことも大切だな。カクレオンだけではわからないことだらけだ。
「これいくら……?」
「それはね〜30万ヴァリス」
「30万……」
今ある商品の中で1番高い物だ。1ヴァリスが日本円で何円なのかはわからないけど魔石の価格などから計算して少し高そうな値段設定にした。着けているだけでステータスが上がるアイテムは珍しいそうで高値で売れると思っているからだ。
でもワタシの考えは甘かったらしい。
「安すぎない?」
「安いわね」
「良心的値段……」
もしかしてワタシってやらかしているのか?
「この値段って安いの?」
「かなり安いよね。魔道具って基本的にもっと高い印象」
「そうね。使い切りも効果の割に安いし、このリボンなんて防具と違って身につけるのに簡単でこのぐらいの効果があるのならもっと高くてもおかしくはないわ」
そうだったのか。自分が作った魔道具以外の魔道具なんて一つしか見たことないし、売っているところもない。そのせいで値段設定を間違えてしまってらしい。
まあ、それでもこれから値上げするつもりはあっても今はしない。教えてくれたのも善意だろうし授業料だと思えば格安だろう。
「それで30万ヴァリスのお支払いはどうするの〜?魔石にするかい?」
「うん……足りなかったらドロップアイテムも買い取って……」
「はいは〜い」
受け取った魔石とドロップアイテムを全て、マニュアル通りにヴァリスに換金する。しかし足りない。具体的に言えば20ヴァリス足りないのである。
そのことをアイズに伝えるとポケットやカバンの中を探して何か買い取りできそうな物を探して何かを見つけたようだ。
「これは?」
「ポケットに入ってたジャガ丸くんの無料券……」
「じゃがまるくん?」
「外はサクサク中はしっとりの揚げ物で小豆クリームが美味しい」
うん。よくわからん。たぶん地上にある店の料理なんだろう。この自信に満ちた美味しいものを紹介する時の顔を見るに好物なのだろう。
とりあえず買い取りするが値段の決めようがない。しかし金に拘っているわけではないので20ヴァリスとして買い取ってあげることにした。
マッハリボンを渡して、彼女たちの帰りを見送り、絨毯を畳む。売れなかった商品と一緒に鞄に入れて、下の階層に置いてきた、水の上で炎を吐くモンスターのドロップアイテムを回収しに向かった。
アイズたちが帰還してモンスターの商人に会い、尚且つ商品を買ったことがリヴェリアにバレて三人仲良くお説教をくらった後、アイズは今日のことを思い出す。
モンスターを見逃した自分がいる。
その事実に心底驚いていた。今までの自分どおりなら善良なモンスターなど認めず殺していただろうと。しかし今日はなぜ警戒こそすれど、心が目の前のモンスターを殺せと体に命じなかったのか。それがわからない。
人間らしい様子を見たからだろうか?それとも脳がモンスターと認識できていなかったからだろうか?剣を抜いていても良いと言って完全に無防備な背中を晒す愚かさから敵と判断されなかったのだろうか?
理由をいくつ上げても納得のいく答えに辿り着くことはない。
別に今でもモンスターを相手にして剣を振り下ろさないわけじゃない。あのモンスターが人を襲えば容赦なく剣を突き刺せるだろう。しかし商人としてのあのモンスターを斬ることができないだけなのかもしれない。
次に会った時に殺さなかった理由に納得がいく答えが待っているかもしれない。
そう思いながら綺麗なリボンの見た目をした魔道具を握りしめ、不思議な商人と再会を願った。