「ねえねえモンスターが商売してるって噂本当なのかな?」
「団長があると言ったのだからあるに決まってるわよ」
「だとしたら見てみたいなー!」
「団長の言葉を思い出しなさいよ。下手に接触するなって言われたでしょ?」
「見るだけならよくない?アイズもそう思うよね」
「………」
数週間前に言われた忠告を忘れてしまっているアマゾネスの少女はロキファミリア所属のレベル5。ティオナ・ヒュリテ。
そしてため息をつきながらも内心自分興味を持っている少女はティオナの姉であり、同じくロキファミリア所属のレベル5。ティオネ・ヒュリテ。
そして話の輪に入らずに黙々と迫り来るモンスターの群れを一本の剣と一つの魔法だけで捌き切っていた金髪の女の子。2人と所属しているファミリアもレベルも同じなアイズ・ヴァレンシュタイン。
遠征もなく、特段目立った事件も発生していない平和に多少の飽きがきて三人でダンジョンへ来た。
久しぶりのダンジョンとはいえ体は鈍っていない。休みの間も自主練や模擬戦を欠かさなかったからだろう。
そもそも彼女たちレベル5にとっては下層など特段命の危機となるようなことは少ない。深層という地獄という言葉が生ぬるく聞こえる場所で戦う彼女たちにとってここにいるモンスターたちなどウォーミングアップにもならないのだ。
「ここの階層主のインターバルって覚えてる?」
「アンフェス・バエナは……」
「昨日だよ」
アイズがそう答えると2人は驚く。まさかアイズがインターバルなどを調べてからダンジョンに来ているなんて。
「リヴェリアがダンジョンに向かう前に教えてくれた…。討伐された報告はまだないから気をつけろって」
「やっぱりリヴェリアか〜驚いて損しちゃった」
「あれ?討伐報告はまだなのよね?それにしては静かすぎない?」
3人は耳を澄ませる。10キロ先に落ちた針の音…は流石に拾えないが、滝の音がうるさいとはいえアンフェス・バエナほどのモンスターが動いているなら音を拾えるほど耳がいい。それなのに巨大な物体が動く音も、アンフェス・バエナが出す炎の音も聞こえない。
「もう討伐されたのかな?」
「私たちがダンジョンに入って、ここに来る間に倒された可能性はあるわね。半日ぐらいは経ってるし」
「残念……」
しょぼんと落ち込んでいるアイズ。いないものは仕方ない。これよりも先にいる階層主はレベル5で挑める相手ではない。強さというよりもその場に行くまでの環境に殺されるからだ。
仕方なく帰ろうと準備をしていると滝から何か登ってくる音が聞こえた。滝を登るモンスターは少なくない。この26階層には25階層と27階層を繋ぐ、巨大な滝がモンスターの生活圏にばっちり関係しているからだ。
なので普段なら注意こそすれど、奇妙に思うことはない。しかし今回は魚系のモンスターが泳ぐ音ではなく、何か…二足歩行型の生物が泳ぐ音が聞こえてきたのである。
具体的に言えばバタフライ。それで滝を登ってきているのだ。
3人は何も言わずとも剣を構える。
人魚ならばレアモンスターでドロップアイテムも優秀だから逃げられる前に倒す。深層の人型モンスターの強化種ならばこちらに気づかれる前に先制攻撃をしかける。他の冒険者ならば、杞憂かもしれないが、滝を直接登るという行為は潜水のアビリティを持ったティオナ、ティオネの2人でも無理だ。ならレベル5以上の冒険者かもしれない。ダンジョン内では冒険者同士の殺し合いもそこそこ発生している。中小ファミリア同士だと小競り合い程度で収まるが、ロキファミリアほどのファミリアだとそうはいかない。ダンジョンという神の干渉を嫌う超巨大な密室空間で暗殺されそうになることを理解していたからだ。
緊張が走る。
鬼が出るか蛇が出るか。はたまた、黄金が出るか。
その答え合わせをするには色が足りなかった。
滝から何が飛び出てきたかのように水飛沫が横方向に飛び散る。しかし、何もいない。何かが出てきたという確証はあるのに何も見えない。
不可視のモンスターと呼ばれるイグアスだとしても目で捉えることが可能な彼女たちに速すぎて見えなかったということは決してない。ならばスカルシープのような環境に溶け込む擬態をしているに違いない。
今までの経験から1秒足らずで判断した彼女たちは見つけた。とてつもない動体視力。内緒話が通用しない聴覚。歴戦で培われた肌の微弱な感覚。
そんなものは使っていない。ただ不自然に赤いギザギザ模様が空中を歩いていたのを見つけただけだ。
「あれって……」
「敵対する意思は感じないけど」
赤い模様はどんどん離れていく。相手が攻撃を仕掛けてこない以上、無闇に攻撃することはない。顔を見合わせ、警戒を続けながら赤い模様を尾行することにした。
「この先って行き止まりじゃなかったっけ?」
赤い模様の進む方向に疑問を呈する。何もない行き止まりで何をしようというのか。
岩に隠れながら見ていると赤い模様の前にあった岩が突然横にスライドした。機械音はしていない。力によって大岩を動かしたのだ。
その大岩に隠されていたのは巨大なカバン。冒険者でもサポーターが持っているような物だ。
そのカバンの中からそこそこ大きめな絨毯を取り出した赤い模様は手慣れたようにゴツゴツとした岩の床の上に敷いていく。
その上に重石の代わりとなるようカバンの中から取り出した謎の水晶玉や見たこともない円盤、この辺りで取れるモンスターのドロップアイテムや金属を並べた。
「ねえ、これってさっき話してた…」
「モンスターの……商人」
そうアイズが口にすると赤い模様の周りに緑色の物体が形成される。いや、先ほどまで見えていなかった部分が見えるようになったというべきか。
それはモンスターだった。噂で広まっている通りの姿。確定情報としてフィンが言った商店の存在。とある冒険者が商品を盗めばゴライアスが可愛く見える恐ろしさを味わったと言っていた。その強さを肯定するかのように見せられた
ここまで情報が一致しているのだから彼女たちの疑惑は確信へと変わった。
「ここは帰ってから団長に──」
「モンスターの商人ってほんとなの!?」
姉の冷静で的確な判断を聞くまもなく、突撃したティオナであった。