当時、俺は地方の大学に通っていて、夜は原付でアルバイトに行くのが日課だった。アルバイト先からの帰り道に、小さな山を越えるトンネルがある。長さは100メートルもない、古いコンクリのトンネルで、昼間でも少し薄暗いような場所だった。
ある雨の夜、そのトンネルを通った帰り道で、いつも見かけないコンビニを見つけた。「あれ? こんなところにあったっけ?」と不思議に思ったが、ちょうど飲み物を切らしていたこともあって、立ち寄ることにした。
店内は妙に静かで、客は俺ひとり。店員の若い女の子がレジに立っていた。無表情で、目が合っても微笑みも何もなく、じっとこっちを見ていた。商品棚もなんだか古びていて、パッケージが全体的に黄ばんでいるように見えた。今思えば何だか空気も埃っぽいような、妙な臭いがした。でも、そのときは深く気にせず、缶コーヒーを手に取りレジに向かった。
会計のとき、店員が商品をレジに通したあと、一瞬こっちを見て、ぽつりと呟いた。
「……帰り道、絶対に振り向かないでください」
ん?と思ったが、聞き返す前に、「ありがとうございます」とお釣りを手渡され、レジの横にある自動ドアが開いたので店を出た。これも今思えば変だった。ドアに近づく前に勝手に開いたんだから。
外に出た瞬間、ふと背中に視線を感じた。トンネルの方から、誰かがじっと見ているような、そんな感覚。怖くなって早足で原付に向かった。でも、どうしても気になって、一瞬だけ振り返ってしまった。
俺忘れ物でもしたか?と思ったが、声をかけてくるでもない。ただ立っている。でもすぐに異常に気がついた。
彼女は無表情のまま、でも顔だけが、まるで溶けた飴みたいに下へ伸びていて、顎が胸のあたりまで垂れ下がっていた。
ぞわっと本能的な恐怖が襲ってきて、慌てて原付に戻ろうとしたが、置いたはずの場所にそれがない。やばい、と思った瞬間、視界が真っ暗になって、気づけば、周囲の風景は真っ暗で、コンビニも、トンネルも、何もかも消えていた。原付は近くに倒れていた。俺は雨に濡れて突っ立っていた。
でも今でも、雨の夜にあの道を通ると、トンネルの先に微かに明かりが見えることがある。
あれは夢だったのか、現実だったのか……。