俺には自分が覚えていないくらい昔、本当に小さいころからの幼馴染みがいる。
小学、中学、高校と今に至るまでずっと同じ学校。さらには現在の志望大学まで同じと来ているから笑えない。今の見通しでは、どうやら俺とあいつは大学まで同じところに通うことになりそうだ。
幼馴染みの名前は星崎 若菜(ほしざき わかな)。
俺は彼女のことを「若菜」と呼び、若菜は俺のことを高沢 圭祐(たかざわ けいすけ)の名前から取って「圭くん」と呼ぶ。中学生くらいのころは何となく照れくさくてその呼び方を嫌っていたこともあったが、もうどうでもよくなってしまった。
俺と若菜の家は隣通し。さらにお互い二階に自分の部屋があるため、窓を開ければすぐに会話が出来るという徹底ぶり。ここまで完璧な幼馴染みというのもそうはいるまい。
俺も若菜も18歳になった。思えばもう10年以上も若菜と一緒にいるわけだ。
出会ったころからずっと仲良し。男女の関係というよりも、俺も若菜も完全に「友達」感覚で付き合っており、近所でも有名な仲良しコンビ。いや、というよりも、ここはやはり「幼馴染み」という名の関係が一番しっくり来る。俺と若菜は有名な「仲良し幼馴染み」である。
性格もよく、さらには容姿も良いということで若菜はなかなかモテるようだが、それでも一向に彼氏を作らないのは不思議でもあった。別に隠しているわけではないと思う。というか、毎日一緒に登下校して家も隣同士の俺に、そんな隠し事はできるはずもない。もっとも、それは俺が若菜に隠し事が出来ないということも表しているのだが。
顔よし、性格よし、頭もそれなり。
非の打ち所がない若菜という女の子。
そんな彼女と幼馴染みだなんて、と羨ましがられるかもしれない。
だが俺は知っている。
ほとんど俺だけが知っていると言っても、間違いではないだろう。
彼女の“怖さ”を身を以て知っているのは、たぶん俺だけだ。
本当に彼女は文句のつけどころがないほどよく出来た女の子だし、俺には勿体ない幼馴染みだとも思う。ただ、彼女の悪戯っぽさが度を超した、“あるひとつ”の悪癖を除いては。
もうずっと前だ。
俺が覚えていないくらい昔。
そのころから、若菜はその悪癖を持っていた。
というよりも、その“体質”は彼女が生まれ持ってきたものだろう。
他の誰にも真似できない。
強力すぎる“体質”。
はじめは悪戯だったのだろう。
だが若菜の内に潜む“加虐本能”が、その悪戯に何かの快感を見出してしまった。
そして彼女はやめられなくなる。
その標的が、「幼馴染み」の俺だった。
恐怖――
――物心がついたころから毎日、俺は若菜のおならを嗅がされるようになっていた。