そこにはこう書かれていた。『一週間の食事が野菜料理だけの玲子』
 玲子が立ち上がる。中学生のころからチャームポイントだった眼鏡を軽く触ると、彼女は俺に近づいてきた。すっかりキャリアウーマンという感じの彼女は、大人の美しさを出していた。
「寝転がって」
 玲子が言う。俺は何のことだか分からないが、周りから
「寝ーろ!寝ーろ!」とコールがわき起こった。俺は訳が分からないままカラオケボックスのソファの上に、仰向けに寝転がった。
「目を閉じて」と言われ、俺は目を瞑る。すると顔の前にむあっと何かが現れたことが分かった。許可を出されておそるおそる目を開けると、そこには黒色のフリルがついた布に包まれた大きな球体があった。俺はそれがすぐにパンツに包まれたお尻だと分かった。
「な、なんだ!?」
「和之君、私よ」
 玲子の声だ。と、するとこのお尻は玲子のものらしい。
 暴れようとするが体を動かせない。どうやら体を残りの4人に固定されている。この状態で屁を嗅がされるということか。
「もうこのゲームのためにこの一週間どれだけ我慢したことか。一週間かけて野菜ばっかり食べたのよ。トウモロコシとか白菜とかタマネギとかシイタケとかばっかり。おならをするのもずーっと我慢していたし、もちろんお手洗いで大きい方をするのも我慢して。だから和之君がこのカードを引いてくれて嬉しかった。私の一週間分の努力を晴らせるもの」
 一週間だって!?
 そんなに我慢された屁を嗅がされたら、どうにかなってしまうのではないか。俺はそう思ってますます逃げようと暴れるが、四人に押さえつけられては男の俺とてどうすることもできない。
 そして、時は来た。
「……行くわよ」

プスぅ〜〜

 鼻先のパンツの一点から生暖かいものが吹きかけられた。
「――むくっ!?」
 臭かった。臭すぎた。その匂いは俺の想像を卓越していた。たったあれだけの屁がこんなにも臭いのか。俺は気絶しそうになるが、玲子の声で目覚めさせられた。
「臭そうね。でも、まだこれだけじゃお腹にたまったおならを全部出し切っちゃいないのよ。職場でもずーっとおならを我慢するのがどれだけ辛かったことか。毎日のお弁当も野菜づくしだしね。でも、その苦しみがここでこうして快感になって報われるの……」

プウウゥゥゥ〜〜〜

 甲高い音。ヤカンが沸騰したときのような。しかし匂いは凶悪。野菜ばかり食べてきたというのは本当らしい。
 河原の原っぱなどで寝転がったことがあるだろうか。あのときに感じる周りの草の匂いは、そう、「甘い」といったような感覚である。それを人は「草臭い」などと形容する。玲子の屁はまさにその通りだった。どこか「甘ったるい」ような「草臭い」ような匂いが混ざった屁。しかしそれは本来の草のように心地よいものではけしてない。硫化水素の匂いも混ざって、それは史上最悪のものになっていた。

プウップウウウウゥゥーーーーー!!

 三発目ともなると人の顔の上で放屁することに躊躇いを感じなくなったらしく、玲子は凄い勢いの屁をした。その風を俺は肌でしっかりと感じることができた。
「ふぅ……」という玲子の声がどこか遠くの方から聞こえてきた。その声を聞きながら、俺はついに目を回した。

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