俺流、オラリオの生き方。


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作:ケモミミ推し
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第四話「怪物祭・前編」


 

日は既に登り、やがて頂点に至る頃。

場所はオラリオの正中線、主街道(メインストリート)

広々とした街道には所狭しと様々な亜人(デミ・ヒューマン)が往来し、皆が祭りの熱気に浮かされている。

 

年に一度の祭りに人々の財布の紐は緩み、これを好機と捉えた商魂逞しき商人(あきんど)たちは高らかに声を張り上げ、街の喧騒を上乗せしていく。

オラリオの管理者達が年に何度も祭りを開くのは、神事や祭典という目的の他にも、市場に刺激を与えるという経済効果を見越している部分もあるのだろう。

 

人々が笑い生を謳歌する祭りの中で、一人冷静に思考を巡らす彼。

天下の往来を連れもなく立ち止まり、祭りに見合わぬ仏頂面を通行人に晒す孤独なシルエット。

 

彼は今、孤独であった。

 

 

 


 

 

 

祭りへと繰り出した青年と少年は、まだまだピークとは言わずとも既に普段より多くの人で賑わう道を縫うように歩いていた。

 

「無駄遣いは控えてよ、宇今」

「ん、抜かりは無い」

「抜かって欲しいんだよぉ…!」

 

本日の出費予測を立て冷や汗が止まらない様子のベルに対し、彼はさっそく祭り屋台に手を伸ばしていた。

 

右手には怪物祭の限定フレーバー『ジャガ丸君ブラッディチリソース味』、左手には怪しい光を(たた)える液体が詰められた電球ソーダならぬフラスコソーダを携える。その姿はまさに、祭り特有の誇張価格(ぼったくり)にまんまと嵌められた愚者そのものであった。

 

「これぞ我が最終形態ッ!」

「どうせまだ買うんでしょ…?」

「その通り、俺はあと2回変身を残している」

「なら最終形態じゃないじゃん!!というかまだ買うつもり!?」

 

この少々品のない軽口の応酬も、日頃の気さくなコミュニケーションの賜物である。最近は好き勝手する俺を諌める役割が続いていたし、出会った当初より随分と頼もしくなったものだ。

 

一通り騒ぎ立てた少年が祭りの場に似つかわしくない、どこか覚悟を決めたような表情を浮かべていた、そんな最中。

 

「きゃっ」

 

様々な亜人でごった返す大通りの中、人の波を二分する境界線の際から通行人が倒れ込む。溢れんばかりに抱えた紙袋を大きく揺らして体勢を崩した女性を、すんでのところで支えたのはベルだった。

 

「危ないっ!」

 

可愛らしい声を上げて体を投げ出す彼女を留めるには両手ですら足りず、ほとんど抱き着くような形で自らの体を割り込ませる。

彼の胸板と彼女の胸部を隔てる紙袋(かべ)のために致命的な接触こそ避けられたものの、相互間に挟まる障害物の故に腕を大きく伸ばした結果、腰の辺りから半ば持ち上げらていれるような女性の姿は、傍から見れば白昼堂々抱き合っているようにも見える。

 

「すみません…って、ベルさん!?」

「し、シルさ……ってうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

絶妙なバランスでベルに体を預ける彼女こそ、『豊穣の女主人』の給仕たるシル・フローヴァさんその人であり、まさに可憐という概念が服を着て歩いているかの如く、やはり彼女はあざとかった。 

そして町娘を抱き寄せている彼もまた、素っ頓狂な声を上げながら回した腕を引き抜く。

 

『え!!主街道のド真ん中でプレイを!?』

『できらぁ!!』

『ヤってんだよなぁ…』

『出会って2秒でほぼ合体』

『↑こマ?』

『超スピード!?(称賛)』

 

人混みの中から聞こえた、恐らくは何柱かの神であろう台詞は聞こえなかったことにした。

というか、聞きたくなかった。

 

「お二人とも、今日はお出かけですか?」

「は、はい、せっかくのお祭りでなので」

「そうですよね、お祭りですもんね!いいなぁ、私もお仕事がなければ遊びに行けたのになぁ………あっ、そうだ!」

 

もうなんとなく読めてしまう展開(オチ)を、少女はあくまで無邪気な"提案"として実行する。

 

「ねぇベルさん……このまま、私を連れ出してくれませんか?この荷物は店に置いてきますから」

「えぇっ!?できませんよそんな事!」

「やっぱり、駄目ですか…?」

「うっ…!いえ、でも…」

 

出会って早々、いっそ清々しいほど速やかに、勝敗は喫した。

 

鮮烈な出会いにより相手の心を掴む第一段階(ファーストブリット)

突拍子もない勧誘により驚きを誘う第二段階(セカンドブリット)

体勢を崩した相手にトドメを刺す最終段階(ラストブリット)

 

男の甲斐性を逆手に取った、速攻かつ鮮やかな手口、俺でなきゃ見逃しちゃうね…。

ベルに抱き留められる前提であの人混みの中をコケる事で、出会いのキッカケとしつつ先手を取る第零段階(プロト・ブリッド)の存在も忘れてはいけない。

お前のような町娘がいてたまるか(n回目)

 

「宇今さん、ちょっとベルさん借りていきますね!」

「ハッ、そうだ宇今!たすけ…」

「…………夕飯までには帰ってこいよ?」

「助けてぇぇぇぇぇぇ!?」

 

モテ期ベルの見事なまでのリア充っぷりにはムカつくが、かの"酒場の魔女"さんにマウントを取る意味もないのでむしろ今のうちに恩を売っておこうそうしよう。

決してデート現場をヘスティア様に発見されて修羅場になってほしいとか、そういうことを考えてるんじゃ、な、ないんだからねッ!

 

「泊まりの連絡は必要ないからな〜!」

「はぁーい!」

「ちょっ、シルさぁん!?」

 

まーまーいいじゃないですかベルさん、と引きずられていく相棒に武運を祈りつつ、気分を切り替えて屋台巡りを再開する。

 

流石は年に一度の祭典というだけあって、その品揃えは素晴らしい。ジャが丸君を始めとするスタンダードな出店のみならず、暴力的な香りを遠慮なく振りまく香草焼きなど祭り特有のものまで…

 

「おや、宇今ではないか」

「や、ポーション買ってかない?」

 

ふらりと通りかかった屋台に居たのは、普段お世話になっている"青の薬舗"の主であるミアハ様と、団長のナァーザさん。

普段ポーション類の補給でお世話になっている二人が、出店の中に陳列された商品の中に潜り込むように並んで座っていた。

薬舗らしく、扱われている商品はすべてポーションに統一されている。

 

そう、ポーションである。

祭りに沸く今日のオラリオにおいて、彼らは普段と変わらずポーションを扱っていたのである。

出店にポーションとはまた斬新なアイデアだが、果たして。

 

「祭りでポーションって…売れるんですか?」

「うむ。ナァーザが作ってくれた物なのだから、きっと売れるに違いないさ」

「…うん、そうだね。売れてくれなきゃ、商売上がったりだよ」

 

流石は噂に聞く鈍感天然ジゴロこと神ミアハ、俺達には言えないことを平然とやってのける。

彼の発言を受けたナァーザさんの頬は薄く朱に染まり、それ以上にぶんぶんと左右に振られる尻尾が隠された心情をありありと示している。

 

はぁぁぁーーーーー!!!

このリア充共が!!!

ケェーーーーーッッッ!!!(威嚇)

 

「それなら、もう薄めたポーションを買う心配はない訳ですか」

「うっ…それは禁句」

 

この期に及んで未だ意地を張るとはいよいよ度し難いものではあるが。

最後の自尊心(プライド)を振り絞り、全く穏やかでない心の裡をおくびにも出さず、独り身特有の意地の悪い僻みを吐きつつ可及的速やかにその場を去るのだった。

 

 

 

_______とまぁ、斯様な苦難、紆余曲折を乗り越え、今に至るという訳だ。クソわよ。

 

右の五指を駆使して四本の串焼きを保持したこの第二形態すら、どこか滑稽に見える。

 

一人で歩く祭ほど退屈なものも無い。

眷属(こども)の悪ふざけを笑ってくれる彼女も、この形態に驚いてくれる彼も、今はいないのだから。

一人で食材を買い漁り続けて腹も膨れ、いっそ帰ってしまおうかという考えすら頭に浮かんでいた時。

 

「なんだ、宇今君じゃないか!」

 

不意に聞こえた前方からの声に、無意識のうちに下げられていた視点を持ち上げる。

 

「せっかくのお祭りだっていうのに…なんだってそんな湿気たジャガ丸みたいな顔してるんだい、宇今君?」

 

地を照らす太陽にも負けない笑顔を湛えた女神が、向日葵(ヒマワリ)のように立っていた。

 

 

 


 

 

 

大通り沿いに居を構える喫茶店、その二階にて、怪しい密会を行う神物(じんぶつ)が二人、こぢんまりとした個室の中でテーブルを囲んでいた。

 

「...で、今度は何を企んどるんや。」

「あらあら、何も企んでなんていないわよ?」

「嘘こけ、この色ボケ女神が。どうせまたよそのファミリアの眷属(こども)引き抜こうっちゅうんやろ?」

 

「あら、バレちゃったかしら。」

 

フードの裏側で悪びれもせず微笑を浮かべる女神。

 

「...で、どないな奴や。お前の狙とる、その子供っちゅうのは。」

 

探りを入れるような質問に対して女神は、浮かべた微笑を崩さず囁くように言葉を紡ぐ。

 

「とても頼りなくて、少しのことで泣いてしまうそんな子。」

 

「でも、綺麗だった。透き通っていた。私の見たことのない色をしていた。」

 

「見つけたのは偶然、たまたま視界に入っただけ。もっとも...」

 

言葉はそこで途切れる。

 

「どないした」

「ごめんなさい。急用が出来たわ」

「ハァ?お前いきなり…」

「また会いましょう」

 

「なんやアイツ___って勘定もこっちかいな!」

 

 

 

 

 

彼女の心の(うち)が、それ以上話される事はなかった。

 

透き通るように白い彼の隣に、対象的な「不透明な青年」がいることも。

 

白とも灰とも表し難いその男は、神の目を持ってしてもその本質が測りきれなかったことも。

 

...その秘密に包まれた謎の青年にもまた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

近い将来”兎”と”鬼”として名を馳せることになる彼等も、今はまだ道半ば。

しかし、一人の青年によって歪められた歯車は、歴史の舵を何処へと知れぬ場所へと切り、

 

 

 

少しづつ、動き始めていた。

 

 

 

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