俺流、オラリオの生き方。


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作:ケモミミ推し
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第三話「とある冒険の一幕」


 

 

 

優雅な昼下がり。お嬢様ならアフタヌーンティーと洒落込む時間だろうが、生憎こちらは冒険者。

先程までは携行食(スコーン)片手に回復薬(お紅茶)を嗜む"束の間の休息(ティーパーティー)"を堪能していたところだ。

装備を新調した後ダンジョンに潜ってから4時間経ち、新しい得物にも振り回されない程度には慣れた。しかし蓄積した疲労を完全に誤魔化すことは難しく、数の減らない怪物達に少しずつ追い詰められてゆく。

 

「敵が多すぎる…!」

「ここ本当に上層かよ!」

 

コボルトの群れにフロッグシューターが数匹、最後列にはウォーシャドウまで混じっている。第5層の勢力としては明らかな過剰戦力(オーバーパワー)であり、歩兵に弓兵、精鋭級(エース)まで揃った"怪物部隊(モンスター・スクワッド)"。

行進するダンジョンの尖兵に正面から打って出る訳にもいかず、じりじりと後退を強いられていた。

 

第一に浮かぶのは"撤退"の二文字。

しかし、彼の顔にその選択は見えず。

 

「宇今、魔法を使って」

「逃げるか?」

「いや、()()()()()()()()

「ハッ、なるほど!」

 

出会ってまだ数週間ではあるが、これでも生死を賭けて背中を預けた相棒だ。言葉の足らない応酬でも十分に伝わる。

 

「ハァァァッ!」

 

強者を目指す少年――ベル・クラネルは、徒党を組むコボルトの集団に単身で斬り込み、素早い動きで次々となぎ倒す。

その姿が普段より力強く、そして洗練されて見えるのは決意の現れ。昨夜目覚めた稀少(レア)スキルの影響が早くも発揮されているのだろう。

 

戦闘の最中にも成長を続ける相棒に置いて行かれぬよう、宇今は自らの持つ唯一の魔法を行使する。

 

「【法則(さく)を破りしその一歩】」

 

詠唱を手早く済ませると、視線の先に光る半透明のモヤが出現する。

視線を奥へ奥へと伸ばすとモヤもそれに追従し、敵集団の最後尾、単眼の蛙の背後を取り回り込む位置で停止させた後、最後の一節を唱える。

 

「【ブリンク】」

 

その瞬間青年の姿は掻き消え、数M(メドル)先―――

敵集団の背後、丁度視線を置いた位置に着地した。

 

「うるァッ!」

 

それらしい予備動作(プレモーション)もなく背後を取られたフロッグシューターは、冒険者の金属バットによるフルスイングをまともに受け、潰れたカエルのような音と共に岩壁に激突。

 

不意打ち(アンブッシュ)の成果はまずまず。

ベルは前方、宇今は後方から敵を切り崩し、戦力を分散させる"挟撃"。追い詰めていた筈の獲物が突然牙を剥いた事に驚いたのだろう。前後から獲物を追い立てる双牙は、連携の崩れた怪物共に乱撃を浴びせてゆく。

 

「ベルに負けてられねぇからなァ!」

 

バット――確か銘を"デュラウィス"と言ったか――を振りかぶり、大型犬並の巨大カエルの頭を叩き潰す。

挟撃の最大の目標を片付けた宇今が、振り向いたその刹那。

意識の外から襲い掛かった影の凶刃を、振り向きの余韻を利用した動きで辛うじて弾く。

 

「…っぶねぇ!?」

 

刃の主は、いつのまにか接近していたウォーシャドウ。

名の通り影のように薄い気配を活かして彼我の距離を瞬時に詰めたのだろう。

渾身の強襲を受け止められたウォーシャドウはしばらく影のように揺らめいていたが、不意に黒曜石のように鋭い刃指を振るう。

攻撃の一つ一つが無造作で、そして他の同種に比べても数段鋭い。明らかに通常のモンスターとは違う。

 

(…こいつ、もしや"強化種"か?)

 

『初心者殺し』の異名に相応しい攻撃に舌を巻きつつ、大袈裟に後退。しかし、彼我の距離は一向に離れない。

 

遠い。いや、長いのか。

 

鞭のようにしなり、そして伸びる腕は後退を許さず、追撃に次ぐ追撃を一方的に押し付ける。幸い防御は得意だ。即死は免れるものの、得物や鎧で防げない部分は浅く切り裂かれていく。このままで続けば全身真っ赤の血塗果実(ブラッディ・トマト)になってしまう事は明白。

相手は第六階層トップクラスの戦闘能力を誇る上澄みのモンスターだ。斬撃と速度に長けたウォーシャドウ相手に守勢では分が悪い。

 

そう結論づけた青年は後退し続ける脚を止め、それどころか急速に前進を開始する。一見無謀に見える行動だが、無防備に手を伸ばした相手には近距離戦闘(インファイト)が効く。

 

「【法則(さく)を破りしその一歩】…」

 

練り上げられる魔力を感知した影兵は猛る。

だが、短文詠唱への対応としては一手遅い。

 

「【ブリンク】」

 

青年の姿が瞬時に消え、敵を見失ったウォーシャドウは人間ではあり得ない角度に腰を回転させ、背後の空間を切り裂く。

怪物は、確かに見ていた。奴が魔法を唱えると別の場所跳んでいた事…そして、()()()()()()()()()

この怪物は成りたての強化種であったために未だ無垢であり、しかしそれ故に宇今の動きを素直に認識し、次の跳躍地点を予測するに至る。

 

…しかし、背後を薙ぎ払った両腕は空を切った。

()()()()()()()()()()()()()()宇今は得物と鎧、さらに自らの体重を存分に乗せた落下攻撃を眼下の隙だらけな頭に照準する。

 

「ずおォォォりゃァァッ!!」

 

裂帛の気合と共に放たれた一撃は交差した無防備な頭部を完全に砕き、強敵はドサリと崩れ落ちて灰へ還っていく。

 

「ハァ…ハァ……作戦、勝ちだな…」

 

激しい動悸を胸の上から押さえつけながら、息も絶え絶えに独り()つ。

強敵だった。もしこの手に握る得物が鉄棍(バット)でなくロングソードのままであれば、今頃剣ごと真っ二つにされていたかもしれない。

 

「宇今!」

「おう、おつかれぃ」

 

緊張の糸が切れ、語尾から活力が漏れ出す。

片や、全身を打撲や切傷で包まれた傷の見本市(バーゲンセール)状態。

片や、各所を浅く裂かれた血塗れの重態。

双方、ボロボロである。

 

「「……はぁぁぁーーーー……」」

 

束の間の死闘を繰り広げた俺たちは、緊張の糸が切れたのか、同時に膝から崩れ落ちる。

 

「こらベル、気ぃ抜くと危ないぞ」

「…寝転がってる宇今に言われたくない」

「んはは、そりゃそうだ」

 

 

 

そうして、今日の冒険は幕を下ろす。

同じタイミングで地上へと帰還する数多の同業者に囲まれながら大階段を登る少年は、ふと隣を歩く青年に心の裡を漏らした。

 

「宇今、ありがとう」

「なんだ、藪から棒に」

「ファミリアに入ってくれた事とか、色々…」

 

尻すぼみに声を落とす彼は、何かを言い淀んでいるように見える。

少年をじっと見つめ、静かに先を促す。

 

「強くなろう。二人で」

「…あぁ。二人でな」

 

相棒と腕を組み交わし、大穴を登ってゆく。

奇妙な達成感が胸の(うち)に広がる。

そして、一歩進むたびに鈍い痛みが走る。

 

だが、生きている。

存外、悪くない気分だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

本日は、晴天なり。

金銭的危機が日常の零細ファミリアにしては珍しく、迷宮から離れて自由を謳歌する、完全休養日である。

その理由は、先日の怪我だけではない。

調伏された怪物達が、闘技場にて火花を散らす祭典の日。

"怪物祭(モンスター・フィリア)"である。

 

そう、どこぞの色ボケ女神が怪物達の檻を開き、外伝に登場した"人喰い植物"も含む多数のモンスターが街へと進出する例の祭りである。

この街に来て初めてのイベントであり、個人的にはかなり楽しみにしていた訳だが…

 

「ベル、一緒に行くか?」

「うん!」

 

隣でニマニマしている浮かれポンチな相棒が行くというのだ、仕方ない。

なんだこの天使…なに?(心が浄化される音)

 

「…ねぇ、宇今もお祭りに行くんだよね?」

「おう」

「なら、なんで武器持ってるの?」

 

少年が訝しんだのは、彼の格好。

ポーション類を入れた腰鞄(ポーチ)のみならず、主武装(メインアーム)の鉄棍やガチガチに固めた鎧まで着込んでいる。

少なくとも遊びに行く格好ではない。

だがそのとおり、俺は遊びに行く気ではない。

これから死地になるであろう場所に、わざわざ裸で突っ込むような趣味はないのだ。

 

「…さぁ?」

「まさか、こっそりダンジョンに行く気?」

 

何故そうなる?

実はこの相棒、なぜか俺を"迷宮中毒(ダンジョン・ホリック)"と見ている節がある。

俺はただ素振りと称してダンジョンに潜ったり、夜な夜な魔法の練習のためにダンジョンに潜ったりしただけなのに。

 

「お祭り行くだけならいらないでしょ!ほら、鎧も脱いで!」

「ちょ、おま…お前は俺の母ちゃんか!」

 

結局、武器という武器は全て剥ぎ取られてしまった。

 

 

 


 

 

 

所変わって、主街道(メインストリート)を望む大通り沿いの喫茶店、その個室にて。

怪しい密会を行う神物(じんぶつ)が二人、座っていた。

 

「で、今度は何を企んどるんや」

「あらあら、何も企んでなんていないわよ?」

「嘘こけ、この色ボケ女神が。どうせまた余所(よそ)のファミリアの眷属(こども)引き抜こうっちゅうんやろ?」

「あら、バレちゃったかしら」

 

「…で、どないな奴や。お前の狙とる、その子供っちゅうのは。」

 

天界屈指のトリックスターと謳われた彼女は、非常に苦い顔で__恐らくは(ひと)の惚気を聞き出さねばならない状況を憂いて__問いを投げる。

それに対し美神は窓下の街路へと目を向けたまま、恍惚と憂鬱を混ぜ込んだような表情で話し始めた。

 

「…とても頼りなくて、少しのことで泣いてしまうそんな子」

「でも、綺麗だった。透き通っていた。私の見たことのない色をしていた」

「見つけたのは偶然。たまたま視界にはいっただけ。もっとも…」

 

言葉はそこで途切れる。

 

「どないした?」

「ごめんなさい。急用が出来たわ」

「ハァ?お前いきなり…」

「また会いましょう」

 

「なんやアイツ…って勘定もこっちかいな!」

 

 

 

彼女の心裡(しんり)がそれ以上語られる事はなかった。

 

白く透き通る少年と、対象的な「灰の青年」。

純粋無垢な彼は、透明な魂を持っている。

それに対し、青年は全くの逆。適度に曇った凡庸な灰色の魂は、本来ならば美神の目の端にすら留まるものではなかっただろう。

 

しかし、彼女は見た。

魂の中心、ほんの僅かに輝きを。

曇天の隙間から差し込む一筋の金光を。

 

 

 

いずれ”兎と鬼”と語り継がれる彼らは、未だ不完全で、未成熟。

しかし、一人の青年によって歪められた歯車は、歴史の舵を何処へと知れぬ場所へと切り、

 

少しづつ、動き始めていた。

 

 

 





原作よりショタ要素が薄まった原作主人公君。
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