俺流、オラリオの生き方。


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作:ケモミミ推し
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第二話「敵前逃亡エスケープ」


 

 

暴言チンピラbotと化した狼を黙らせた、あの後。

相棒の手を引く青年は、決死の様相で屋根の上を飛び移り、何処へも分からず走り続けていた。

彼の心を占める感情は"憤怒"でも"悲哀"でもない。

捕食者から必死に逃げる被食者のソレ…

すなわち"恐怖"のみであった。

 

「ちょ…ちょっと止まって…!」

「止まれるか馬鹿ァ!!」

 

飄々と振る舞わんとしていた余裕、心のマスクはとっくに剥がれ落ちた。まるでガキだ、ベルの兄貴分を気取っていた自分が嘘のように情けない。

 

__ソレもコレも、全ては迫り来る追跡者のせいだ。

 

逆立ち揺れる銀髪、

言葉では伝えきれぬ"憤怒"の形相、

そして、獲物(オレ)しか見えていないと言わんばかりに爛々と光る、黄金の双眸。

僅か十数M(メドル)後方に、奴はいた。

 

__さらに、今宵は晴天。

 

満月とはいかずとも確かに浮かぶ月に照らされ、半ば正気を刈り取られた狂気の狩人____"凶狼"ことベート・ローガに、俺は今命を狙われている。

これぞホントの"狂狼(ヴァナルガンド)"…って言ってる場合か!?

 

「グアァァァァァァァァッッッ!!!」

「ブッ、【ブリンク】ッ!!!」

 

雷か何かと見紛う速度の突進。しかし砕け散った屋根の下は、幸い住人は居らず。事の発端も、既に別の建物の屋根へと降り立っていた。

 

(ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙あ゙んな事やるんじゃなかったチクショォォォォォォ!!!!!!)

 

矜持(プライド)を遥か彼方にブン投げ捨てたガン逃げ。

凡庸な下級冒険者(Lv.1)のソレなぞ第一級冒険者(Lv.5)に太刀打ちできるはずもない。であれば今生きているのは、その方法の為だろう。

 

視線の先へ数M(メドル)だけ瞬間的に跳躍する短距離転移(ブリンク)の魔法。一切の予備動作(プレモーション)を省略して音速を超えた移動を可能とする、ある種の反則技(チート)

無論、視線から転移地点を読まれれば死ぬ。今も尚生きていられるのは、相手が獣の本能たる五感のみに頼っているからに過ぎない。もし彼が正気を保っていたならば0.001秒で捕まって肉団子(ミートボール)にされていただろう。

 

「【法則(さく)を破りしその一歩】、【ブリンク】!」

 

速攻で詠唱を唱えつつ照準を定め、再度転移。今度は斜め左方向に見えた屋根へと跳躍する。

しかし、魔法の効果により一瞬視界が白く染まる前。

奴と目が合った。遂に照準を合わせるための隙を見抜かれ、既に転移先に立っていた狼と。

同時に、逃走劇は幕を下ろす。

 

…流れる金色(こんじき)の長髪と共に飛来した張手(ビンタ)によって。

 

魔法(かぜ)まで纏わせて放たれた一撃を食らった狼は直下の主街道(メインストリート)を一直線に転がり、突き当りに積まれていた建築資材に激突してようやく止まった。

アレでは生きているのかも分からないが、もしや彼の人生まで終幕してしまったのではなかろうか。

 

先程までとは別種の恐怖により背筋の凍らせる青年をよそに、少女はこちらに歩み寄る。

少女の眦(まなじり)には、薄く涙が浮かんでいた。普段の彼女ではあり得ない表情は、一人の男にのみ注がれている。

…俺?うるせぇベルに決まってんだろぶっ飛ばすぞ。

 

「…ごめんなさい」

「へ?」

 

予想外の台詞に、ひどく間の抜けた相槌を返す相棒。

 

「ベートさんがあんなに怒ったのは、私のせい」

「…い、いやいやいや!あれは全部宇今のせいで…!」

「オイ。否定できんから余計傷つくぞオイ」

 

本人曰く、あの後取り押さえられた彼に対して怒っていた彼女は「ベートさんよりあの子のほうが強そう」的な事を言ってしまったらしい。その言葉にプッツンしたベートが店内にも関わらず本気で抵抗して脱出、月下にて本能的に獣化を発動して追跡…といった流れだったそうな。

 

妙に重く責任を感じているのは、自分の余計な一言が事の発端となってしまった故か。いや全部俺のせいなんですがね。

加えてベルに対する罪悪感が重なり、半ば縋り付くように手を握っている。彼の反応は言わずもがな。

 

「…………………………」

「ごめんなさい…本当に…」

「………………………ぼ」

「…ぼ?」

 

「………僕、絶対…絶対強くなりますからぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

脈絡なく叫び散らしながら逃走するベル。

想い人の意外な一面に興奮したか。

暗に己の惰弱を憐れまれた事に対する悔しさか。

もしや圧倒的な恐怖によりおかしくなったか。

今の彼の心境は、きっと神にすら推し量ることはできないだろう。

 

 

「アイズ!何があっ…た……」

 

直後、彼と入れ替わるように現れたのは妙齢の妖精。

瞳に涙を浮かべ啜り泣く愛娘に動揺し、言葉を失う。

そして付近には、困ったように立ち尽くす謎の青年が一人。

…推して知るべし、とはこのことだろう。

 

「…そこの冒険者、少し話を聞いてもいいか?」

 

声音は落ち着いている。しかし、目が笑っていない。

 

「…あの、ちゃうんすよ、ホントに」

「ほう、何が違う?言ってみろ。」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

日もとっぷりと暮れた深夜の頃。

ロキ・ファミリアの面々から事情聴取や厳重注意を__主に娘想いな王族(ハイエルフ)のお姉様から__受け、青年の帰宅は随分と遅れていた。無論、事前に伝えていた門限の時間はとうに過ぎてしまっている。

 

「な〜にをやってるんだキミは〜〜〜!!」

「ハイ、スミマセン、ハイ…」

「ベル君から話は聞いたよ!ロキの眷属(こども)達と喧嘩してきたそうじゃないか!」

「ゴメンナサイ…カンベンシテ…」

 

眷属のヤンチャに()()の我等が女神に対し、完全に絞られ尽くした檸檬(レモン)の如くシナシナに萎れた青年。

 

「神様…」

 

見るも無残な青年を見かねたのか、心優しい少年がやんわりと仲裁に入る。あまり強く言えないのは彼女が敬愛すべき主神だからか、または彼も青年の所業に少なからず思うところがある故なのか。

どちらにしろ目の前の光景に難色を示した彼の行動と、天日干しにしたスルメのように生気を失った青年の惨状を生贄に、誰より聡い"全知零能"の女神は冷静を取り戻す。

 

「…そういえば、最近ステイタスを更新してなかったね!先に宇今君から済ましちゃおうか!」

「え…いきなりどうしたんですか、神様?」

「い〜いから!ほらベル君、向こうから羊皮紙を取ってきてくれ!」

 

脈絡のない主神の言葉に戸惑う少年は半ば押し込められるように隣室へ移動し、同じく状況が読み込めない青年は主神と二人きりに。

振り向いた彼女の顔はすっかり毒気が抜かれており、困ったように笑みを浮かべている。

 

「宇今君、ちょっとしゃがんでくれ」

「…何故?」

「だって、そうしないと頭に手が届かないだろう?」

 

意図が読めない。

まさか、この優しげな表情から激烈な折檻が飛び出すことは無いと思いたいが。

 

などと警戒心の強い野生動物の如き思考が眼前の神に筒抜けになっていないと信じたいが、彼女の眼差しは、仕方のない子供に向けるソレに近く。

 

目線を外さないよう上目遣いになりながら傅いた頭に小さな手が伸び、そして頭を撫でられた。

 

その感触に驚いたのかピクリと震えた彼女の手は、最初はおとなしく髪の流れに沿って撫でていたものの、「ほぉー…」とか「へぇー…」などと呟きながら徐々に勢いを強め、最終的には天パ気味にくねった髪を揉むように撫で回されていた。

 

「あのー…ヘスティア様?」

「うぁっ!?ご、ごめん…僕としたことが、つい夢中に…」

 

図らずしも下界の未知に触れた女神は、崩れ去った威厳を立て直すように、一度小さく喉を鳴らす。

 

「…ベル君のために動いたって事は、もう聞いてるよ。でも、だからといって手を上げるのはダメだ。」

 

珍しく生真面目な態度。普段のポンコツが嘘のように、厳かに言葉を積み重ねてゆく。

 

「僕は、君が思いやりのない人間になってしまうのは悲しいんだ。…だから今後はしっかり気をつけるように!以上!」

「……うす」

「よろしい!ほら、来たまえ宇今君!」

 

暗い話はここまで、と我等が主神は明るい語気で雰囲気を切り替える。ベッドは隣室にあるため青年はソファーに寝転び、横に立つ主神が背中に刻まれた紋様に手を這わす。

 

決して反省していない訳ではないが、正直この瞬間だけはどんな感情でも払拭できてしまう。なんかスキルとか発現してないかな。

決して喉元過ぎれば熱さを忘れる訳ではない。もうやらないって………たぶん。

 

「…おぉう」

「なんです、微妙でした?」

「いや微妙というか…反応に困っちゃって」

「笑えばいいと思うよ」

「笑えないんだよねぇ…」

 

 

 

 

「シロカネ・宇今」

 

Lv.1

 

STR:D 552

VIT:E 410

DEX:H 114

AGI:G 221

MAG:F 301

 

《SKILL》

才人願望(デミヌス・タレント)

・恩恵改竄。

・試練の誘引。

・意思の丈により効果上昇。

 

竈門恩寵(カットペイン)

・負傷時における鎮痛効果。

・消耗時における疲労鈍化。

・瀕死時における『耐久』の高補正。

 

 

《MAGIC》

「ブリンク」

・転移魔法

・空間干渉における高優先度。

・射程限界、重量限界はLv.に比例。

《法則を破りしその一歩》

 

 

 

 

(…早い、早過ぎる)

 

冒険者になって数週間の人間のステイタスではない。やはりこれも怪しげな文言が記された"才人願望(スキル)"のせいなのか。

 

「神様、持ってきました!」

「ちょっと待ってくれ……うん、できた」

 

期待に胸を膨らませる彼には悪いが、そのまま伝える訳にはいかない。

ベル君が丁度持ってきてくれた羊皮紙に、数値を下方修正した__それでも現実的な数字ではないが__ステイタスを記入し、彼に手渡す。

 

「すごいよ宇今!凄く強くなってる!」

「んー、結構普通じゃないか?」

「(んなわけあるかぁー!)」

「お前もこのくらい伸びてるだろうさ」

「そうかなぁ!僕も伸びてるかなぁ!」

「(伸びてたまるかぁー!)」

 

はしゃぐ二人を余所(よそ)に、女神は勢いに任せて吐き出しそうになったツッコミを我慢強く飲み込んだ。

 

あの子は自身のスキルの事を知っているけど、冒険者そのものには疎い。

実際より下方した数値ですら、それが如何にデタラメなものか理解していないのがその証拠だ。

こんな事を考えるのは主神(おや)失格かもしれないが、彼はおかしい。明らかに異常だ。

この調子でベル君まで途轍もない飛躍を見せようものなら…

 

あぁ、嫌な予感がするなぁ!

具体的にはベル君にもやべぇスキルが発現する気がするなぁー!

 

神の予感が外れる訳もなく、廃教会は女神の悲鳴に包まれることとなる。

 

"憧憬一途(リアリス・フレーゼ)"

 

彼女の二つ目の悩みの種となる世界的瑕疵(ぶっ壊れスキル)の誕生である。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「「すみませんでしたぁ!!」」

 

土下座である。

 

日も昇りかけの早朝、店員達が各々忙しげに仕込みをしていた『豊穣の女主人』にて極東風陳謝(ジャパニーズドゲザ)を晒す二人。理由は、もちろん昨夜の食い逃げの件。

 

その眼前には、険しい表情を崩さない女主人がいた。

『オラリオ(いち)治安の良い店』と名高いこの店で問題を起こした者が、恐ろしい従業員達によって然るべき"制裁"を受ける事は周知の事実である。

石像の如く固まる新米冒険者をじろりと睥睨したドワーフの女主人は、しかし呆れたように笑みを浮かべた。

 

「何言ってるんだい。お代なら貰ってるよ」

 

カウンターの裏から袋を取り出し、じゃらりと重々しい音を立てる。

あれは俺の財布…というか、昨日の稼ぎだ。

チンピラをシバいたあの時、カウンターに置いたまま一目散に逃げてしまったらしい。

 

「これが残されていなかったら、街中探し回って焼きを入れなきゃならなかったからねぇ。きちんと帰ってきたし、文句なんて何も無いよ」

 

表情こそ笑っているものの、この御仁にして鉄拳制裁(しけいせんこく)を告げられてしまっては全く笑えない。

 

「あ、ありがとうございます…」

「ほら、分かったらとっとと持って帰んな!子供から端金を巻き上げる趣味はないよ!」

 

あまりの圧力(プレッシャー)に潰されそうになりながら、貨幣の入った袋を受け取る。もちろん両手で、下から、恭しく。

もうホント、つくづく第一級冒険者というものは恐ろしい。

 

 

 


 

 

 

朝イチで昨日の稼ぎを取り戻し、目指すは迷宮(ダンジョン)………ではなく、"バベル"。

神時代(しんじだい)の始まりを文字通り創り出した象徴たる白亜の塔は幾重にも重なる層を内包しており、その各所には様々な施設が参入している。

1〜3階にはギルド関係の施設が、そして4階から上はテナントとして貸し出されており、高層階には超高級レストランや、最上階にはあの"美の女神"が住んでいるという話も聞く。

その4〜8階を占めているのが、鍛冶に関して都市イチの規模と実力を誇る"ヘファイストス・ファミリア"の系列店である。

 

ヘファイストス・ファミリアの武器は高額だ。少なくとも今の自分達にとっては雲の上の存在であり、実際にその値段を見たベルは「ゴヒャクマ…!?」と呆気にとられていた。かわいかったです(豹変)

 

しかしそれらの系列店の中でも、安価な商品を売る店が存在する。それがここ、バベル第八階層。

駆け出しの鍛冶師の武具を多く売るこの階層では、鍛冶師は未来のお得意様に、冒険者は未来の腕利き鍛冶師に出会う。

多くの冒険者と鍛冶師で賑わう薄暗くも活気のあるこの場所は、この都市のダンジョン探索を支える一つの土台であると言えるだろう。

 

「宇今、本当にここが好きだよね」

「あぁ…何度来ても飽きないね」

 

しかし此度(こたび)の目的地は、ただでさえ薄暗い鍛冶場から更に奥まった立地の、在庫処理のように武具が詰め込まれた店。様々な武具が煩雑に立てかけられ、棚は少し埃を被っている適当な管理。男の子はこういうボロいジャンク屋に弱いと相場が決まっている。

気まぐれに武器を手に取り、鞘から抜き放ったり素振りしたり。

そうして浪漫に思いを馳せていると、いつの間にか長い時間が過ぎていた、なんてことはザラにある。

 

「剣じゃ欠けるし、だがメイスはなぁ…」

 

ギルドから支給された「ロングソード」。

昨日のヤツは刃を欠けさせて、なんなら最初の1本は半ばから思い切り折っている。流石のエイナさん__俺とベルのアドバイザーのお姉さん__にも怒られ、やむなく耐久性に優れた得物を漁りにきたという訳だ。

 

剣はバランスよく振りやすい。しかし折れる。

メイスは硬く壊れにくい。だが偏重心ゆえ扱いにくい。

剣より強く、メイスより扱いやすい武器。

この店には前々から何度か訪れているが、そんな都合の良い武器は見たことがない。

 

「しっかし埃っぽいな、ちゃんと掃除しろっての…」

 

武器の耐久力問題もあって思うような物が見つからず、気づけば普段なら入らないような奥の奥まで進んできてしまった。

最初に来た時は上に売れ残りのガラクタしか見つからず敬遠していたが、背に腹は代えられない。乱雑に積まれた装備類の山をできるだけ埃を立てぬようにかき分け、宝探しを続行する。

 

__細工の施された鞘に収められたショートソード。

(錆びて抜けん、論外)

 

__?マークに似た独特な形状の刃を持つ長柄武器。

(ショーテルか…流石にないな。)

 

__"鉄壺"としか形容できない何か。恐らくは拳に嵌めるのだろうが…

(武器、だよな?これ…)

 

様々な迷作品を漁っている中で、ふと棒状の何かを発見。

奥に引っ込んでいたソレを掴み、ガラクタの山から引き抜こうとして思わず前に倒れ込む。

 

「おわぁぁッ!?」

 

柱でも掴んだのかと誤認するほどの重量に驚愕しつつ、散乱した武具類の中から、ようやくソレを引き抜く。

 

「…バットじゃねぇか」

 

滑らかな流線を描く、銀灰色の金属棒。握り(グリップ)柄頭(ポメル)こそ他の武器と同じくファンタジー的な意匠が目立つが、このシルエットは明らかにバットのソレ。

 

だが、重い。

ミョルニルかってくらい、重い。

あとデカい。大剣サイズの金属バットなんて初めて見たぞ。

 

「ンぐあぁぁッ…!」

 

青年は半ば躍起になってソレに掴みかかり、遂に地面から浮かせることに成功する。

従来の剣のように扱うことは無理だが、両手で保持し気合を入れれば振り回すことくらいは出来そうだ。

 

 

「…で、それ買ったの?」

「おう。良い買い物したわ」

「まともに使えない武器買ってどうすんのさぁ!」

 

相棒の衝動買いを憂いた少年の悲痛な叫びは薄暗い通りに響き渡り、しかしてその紛糾が彼の心に届くことは無く。

だって仕方ないだろ?

"デカくて重い"は漢の浪漫なのだから。

 

 

 

 





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