『君のいる世界』 「―――――─ね、覚えてる? アルヴィス君、・・・前にもこうやって僕の髪に触れてくれた事があるんだよ」 ベッドの上に二人で横たわり、腕の中の少年にそう問いかければ――――──アルヴィスはその人形のように整った顔を、少しだけ傾げるようにした。 その白い頬にはもう、あの呪われた紋様は浮かんでいない。 代わりにアルヴィスのキレイな顔に浮かぶのは、怪訝そうな表情だった。 「・・・・・・・・・・・・」 吊り上がり気味の猫めいた青い瞳で此方を見つめ、記憶を探るように微かに眉を顰める。 けれど手は、ファントムの髪に伸ばされたままだった。 自分より一回り小さいその手に、己の手を重ね―――――ファントムは幸せそうに目を閉じる。 「・・・僕のこと、憎んでた筈なのにね。何度も何度もこうやって―――――撫でてくれた」 「・・・・・・・・・・」 ファントムの手の下から少年の手が動き、再びゆっくりと髪を梳くように撫で始めた。 その感触を目を閉じたまま追いつつ、ファントムは言葉を続ける。 「―――――─何かさ、良く分からないけど・・・・・許されてるって気がした。別に、今でもメルヘブン大戦起こした事は後悔してないんだけどね? 許されたいって思ったこともないよ」 でもね・・・・そう言って、ファントムは目を開いた。 間近にある、キレイな顔は何も言わずにファントムを見つめていた。 長い睫毛に縁取られた、強い光りを放つ鮮やかな青の双眸。造り物めいて見える程整った少年の顔が。 ファントムは少年の細い腰を炎型の紋章が消え失せた手で掴み、引き寄せ―――――すぐ傍にある唇に軽く口づけた。 「・・でも・・・・僕は、君にだけは許されたいって、思った」 ―――――─君が望むのなら、その通りにしてもいいって、思ったんだ。 ―――――─その望みが・・・・今までの僕を全否定する内容でも。 ―――――─僕の永遠を終わらせる事になるのだとしても・・・・・その通りにしてもいいって、思ったんだ。 「・・・そして今、僕は君の傍に居る。こうして触れてる。抱きしめてる。この世に神様が居るのかも知れないって―――――今なら少しは思えるかな」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 サラリ、サラリと、とても優しい仕草で髪を梳かれる。 その感触は、まるであの時と同じ。 目を閉じれば錯覚出来そうに、同じ感触。 けれど―――――─目の前の彼は、あの時のような虚ろな瞳はしていない。 ファントムを魅了して止まない、強い光りを放つ鮮やかな2つの青色は、しっかりと自分を映し・・・・見つめている。自らの、意志で。 「君に髪を撫でて貰うの大好きだよ・・・・すごく、気持ちいい・・・」 安心する―――――そう言ったら、目の前の少年はとても嬉しそうな笑みを浮かべた。 髪を撫でる手と同じくらい、優しくて甘くて、見ているファントムの方が嬉しさに胸がいっぱいになってしまいそうな、キレイな笑顔。 「・・・幸せだなって、本当にそう思うよ。アルヴィス君が傍にいて、こうして僕の髪を撫でてくれているのなら、他に何にもいらない」 こうしてくれている、だけでいい。 君が居てくれるのなら、世界を壊したいなんて思わないから。 君さえ居てくれれば、僕は世界を憎まない。 君の居る世界だから、・・・壊したくない。 「アルヴィス君・・・大好きだよ」 「ファントム・・・」 かつて失われた筈の左腕でしっかりとアルヴィスの腰を更に引き寄せ、ファントムはもう片方の手で少年の黒髪を掻き抱く。 そんなファントムの頭を、アルヴィスは両手で包むように抱きしめた。 そして、睫毛と睫毛。鼻と鼻が触れ合う程の、互いの吐息が掠める程に近い距離で見つめ合う。 それから。 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 二人して、クスクスと笑い合いながら、何度も何度もキスをした。 唇と唇が微かに触れ合うような戯れめいた口付けから、舌と舌が絡み合い吐息が混ざり合うような熱くてとろける激しいキス、はたまた互いの頬に唇を押しつけあうような他愛のないキスまで、繰り返し何度も何度も。 ファントムの顔に、自然と笑みが零れる。 考えなくても、演じなくても―――――心の奥底から込み上げる、自然な感情。 嬉しくて幸せで、堪らない。 愛おしくて大切で、喉元まで込み上げてくるような甘ったるい息苦しさを感じる。 力いっぱい、抱きしめてしまいたいような―――――壊れ物を扱うようにそっと優しく愛でたいような・・・・そんな気持ち。 それらは全て、腕の中の彼のお陰。彼が、教えてくれた感情。 「ねえアルヴィス君・・・愛してるよ」 キスの合間にそう告げれば、幾つになっても恥ずかしがり屋らしい少年は、ほんのり赤くなった頬を更に薔薇色に染め。小さな声で、返事をした。 「・・・・・も」 「え?」 「っ、・・・・何も言ってないっ・・!」 とても小さな声だったから、ちゃんと聞きたくてそう言ったら少年は恥ずかしそうに俯いてしまった。 白い耳朶まで赤くなっている。 その赤くなった耳にちゅっと軽く口づけて、ファントムは笑った。 「―――――─大丈夫。聞こえたから」 「―――――!!」 俯いていた顔をガバッと上げ、此方を見たアルヴィスの顎を捕らえて、また素早くキスをした。 ―――――─俺も。 聞こえていたけれど、何度でも聞きたかったから、つい聞き返してしまった。 だって、好きな子からの告白は、何度聞いても素敵でしょう・・・? 「―――――大好き。愛してるよ」 ちょっとむくれた頬に、唇に、宥めるように何度も優しいキスを繰り返す。 前髪を掻き上げ、白い額に、鼻の頭に、長い睫毛にも口付けを。 「ファントム・・・」 ふと小さく名を呼ばれ、首の後ろに回されていたアルヴィスの両手に力が込められる。 「・・・・・・・・・・」 そして、強引な仕草で唇を自分のそれに押しつけてきた。 初めての、彼からのキス。 アルヴィスはすぐに唇を離したが、さきほどよりも顔は茹で蛸のように真っ赤だ。 「―――――俺も・・・俺だって、・・・・ぁぃ・・・、好き・・だっ、」 とてもとても、消え入りそうな声で、口を開く。 「・・・アルヴィス君・・・・」 愛、まで口走っておきながら、どうしても愛してるとは言えないところが可愛らしいと思う。 あんまり可愛らしすぎて、ファントムは込み上げる笑みを抑えきれないままに抱きしめる腕に力を込めた。 そして、つんつんと立ち上がった柔らかい黒髪に頬ずりし、感情が高ぶるままに顔中にキスの雨を降らせる。 「ん・・・んん・・・っ、」 アルヴィスが抗議するかのように、ファントムの襟首を後ろから掴んで引きはがそうと暴れるが、構わずに押さえ込んだ。 可愛すぎる反応ばかりしてくれる、アルヴィス君が悪いんだよ―――――─そんな、勝手な言い分を心の中だけで思いながら、ファントムは身体の位置を変えて少年を組み敷く。 「・・・・・・・・・・・・・」 「―――――愛してる」 視線を合わせ、真摯な口調で繰り返せば、暴れていた身体が静かになった。 赤く染まったキレイな顔が、再びとろけそうな可愛い笑顔を浮かべてくれる。 自分を映す、濃い青の瞳に吸い込まれそうな気がした。 「―――――・・・・」 誘われるように、唇を重ねた。 背に回された腕。絡み合う足――――密着した身体。 抱き合う。溶け合う。ひとつになる―――――─心も体も、全てが一つに。 それは、なんて心地良い。それは、なんて幸せ。 「アルヴィス君、大好きだよ・・・・・・・・」 必死にしがみついてくる、華奢な身体を抱きしめて。ファントムは心からの言葉を口にした。 ―――――─君が居れば、僕は幸せ―――――─── end +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 言い訳。 キスする寸前で、イチャコラしてるファンアルが書きたかったのです(笑) こう・・・鼻と鼻が触れ合うような、あとチョットで唇がくっついちゃうよ?みたいな 感じで見つめ合うLOVEな二人。 きっとファントム、すっごい嬉しそうな顔してると思うんですが!! ちなみに生き返った時に、トム様の身体も屍化が解かれると思うので ちゃんと両腕あることにしました(爆) だって片腕だとなにかと大変(何が?) いやあの、『救いの手』のイメージでスッゴイ素敵なイラスト頂いてしまったので 何かそのままアップさせて頂くの申し訳無くて・・・それで、何か出来ないかと 考えて、こんな続きというかクラヴィーア編その後の二人な話考えてしまいました・・・。 お目汚しでスミマセン・・・。でも捧げます!!(迷惑にも・・・) |
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