「残念ながら斎賀夜彦君、君は死んじゃったよ」
真っ白な空間、直前までの記憶、目の前にいる額に2本の角が生え光輪を背負っている人離れしたイケメンを見て俺は死んだ事をすんなり受け入れる事ができた。
現場職の給料が割に合わないと思い、悩みながらも俺は5年働いていた仕事を辞めた。一ヶ月程は心のリフレッシュとして気ままに一人で食旅行を楽しみ、そこからはバイトを始めた。バイトを始めた俺は責任のない身軽な立場が居心地が良くぬるま湯に浸かり自堕落に過ごしていた。だが、このままではいけないと思い、職探しをしていた矢先に道路の地盤沈下に巻き込まれて・・・そこからはあまり思いだしたくないな。一言言うなら俺は死に切れるまで約四日程かかった。
そうして今に戻る。後悔はある。申し訳なさもある。俺はテンプレの様に天涯孤独という訳でもないからな。友達もいたし弟もいる。両親よりも早く死んでしまった。
「私の名前は知っているのですね。あなた神様なのでしょうか?」
「神様ではないね?どちらかというと、悪魔に近いんじゃないかな。それにしても夜彦君は死んだ事に対する動揺とか、異世界転生キターー!とかはないんだね。それに僕に対する敬意もある」
動揺がないのは、あの四日で俺の精神が擦り切れているからだ。敬意を抱くのは、そうしないと俺が消えるんじゃないかと警戒してるからだ。
「当然でしょう。明らかに人間より上位の存在ですし敬意を持ちますよ。それで何故私はここにいるのでしょうか?それとも死後は皆んな此処に来るのでしょうか?」
「当然の疑問だね。順番に答えていこうか。まず僕は人間より上位の存在だよ。地球の運営をしている。名前は残念ながら明かせないかな。神や神に近しい存在にとって真名はおろか略名も気軽に明かしては駄目なんだ。それを聞いた、知った事で加護が強制的に付与されるからね。
次に死者は必ず僕に会う訳でもないし、狭間に来る訳でもない。君が特別なんだよ」
特別・・・俺が?
神様みたいな存在は黄金の瞳で俯瞰する様に、慈悲を与えるかの様に見ている。もっと凄い事、大事なことを言ってた筈なのに・・・その瞳に見られると息が詰まりそうになる。恐怖ではない、特別と言われた事による嬉しさでもない。困惑だと思う。
「戸惑っているね。無理もないか。君は確かに特別だよ。あの死の間際の自我の強さ、普通なら心が折れる筈なんだよ。けど君は違う折れなかった、摩耗しながらでも夜彦君は生に執着していた」
「そんなんじゃ・・ありません。罪悪感なんです。特に父さん、母さんよりも早くに死んでしまった事による罪悪感なんです」
「それでも折れなかった事に変わりはないよ」
「だけどね〜、その自我の強さがちょっと駄目なんだよね」神様みたいな人は苦笑しながら頭を抱えていた。
「何が駄目なんでしょうか?」
「その自我の強さじゃ、輪廻転生ができないよ。記憶を漂白できない。てな訳で、君には異世界転生してもらいます!そこで老人になる位には生きて満足して死んで欲しいんだよ。そうすれば地球に魂を廻せれる」
「んなっ!?」
「おお、今の声ボンプみたいだったね」
異世界転生ってマジか。絶対に嫌だ。あれは作品だから良いのであって実際に体験とか嫌。
「その表情見たら嫌だというのは分かるけど拒否権はないから。ちなみに転生してもらう世界はダンまちね。最近の僕のブームなんだよね。特にあのロキが女になって無乳とか笑える」
「拒否権ないんですか・・・凄い嫌ですけど転生しますよ」
確かに神様みたいな存在は悪魔が近しいって言っていたから反抗しても無駄だよな。渋々転生する事を受け入れる。だけど絶対に特典はないといかんな。まだ切り替えもできないが、先を見据えろ俺。そうしないと今にも泣きそうになるから。
「すいません、ダンまちってなんですか?」俺の素朴な疑問に神様みたいな存在は俺を珍獣を見るかの様な視線をむけていた。
「マジで?知らない?夜彦君の世界で有名なんだけど。《ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか》聞いた事ない?」
「申し訳ないですが・・・」
「・・まぁその方が良いかもね。超ザックリに言うとモンスターいるから。で、黒竜という危険モンスターがいる。次いでに神々も下界に降りてるから。無能なんだけどね!」
「だったら転生特典とかは貰えるのでしょうか?」
「いいよ。というか少しでも君の魂を消費させないと駄目だからね。さてどんな特典が欲しいのかな?」
この時の神様みたい存在の目は怖かった。実験動物を見るかの様に無機質だった。だからこそ、慎重に考えた。ここで理不尽級の特典を求めたら致命的な事になるんじゃないかと考えた。
そして思いつく。これは俺の最初の憧れ。それと同じになってみたいと考えた。けど、ただ同じになるのは駄目だ。
「私をドラゴンボールに出てくるサイヤ人にしてもらえませんか?」
「へぇー、ゴジータとかベジットそのものにしてとは言わないんだね」
「それも考えました。けど私の力だという自信を将来的には持ちたい。だから強くなる種を望みました」
俺の考えを聞いた目の前の存在は悪魔みたいな笑みを浮かべた。
「正解だよ。もし夜彦君がゴジータまたはベジットと同じにしてとか言ってたら、魂を全消費して地球の輪廻に戻してたよ」
「っ!!」
「そりゃそうでしょ。ドラゴンボール世界に出でくる登場人物って大半が僕より強いじゃないか。そんあ人物の再現とか無理だね。太陽系とか破壊できないし。だからこそ君は正解だ。ま、種という言い回しがなければ不正解だったけどね」
「・・それはサイヤ人の再現も無理だからですか?」
「うん。完全再現は無理!最下級戦士のサイヤ人でも僕より強そうだし。そりゃ権能とか色々便利な力はあるけど純粋な力は僕が劣る。だから君に授ける特典は転生先様にデチューンして授けるから。それでも努力すれば、その世界の最強になれるかもね」
「そては、お気遣いありがとうございます」
「僕も久しぶりに会話できて楽しかったよ」
やっぱり俺は生きたいのだろうな。今からでも無茶な特典を望めば消える事ができる。けど、生きたい。俺という自意識が消えるのは嫌だ。
「さて、特典を授ける。君にとってよき生を」
手を翳され、あっという間に俺の意識がなくなる。別れの挨拶もまだなのに。どこまでマイペースでだったな。
って、この子まだ生きてるじゃないか。弱ってるけど。俺以外の気配がする。この子は転生とか前世とか関係ない現地の魂なのかな。俺みたいな感じじゃないし、何より無垢だ。
本当に悪魔みたいな神様みたいな存在だな。俺の貰った特典で確かにこの子の肉体に尾が生えている。たぶんこのまま、俺が居座ればこの子の肉体は俺の物になるだろう。
けどさ、違うだろ。子供は祝福されて生まれるべきだ。そりゃ俺も消えたくない。でも、この子の命の方が尊いものだろ。
それに俺の理想とする大人は子供の為にカッコつけれる。そんな大人だ。だから、君は生きるんだ。
俺の全部をあげる。そうすれば君は息を吹き返せれる。
もし、この記憶が残るとしたら、一つだけお願いがある。俺の憧れたサイヤ人なんだ。最強になれ。
もちろん嫌ならいいんだ。
頑張って生きろ!
ま、こんな最後でもいいか。子供の命の方が大事だ。
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それが僕の最初の記憶。物心ついた僕の始まりの記憶。