国民民主党の伊藤孝恵参院議員は、18日の参院予算委員会で、ネット上に蔓延する性的な描写を伴う「エロ広告」問題に切り込んだ。エロ広告は料理レシピやゲーム攻略などのサイトに加え、学校が配布するタブレットにも表示される。伊藤氏は所管官庁を順々に尋ね、たらい回しにされる憂き目に遭い、エロ広告に対する政界の関心の薄さが浮き彫りとなった。約25分の持ち時間で約25回、エロ広告に言及して質問を続けた伊藤氏に対し、三原じゅん子こども政策担当相は最終的に「司令塔機能を果たしたい」と確約するに至った。
放置に心配と怒りの声
「エロ広告がどんどん入ってくる。いつまで放置する気なのか。日本中で心配と怒りの声が上がっている」
伊藤氏は冒頭、こう切り出した。
ネットに触れる機会の多い現代の子供たちは、未就学児童でもエロ広告をクリックして性的な動画を見てしまうことがあるという。
文部科学省も小中学生に1人1台配備するタブレット端末について、悪質サイトに接続できなくする「フィルタリング」機能の導入を端末更新する際の補助条件としている。
ただ、この日の質疑で村上誠一郎総務相は、広告リンク先のURLが事前に「アダルトカテゴリー」に分類されていない場合、フィルタリングが機能しないと明らかにした。
5閣僚「所管はうちじゃない」
ただ、エロ広告問題に関する国会の熱量は高くはなさそうだ。国会会議録検索システムで「エロ広告」をキーワードに検索しても会議録は出てこない。伊藤氏は逡巡しながらも、各閣僚にエロ広告について尋ねるべく予算委員会に質問通告を出したという。
伊藤氏はエロ広告の規制を所管する官庁はどこかと、こども家庭庁、総務省、デジタル庁、経済産業省、文部科学省─とそれぞれ担当閣僚に尋ねていくが、5閣僚は「所管ではない」(武藤容治経産相)などと否定する。
「エロ広告」に確立された定義はないとみられる。「不適切な広告」(文科省)、「性的な広告」(総務省)、「アダルト広告」(こども庁)などと、この日の答弁でも省庁ごとに用語はバラバラだった。
伊藤氏は「困りました。広告の中身の善しあしを判断する規律や法律もない。これで政策が進むわけがない。野放図なエロ広告が巷にあふれ続けている。子供の目に触れる性的広告規制の所管を整理してほしい」と述べ、参院予算委員会理事会に報告を求めた。
エロ広告規制は海外で先行しているという。欧州連合(EU)のデジタルサービス法(DSA)は対象が未成年だと認識されれば、受信者の個人情報を使用してエロ広告は表示してはならないと定められている。
「表現の自由は対応しない理由にならない」
こども庁は昨年11月に発足した「インターネットの利用を巡る青少年の保護の在り方に関するワーキンググループ(WG)」で豪州や英国、米国、EUなど諸外国の状況について調査研究を進めている。
議論の取りまとめ時期について三原氏は明言しない。同庁幹部も「SNS規制は諸外国でさまざま新しい動きがある。しっかり把握しながら検討が進むように努力したい」と述べるにとどめた。
ネット上に蔓延するエロ広告の規制に積極的に踏み込まない背景に、憲法の定める「表現の自由」との抵触を恐れているとの指摘がある。
こども庁側の答弁に伊藤氏は不快感を示す。
「テクノロジーはどんどん発達している。あまりにも時間軸が違う」と述べ、「表現の自由はもちろん大切だが、エロ広告に対応しない理由にならない。子供への有害性、社会的影響の評価、広告規制についての所見、いつまでに結論を出すのか。三原氏にも聞きますから」と村上氏に答弁を求めた。
「許すまじ」
村上氏の答弁中、三原氏は後ろに控えた官僚と何かを話し合っている。伊藤氏は三原氏と目が合った。なんとなく期待に応えた答弁が返ってくる気がしたという。
一方、三原氏に先立って答弁に立ったこども庁の官僚は「いつまでに何を申し上げる段階にはございません」と述べ、続いて三原氏もWGの議論状況などを話していたが、答弁用紙に落としていた視線を上げると「取りまとめは夏頃までには…はい。夏頃までには課題の論点の整理を踏まえ、関係省庁への検討要請を含めて司令塔機能を果たしたい」と強調した。
コブシを利かせつつ「夏頃」と明言した三原氏に対し、伊藤氏は自席から拍手で応えていた。
伊藤氏は「こういった性的児童虐待コンテンツを広告にするなど許すまじ、と思っている」と強調し、「表現の自由を守りつつ、子供たちに扇動的なエロ広告は送らない。『夏頃』、期待している」と語った。(奥原慎平)