カクレオンの店主ですよ!悪いモンスターじゃありません!


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作:猫ネコねこキャット
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お客様は満身創痍


 

 

「(俺は……死ぬのか?)」

 

 男は全身から血を流す。

 原因は様々で、モンスターによる裂傷。環境による打撲。魔法による火傷。

 ダンジョンは人を誘い込み、数えきれない死に方を人類に与える。その死を切り抜けた者を生者。享受してしまったものを死者と区分される。

 

 この男は後者になりかけの前者である。1年前にレベル2になり、中規模ギルドながら、充実した生活を送っていただけの冒険者だ。

 特にダンジョンにトラブルがあったわけではない。いつも通り、中層で金稼ぎをしていると慣れから油断からか、モンスターの攻撃が直撃したと同時にポーションの入った瓶が割れてしまっただけだ。

 今日に限って仲間はいない。助けてくれる冒険者もいない。安全な場所へ行くにはあと数階層降りなければならない。

 これ以上に隣にありふれた絶望はないだろう。

 

「(育ててくれた恩も返せてねえってのに死んでたまるかよ)」

 

 男は一心不乱に歩き始める。と言ってもあまりにも遅い。子供が歩いた方が速いだろう。壁に手をつけているのも視界がぼやけて前が見えないためなのだろう。

 根性のあるやつだ。むしろ大した才能もないのにレベル2になったのは根性の賜物と言える。

 

「(なんだ……暖かい?)」

 

 男は歩き続けていると部屋全体の気温が急激に上昇したように思える。例えれば、冬に帰ったら暖炉で火を炊いていた時の感覚だ。

 不思議なことだ。ダンジョン内でそんな部屋はない。安全なエリアでも珍しいほど。

 中層で言えば火を吐く狼などはいるがやつらが使う火は暖かいよりも熱いものだ。直接ぶつかられなくともどこかに燃え移っているだけで焚き火よりも熱くなるはずだ。

 

 ならこの暖かさはなんなのか?

 男はそれを確認しようと揺れる視界を必死に固定する。それでも上手くは見えない。ただ何か絨毯のようなものが敷かれていて、緑色の何かが動いている。

 

「いらっしゃ〜い」

 

 緑色の何かが声をかけてきた。いらっしゃいと言ったということは店か何かなのだろう。男は意識が完全に落ちきる前に尻のポケットに入れていた財布を取り出す。

 もちろんダンジョンに向かうのに大金を入れるわけがない。安全階層である18階。迷宮の楽園(アンダーリゾート)に行ってしまった時に、必要最低限なものを買うためだ。

 

「その傷だとポーションかい?」

 

 男は首を縦に振る。もう話せる体力すらも残されていない。そんな彼の口に強引に回復薬が流し込まれる。体の傷は全て治らない。それでも致命傷と言えるほどの傷はなくなるほどの回復力を見せた。

 

「(俺は……助かったのか?)」

 

 だんだんと視界がはっきりしていく。視界がはっきりしていくからこそ自分の片目が頭から流れていた血で視界が塞がっていたことに気づく。

 服で強引に血を拭った後、回復薬を売ってくれた店主に礼を言おうと店主の方を見た。

 

 薄緑色に黄色い線がいくつかある。長い唇と小さな瞳は感情を感じさせない。蕨のように巻いている尻尾はトカゲ系のモンスターに似ているが既存の種にはどれも当てはまらない。腹部から腰まで皮が裂けたように赤い皮膚を露出している。

 

 そんなモンスターが人の言葉を喋り、商売をしている事実に男は動揺を隠せない。

 

「他に何か買っていく?」

 

 その言葉で自分を騙そうとしているわけではないことは理解している。何せ満身創痍の自分を殺さずにわざわざ商売として回復薬を売ったのだから。

 財布の中身を確認しても少し割高だがリヴィラよりも数倍マシな値段で回復薬を売ってくれたことを考えればよっぽど人よりもいいやつなのかもしれない。

 そんな幻想じみた想像と現実に狩られてモンスターであることは置いておいて商人として接することにした。

 

「他にどんな商品があるんだ?」

「オススメはね〜これかな」

「これは?」

「『あなぬけのたま』!使うとダンジョンの外に出られる!」

「………は?」

 

 ダンジョンから出られる。方法は知らないがそのアイテムを使うだけ。そんな無謀なマジックアイテムが存在するのだろうか?

 本来ダンジョンとは進むよりも帰る時に注意すべき場所とギルドから言われている。そんな場所で帰れる手段が徒歩ではなくアイテムに頼れれば遠征時の食料や武器などをどれだけ減らされるだろうか。

 

「それいくら?」

「70000ポ……ヴァリスだよ」

「70000か…」

 

 男は自分の財布を見る。回復薬を買ったせいで財布の中には3500ヴァリスしか存在していない。しかしどうしてもそのアイテムが欲しい。どうするべきかと頭を悩ませていると店主が言った。

 

「買い取りもやってるよ〜」

「本当か⁉︎魔石なんかは買い取ってくれるか?」

「いいよ〜」

 

 男は自分の狩ってきたモンスターの魔石を見せる。全て中層のものだ。地上に出てから売れば少なくとも8万は稼げるだろう。

 

「うーんとね……そうだね。87952ヴァリスかな」

 

 随分と的確な数字を上げたことに疑問を覚えつつも買えるのなら小さなことと割り切って男は『あなぬけのたま』を購入した。

 

「それは使い切りだから気をつけてね〜」

 

 そりゃそうかと口にする。ダンジョンから出られるなら一回7万ヴァリスは相当安いだろう。しかしこれを持ち替えれば一攫千金も夢じゃない。

 でも男は使用することにした。武器も壊れかけで中層を抜けられるとは思っていない。金稼ぎのためにダンジョンに挑むが、金よりも命の方が大切と神様から散々言われてきたからだ。それに自分を助けてくれた店主から購入した物を他に売るのは転売のような悪い気がしていたからだ。

 

「これどうやって使うんだ?」

「帰りたいって思いながら握ってみて」

 

 男は言われた通りにすると青白いが降り注ぐ。痛みはない。ただどこかに引っ張られる感覚があり、抗えないだけだ。

 

「まいどあり〜」

 

 店主のその声を聞いたが最後、男は上に引っ張られ、天井に当たる直前、肌で感じる空気が変わる。温度も湿度も違う。全てががらりと変わり、目を開けるとギルドの前に立っていた。

 

「お、お前……なんで空から降ってきたんだ?」

「は?」

 

 その場にいた冒険者が教えてくれる。急に空から降ってきて、あの高さから落ちたのに砂埃一つ立てずに着地したと。

 

「ははは……マジかよ」

 

 すでに役目を果たし、割れてしまったあなぬけのたまを見つめながら男は苦笑いすることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

「その話は本当なのかい?」

「さあな。でも目撃者は多いし本人が語っている」

「にわかには信じられんな。ダンジョンで冒険者にポーションやマジックアイテムを売るモンスターなど」

「真偽はどうあれ、今は判断材料が少ない。他にその店に出会った冒険者がいたら事情聴取させてもらおう。それまでは不用意に探したり、近づかないように」

 

 ロキファミリアのリーダーであるフィンがファミリアのメンバーに注意喚起を促す。しかしそんなことを聞いて、内心焦っている者が1人いた。

 

「(まずいっす!俺もうすでにその店使ったことがあるっすよ!!)」

 

 とは言い出せずに1人悩むラウル・ノールド(ハイ・ナービス)であった。

 

 

 

 

 

 

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