停戦の終わり、信じたくなかった 爆撃音響く「日常」に戻ったガザで

ハンユニス=ムハンマド・マンスール 構成・エルサレム=高久潤

朝日新聞通信員のムハンマド・マンスールさん(29)が2025年3月24日、パレスチナ自治区ガザイスラエル軍の攻撃を受けて死亡しました。マンスールさんは生前、「この地域がいつか平和になるように取材している」「ガザのことを知ってもらうこの仕事を私は誇りに思っています」と話していました。マンスールさんが現地から私たちに届けてくれたこちらの記事を、今月末まで全文無料公開します。

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 イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が、約2カ月間の停戦が終わるかたちで再開され、2023年10月からの戦闘の死者は23日に5万人を超えた。戦闘再開の瞬間から、ガザの人たちは何を感じ、どう動いたのか。現地からムハンマド・マンスール通信員が報告する。

マンスール通信員、ガザからの報告

 私は、ガザに住む多くの市民たちと同じように、今も南部ハンユニスで家族たちとテントに住んでいる。空爆と砲撃、そして地上軍の攻撃から解放された喜びはすぐに終わった。戦闘が止まっていた間、不安と疲労に苦しんでいた。

 「今後もテント暮らしなのか」「いつか、自分の家を取り返して生活を始められるのか」

 夜が更けていくなか、考えても答えの出ない問いばかりが頭に浮かんでいた。

 イスラエル軍が攻撃を再開した18日の未明も同じだった。偵察機の音がいつもより騒がしいように感じたが、激しい疲労で全身が重く、私は気づくと眠りに落ちていた。

人々の悲鳴、近づく爆撃音

 午前2時過ぎだった。連続した爆撃音が鳴り響き、とびおきた。真っ暗だったはずの室内が爆発のまぶしい光に照らされ、近くで寝ていたはずの家族の恐怖でゆがんだ顔が見えた。静まりかえっていた夜は、一瞬で異常な音に包まれた。

 負傷した人々の叫び声、避難する人々の悲鳴や足音、救急車のサイレン、上空を覆うイスラエル軍の戦闘機がうなる音、徐々に近づいてくる爆撃音。

 手当たりしだいに知人に電話をかけていた。

 「何が起こったんだ?」「わからない!」

 テントから出ると、みな同じようなことをしている。実は私もそうだ。

 でも、私は知っている。「わからない」なんてことはないのだ。振り返ると、奇妙なのだが、私は友人に電話で「何が起きた?」と言いながら、心の中でこう言っていた。

 〈イスラエル軍が攻撃を始めたに決まっているじゃないか〉

 それでも、私は友人にそうたずね、また友人からの電話にこう答えていた。「わからない!」

 少なくともその時電話で話した友人3人は、私と同じように停戦が終わったことはすぐにわかっていた、と後に打ち明けた。信じたくなかっただけだ。

 電話でやり取りをしているうちに、イスラエル軍が攻撃を再開したと発表した、と報道で知った。

 私は家族とともに、テントを出て、歩いて10分ほどのところにある国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が運営している学校の敷地内に逃げた。

 とはいえ、この学校も安全な保証はない。「すぐ終わるし、ここは大丈夫だよ」。涙を浮かべている親族の子どもの手を握りながらそう話す。同じように避難してきた大人たち、特に男たちはたばこを吸ってばかりで何も話さなかった。

 イスラエル軍は空爆したあとの20日、かつてと同じように地上作戦を始めた。私がいるハンユニス、そして最南端のラファは地上軍の砲撃が激しい。

 レハム・アブタハラさん(29)は、夫と子どもたち2人とともにラファにいる。「砲撃がやまない。子どもたちの泣き声もやまない。死が私たちを覆っている」と訴える。

再び始まる、私たちの「日常」

 イスラエルの攻撃が再び始まって5日たった23日午後9時ごろ、私は南部で唯一機能しているナセル病院の近くのテントの中で、他の記者仲間2人と話をしていた。話題は、かつて私が住んでいたラファでイスラエル軍の地上部隊がどんな攻撃をしているのか、だった。

 その時だった。突然、視界が赤く光った後、私たちは地面に倒れていた。

 イスラエル軍がイスラム組織ハマスがいるとして病院をミサイルで攻撃した瞬間だった。私が聞こえた砲撃音は1回だったが、仲間たちは2回だった、ともいう。

 爆風でミサイルの金属片などが私たちがいたテント周辺に降り注いだ。

 ガザ保健省の発表によると、死者は2人。ハマスの政治局のメンバーと、病院で手術中だった16歳の少年だった。負傷者は多数に上るという。

 「イスラエル軍は、ガザの人たちには安全なところなんてないんだ、病院もだ、と私たちを脅しているのだと思う。君ら記者も含めて」

 ナセル病院の医師の一人は、攻撃直後に病院に駆けつけた私の取材にそう答えた。彼は名乗ったけども、その名前は引用しない。彼は今後も病院で働くと言っており、取材へのコメントで彼の身に危険が及ぶ可能性があるからだ。

 イスラエルは今月2日から支援物資の搬入を止めたままで、私たちに届くことはない。攻撃再開前と同じように停電は続き、市場に残っているものの価格は日に日に高くなった。

 私の一日は攻撃を受けるのを避けながら、家族とともに飲料水や食料を集めることでほとんど終わってしまう。

 戦闘が一時的に止まったとき、ガザで今後どう生きていくか悩んだ。戦闘が再び始まり、今日と明日のことに悩む。

 私たちの「日常」が、また始まった。

ガザ在住の朝日新聞通信員マンスールさん死亡 ミサイル攻撃で妻子も

 パレスチナ自治区ガザで朝日新聞の通信員を務めてきたムハンマド・マンスールさん(29)が24日、ガザでイスラエル軍の攻撃を受けて死亡した。ガザ当局が発表した。

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この記事を書いた人
高久潤
エルサレム支局長
専門・関心分野
グローバリゼーション、民主主義、文化、芸術
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    川上泰徳
    (中東ジャーナリスト)
    2025年3月25日9時56分 投稿
    【視点】

    この記事が、ガザ在住のパレスチナ人ジャーナリスト、ムハンマド・マンスールさんの最後の現地報告となってしまった。私はこの記事を昨夜(24日)読み、今朝、目を覚ますと、マンスールさんがイスラエル軍の攻撃で死亡したという記事を見て、言葉を失った。  マンスールさんは2003年10月にイスラエルのガザ攻撃が始まって以来、ずっと朝日新聞でガザの人々の声と思いを伝えてきた。  最後の記事では1月下旬以来の停戦が続いた後に、戦争終結の願いを打ち砕かれたことについて、こう書いた。 <私の一日は攻撃を受けるのを避けながら、家族とともに飲料水や食料を集めることでほとんど終わってしまう………私たちの「日常」が、また始まった。>  この思いは、ガザにいる人々すべての思いだろう。  昨年11月、トランプ氏が大統領選で勝利が決まった時、マンスールさんはガザの人々にインタビューした。トランプ氏がイスラエル寄りなのはわかっていても、選挙中に「ガザの戦争を終わらせる」と公約したことへの期待を語るガザの人々の声を紹介した。  その記事の最後に、マンスールさん自身の思いがつづられていた。  <私自身もガザの住民だ。私はガザの状況はもっと悪くなるだろうと予想している。これ以上どう悪くなっていくのか、具体的にはわからない。すでにたくさんの人が殺され、生きていても食料にありつくのも難しい。自分たちの家は破壊され、がれきになった。  トランプ氏の1期目はパレスチナ人にとって悪夢だった。パレスチナ自治区ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地の拡大を「国際法違反ではない」と容認し、帰属を争ってきたエルサレムもイスラエルの首都と認定し、米大使館を移転させた。  それをガザの人が忘れているわけではない。でも、せめて口では期待や希望を話してみたい。そう思うほど追い込まれているのだ。私はインタビューした全員に、私の意見をぶつけてみた。だれも否定しなかった。>(朝日新聞2024年11月17日付)  今回のイスラエルによる攻撃再開は、トランプ政権に事前に通知され、承認を得ていたという。トランプ大統領に希望を寄せなければならないほと追い込まれたガザの人々の思いは、停戦合意で歓喜に包まれたが、また絶望に変わった。絶望の下で生きる人々の状況と声を伝えてきたマンスールさんも命を奪われた。  封鎖され、外国人ジャーナリストが入ることができないガザの報道は、世界中のメディアが、マンスールさんのような地元のパレスチナ人ジャーナリストの仕事に依存してきた。ガザには1000人ほどのジャーナリストがいるといわれていたが、マンスールさんはイスラエルの攻撃が始まって攻撃で殺害された207人目のジャーナリストだという。  攻撃が始まって1年半でガザのジャーナリストの5人に1人が殺害されたことになる。  朝日新聞の記事によると、マンスールさんは「ガザ南部ハンユニスの自宅にいる時にイスラエル軍のミサイル攻撃を受けた」という。  イスラエルの独立系メディア「+972マガジン」によると、イスラエル軍は「ラベンダー」と呼ばれるAIシステムを使って標的を定めて、攻撃していることが知られている。 https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c72d4cbc32aa5577eac494dfd75b43652a20555f  ガザで命を落としたジャーナリストの多くは、危険な戦場で戦闘や攻撃に巻き込まれて命を落としているのではなく、マンスールさんと同じように家や避難テントで家族と共にいる時に攻撃を受けて殺害されている。  +972マガジンによると、イスラエル軍は携帯電話を通して「目標」となる人物の位置情報を追跡し、その人物が自宅に戻ったところで攻撃する「父さんはどこ?(Where’s Daddy? ) 」と呼ばれるAI自動化システムを使っているという。  このふざけた命名は「標的」に家族がいることを想定している。「ハマス壊滅」と言いながら、事実と人々の声を伝えるジャーナリストを、家族ともに抹殺する卑劣な手法である。  イスラエルは事実を伝えるジャーナリストの力を知っているからこそ、それを「標的」として排除しようとしているのだろう。  私は現場から報じるジャーナリストは、私たちにとっての「目」だと考えている。マンスールさんの死によって、私たちの貴重な「目」を失った。 ※記事内容の変更を受け、コメントを一部修正しました。

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イスラエル・パレスチナ問題

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