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吹き飛ばされた子どもたちはハマスなのか 絶望の街ガザからの報告

イスラエル・パレスチナ問題ガザ南部ラファ=ムハンマド・マンスール エルサレム=高久潤

朝日新聞通信員のムハンマド・マンスールさん(29)が2025年3月24日、パレスチナ自治区ガザイスラエル軍の攻撃を受けて死亡しました。マンスールさんは生前、「この地域がいつか平和になるように取材している」「ガザのことを知ってもらうこの仕事を私は誇りに思っています」と話していました。マンスールさんが現地から私たちに届けてくれたこちらの記事を、今月末まで全文無料公開します。

 イスラム組織ハマスの奇襲に端を発したイスラエル軍のパレスチナ自治区ガザへの報復攻撃が始まり、7日で半年となる。ガザでは3万3千人以上が犠牲になってもなお戦闘に終わりが見えない。避難民ら150万人が身を寄せる最南部ラファの状況を、ムハンマド・マンスール朝日新聞通信員(28)が報告する。

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【動画】ガザ南部の避難民キャンプ 軍事衝突から半年=ムハンマド・マンスール撮影

人々の心まで変えられてしまった

 イスラエル軍の攻撃が始まってからのこの半年で、ガザは大きく変わった。あまりにも多くの罪のない人々が殺された。街は、空爆や砲撃で跡形もないほど破壊し尽くされた。そして生き残った人々の心まで、変えられてしまったと感じる。

 「イスラエル軍は、早く殺しに来てくれないだろうか」「長い時間をかけて、恐怖を与えられ、死んでいくことにもう耐えられない」

 1週間ほど前からだろうか。ガザ全域からの避難民が身を寄せる最南部ラファでは最近、そんな声が目立ち始めた。これまでになかったことだ。

 2週間ほど前、ラファの東の方で爆撃音がして、私は現場に向かった。飛び散ったミサイルの破片、がれきにこびりついた大量の血痕……。もう、嫌と言うほど見てきた光景があった。巻き込まれた小さな女の子が病院に運ばれた。追いかけていくと、まもなくその子が亡くなったと聞かされた。

 「自分の家が爆撃され、自分の子どもが爆撃されると思わなかった」。父親のムハンマド・アルアサムナさん(35)は、何度も繰り返した。

 もちろん、ガザで安全な場所など、とうの昔からない。アルアサムナさんもそれは分かっているはずだ。だが、爆撃されるとは思わなかったのだ。

 アルアサムナさんは、ラファで人気の飲食店を経営していた。死亡したイリーンさん(6)は、心優しく、勉強が得意で、誰からも愛される女の子だった。爆撃される理由はどこにもなかった。まさか、とはそういうことだ。

 アルアサムナさんは言う。

 「これまで不安と緊張、疲労の中で生きてきた。飢えに苦しみ、たくさんの死を目の当たりにし、今日、わが子を失った。これ以上、イスラエルは何を望むんだ?」

これのどこが「自衛」なのだろう

 1週間ほど前の夜には、ラファ北部の民家が爆撃され、一家10人と、その家に身を寄せていた避難民らが殺された。近くの電線には、爆風で吹き飛ばされた子どもたちの遺体がぶらさがっていた。

 8歳ほどに見える女の子が、爆撃を免れた父親と並んで座っていた。話を聞こうとしても、二人の口から言葉は何も出てこなかった。父親が大粒の涙を流しながら、破壊された家を力なく指さす。

 言葉はなくても、気持ちは分かる。吹き飛ばされた子どもたちは「ハマス」なのか。その父親の年老いた両親は、イスラエルの人々に何かしたのか。米国はイスラエルには自衛権があると言うが、これのどこが「自衛」なのだろうか。

 女の子が無言でかがみ込んでいると、その頭の上に父親が、なだめるように手を置いた。女の子は父親を見上げた。その目は涙でいっぱいだったが、「パパ、泣かないで」と語りかけているように見えた。

この半年間で希望は失われた

 罪のない子どもが爆撃で殺されるのも、思い出の詰まった家が突然破壊されるのも、ガザではこの戦争前から「日常」だった。

 だから、人々は明るかった。絶望していては生きていけないから、時に憤り、泣き叫び、それでも「また頑張ろう」「何とか生きていこう」と声を掛け合ってきた。

 だが、今回は規模がちがう。この半年間で、人々は希望を持って生きていけなくなった。

 私も、その一人だ。

 侵攻が始まる2カ月前に結婚したばかりだった。経済状況は厳しかったが、何とか幸せな暮らしを築いていきたいと思っていた。

しかし、新しい家も、買いそろえた家具も、爆撃で粉々にされた。祖母は、粉じんを長期間吸い込んだことで肺を病み、避難生活の中で命を落とした。5日には、移り住んでいた家の近くが爆撃され、私たちはテントに避難した。

 あまりにも早い速度で友人や親戚が命を落とし、悲しむことさえ難しくなった。

食料や水、燃料など、命をつなぐものすべてが足りず、それらを探し求めて歩き回り、長い行列に並ぶことが一日のほとんどを占めている。

 時間の感覚がまひしていき、記者の仕事をしていなければ、もう6カ月経つのだということは分からなかったと思う。

 この残酷な戦争が終わってほしい――。自分を捨てず、希望を捨てず、そう祈り続けることは、もう難しい。

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    遠藤乾
    (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
    2024年4月9日10時0分 投稿
    【視点】

     ガザで吹き飛ばされる子ども――同じ人間として恥ずかしい。高久さんの言葉が突き刺さります。  日本はすべきことをしているでしょうか。UNRWAへの資金提供を再開したのは良かったけど、そもそもそれを停止したとき、その理由をどこまで考え抜いたの

    …続きを読む
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    高久潤
    (朝日新聞エルサレム支局長=文化、消費)
    2024年4月7日9時9分 投稿
    【視点】

    エルサレムを拠点に、イスラエルとパレスチナを取材しています。 ガザについては、外部からガザの中に記者は入ることができないため、この記事を一緒に書いたマンスール通信員ら現地の記者たちが担っています。私たちは携帯電話がつながる限り、必ず毎日そ

    …続きを読む