【特別対談】グローバル時代の大学は、いかにあるべきか

Sponsored by 代々木ゼミナール

2024/10/03

大学のグローバル化、グローバル教育の重要性が叫ばれています。いっぽうで日本の大学は国際競争力が低く、男女比率や多様性においてグローバル基準からかけ離れている現状もあります。そこでグローバル時代の大学はいかにあるべきか。その役割や教育について、東京大学副学長・グローバル教育センター長の矢口祐人さんと、SAPIX YOZEMI GROUP共同代表(代々木ゼミナール副理事長)の髙宮敏郎さんが語り合いました。写真は、矢口祐人さん(右)と髙宮敏郎さん(左)。

◆国際競争力を高めるためにやるべきは男女比の改善

髙宮 矢口先生は今年、男性が8割を占める東大の現状を踏まえ、これからの大学のあり方を世に問う『なぜ東大は男だらけなのか』を出版され、大きな反響を呼びました。なぜこのようなテーマの本を書かれたのですか。

矢口 私は2012年に教養学部の英語学位プログラムの立ち上げに参加したのをきっかけに、留学生から話を聞く機会が増えました。そして東大の教育や大学の現状が、留学生の期待に十分に応えられていないことに気づきました。例えば「もっとディスカッションを主体とした授業があったほうがいい」といった声をよく聞きました。なかでも留学生が東大に対して抱いていた違和感でもっとも大きかったのが、学生の男女比です。「なぜこの大学にはこんなに女性の学生が少ないのか?」と疑問をもつ留学生が非常に多かったのです。

矢口祐人(やぐち・ゆうじん)/東京大学副学長・グローバル教育センター長・大学院総合文化研究科教授。1966年生まれ。米国ゴーシエン大学卒業。ウィリアム・アンド・メアリ大学大学院で博士号を取得。1998年より東京大学大学院で教える。専攻はアメリカ研究。著書に『ハワイの歴史と文化 悲劇と誇りのモザイクの中で』『奇妙なアメリカ 神と正義のミュージアム』など。

髙宮 世界の大学ランキングで上位を占めるオックスフォードやスタンフォード、ケンブリッジなどの大学の男女比はほぼ5割5割です。

矢口 アジアでも昔は女性比率が低かったソウル大学などで女性の学生の数が増えています。ところが東大だけは過去20年、女性比率2割の状況がほとんど変わっていません。これはそもそも不平等で正しくないし、グローバル基準とかけ離れた教育環境では、海外から優秀な学生や教員を獲得することは難しい。男性中心の均質的な場所からは、新しい発想も生まれにくい。よってこのままでは東大は、国際的に競争力の高い大学にはなれないという危機感を抱いていたんです。

髙宮 今、日本では世界トップレベルの研究水準を目指し、国が重点的に支援する「国際卓越研究大学」をスタートし、東北大学が初の認定校になる見込みです。このような取り組みも大事ですが、日本の大学が真っ先に取り組むべきは男女比の改善かもしれませんね。

矢口 そう思います。世界から比べると大きく遅れをとってはいるものの、東大でも2027年度までに女性の学生を30%に、女性教員を25%にすべく努力をしています。

◆英語で学ぶ授業、留学生を増やし、大学にもっと多様性を

髙宮 矢口先生は関心のあるテーマとして「グローバリゼーションと大学」を掲げています。経済の世界でグローバリゼーションといえば「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」が国境を越えて大きく動くことです。四つのうち瞬時に国境を越えるのが「カネ」と「情報」、続いて「モノ」、「ヒト」の順になります。大学が生み出す「知」を「情報」の一種と考えれば、大学がグローバリゼーションの影響を大きく受けるのは当然です。

髙宮敏郎(たかみや・としろう)/SAPIX YOZEMI GROUP共同代表・教育学博士。1974年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)を経て、2000年4月、学校法人高宮学園代々木ゼミナールに入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学、教育学博士号(大学経営)取得。同学園の財務統括責任者を経て、09年から現職。

矢口 「知」は本来、国境という枠に縛られるものではありません。ですからグローバル時代に、東大などの国立大学がどのような役割を果たすべきかとの問いは、実はとても難しい問題です。また「情報」や「知」を生み出すのは結局のところ「ヒト」です。大学は教育機関であり、「ヒト」を育てる場所です。よってあらゆるものがグローバルに飛び交う時代に活躍できる「ヒト」をいかに育てるかを、日本の大学はもっと真剣に考えなくてはなりません。

髙宮 今はどこの大学も「グローバル教育」を掲げています。でもそもそも「グローバル教育とは何なのか」がきちんと定義づけられてないのではないでしょうか。

矢口 そうですね。これだけグローバル化した社会のなかで「グローバル教育ではない教育など存在するのか?」といった議論もあります。もはや国内のことを考えるうえでも、外国との関係性や海外からの視点は無視できません。よって「グローバル教育」とは、現在の国際社会のなかで、従来型の教育を変革するムーブメントの大きな流れ、といった程度に考えたほうが良い気がします。一つ確実に言えるのは、日本の大学ではもっと英語による授業を増やすべきだということです。グローバル化によって英語が世界の共通語となった今や、英語で情報をインプットし、自分の考えをまとめ、ディスカッションする能力は不可欠です。今の日本の大学では、そのための英語による授業が不足しています。

髙宮 英語を教科として学ぶのではなく、英語を使って何かを学ぶ機会をもっと増やす必要があるわけですね。

矢口 今、台湾や韓国の大学は英語による授業をものすごく増やしています。英語による授業を増やすと留学生がたくさん来ます。留学生が増えれば、英語で意見を伝えたり、コミュニケーションしたりする機会も増えます。日本の大学も英語による授業や留学生をもっと増やし、教育環境を多様化する必要があります。それが、多様な価値観をもつ人と協力しながら課題を解決したり、新しいものを生み出したりする、グローバル時代に最も必要な力を養うことにつながります。日本の18歳人口が減っていくなか、大学経営を維持するうえでも留学生の増加は不可欠です。

髙宮 グローバリゼーションには、世界が画一化していくという負の側面もあります。だからこそグローバルな世界で活躍するうえでは、多様性や自分らしさ、日本らしさといった独自性がますます大事になるとも言われます。

矢口 そうですね。グローバリゼーションには巨大IT企業が世界のプラットフォームを独占し、一部の企業に資本が集中し、格差が広がる負の側面があります。そのようなことに反発する人の不満を利用し、政治権力を得ようとする動きも世界で広がっています。このようなグローバリゼーションの負の側面を批判的に研究することも、大学の人文系学問の重要な役割です。大学はそのような側面も強く意識しながら、英語を使って議論できる人材を育てる必要があります。

髙宮 グローバル時代の大学の役割としては、まずはグローバル化の波のなかで英語をツールとして使って活躍できる人材を育てること。同時にグローバリゼーションの負の側面に対する批判力をもった知性を育むこと。この二つがあるわけですね。

矢口 どんなに英語が上手でも、話す中身がなくては意味がありません。その中身を育むのが大学です。逆にどんなに深くて中身のある内容を持っていても、今の時代は日本語だけで発信していては、ごく一部の人にしか届きません。中身とそれを伝える英語力の両輪が必要です。

◆学部教育の強化こそが研究力の向上につながる

髙宮 ところで先生が「グローバリゼーションと大学」というテーマに関心をもつようになったのは、留学経験も影響しているのでしょうか。

矢口 今から考えるとそうかもしれません。私の専門は英語とアメリカ研究です。アメリカ研究においては日米文化論や日米文化史などが主要テーマです。私がそのような研究に興味をもつようになったのは、英語は得意なつもりでも、実際にアメリカに行くとなかなかついていくことができず、訳の分からない世界のなかで自分が異質な人間であることを痛感した経験が大きいと思います。若い時期に、日本社会の常識だけでは通じないことがたくさんあると学んだことは、私のその後の人生に大きな影響を与えました。

髙宮 北海道大学を3年進級時に休学し、アメリカの大学に留学されたのはなぜですか。

矢口 恥ずかしながら北大では勉強はあまり熱心にしていませんでした。何かに熱中することもなく、あまり目的のない学生生活を送っていました。そんな私を見た両親が、留学をすすめてくれたんです。私の両親は敬虔なクリスチャンだったので、アメリカインディアナ州の小さな町にある、キリスト教系のゴーシエン大学に編入しました。在学生が1000人にも満たない、寮制のリベラルアーツカレッジです。この学校の先生方がとても優しくて、ものすごく熱心に指導してくださいました。毎日、宿題が大量に出て、授業の度に小テストがあり、レポートがまっ赤になって返ってくるんです。最初は「とんでもないところに来てしまった」と、泣くような思いで勉強していました(笑)。でもそんな生活を続けるうちに、学問の面白さに目覚めていったのです。

髙宮 先生が、日本の大学はもっと教育に力を入れるべきだと主張されているのは、そのような経験があったからなんですね。

矢口 はい。教育現場をとことん大事にしている点は、アメリカのリベラルアーツカレッジの一番いいところだと思います。そもそも私は教育と研究は切り離せるものではないし、二律背反のものではないと考えています。でも日本の大学では、教育と研究を切り分けて考える傾向があります。昔の大学教員のなかには、なるべく教育に労力をかけず、研究に専念したいと考える方も多くいました。でも海外の一流の研究者は、教育に関心を持っている人が多いです。多様な学生への教育が、自身の研究を深めることにつながることを自覚しているからです。私も留学生への授業では、考えてもいなかった視点の発言に刺激を受け、勉強になっています。そのような経験からも、私は日本の大学の研究力を向上させるには、学部の教育にもっと力を入れるべきだと考えています。

髙宮 私も留学したのでよく分かりますが、アメリカの大学はインプットの量がとんでもなく多いですよね。アメリカの大学では知識のインプットは自宅で各自が済ませておき、授業ではプレゼンやディスカッションなどアウトプットを行う、いわゆる反転学習が普通です。授業までに分厚いテキストを読み込み、授業ではその本をもとに考えた自分の意見や、本に書かれていないことを議論します。日本でも一時期、反転学習を取り入れる大学が増えましたが、その後、あまり普及していないようです。

矢口 アメリカやイギリスのトップ大学は、学生が猛勉強してインプットせざるをえないカリキュラムや仕組みが整っています。今の日本の大学生の多くは、あの負荷には耐えられないのではないでしょうか。逆に日本の大学は、強制的に学ばされる仕組みが弱い分、自分が勉強したいことを、自由に主体的に学べる良さがあります。

髙宮 なるほど。最後に、これから大学を目指す若者へのメッセージをお願いします。

矢口 私の大学時代の反省も込めて、日本の若者にはとにかく大学でもっともっと真剣に勉強してほしいですね。海外のトップ大学の学部生や大学院生は、日本では考えられないほど猛勉強しています。変化が激しい今の時代を生き抜くには、幅広い分野の知識をたゆまず吸収し、複雑なことを考えぬく力が必要です。そのような力を身につけるには、大量の文献を読み、フィールドワークやディスカッションを重ね、自分の頭で必死に考え抜く経験が不可欠です。大学はそのような経験を積む絶好の場です。そこで培った力は、グローバル時代を自分らしく、たくましく生き抜くための最強の力となることでしょう。

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