自由の代償

「デヒィ…ひどい目にあったデスゥ…」
結局仔を見捨てられるはずも無く、親実装はハウスと財産を全て差し出した
分かっていたつもりでも忘れていた公園の厳しさ…恐怖…。傷が痛む…
「でも…この仔達は無事だったデスゥ…」
親実装は無理に気を取り直し、ショックで無言の仔達を連れて公園の奥へと向かう
もうすぐ陽が傾く、今夜の寝床を確保せねばならない

「そうデス…自由デスゥ…自由のためにココ(公園)に来たデスゥ…!」
親実装は植え込みの下の僅かな隙間を見つけ、そのあたりのゴミをどかしていた
そうしながら必死に自分の行為を正当化する
「アタシは覚悟が足りなかったデス!これからは強くならねばデスッ!」
幸せ回路と脳内麻薬も手伝って、思い込みと妄想が痛みと恐怖を忘れさせて行く
「アタシはここに城を築くデスゥ!そしてこの仔達を守ってみせるデスゥ!」
ついには意味不明の宣言まで飛び出し、根拠も無く全てが上手く行きそうに思えた

「お前達もこれからは…デェェェッ!?」
決意も新たに振り返った親実装は驚愕した
「「テチャァァァァ!!!」」

気づいた時はすでに遅かった。守るべき大切な仔が1匹食われていた
その可哀想な仔を咀嚼しながら大柄の野良実装は両手にも1匹ずつ仔をぶら下げている
「デププ♪美味いデスウ」
「アタシの子……デアアアァァァ!!!なんてことするんデスゥ!!」
ドガッ!「デゲッ!」蹴られて転がる
駄デブの親実装では屈強な野良には勝てない
「デププッ、次はどっちを食おうかデスゥ?…お前はどっちがいいデスゥ?」
「…デッギャァァァァァァ!!!もう嫌デスゥゥ!!デェェェン!!」

とうとう大切な仔に犠牲が出てしまった、そして再び迫られた選択
せっかく覚悟した心も薄氷のように砕かれ親実装は泣き叫ぶ

自由の代償の支払いはまだまだ終りそうに無い

公園の恐怖、それは記憶も想像もはるかに越えていた
恐ろしい同族の圧力、仔を失った悲しみ、さらに2匹の仔の命が風前の灯という絶望…
胸がキリキリと痛み、涙が止めどなく溢れる

「両方喰っていいデスゥ~?」
「…や、やめるデス…食べちゃだめデス…デァァ」
その時、
「ちょっと待ちなデス!!」
強そうな野良実装がもう一匹現れた
「アタシのナワバリで何を勝手な事をしてるデス?」
「デデデ…」
どうやら後から出て来たこの野良の方が立場は上らしい
「その仔を放すデス!……よしよし、可哀想に怯えてるデス…」
後出野良は1匹の仔を奪い取ると優しく抱きとめた、そして
「怯えてるデス…怯えは…肉のうま味を増すデス!ガブゥッ!!」
「ヂャァッ!」
後野良が仔実装の頭を半分噛み砕いた
「デエエエエエエェェェェェェ!!!」

「…美味いデスゥ♪アタシのナワバリなんだから1匹寄越せという事デス」
「しかたないデスゥ…ガブッ!」
もう1匹も「ヂャッ…」

ボ~リボ~リ… クッチャクッチャ…
まるでファーストフードのように仔実装を貪る2匹のバケモノ
「…ゲープ…さぁて残りの仔実装はどう…」
「逃げるデスッ!」ダッ!
親実装の判断は珍しく早かった
「テチィ!?」「チャァァ!」「テェェ!?」「ヂィィ!」
3匹の仔を抱えて必死で走り出す親実装、もう1匹の仔も必死でしがみつく

出されそうになった選択肢からの初めての逃亡
それは大きな犠牲を支払って得た、あまりにも小さな自由だった

「デッ…ヒッ…デッ…ヒッ…ママを許してデスゥ…」
走りながら、失った仔を思って泣く親実装
ただでさえ足が遅いのに、涙で逃げるペースは上がらない

あたりが騒がしくなって来た
「…どっちに逃げたデスー…」
「…いたデスー…」
「こっちデスー!」

「デ?デヒッヒィィ!!」
美味そうな仔実装を連れた新入りの噂は広まっていた
しかも既に2度も略奪に遭っている弱いヤツだという噂…
公園では弱みを見せたらまともに生きては行けない
もはやここから逃げ出すしか無いのか?

「デッ…ヒッ…デッ…ヒッ……あれは出口…デスゥ?」
植え込みとフェンスの切れ目に、鉄の棒が並んで立っているのが見えた
その向こうには何度か見た事がある人間の街が広がっている

「テチャァァ!!ママァーッ!ママァァァーッ!!」
「デッ!?」
いつの間にか背中にしがみついていた仔が落ちていた。僅か2mほど後方である
しかしそのすぐ近くに迫る野良の群れ…
仔を助けに戻るか?見捨てて出口から外に逃げるか?
運命はまた、この親実装に選択肢を突きつけた…

「…デェェェン…デェェェェェン…」
泣きながら後ずさりする親実装。答えはもう出ているのだ
「テチャッ!?ママァァァッ!!ママァァァァァ!!」
「……………デェェンッ!!」ダッ!
公園の外へと走り去る親実装
「テッヂャァァァァ!!!マァァマァァァァァァァ!!!」
捨てらた事と、自分の命の終わりが近い事を知ってしまった絶望の叫び
「…テヂャァァァ!!…チョゲェェェェェ!!!…」
解体されて行く我が子の断末魔を背に、親実装は走る

「…どうしてデスゥ…選んでも選んでも辛い事ばかりデスゥ…」
飼われていた時には、何かを失えば何かを得られるか、何かを許されるかした
しかし公園に来てからは失ってばかりである
「……帰りたいデスゥ……ゴシュジンサマ…」

トボトボと仔を抱えて夕暮れ迫る街を歩く親実装
「…どっちに行けばいいデスゥ?…」
帰り道はわからない。親実装はデタラメに彷徨い歩いた…(たいした距離では無い)
そして、いつの間にか1軒のコンビニの前まで来ていた
「……デッ…デェェッ…ゴ、ゴジュジンザバァァ……デズゥ…」

デタラメに歩いた道の選択だけは正しかったようだ
涙溢れる親実装の目に映ったのは、立ち読みを続ける懐かしい主人の姿
永遠にも感じた地獄の数十分を生き延びた事を親実装達は実感した

運命はときに厳しく、ときに優しい…
しかし死ぬまでその手を振りほどく事は出来ない…

「デェェェン…ゴシュジン様ぁぁ…」
コンビニに走りよる親実装、しかし店員の殺気を含んだ視線を感じて踏みとどまる
公園近くの店ともなれば実装の被害は多く、店員の怒りも大きい
親実装はいったん店の横にある駐車場に避難した
だが店員は店を出て追って来た。実装石はしつこく店を狙う事を知っているのだ

「お前ら野良か?」
店員は念のためにリンガルを取り出して聞いて来た。飼い実装かもしれない
ここで親実装は、主人が店内にいると言えば良かった。しかし恐怖で言葉を間違えた
「わわわ、悪さはしないデスゥ…ここに居たいだけデスゥ」
店員は親子を野良だと解釈し、「じゃあ殺すしかないな」と言い放った
「ま、待つデス!わかってるデスゥ…出て行くデスゥ…出て行けば殺さないデスゥ?」
親実装はこの店員も自分達に選択肢を示したと考え、答えを出した…しかし…
「あ~?何言ってんだお前?」
「デッ!?」
「問答無用だよ」
ベギジャッ「ヂブッ!」ベブギョッ「ヂョネォ!」ギュブボリッ「テヂボ!」
次の瞬間、アッと言う間に3匹の仔実装は踏み潰されていた

「デェェッ!?…デッ…デッ…デェェベゲッ」ドゴッ!「デベベッ」ドガッ!
泣き叫ぼうとした親実装だったが、そんな暇は与えられず激しい殴打が降り掛かる
ドゴッ!ガゴッ!「デッ!…ズッ!…」ドグッ!ベヂッ!「…テッ…」グジッ!ジョブッ!
音は徐々に湿気を含み、やがて親実装も全身を砕かれて血の海に沈んだ
「…死んだか」
店員は親実装を塀沿いの草むらに放置して仕事に戻った

十数分後…
グチャグチャになった親実装の身体が動いた
脳がはみ出た頭を持ち上げ、千切れた手足から露出した骨でガリガリと必死に這う
ベロリと内蔵を引きずり、愛する我が仔だった肉片に近づく
「……ナンデ…デズゥ…………ナンデ…選バセテ……クレナイ…デズゥ…」
片目をブラブラさせながら、どこが顔かもわからなくなった我が仔の骸を見つめる
「……モンドウ…ムヨウって…何デスゥ……」
ゆっくりと陽が沈んで行く
「……モンドウムヨウって………何デスゥ……選ベル…ハズデスゥ…」
選択の余地が無い事もあるという事を親実装は知り、代償に全てを失った。
「……ん?………」
コンビニから出た俺の鼻腔に実装石の血と糞が混ざった臭いが僅かに届いた
臭いを追って隣の駐車場に足が向く。そこには…
「…………テ………テヒ……」
「………おまえ…か?」
そこには息をしているのが不思議なくらい身体を破壊された実装石がいた
よく見ると、所々に見覚えがある部分が残っている
「……そうか、お前の偽石はウチにあるんだったっけ…」
一応実験のために飼われていたこいつの偽石は、栄養剤に浸けられ保管されていたのだ
俺は再びこいつを家に連れ帰ることにした。今回の体験は新たな実験の下地になるだろう

「……モンドウ…ムヨウって…何デスゥ……」
帰り道、コンビニの袋の中から親実装は俺に聞いて来た
「…問答無用とは選べないって事だ。殆どの実装石には何かを選ぶ権利なんて無いんだよ」
「……ワタシハ……選ベルダケ…シアワセダッタデス…カ………シラナカッタデス…」

実装石の幸せの形にも色々あるのだろう
そうだ次の実験は…こいつの幸せのハードルがどれだけ下がったのか調べてみるかな…

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    選択肢 2025.03.23

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