俺たちはまだ三十代で、流石に早すぎるだろって。
でも嘘のわけがなかった。
俺はもう何年もそいつと連絡を取っていなかったし、いつの間にか疎遠になってしまったことすら意識していなかった。
そいつのことを思い出したとき、最後に話したのがいつだったのかさえ思い出せなかった。
葬儀場に入ると、そこには見覚えのある顔がいくつもあった。
卒業以来ほとんど会っていなかったが、こういう場になると集まるものなのだなと思った。
それぞれが数年分の歳をとり、面差しには少しずつ大人びた疲れが見える。それでも、どこか昔の面影を感じられた。
棺の中の友人は、静かに眠っていた。彼はもう二度と目を覚まさない。
そう思うと、やっと実感が湧いてきた。悲しいはずなのに、涙は出なかった。
それが悲しかった。
妻も一緒に参列した。式が終わると、俺は放心状態だったんだと思う。
友人の死が信じられないという気持ちと、死が身近にあるという感覚。
馬鹿みたいだろ?いい大人が今更になって死に対する恐怖が急に湧いて来た。
そうした死への恐怖と、友人への偲ぶ気持ちが沸き上がらない不平等さに心がモヤついていたのかもしれない。
言葉にするのは難しい。
ただ心に強い蟠りを感じていた。
帰り道、公園に寄った。
公園に寄りたくなったのだ。
ベンチに座って、何でもない話を延々と続けた。
勉強のこと、将来のこと、どうでもいい噂話や、当時流行っていた音楽の話。
今となっては、その内容のほとんどを覚えていないが、確かに俺たちは笑い合っていた。
立ち寄った公園は、あの頃とは違う、まったく関係のない公園で、暗闇の中で外灯がぼんやりと明かりを灯していた。
俺はブランコに座った。何もせずただぼんやり座り続けていると、いつの間にか妻が隣のブランコに座った。
ふと顔を上げると、妻が月明かりに照らされていた。
俺の妻は、美人だ。
俺にはもったいないくらい綺麗な人だ。
どうして俺と結婚してくれたのか?
時々不思議に思うことがある。
俺は安月給だし、頼りがいがあるわけでもない。
不意に、考えよりも先に自分の口が動くのを感じた。
俺が死んだら、どうする?
ふと、口をついて出た言葉。
冗談のつもりだった。
無意識でも気恥しかったのだろう。俺は地面を見つめながら言っていた。
返事はない。沈黙が続く。
気まずくなって顔を上げると、妻は俺をじっと見つめていた。
何も言わないまま、俺の顔を見つめる彼女の瞳に、何かを探してしまう。
俺は、慌てるように冗談を続けた。
妻は何も言わなかった。
そう言うと、妻は少しだけ笑った。そして、静かに言った。
妻は真剣な表情をしていた。
正直、ショックだった。
でもどうしていいのかも分からない。
妻はブランコから静かに立ち上がると、俺に背を向けながら、はっきりとした声で言った。
それだけ言うと、彼女は車の方へ歩いていった。
俺はブランコに座ったまま動けなかった。
意味を考えるうちに、意味の答えを考える前に、気が付いたら涙が流れていた。
友人の葬儀では流れなかった涙が、今になって流れた。
なんでだよ!って思った。
妙に悔しかった。
それでも涙が止まらなかった。
車に戻ると妻が運転席に座っていた。
駐車場に車を停めても、妻は車を降りようとはしなかった。
俺は、「ありがとう」と言った。
妻はフロントガラスの方を見て、それからゆっくりシートベルトを外すと外に出た。
俺も車を降りると、妻が俺の隣に来て、俺の手をぎゅっと握った。
妻の目は、少し赤かった。
増田は下書き置き場じゃないっつーの