<チ。>原作者・魚豊「生きることは毎日の臨死体験」死を怖がっていることが唯一の作家性と語る

2025/03/11 12:00

生きていることへの矛盾、矛盾の循環が面白い


――知性の話に戻りますが、知性というのは人間の矛盾的行動に繋がるもので、本作を読むとそれを強く感じます。作中、15世紀の宗教社会も、天文の真理を追究する“知”によって崩壊していきます。こうしたことを描くのも、当初の構想からあったものなのでしょうか?

そうですね。やっぱり矛盾って面白いし、真理が矛盾ということ自体が矛盾みたいな。その面白い循環は最初から描きたいと思っていました。面白いことって矛盾から生まれるし、強度のあるものを描こうと思ったら矛盾が出てくるという言い方もあるんじゃないでしょうか。

生きることだって矛盾ですよね。一生懸命生きようとするほど、一分一秒、死に近づいていくんです。生まれる前が一番、死から遠いという、そう決定づけられている構造の中に僕たちはいるんだと考えると、またそれが面白いです。

――そうした魚豊さんだからか、「チ。」も含め、作風には精神面への踏み込みを感じます。現在、原作を書かれている「Dr.マッスルビートル」(秋田書店)も“ガワ”は筋トレマッチョの話ですが、面白いのは主人公の内面描写です。

それは自覚しています。どんな作品を描くとしても、この先も精神面を描きたいです。作品を作るって、“中に入れる”面白さでもあって、しかも、一方的ではなくて、相互的なものだと思っています。作品の中に入って影響を受ける事もあれば、中に入って作品に影響を与える事もある。これってスピリチュアルな話でなく、もっと唯物論的な話です。

完結した作品というのは、客観的には誰にも書き換えられないものですが、主観的には読まれた瞬間、その人の中で作品は書き換わるんです。読み手によって、作品への印象は違うわけなので。で、同じ作品を読んでも、感動する人もいれば、ムカつきを覚える人もいる、作品から影響を与えられると同時に、感想という形で作品の評価に影響を与えているということなんですよね。

――魚豊さんの言葉を借りると、魚豊さんが漫画家になったのも面白いです。きっかけはあるのでしょうか?

普通に絵を描くのが好きで、物心ついた頃には漫画家に憧れていた感じです。

――影響を受けた作品はありますか?

高校ぐらいまではギャグマンガしか読んでいなくて、野中英次先生の「魁!!クロマティ高校」が大好きでした。ギャグ系以外で唯一読んでいたのが福本伸行先生の漫画で、麻雀もの以外は全て読んでいます。「カイジ」(「賭博黙示録カイジ」)は最高ですね。影響を受けた作品と言ったら、このあたりです。

――「チ。」だけの印象では意外ですが、台詞の組み立てやバデーニのことを思うと納得感もあります。

どの作品もノリは近いと思います。理屈っぽいけどバカバカしいとか。ソリッドな感じは真似したいと思っているところです。

「チ。-地球の運動について-」
「チ。-地球の運動について-」(C)魚豊/小学館/チ。 ―地球の運動について—製作委員会


理屈はソリッドに積み上げればエンタメになる


――アニメ化はされるだろうというのが漫画業界での認識でしたが、暴力、残酷表現も多い作品なので、NHKなのは納得もあり、意外でもありました。

そう思います。けど大傑作「進撃の巨人」もNHKですし。暴力、露悪表現が作品性ではないと、局側が解釈してくださったんだと思います。

――映像を見ての感想はいかがでしたか?

めっちゃいいです。絵も、役者さんも、音楽も。本当にありがたい限りです。

――アニメの映像作りに対して魚豊さんの意向は反映されていたのでしょうか?

いえ、僕がアニメに対して出した要望は、音楽を牛尾憲輔さんに作ってもらいたいというくらいです。あとはお任せでしたから、見るまでああいう映像だとは全く知りませんでした。悪い意味ではなく、信頼していましたし、見たときは「凄い! 動いてる」って、ベタにそういう感想を持ちました。

――音楽に牛尾さんを指名した理由というのは?

音楽って、絵では絶対に表現できないことなので、それが実現するなら牛尾さんに音楽を付けてもらいたいと思ったからです。大好きな曲が多く、すごく尊敬している作曲家さんなので、それが叶っただけでも最高に幸せです。

――原作者から見て、アニメならではと思ったシーンはありましたか?

やっぱり人の動きですよね。アクションもわずかしかないにも関わらず見ごたえ十分で、全体としてもめちゃくちゃ分厚く演出していただいて、普通にイチ視聴者として楽しんで見ています。

――放送では、人の生き様を貫く言葉、現代にも向けられたような言葉など、感動や痛みを覚える印象的な台詞も話題になりました。台詞を紡ぐときに大切にしたことがあれば教えてください。

自分の中の美的感覚として、強度がない言葉は可能な限り避けようと心がけています。徹底はできてないのですが…。切実でない、反論がたやすい、魂を感じないというもの。語尾もふくめて、台詞は出版までに何度も修正して作っています。

――思想や哲学というのは言葉にするのが難しいものだと思います。「チ。」において魚豊さんはそれを明確な言葉にしている。アニメを見て、改めてそう思いました。

ありがとうございます。それが「チ。」でやりたかったことの1つなので嬉しいです。理屈っぽい面白さが好きというのが僕の好みであって、その理屈を絶対に書こう、理屈をずっとしゃべっている漫画にしたいというのがありました。だからどのキャラクターも設定の説明ではなくて、理屈をずっとしゃべっているんですよね。それをウェットに寄らず、ソリッドに積み上げれば、それ自体がエンターテインメントになり得るという確信はずっと持っていました。

――宗教思想の社会の中、第3章のドゥラカは神を信じない、神より金を信仰、経済の考えを持つ異質な人物だと思いました。彼女のキャラクター像的なことがあれば教えてください。

おっしゃる通り、彼女は資本主義を象徴するキャラクターとして描いています。第3章はお仕事ものを描きたかったというのもあって、仕事と言ったら経済。経済は資本主義という考え。人格形成に影響を与える要因の1つ。それを作中の時代に反映させた形で描いたのがドゥラカです。

――作るのに苦労したキャラクターはいましたか?

ヨレンタは苦労したというか、整理が大変なキャラクターでした。作劇上の役割として良い子にする必要があったのですが、ちょっと良い子すぎるきらいもあったので、塩梅は迷いました。

 「チ。-地球の運動について-」
「チ。-地球の運動について-」(C)魚豊/小学館/チ。 ―地球の運動について—製作委員会


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