本籍は皇居「おすすめしません」 事務処理「パンク」千代田区が訴え

石平道典

 6万8千人の住民に対し、本籍人口は3倍超の21万人。首都の真ん中、東京都千代田区が、増え続ける本籍人口に頭を抱えている。5月の改正戸籍法の施行を前に、担当窓口は「パンクに近い状態」という。何が起きているのか。

本籍「日本一」の皇居 東京駅も人気

 「『千代田1番』で正しいですか?」

 区総合窓口課には、そんな電話がほぼ毎日かかってくる。全国各地の自治体窓口に、婚姻届を出しに来たカップルからだ。「新本籍」欄に記入する確認のためという。

 「東京都千代田区千代田1番」は皇居の地番だ。ここに住民登録はできないが、本籍は、土地の地番か住居表示がある日本国内ならどこにでも置ける。区によると、皇居に本籍を置く人は約3千人。本籍としては全国一多いという。「東京都千代田区丸の内一丁目9番」の東京駅も、人気が高い。区の担当者は「多くの人にとって覚えやすいからでは」とみる。

 区の本籍人口は21万3421人(2023年度末現在)。一方、住民基本台帳登録者数は3分の1足らずの6万7911人(同年1月1日現在)だ。

 区の本籍人口はこの10年ほど、年々増えている。14年度は18万9069人だったが、令和になった19年度に20万人を超え、23年度までの5年間でさらに1万2千人以上増えた。

 こうした状況に、区は「本籍に関わる事務処理が雪だるま式に増えている」と困惑する。

 婚姻届、出生届、死亡届といった戸籍事務関係処理件数は、年間約1万3千件。住所変更の登記申請や自動車の名義変更などで必要になる、住所履歴を記録した「戸籍の附票(ふひょう)」の処理件数も、約3万件にのぼる。区は担当職員を増やして対応しており、4月からはさらに4人増やして30人態勢にする。それでも「パンクに近い状態」だ。

ふりがな記載が追い打ち

 ここに来て、さらに頭を悩ますのが、戸籍へのふりがなの記載だ。

 5月26日から、戸籍の氏名にカタカナのふりがなを記載する改正戸籍法が施行される。戸籍に記載予定のふりがなに誤りがないか本人に通知書を郵送し、1年間届け出がなかった場合に戸籍記載するのは本籍地の自治体だ。担当者は「21万人の多くは区民ではなく、自治体が行っている住民サービスに直結しているわけではないのに……」と漏らす。

 区は昨年8月からホームページにこんな「お知らせ」を掲載している。

 「皇居や東京駅に新本籍を設定することは、他人から本籍を推測されやすいため、おすすめしていません」

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この記事を書いた人
石平道典
東京ネットワーク報道本部|首都圏ニュースセンター
専門・関心分野
地域取材、東京23区、教育、文化
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    佐倉統
    (東京大学大学院教授=科学技術社会論)
    2025年3月24日8時0分 投稿
    【視点】

    本籍はいらない。早く廃止するべきだ。国民の本籍がなくなることで何か不都合があるのだろうか。本籍が知られることで不利益を被る人はいるだろう。役所も仕事が増えるだけ。ということは、百害あって一理なしではないか。早く無くした方が良い。

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    曽我部真裕
    (京都大学大学院法学研究科教授)
    2025年3月24日8時0分 投稿
    【視点】

    今日、本籍には戸籍を管理する自治体を決める機能以外にはほとんど意味がありません。戸籍の仕組みは戦前に出来上がっていますが、戦後、憲法に適合するよう家族制度の民主化が行われたにもかかわらず、家族単位の原則(これが夫婦別姓を阻んでいます)や本籍(同和問題とも関わります)が維持され、様々な弊害を生んでいます。 憲法の趣旨に適合するほか、デジタル時代にふさわしい身分登録制度を考える必要があります。

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