3DCGによる動画制作とプロダクション
本稿は令和7年2月2日(日)に開催されたボイロテック#3で講演した内容を元に、当日投影した資料とあわせて書き起こしたものです。
当日ご参加いただけなかった方や、講演内容を振り返りたい方にご活用いただければ幸いです。なお、資料の一部は当日投影限りとしております。投影限りの部分に関しては、その旨を明記したうえで本稿では割愛しております。あらかじめご承知おきください。
はじめに
それでは「3DCGによる動画制作とプロダクション」と言う内容で、ご説明をいたします。
私は「ゆえぴこ」という名義で活動しておりまして、ニコニコ動画を中心に、主にソフトウェアトーク劇場と呼ばれるジャンルにて創作活動をしております。
今回の講演では、3DCGを取り入れた動画制作の背景、具体的なワークフロー、中長期的な戦略立案の実例を体系的にお話しする予定です。ぜひ最後までお付き合いいただけますと幸いです。
はじめに、本発表の内容をご説明いたします。
プロダクションの中期計画とその考え方・戦略
3DCG特有の制作工程を継続的に進めるために、どのように計画を策定し、どのような戦略で運営してきたかを紹介します。3DCG動画制作の変遷
私自身が動画制作を開始した初期段階から、3DCGを本格導入するに至るまでのプロセスと、その技術的・表現的な進化について示します。今後の展望
さらなる映像クオリティの向上や新しい手法の試みなど、今後5年を見据えた計画や抱負をお伝えします。
3DCG動画制作の概要
自己紹介・動画制作の略歴
初めに、私の活動状況と動画投稿の主な経歴を振り返ります。
名義:ゆえぴこ
ニコニコ動画フォロワー:約2.9万人(2025年1月末時点)
YouTube登録者:約3,900名(2025年1月末時点)
動画投稿本数:メイン304本、サブ340本(2025年1月末時点)
主な年表
2015/10/30:「MGS:VのVOICEROID+実況」で初投稿
2018/10/11:「Cities: Skylines」動画が初週1万再生を達成
2020/1/20:3DCGを用いた動画制作を試験的に開始
2021/7/24:メインチャンネルで初の3DCG動画を投稿
2022/1/3:3DCG中心の動画スタイルへの本格シフト
2023/3/12:ゲーム実況と3DCG要素を掛け合わせたシリーズを開始
私の活動は当初「面白い動画を作りたい」というシンプルな動機からスタートしましたが、3DCGを取り入れる段階で本格的な中長期計画を策定する必要性を感じ、戦略的に動画制作を組み立てるようになりました。本日は、これらの過程を詳しくご説明いたします。
3DCGを用いた動画制作の概要
ここでは、3DCG動画を制作する際の全体像をお示しします。大まかには下記のフローに沿って進めています。
キャラクターモデルの準備(VRoid Studio 等)
音声合成ソフトを用いたセリフ収録(Voicepeak、CevioAI 等)
3DCGアセットの導入(Unity Asset Store 等)
BGM・効果音の選定(Audiostock等有料素材を活用)
3DCGパートの制作(Unity上でアニメーションやカメラワークを設定)
動画編集(Adobe Premiere Proなどで最終的な編集)
サムネイル作成(Adobe Photoshop など)
私の制作フローではUnity Recorderを用いてProRes形式のファイルを出力し、最終的にH.264へエンコードして投稿する形が一般的です。要所で補助スクリプトを活用するなど、週末2日間というわずかな時間で1本の作品を仕上げられる体制を構築しています。
プロダクションの時間軸
動画制作を完了させるまでの時間的なイメージは以下のとおりです。
投稿日 前々日:動画の内容と構成を決定
投稿日 前日午前:必要に応じて3Dモデルやワールドの調整
投稿日 前日午後~当日午前:Unityで3DCGパートの制作・収録
投稿日 12:00~15:00:動画の仮編集と字幕スーパー作成
投稿日 15:00~20:00:動画編集の仕上げ、効果音やBGMの適用
投稿日 20:00~21:00:サムネイル制作と最終確認・投稿
こうした時間管理を徹底し、限られた制作時間内に安定したクオリティを確保する体制を築いております。
3DCG動画制作に向けた戦略と中期計画
3DCGを本格的に導入し、継続的に作品を投稿していくためには、明確なビジョンと戦略が不可欠です。私は「強い動画クリエイターとは何か」を定義し、5年間の中期計画を策定することで、長期的な視野をもって取り組みを進めてまいりました。
『強い』動画クリエイターとは何か?
私の考える「強い動画クリエイター」とは、コアコンピタンス(センス/テクニック)とケイパビリティ(制作フロー/実行力)の両面において優位性を維持し続けられる存在です。
コアコンピタンス:作品の面白さを左右する核となるアイデアやスキル。
ケイパビリティ:それを安定的に支える仕組みや作業環境、継続投稿を可能にする体制。
一方のみが優れていても、作品の持続的な発展は期待できません。両輪を意識的に磨くことが、動画クリエイターとしての成長につながると考えています。
動画クリエイターにとってのコアコンピタンス・ケイパビリティ
コアコンピタンス:センス・テクニック
外部からのコメントや反応を活用して着実に成長させる要素です。試行錯誤を積み重ねるほど、独自性や完成度が高まります。ケイパビリティ:制作フロー
安定して作品をリリースするための土台です。アセット管理やスケジュール設計など、長期的に制作を継続するうえで欠かせない基盤といえます。
中期的な当初計画とその概要
「見たことのない作品を通じて楽しんでいただきたい」という想いから、私は3DCG導入時に5年単位の中期計画を立案しました。そのおおまかなステップは下記のとおりです。
技術選定:Unityを軸とするパイプラインを確立し、必要なソフトやアセットを導入・習熟。
プリプロダクション:3DCGならではの演出手法を学び、長期的目標を定義。
プロダクション(STEP1~STEP3):週1回ペースの投稿を目指しながら、演出力と制作フローを同時に強化。長期シリーズ等を通じて手法を洗練させる。
計画的に段階を踏むことで、無理なくクオリティと継続性を両立させる道筋を描いています。
計画を進めるにあたって求められること(割り切り軸の設定)
(スライド資料は当日投影限りとしており、割愛いたします)
3DCGを継続的に制作・投稿するうえで特に大きな課題となるのが、以下の2点です。
多額のコスト:趣味レベルとはいえ、3Dアセットやハードウェア、ソフトウェアを揃えるには相応の出費が必要。
視聴者の受容:3DCG表現に馴染みが薄い方も多く、十分な再生数確保のためには頻繁な投稿が不可欠。
そこで、「週に1本の定期投稿を実現する」という割り切り軸を設定しました。全てに拘泥しない代わりに、必須項目へ集中的にリソースを振り向けることで、費用対効果を最適化しています。
割り切り・取捨選択の例
トライアル段階で実施した検証は下記のように整理できます。
声優依頼によるアフレコ:費用(10分の動画で5万円)とリードタイム(3~5週間)が大きく、週1投稿には不向きと判断。
手付けアニメーション:1分あたり数時間を要し、制作ペースが落ちすぎるため見送り。
既存アニメーションの流用・組み合わせ:時間効率が高く、表現の幅を広げやすいため積極的に採用。
このように選択と集中を行い、要所における品質向上と継続投稿を両立させています。
強みを伸ばす・弱みを強みにする
割り切りによって確保したリソースは、3DCGならではの演出手法の強化に充当可能です。たとえば、3D空間でのカメラワークや豊富なアセットの活用などは、2D動画にはない情報量や迫力を生み出します。また、VRoid Studioで統一されたキャラクターを用いることで、「クリエイター自身のブランド」を視覚的に定着させる利点にもつながっています。
視聴者層の理解
(スライド資料は当日投影限りとしており、割愛いたします)
視聴者層は3つに分類できると考えています。
ジャンル視聴者:特定のゲームや題材を目的に視聴する層
ベース視聴者:一定レベルでクリエイター作品に期待している層
コア視聴者:クリエイターそのものを信頼し、どの作品も視聴してくださる層
再生数の急増はジャンル視聴者の大量流入によることが多いですが、これらの視聴者を恒久的にファン化するのは容易ではありません。長期的には、ベース視聴者やコア視聴者といった「継続して支持してくださる方々」との信頼関係を強化することが重要です。
ターゲット再生数
(スライド資料は当日投影限りとしており、割愛いたします)
再生数を客観的に評価・分析するために、ターゲット再生数という概念を導入しています。直近数本の平均再生数を「ベース再生数」とし、それを10%上回る範囲までを次回の目標とする仕組みです。
ベースを大幅に上回る:外的要因による一時的バズの可能性が高く、再現性は低い。
ベースと同程度:継続的に期待を満たしている状態。
ベースを下回る場合:期待に届いていない可能性が高く、要改善。
定性的なフィードバック(コメント等)と定量的な分析(再生数)を併用することで、冷静かつ持続的なチャンネル運用を図っています。
動画投稿の戦略(常に提案する)
同じ定番ジャンルだけを投稿し続けると、マンネリ化や視聴者離れが起きる懸念があります。そこで重視しているのが、「視聴者の皆様も気づいていない可能性のある、新たなニーズへの提案」です。3DCGによるコメディ要素や、ゲームを物語として捉える演出はその一例です。
「まだ見たことがない面白さ」を提示することで、視聴者の方々との長期的な信頼関係を築くことが目標です。
3DCG動画制作の実際
ここからは、私自身の作品づくりにおいて3DCG要素がどのように進化してきたかを、キャラクターデザインやアニマティクス(アニメーション)、演出技法の観点から具体的にご紹介いたします。
3DCGキャラクターのデザイン変遷
キャラクターのデザインは、約3年の間に大きく3回変更しています。
STEP1モデル:基礎的なモデル構築、視聴者からのフィードバックを通じた修正
STEP2モデル:よりドラマ性の高い作品にも対応できる表情や造形を追加
STEP3モデル:モデルバリエーションを拡充し、シリーズ内のキャラクター性を強化
段階を追って拡充することで、試行錯誤しながら徐々にクオリティを高めることができました。
3DCGキャラクターのアニマティクス
アニメーション面でも、当初は首を動かす程度のシンプルな表現に留まっていました。
STEP1:立ち絵の代わりとして最小限のモーション
STEP2:歩行モーションなど、基本的な動きの充実
STEP3:走る・座る・アクションなど、より動きの幅を広げる
こうした工程を踏むことで、視聴者にも「3Dキャラクターが動く世界」に自然と慣れていただく流れを作っています。
演出の変遷
3DCGキャラクターを当初は「立ち絵的に」扱い、2D動画の延長のような見せ方を意図していました。STEP2以降は映像的なカメラワークやライティング演出を強化し、実写映像に近い没入感を追求しています。
最終的にはストーリー性のある長編作品にも対応可能な演出スタイルへと進化いたしました。
メインストリーム
「メインストリーム」とは、私がある期間に集中的に制作・投稿するシリーズや世界観を指します。
シリーズを始動する前には、数本のプロトタイプを投稿し、視聴者の反応を確認した上で方向性を調整。
突発的なイメージ転換ではなく、徐々に新しい表現を取り入れることで、視聴者への負担を抑えながら作品の幅を広げる手法を採っています。
今後の展望
最後に、次の5年間を見据えた新たな展望をご紹介します。主なポイントは以下のとおりです。
3DCGパートと2Dパートの融合
ゲーム制作技法の映像への応用
劇場クオリティの長編作品投稿を目標とする中長期計画
3DCGパートと2Dパートの更なる融合
現行の3DCGモデルをもとに2D立ち絵を起こすことで、3DCGパートと2Dパートをシームレスに結合できる可能性があります。視聴者が馴染みやすい2D演出と、高い情報量を誇る3DCG演出を使い分けることで、映像表現の幅をさらに広げることが狙いです。
ゲーム制作技術の映像への応用
3DCG動画制作にはUnityというゲームエンジンを用いており、ゲーム開発における技術やノウハウを映像に転用できる強みがあります。
プロシージャルな生成技術やインタラクティブな演出を取り入れることで、従来の映像作品にはない新たな可能性を開拓できると考えています。
今後のプロダクション計画
初期の5年間では、3DCG動画の基盤づくりと継続的投稿の体制を整備することに注力してきました。次の5年間は、「劇場クオリティの長編作品をコンスタントに投稿する」ことをゴールとして設定しています。
舞台装置を含めた映画的表現の強化
2D表現とのシームレス連携
省力化技術のさらなる導入により、映像品質を維持しながら投稿頻度を上げる
こうした取り組みを通じて、3DCG映像制作の手法をより広い層に普及させたいとも考えています。
おわりに
本日は「3DCGによる動画制作とプロダクション」というテーマで、お時間をいただきありがとうございました。
私自身、この先も動画クリエイターとして活動を続けていきますが、同時に「世代交代を促していくこと」がクリエイター文化の健全な発展には必要だと感じています。私の得た知見や技術を発信し、後に続く方々がさらに新しいものを生み出せるよう、環境整備や情報共有にも力を入れていきたいです。
次の5年に向けては、新しい表現に挑むだけでなく、その成果をコミュニティに還元し、多くの人々と一緒にクリエイティブな世界を盛り上げていければと願っております。


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