美神の眷属が女神そっちのけで酒場に入り浸っているのは間違っているだろうか


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作:ぴえんふー
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13話 巡る者


 

 

 

 

 

 ぽっかりと空いた大穴から空を見上げれば、夜はとうに終わっていた。

 

 地平は朝焼けの色で染まっていて、太陽が昇るまでまもなくといったところか。

 

 周囲の崩落は幸が不幸か、その規模に反して被害はそこまで大きくない。

 

 建物を避けるようにぽっかりと空いた穴。

 位置にして街の交差点、大通りの広い区画で起きたことらしく、道を辿るように周辺の建物を避けて瓦礫の山を作り上げている。

 

「思っていたより人目が多いですね」

「朝方でこの騒ぎだからな。人目を完全に絶つのは流石に無理だろう」

「多少の騒動の流布は免れない、か」

 

 瓦礫の山の中心から見上げる大穴の周辺には、多くの人の気配が感じ取れた。

 

 きっと初動での対応で後手に回ったのがいけなかったのだろう。

 

 即席の柵で規制線(バリケード)を張り、崩落した現場の周辺を武装した憲兵によって固めていたようだが、それでも遅かった。

 

 だというのに、朝方だと言うのに周囲には多くの野次馬が集まり始めていたということは……やはり多少の情報漏洩は避けられないということらしい。

 

 そんな光景を尻目に、俺は槍を携えた青髪の女性――シャクテイ・ヴァルマに視線を移した。

 

「まぁそれは後々考えるとして……ご無沙汰しております、シャクティさん」

「本当にな、アルノ。どうしてお前は会うたびにトラブルの渦中にいる」

「別に俺が起こしたくて起こしてるわけじゃないのですが……」

 

 怜悧とした麗人と称すべき振舞。

 槍の穂先こそ天に向いているが、たとえ話途中に奇襲にあったとてそれを成功させるような隙も油断も見られない。

 

 凛とした声はリューさんとは違った厳格さを放ち、都市を守護する憲兵の長にしてオラリオにおいても有数の第一級冒険者として相応しい。

 

 神より賜った二つ名を『象神の杖(アンクーシャ)』。

 

 そんな彼女の口から出てきた叱責は、他にはない重みを否が応でも感じさせられた。

 

「オシリス・ファミリアの残党が現れた時もそうだったな。私達が干渉できる段階になった時点で、お前は既に連中と戦わざるを得ない状況だった」

「……粗野であることは自覚しています。ですがあの時も、今回の出来事もあくまで俺個人の意思で動いた結果です。決してファミリアの女神の総意ではありません」

 

 厳然と告げられた言葉に対し素直に頭を下げたうえで告げる。

 そもそも、俺の今の状況自体フレイヤ様の気まぐれによる恩赦に過ぎないのだ。

 ギルドに高頻度で干渉してるのも、都市を徘徊し他のファミリアと関わりを持っているのも。

 

 オラリオの神々は他のファミリアの介入に対して敏感だ。それはフレイヤ様も例外じゃない。

 

 だからこそ同じ都市の第一級、ファミリア幹部の末席を汚す身として、こうして最低限示さなければならないものがある。

 

「処罰は後からいくらでも受けましょう。ですが今は敵がいる、だからそれまでは――」

「違う。そうじゃない、お前はもっとこう、コトを起こす前に事前に相談やら共有するなりをだな……ああ、このやり取りも何回目だ」

「……?」

 

 攻める気が無い物言いに、思わず肩透かしを食らう。

 ただ呆れてるのは本当みたいなので、せめて記憶の反芻くらいはしようと心当たりのある出来事を一つ、二つ、と数えていく。

 

 ……駄目だ、問題しか起こしていない気がしてきた。

 

「……ロイマンさんに歓楽街の天敵(フリュネ・ジャミール)をけしかければ見逃してくれますかね」

「物理的にギルドが崩壊するからやめろ」

「計画はこうです。まずロイマンさんお気に入りの酒場へ向かわせ、フリュネ・ジャミールにハニトラを仕掛けてもらう」

「お前はギルドになんの恨みがあるんだ」

「そして程よく酔い潰したロイマンさんを連れてその酒場に放置します」

「急に雑になったな」

「あとはどうとでもなります」

「もっと雑にしてどうする」

「目撃者は……盛大に頭をぶっ叩けば記憶くらい飛ぶでしょう、ええ」

「問題は加速度的に増えてるんだが……ハァ……」

 

 ……眉間に生まれた皺をほぐすように額に手を当て始めた。このままだと説教が始まりそうになったので、話の続きを切り出す。

 

 何かと気にかけてくれるこの人とのこんなやり取りも、慣れたものだった。

 

「それで、近隣住民への説明はどのように」

「現場が貯水槽だったからな。老朽化による水路関連のトラブルということでギルドと我らのファミリアでこの辺りを封鎖と説明を行っている」

「……この規模の崩落と被害をギルドが看過出来るとはとても思えませんが」

「それは今後の対応次第でどうとでもなる……それで、下手人はどうした? まさか、この瓦礫の下ということはないだろう」

「……」

 

 シャクティさんの言葉に苦いものを覚える。

 

 己の不覚という意味でも、敵の姿がはっきり見えないこの情勢で貴重な情報源を逃したという意味でも。

 

「……敵は上手く逃げたようだな」

「確認できた敵の二つ名は『白髪鬼(ヴェンデッタ)』、と言えば伝わりますか」

「…………なんだと? 馬鹿な、やつは死んだ筈だ」

「でも生きていた、という話です。それも恐らく死体を利用したわけではない、生前の自我を保ったまま俺達に立ち塞がってきました――より強大な力を身に着けて」

「……続けてくれ」

 

 死者が蘇ったという事実に狼狽えることがないのは、流石は『未知』を『既知』へと切り替える速度が群を抜いている第一冒険者と言ったところか。

 

 そこで貯水槽で起きたことの顛末をシャクティさんへ説明していく。

 

 敵の能力。対面した数と特徴、どのような攻撃方法を取りどんな弱点があるのかを。 

 

 だが、進捗はない。

 

 むしろ話せば話すほど、彼女の表情からは険しさが増している。

 

「推定レベル3とされていた筈の男が、どこでそれほどの力を……?」

「殺し合ってみた所感ではありますが、少なくとも力量は最低でもLv6はあるかと」

「……よく生きていたなと言いたい所だが、第一級クラスの冒険者が野放し、か」

「深傷を負わせたうえで追跡の仕掛けは施してありますので、今からでも追うことは可能です。ただ、タイミングはこっちで任せてください」

「わかった……だが敵は居ないとはいえ、厳戒態勢で満遍なく水路を調査する必要はあるか」

「でしたらこちらを」

 

 懐から水路に関する情報が書かれた羊皮紙を取り出し、シャクティさんに差し出す。

 それを自然に受け取った彼女は、冷静沈着な普段の様子を知ってる身からすればわかりやすく目を見開いていた。

 

「調査した地点の目印と襲撃に向きそうな箇所を記述してあるので、警邏のための資料として使ってください。編成は四人一組で最低でも魔剣の装備者と壁役(タンク)が一人は必要かと」

「図面は刷って共有しよう。編成に関しては私から団員達に追って伝える。わかったことがあれば適宜報告するように」

「頼みます。詳細の報告は文書で」

 

 てきぱきと備えと手順を組み、指示に還元していく姿はファミリアの団長としてあまりに理想的だった。

 

 脳筋と内ゲバが常態化してるウチのファミリアではまず見られない光景である。

 

 もう少し部下や仲間と仲良く出来やしないだろうか。特に幹部陣。

 別に全員が全員悪い人なわけじゃないのだが、組み合わさると混ぜるな危険の爆発物と化してしまうところがなんとも。

 

「レンリさん、例の魔石と装備品を確保しました」

 

 自身のファミリアの惨状に思考を巡らせていると、脱出後に瓦礫を掘り起こす作業に徹していたリューさんから声がかかる。

 

 その手には、崩落により原形をほぼ失った血濡れの装備品と、食人花から生じたらしき『極彩色の魔石』が握られていた。

 

「ありがとうございます、リューさん……その、色々と」

 

 シャクティさんの視線を遮るようにリューさんの前に立つ。

 彼女の所属の『ガネーシャ・ファミリア』は都市の治安維持という関係上、ギルドとの結びつきが強い。

 

 そして此処には要注意人物一覧(ブラックリスト)として冒険者の称号を剥奪されたリューさんが居るという事実。

 

 彼女の身柄を拘束されかねないこの状況において、心配が勝るのも無理のない話だった。

 

「問題ありません。むしろ、現場について把握しているあなたの方が報告には適任だ……それに、回収できたのは全部が全部というわけでもないので」

「いえ、ひとまずは十分です」

 

 だから『もう行って良い』と。

 視線で規制線(バリケード)として現場を包囲している憲兵の警備が薄い箇所を示しながら、言葉なくそう告げる。

 

 ……だが返ってきたのは首振りと言う静かな否定だった。

 

「……リューさん。ギルドは容赦がありません。暗黒期の、それも要注意人物一覧(ブラックリスト)入りをしているというのならなおさら」

 

 詰め寄って、より声を潜めて彼女へ詰め寄って、その顕著な両肩を静かに掴む。

 どういうつもりだと。

 口元を覆う深緑のマスクと、深めに被られたフードによって影がかかった表情。

 そこに唯一覗く空の蒼を宿した瞳は、(かたく)なだった。

 

「その時はその時です。元々死に損なった身、それが私の結末というのなら、受け入れる覚悟はある。ならせめて、あなたに返してからではないと私の気が済まない」

「俺はあなたが捕まる方がもっと嫌です。都市を護っていたリューさんのそんな結末なんて、俺には認めてやれない」

 

 むしろ返すものがあるのは彼女より俺だろう。

 俺の凶行を止めてくれた。

 一緒に戦ってくれた。

 誰かを殺そうと動く俺を、人が死ぬことを良しとした俺を、それでも眩しいと言ってくれた。

 

 その在り方を尊敬している。

 罪を抱えてなお誰かに施しを与えられる善性こそ、俺は何より眩しいと思える。

 そんな人が縄で繋がれて連行されるのを黙ってみていろと彼女は言っているのだ。

 

 冗談でも、笑えない話だ。

 

「アルノ」

 

 直後。

 リューさんの逃走経路を組み立てる思考の隙間を突くように、背中越しに名を呼ばれる。

 

「シャクティさん、この人は俺の協力者で――」

「あー、それもそうだが、まず話し合う前に一つ言っておきたいことがある」

 

 そう言うと彼女は……何やら言いにくそうな言葉をどうにか形にしようとしているみたいに、小さく、それでいて深く息を吸った。

  

 

「近く、ないか?」

 

 

 ……その言葉の意味を咀嚼するのに数秒。

 ぽく、ぽく、ぽく、ぽくと。

 遅延する思考がゆっくりと空気を撫で始めたかと思えば……ゼンマイ時計のように秒数を刻んでリューさんと向き直った。

 

「…………」

「…………」

 

 

 目と目があう。

 リューさんの両肩に置かれた俺の両手。

 少し身長差がある所為で見上げる形になり、目深に被ったフードから覗く凛々しい顔つき。

 

 それが今は呆然と、気の抜けたように目を見開けば――みるみるうちに体中の熱が顔に充填されていくのを感じ取る。

 

「…………………」

「…………………」

 

 そして思い出す。

 

 事故に近い形とは言え、触れ合った女性らしく柔らかい肌の感触。

 

 体温を運ぶ心音に乗る胸の高鳴りを。

 

 腰に回した手と腰に回された手。

 

 俺の胸に押し付ける形となったリューさんの体つきを。

 

 

 そして何より、そんな現場の第一発見者が――よりにもよってシャクティさんだったことを。

 

 

「………………………………………………………………どうも

「………………………………………………………………はい

「……おい、お前らまさかあの瓦礫の中で――」

「違います違います違います……! ほらリューさん! ちょっとそれっぽい弁明で火力支援です!」

「し、シャクティ! わ、私は――彼の体温を感じていただけだ!」

「リューさん!?」

「……」

 

 はぁ、とこれ見よがしに溜息をつかれた。

 

「彼女のことは知っている――『疾風(リオン)』だろう?」

「……それが、どうしました」

 

 そう言われて……茹で上がった思考が一瞬にして、冷ややかに沈殿する。

 リューさんを護れるように彼女に近付いて手をかざす。

 ギルドに掲載されている要注意人物一覧(ブラックリスト)の内容を、シャクティさんが知らないわけがなかった。

 

 そんな人がリューさんの素性を特定しているという事実は、危うい。 

 

 正直、俺の環境じゃ現状リューさん以上の協力者は望めない。今のタイミングで彼女に居なくなられるのは困るのだ。

 

 そして何より――こんな善人が牢獄送りなど、全く以て納得できない。

 

「そう警戒するな。私と彼女は知らない間柄じゃない。なんなら多少の融通も利かせるつもりだ」

「……それはつまり?」

「私なら()()()()()()()()()()()()()()()()()

「リューさん……!」

「……レンリさん、あなたがそんなに嬉しそうにせずとも良いのでは」

「……露骨に喜ばれると複雑だぞ、私は」

「あ……失礼」

 

 ごほんと咳払いをして昂った気持ちをどうにか抑え込む。

 だが今のやり取りからわかる通り、ギルドやファミリアも一枚岩ではないということだろうか。

 ギルドの要注意人物一覧(ブラックリスト)に載るということは余程のことをしないと賞金など懸かりはしない。

 

 それでも見逃されるのは、それもよりにもよって都市の憲兵を統べる冒険者にそう認定されるのはある意味リューさんの人望というか、顔の広さが伺える。

 

 正義を司る神がかつて率いた『アストレア・ファミリア』。

 

 かの『死の七日間』を終わらせる旗印となった彼女達の影響力を見せつけられた瞬間だった。

 

 ともあれ、少なくともこれでリューさんは大丈夫だろう。

 

「では、こちらも」

「……これは魔石と……装備、か?」

 

 リューさんから受け取った拾得物をシャクティさんへ提出する。

 極彩色の魔石が爛々と静かに輝きを放つ中、不格好な鉄くず同然となった装備品を手渡す様は、誰がどう見ても不釣り合いに見える。

 

 だが、シャクティさんに限って言えば違った。

 渇いた血痕に浮き出た『象神』の紋章。

 それが何を意味するのかを理解したのか――どこか悲痛な面持ちでそれを受け取っている。

 

「どちらも貯水槽で発生した戦闘で手に入れたものです。一つは未知のモンスターのものと……もう一つはあなたの仲間(かぞく)のものです」

 

 これで何かが変わるってわけじゃない。

 あくまで形の無い、気持ちに踏ん切りをつけるためだけのもの。

 この都市に巣食う悪意を祓うものになるかどうかと言われれば、正直取るに足らない。

 

仲間(かぞく)なら、ちゃんと帰してやりたいんです」

 

 その程度の幼稚な理由。

 つまらない感傷だと笑ってくれたって良い。

 ただ、死んでしまった人を大切にしていた人達の中に一つでも、何かを遺せたのなら。

 

 たとえ肉片一つでもよい。装備でも。手紙でも。

 

 誰かをちゃんと弔えない苦しみは堪えるものがあると、俺は知っていただけ。

 

「……一つだけ質問させてくれ」

「……なんでしょう」

 

 

「お前にとって『悪』とはなんだ?」

 

 

 ……シャクティさんにしては脈絡のない、質問の意図すら伝わらない曖昧な問いだった。

 

 正義ではなく『悪』と聞いたこととか。

 

 それをどうして、よりにもよってリューさんの前で聞いたのか。

 

 だからこそ口から出た言葉は――。

 

「その問いに、意味なんてないでしょう」

 

 ――そんな、身も蓋もない言葉だった。

 

 俺が悪を語るなど烏滸がましい。そういうのは……リューさんにでも聞いてくれた方がちゃんとした返事をしてくれることだろう。

 

 だが、俺の結論はとうに決まってる。

 

 

「少なくとも俺にとって――己の目的のために人を殺すことは、『悪』です」

 

 

 圧倒的なまでの自己の押しつけ。

 阻むもの、止めるものすら跳ね除けた先にあるそれは誰も(かえり)みることもなければ、踏み(にじ)ることも憚らない。

 

 そして善人とは。

 

 それでも、と正しさを選べる人間のことを言うのだと、俺は信じてる。

 

 

「ただ、まぁ……そうですね」

 

 

 『悪』がどうのとは断じて、正しさとまともさを捨てた俺が語るべきことではない。

 

 

 だがそれでも、何も感じないわけじゃない。

 

 

 瓦礫の山から外を見上げる。

 訝しむ者。

 怯える者。

 怒れる者。

 残骸の上で見上げた景色に映る、多くの人影を形成するオラリオの住民たちの顔色はまさしく十人十色。

 

 俺は必ず、『仇』を殺す。

 その誓いは決して破らせない。

 それを阻むのがたとえ女神であろうとも完遂すると誓った、アルノ・レンリという冒険者の戦う理由にして命題だ。

 

 

「自分の目的も果たせず、自分を見失いそうになった時――こうして立ち止まった時に見えた景色に対して、正直になることにしています」

 

 

 『仇』を討つための寄り道と言われれば、それまで。

 

 

 半端者と言われても言い返せない、その現状。

 

 

 だが――それでも。

 

 

 それでも。

 

 

 もしあそこにいる人々を、少しでも己と重ねたというのなら。

 

 

 どうにかして欲しい、という願いを感じ取れたというのならば。

 

 

 彼らの存在もまた、アルノ・レンリが戦う理由だろう。

 

 

 

 

「――この場にいる人達が、安心して笑ってあげられるようにしてあげること、でしょうか」

 

 

 

 

 俺に出来るのは、それくらい。

 

 そこに例外はない。

 それがどんなに甘っちょろいことか、よく知っている。

 だが今はそれで良い。

 望まなければスタート地点にすら立てない。

 

 ちっぽけな理想でも、それで誰かが笑っているなら……きっとそれは価値があるのではないのだろうか。

 

 少なくとも、俺みたいなのが生まれる余地がない。

 

 であるのなら甘くとも、難しいものじゃない。

 

 

 何より作り上げた平穏の中に必ずしも、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そして俺の八つ当たりで人を殺すことをよしとした俺に――そんな未来は必要ない。

 

 

「「――――」」

 

 

 ……一応、当たり障りのない言葉を口にしたつもりだったのだが。

 

 まるで、信じられないものを見るように。

 

 シャクティさんとリューさんが漏れなく、愕然とその瞳をいっぱいに開いていた。

 

「――『正義は巡る』、か」

 

 ぽつりと呟かれた言葉。

 その意味を問う間もなくシャクティさんはリューさんに向き直った。

 

「リオン、こいつの目的は知っているのか?」

「はい」

「そうか……なら、わかっているな。あの時と同じだ。私は、傍に居てやれない」

「いいえ、十分です。今度こそは必ず、間に合うように傍に居ます」

「ならいい」

 

 何やら含みのある会話をしている。

 シャクティさんには俺の復讐に関しても調査にあたって共有してあるが、それは少なくともそれが俺の示せる最大限の誠意だったからだ。

 それはリューさんとて変わらない。

 

 だというのに何だろう……向けられる視線が、どうにもむず痒い。

 

「リューさん……なんの話をしてるのか、俺は聞かない方が良いのでしょう」

「いえ、そんなことはありませんが……ただ、驚いてしまって」

「何が、とは聞きませんよ。とにかく、俺はもう少し此処で作業を手伝います。積もる話もあると思いますので……その、終わったら声をかけてください」

 

 恥ずかしさを堪えるように、瓦礫の山に向き直った。

 話す内容を間違えたまでとは言わないが、何やら想定外のことが二人の間で起こったのは確か。

 

 それを聞くわけにもいかず……俺は足場の悪い岩山と化した現場をゆっくりと踏みしめた。

 

「手伝いますよ、ハシャーナさん」

「お、アルノ! 良いのか? 連れが団長に捕まってるが――しかも、あのエルフ」

()()()()()()()。彼女はシャクティさんと知古のようですので問題ないでしょう」

「ほーん……ま、お前がそう言うなら良いが……へへへ、それにしても良いのかぁ〜? お前、神フレイヤんとこのだろ? それが女を連れて朝帰りしてましたなんて知られたりしたら……あ、笑えてきた」

「早朝に駆り出されてボケてるみたいですね。気付けのビンタをしてあげます。肘で、顎に」

「下手したら軽犯罪で済まないんだがそれ……」

 

 

 

 

 

 

「ところでリオン」

「知らない」

「……アルノのことだが」

「…………私は彼の腰の形など知らない。華奢な割に身体造りがしっかりしてることも知らないし、顔立ちが意外に幼いことも知らない。よって、この問いは無意味だ」

「私からは何も問いかけていないのだが」

「………………私はポンコツではない」

「お前はポンコツだよ」

 

 

 




◇とある白妖精と眷属の話 その2
「い、『犬も歩けば棒に』――」
「ハッ!」
「ヘディンさん! 一枚も取れません!」
「次のお題への想定が甘い! 残りの枚数、これまで読み上げてきた俳句、ヘグニの口の動き! あらゆる要素から逆算し、次の手を完璧に予測しろ!」
「わ、『笑う(かど)』――」
「ハッ!」
「ヘディンさん! あそこでアルフリッグさん達が爆笑してます!」
「この空間そのものを客観視しろ! 盤面を俯瞰し、最速で思考を回し現況を把握し続けろ! 馬鹿はお前一人だ!」
「う、『嘘から』――」
「ハッ!」
「ヘディンさん! あそこで団長がヘイズさん達を呼びました! 頭の治療とか言ってます!」
「女神に恥をかかせるようなことをするな! 貴様の事情を鑑みて常にとは言わん! だがあの方が寵愛を求めたのなら、お前はそれに全力で応えろ! それがたとえ遊戯でも、大道芸でも――かるた大会でもッ!!!!」
「ヘディンさん……!!!」
「そして復唱! 『フレイヤ様の笑顔が見たいのです』!」
「ヘディンさん! 一枚も取りたくありません!」
「【永争せよ、不滅の雷兵】――【カウルス・ヒルド】!」
「『フレイヤ様の笑顔が見たいのでだぁあぁぁぁあ!!??」
「ってちょなんで俺までぐああああああああぁぁぁ!!??」

※三日後の夜まで続いた。
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