22個のトゥルーエンドを神様と一緒に迎えるゲーム|虹の降る海 ネタバレ感想
2024年にsteam版が発売されたADVゲーム、「虹の降る海」を遊びました。
1周2時間ほどで遊べるのですが、限られた時間の中でどのキャラクターと接してどのイベントを起こすかによって22種類のEDを見ることができ、22個すべてのEDがトゥルーエンドという謳い文句に惹かれて遊び始めました。
周回がお手頃ながら発生条件がシビアなイベントも多く、すべてのイベントを見つけるまで夢中でやり込んでしまいました。システムを他の作品にたとえると、私は未プレイなのですが「冠を持つ神の手」をリスペクトしたシステムです。「冠を持つ神の手」も面白いと聞いているので近いうち遊びたいな……。
虹の降る海を遊び、EDを全部回収して、とにもかくにも好きなイベントとEDの感想を書きたい!!!!!!となったので自分でも感想を残すことにしました。主人公が接する神様たちの内面が皆とても素敵なので、気になった方はこの記事を読む前に遊んでいただきたいです。愛情あり!親愛あり!別離あり!裏切りあり!愛憎あり!な展開で、その全部がトゥルーエンドという多様性が本当に好きです。恋愛に限らず何かしらの感情を向け合っている関係性が好きなオタクに刺さる~!!
その他にも日本神話が好きな人はめちゃくちゃ楽しいだろうな~!と思えるゲームです。このゲームは七福神を題材にしており、私は七福神についてざっくりとした知識しかなかったのですが、同一視されがちな神様の扱いや逸話に基づいたイベントの内容に日本神話への愛が感じられてとても良かったです。
以下ゲーム全編のネタバレを含みます(公式サイトのガイドラインに則って各EDイベント及び各EDの一枚絵のスクリーンショットは掲載していません。特に一枚絵はコンソール版でのみ見られるのですが、どのイラストも最高に良いのでぜひ見てほしいです)。各キャラクターごとに特に好きなイベントと各EDの感想を書いていきます。ご留意のほどよろしくお願いいたします。
■ダイコク
イベント
○ご馳走
選択肢差分を回収している時、好きな食べ物としてカレーを選んだ時のテンションの上がりように笑っちゃったイベント。ダイコクとビシャモンとベンテンがカレー好きなの、元々のルーツがインドの神様だからか……ってことに後で色々調べて気づきました。カレーを選ぶと「魚料理にしようと思ってたけどカレーにしちゃお♪」と浮かれるダイコクがいて笑顔になります。元々魚料理を作ろうとしていた理由がエビスが魚を置いていってくれたからなのも好き。後で書き殴りますが私はダイコクとエビスの関係性が本当に大好きです。
もう一つ細かい差分ですが、好きな食べ物を答える選択肢で「特にない」を選ぶと、他の選択肢では魚料理を作ろうとする時に「魚さわれる?」と聞いてくるダイコクが「魚さわってみる?」と消極的な主人公と交流を持とうとするような口調になるのが好きです。
○昼餐
福神漬けについてわちゃわちゃ話すダイコクがかわいいイベント。この辺から神様たちが人間のことを「人間さん」って呼ぶのかわいいな……の気持ちが芽生え始めました。詳細は後述しますが、フクロクジュのEDでこのあたりの話が回収された時は沸き上がりました。
福神漬けについて話す時、ダイコクが「美味しくて」じゃなくて「美味くて」と言っていて少し口調が崩れているのも好きなポイントです。テンションが上がっているのが感じられてうれしくなります。まさに"福の神"やってるダイコクが福神漬けの名前をいいよねって言うのも好き。
ご馳走イベントでベンテンとビシャモンもカレー好きなんだよの話を聞いていると、カレーを食べにやってくるふたりの姿に笑顔になれます。香辛料の違いに気付く会話からも、三柱の仲の良さや付き合いの長さが感じられます。
○贈り物
差分集めで大変お世話になったイベント。あげる相手以外にも料理技能によって差分があるとイベント一覧で知った時は驚きました。
貰ったお菓子を3秒で食べてしまうフクロクジュ・失敗したお菓子をあげた時のジュロウジンの優しさがよくわかる差分・優しいけど嘘がつけないので失敗したお菓子を食べるとひたすら黙るビシャモンあたりのコメントが特に心に残っているのですが、やっぱり一番好きなのはダイコクにお菓子を渡すくだりです。他のひとにお菓子を渡した時は机に向かい合わせで座ってお茶するけど、ダイコクにお菓子を渡した時は隣同士に座ってお茶するのがキュートだね…….となります。
○夢想大黒銀
周回すればするほどホテイへのな、なんだァてめェ!?度が上がるイベント。ここでしれーっと「本当に大切なものを壊せばアンヤテンが居なくなるなら主人公を壊せばいいじゃん」て提案してるし退室するとき意味深にニコ…….と微笑んでくるホテイのこ、こいつ!!!!!度が高くて好きです。
ホテイのイベント全般・ダイコクの約束イベント・フクロクジュの同工異曲イベントあたりの差分を見ていると特に分かりやすいですが、宝船に乗っている神様たちは恐らく嘘を見抜くのが苦手なビシャモン以外の全員が主人公の嘘を大体見抜いています(例外が嘘つきふたりED周り)。その上でダイコクが、このイベントで主人公に大切なものを尋ねて「ダイコクが大切」と返された時の「嘘でしょ」という反応が非常に味わい深いです。嘘をついていたら全部見抜けるということは、どれだけ嘘だと思いたい言葉でも本当だと見抜けてしまうことと同じなんですね~……。本当に自分が主人公から大切だと思われていると分かってしまったこの時のダイコクの内心を考えるとカレー三杯食べられます。
○国生みの子・お膳立て
初めて回収した時、あまりにも良過ぎてぐにゃぐにゃになってしまったイベント。初めに言っておくと、私は全てのEDの中で「水は血よりも」が一番好きです。親子関係が…………好きなので…………。
いつも楽しい!嬉しい!好き!を衒いなく表に出すダイコクが、主人公にアンヤテンの話を振られた時やエビスとの親子関係について伝える時など、特別大切な人に対して一番肝心な言葉を言う時は押して押して押されないと言葉が出てこないのがたまらんなポイントその1です。国生みの子イベントで主人公に背中を押してほしがっている時もただいまイベントで主人公をチラ見する時も、いつものダイコクからは想像できないほど腰が引けていて味わい深いです。また、国生みの子イベントで、「イザナギとイザナミがエビスに会いたがってるんだけどどうしようって他のひとたちに相談したら『無視しろ』って言われると思う」とダイコクが思っているのにもちょっと笑いました。七福神たちの、欲しい言葉をかけるわけではない、この程良い距離感が大好きだな……の気持ちが強まる。
ダイコクとエビスは今この時は血の繋がった親子ではなく、自分たちに習合された神様がかつて親子同士だった時がある、という扱いが個人的にとても好きでした。それに対する二人の思いも大好きで……これについては後述するんですが…….本当に良くて…………(「水は血よりも」に入れ込み過ぎている) いつも人好きのする態度で仲間思いのダイコクが、両親のもとに向かうエビスを見送る時は息子の幸せよりも息子に帰ってきてほしい自分の幸せばかり考えてしまうところがたまらんなポイントその2です。
イベント名の”お膳立て”に、エビスと両親の再会が上手くいくようダイコクが準備するという意味と、イベントの最後にダイコクが言う料理の準備の意味がかかっているのが秀逸だなと思います。このときダイコクが「酢橘(すだち)があるからうどんを作ろうか」と言う台詞も、”酢橘”と”(息子であるエビスの)巣立ち"がかかって聞こえて好きです。
エンディング
○暖簾分け
アンヤテン周りの諸々の事情に踏み込まないED。普通のゲームだとノーマルエンドかグッドエンドあたりに位置づけられ、壊れることのないEDがトゥルーエンドになりそうなものですが、このゲームでは暖簾分けEDもまたトゥルーエンドとされているのが大好きです。本人が知られたくないことに無闇に踏み込まないのだって愛だし、好きだからといって相手のすべてを知り尽くしている必要は無いよと常日頃から考えている心に刺さります。
暖簾分けEDに連なるいただきますイベントでダイコクが「俺たちのことをできるだけ忘れないでね」と言った思いを受け継ぐように、主人公がダイコクの優しさを胸に抱いて料理屋を開くのが、別れの切なさと思いやりのあたたかさが感じられて大好きです。いつか主人公は宝船での出来事を忘れるかもしれないけど、ダイコクから暖簾分けされた料理屋を続けている限りダイコクとの繋がりがあり続けるの、素敵だよね……。
主人公がご馳走イベントで選んだ選択肢によって主人公が開くお店が変わる選択肢差分も、主人公とダイコクの船で一緒に過ごした日々の繋がりを感じられて好きなポイントです。
〇破壊と創造
天竺イベントでベンテンから「何かを作るとか何かを良くするために今まであったものを全部壊しちゃうっていう考え方があるのよね。だから破壊はただの災厄じゃなくて、そのあとに恩恵が得られるものなの」と説明があるのを合わせて、芸術点が高くて大好きなEDです。主人公を破壊したことでダイコクの仲間を傷つけるアンヤテンは居なくなり平穏な日々が創造されたので、破壊は何も全部が悪いことではないのはそれはそうなんですよね……まあ主人公に手をかけたダイコクは泣いてるんですけど……。ダイコクの辛さまで含めて芸術点が高くて良い。これ以上の芸術は存在しないでしょう。
ダイコクに破壊されることで、主人公は自分が本当に大切に思われていると感じられるというどこか倒錯的にも見える愛の形が好きです。かなしい。でもそこが良い。
このEDを見る限り、主人公は夢想大黒銀イベントでホテイがダイコクに話していた内容がばっちり聞こえていたようなので、必死に嘘をついて誤魔化すダイコクを見てどんなことを考えていたんだろうな………とか、もしかしてホテイも主人公がこの話を聞こえていたことに気づいた上であの意味深笑顔を向けてきたのかな………とか、各キャラクターの心情に思いを馳せてしまいます。
○壊れることのない
破壊と創造EDがあるから壊れることのないEDがより引き立ち、壊れることのないEDがあるから破壊と創造EDが引き立つなと思います。どちらもトゥルーエンドなのが本当に嬉しい。何度噛んでも味がします。
先述したとおり、ダイコクの特別大事な相手に対していざという時腰が引けるところが好きなのですが、そこを力(物理)で押し切った主人公に遠慮しつつも寄り添うダイコクを見ると良かったね……の気持ちが満ちあふれます。
それまで“大切”な仲間を傷つけたことを負い目に感じ、本当に大切ではないものを”大切”と思い込ませる暗示までかけてもらっていたダイコクが、主人公を大切に思うことに苦しみを伴わず「あなたが大事でよかった」と伝えられる終わり方が美しくて好きです。ダイコクのEDのうち最後に回収したEDなのもあり、まさに感無量の気持ちでした。
■エビス
イベント
○釣り勝負・再び
それまでツンケンしていたエビスに可愛いやつめ……の気持ちが沸き上がるイベント。1周目で迎えたEDがエビスのEDだったのですが、このイベントで「ぱったり来なくなるのではなく、僕に迷惑かけない程度に来てください。いや、来てくださいはおかしいな」の言葉選びに難儀している姿を見て、このひとのEDを目指してみるか……と思ったのを覚えています。このイベント以降分かりやすくエビスから主人公への態度が軟化するのが微笑ましいです。
そして釣り勝負イベントを踏まえて好きなのが、再びイベントです。
イベント発生のため釣り技能が50必要という難易度の高さに初めて見たときひっくり返り、一番最後に回収したイベントになりました。それまでに全てのイベントを回収し、エビスと両親の逸話や思いについても勿論把握していたので、エビスの「認めてもらえないのは、寂しいですよね。わかります。知っています」が特別じんと染み渡りました。「わかります」の後に「知っています」と重ねて実感のこもった言葉が出てくるところに、テキストの上手さが感じられて大好きです。他の場面でも見られるのですが、虹の降る海の台詞は枠に一度に表示される台詞の切り分け方でキャラクターの感情を表現するのがとても上手だと思います。
○前夜
廊下で暫く聞き耳を立てていると、神無月に船を空けるか空けまいか悩むダイコクにエビスが「神無月の船の留守番はあなたに任せられた仕事なのに、あなたに信頼されないのは悲しい」と三点リーダー付きで伝えるのを知った瞬間スクリーンショットの手が止まらなくなりました。わざわざ自分の口からそれを伝えるのは……それはもう…….ダイコクのことが好きだからこその……甘えじゃん……!?!? ダイコクとエビスにずっと健やかに親子関係をやってほしい委員会の者もニッコリです。ダイコクの方もエビスにそう言われると痛いところ突かれた反応するのが好きです。息子に甘い父親……。
神様たちの中で初対面時に主人公に対して一番冷たい反応をするエビスが、キャラクターの中で唯一主人公と二人だけで一ヶ月過ごすイベントがあるという意味でも、物語の佳境とふたりの仲の深まりを感じて好きなイベントです。元ネタになっている恵比寿様の留守神の逸話を作品とキャラクターに上手く落とし込んでいてすごい。
○神無月
エビスの内面の吐露としてとっても好きなイベントです。いや、それでいうとやがて失われる日常イベントも報いるイベントも内面の吐露が最高のイベントなんですが……。
神無月イベントで、エビスは「期待」について話をします。他人に期待することも他人の期待に応えることも諦めたエビスが、他人から期待され得る力のある主人公に「あなたなら自分を受け入れてくれるのではないかと期待してしまっている」と話すのが、エビスの背景まで含めて綺麗にまとまっており大好きです。数あるイベントの中で、声の無い文章を読んでいるだけなのに、むしろ声が無いからこそ胸が締めつけられるような気持ちになるイベントの一つです。初めは言葉少なに主人公を突き放そうとしていたエビスが、一方的に長く話すような形で自分の気持ちをすべて話してくる状況が、文章を読んでいる時の苦しみと慈しみを倍増させている気がします。
主人公は選択肢の一つで「期待してほしい」と返事をし、それに対してエビスは主人公が優秀な釣り人になること・立派な神になること・皆から愛されることを期待すればいいのか?と返します。しかしプレイヤーからすれば、主人公の「期待してほしい」は何をどう考えてもエビスの「あなたなら僕を受け入れてくれるのではないか、近づいても突き放したりしないのではないかと期待してしまっている」に対する「あなたを受け入れるし突き放したりしない」というアンサーなので、それに思い当たらないエビスにバカタレ!!!!!!!と声が出ました。そしてそれについては主人公が日の御子EDでエビスは幸せを受け入れるのが苦手だからな……と的確に分析しているので、それならしゃあないか……ともなりました。主人公のエビスへの理解度MAX仕草、とても好きです。
○報いる
もはや説明不要ではないかと思うほど好きなイベントです。二択の選択肢が二回出てくるイベントですが、すべての選択肢が良いので全部見て欲しい……。
序盤から出てきていた、エビスに父と呼んでもらえないことに悩んでいるダイコクの姿に対する答えがこのイベントでは話されます。ダイコクがかつて殺し合い害された記憶から”家族”というものが得意でないのを知っているから、仇なす家族ではなく愛する仲間としてそばにいたくて父とは呼ばないというエビス→ダイコクの理解度の高さと思いやりにメチョメチョにされました。お膳立て→ただいま→報いるのイベントを連続で浴びている間、よもやエビスとダイコクとの家族EDがあると想像していなかった私は、こんな……..ここまでエビスとダイコクの話を深堀りしていただけるんですか……!?!?本当に…….!?!?!?と致死量の親子愛に咽びっぱなしでした。
選択肢によって、イザナギとイザナミのところに遊びにいっている間のことを話してくれるエビスの話も好きです。イザナギ・イザナミと接している間ダイコクの顔が頭を過ぎったり、弟や妹と接している時に主人公の顔が頭を過ぎったりすることを、実の親と育ての親に優劣をつけるのではなく「自分はダイコクや主人公に会えなくて寂しかったのだ」とエビスが気付いた話にまとめられていたのが丁寧で大好きでした。
エンディング
○日の御子
神無月イベントで主人公の「期待してほしい」の意図を全く理解できてないエビスにバカタレ!!!!!!!となり、芦の小舟イベントでようやく主人公からの好意に気付いてからの、満を持してのエンディングで「僕もあなたが好きでした(過去形)(なんかもう二度と会えないと思ってる)(主人公は誰にでも好きって言うと思ってる)」に二度目のバカタレ!!!!!!!が出て、主人公の最後の一押しでようやく思いがしっかり伝わった時は心の中でスタンディングオベーションをしました。先述しましたが、ここで主人公がエビスになかなか好意が伝わらないことについて「エビスは幸せを受け入れるのが苦手だから」と理解しているのが好きです。
紆余曲折を経て両思いになった二人に良かったね~!!とお祝いの気持ちになっていたところで、主人公のモノローグでエビス(蛭子)の名前は醜い蛭ではなく日る子という太陽を表した名前であること・エビスが恐れているかつて彼に打ちつけていた雨はすぐにやんだことが明かされた時は、エビスに向けられた優しさや愛のあたたかさに神無月イベントを読んだ時と同じ胸が詰まるようないとおしさを感じました。
また、このEDでエビスはアマテラスについて「妹のようなものだが向こうは自分を兄だとは認識してないだろう」と話すのですが、ベンテンのおまじないEDでは「エビスの妹がエビスについて話すのを見て、妹がいたらいいなと思っていた」と話されるので、アマテラスはエビスをちゃんと兄だと認識しているのだろうと感じられるのが好きです。エビスを取り巻く世界が、彼が思うよりもずっと彼に対して優しくて、本当によかったな……と思います。
○水は血よりも
先述したとおり22種類のEDの中で一番好きなEDです。エビスのEDを回収していて、あなたの幸せEDも日の御子EDもどっちもいいな~!!と思っていたら、最後に回収したこのEDが爆速で親子概念を駆けあがり優勝をキメていきました。ダイコクとエビスの親子関係、EDまでご用意してここまでやってくれるんですか!?!?!? 私の好みを知っている人にミリ知らでひとつひとつのEDを見せたら絶対にこれが一番好きだと見抜かれる自信があるくらいにはドンピシャ好みありがとう最高フォーエバーベストEDでした。
父から課された責任から逃げたことに負い目を感じている息子と息子に責任を押し付けたことに負い目を感じている父親の気持ち・”家族”というものは悪意に塗れた敵という認識があって不得意なものだけど、それでもエビスと”家族”でありたいダイコクの気持ちとダイコクが”家族”を苦手としていると気づいているからこそ家族ではなく仲間でありたいと思っていたエビスの気持ちが、ようやくお互いに素直に向き合って交わした会話で重なり合うのが本当に美しかったです。エビスにとっての釣りが、かつて父親だったダイコクと過ごした時の大切な思い出だと聞いた後に見るエビスとダイコクが並んで釣りをする姿は、EDが始まって二人の姿が目に入った瞬間踊り叫びたい気持ちになりました。エビスがダイコクをたどたどしくも「父さん」と呼んだ時は、このEDの好き加減を毎秒更新されて人の形が保てなくなるかと思いました。初見時ずっと呼吸が浅かった気がします。好みに刺さりすぎて。別のゲームの話になってしまいますがテイルズオブシンフォニアでクラトスとロイドにべこべこにされてからもうずっとこんな感じです。
主人公はEDによっていろんな姿の神様になりますが、このEDの一枚絵では海や水に縁のある神様になっているような格好なのがとても好きです。水は血よりも濃いんだもんね……家族だもんね……。一枚絵でエビスが自分の表情を隠すように帽子を下ろしてるけど笑ってる口元が隠れ切れてないのも大好き。すべてが良かった。もはや誰に感謝してるのか分からないけど本当にありがとうございます。
○あなたの幸せ
一周目でたどりついたので個人的に思い入れのあるEDです。このEDは幸福論→夜釣火→やがて失われる日常と段階を踏んでいると特別染み入るものがあるのですが、幸福論イベントで自分の幸せとは何なのか考え、夜釣火イベントで主人公と過ごす時間に幸せを見出したエビスが、主人公と過ごした時間の幸福を忘れないまま二度と出会わない場所で主人公の幸福を願っているという終わり方が寂しくとも美しくて大好きです。エビスは主人公が神になったら他にも沢山の神様に出会って自分のことを気にかける気持ちも薄れるだろうと言いますが、EDでは主人公も神になった後海の近くで物思いに耽っていたとされているので、エビスが遠く離れたところで主人公の幸せを願っているのと同じように主人公もエビスの幸せを願っているのかもしれないな……と感じます。
このEDは三つあるEDの中で唯一主人公とエビスがお別れするEDなので、やはり他のゲームだとバッドエンドに分類されそうですが、全てのEDがトゥルーエンドという謳い文句に惹かれてこのゲームを始めたため、あなたの幸せEDを初めに迎えた一週目の経験を”失敗”ではなく”一つのトゥルーエンドにたどり着いた”と感じられたのが嬉しかった点の一つです。同時に離れた場所で一生出会えなくてもお互いを思い合うEDがトゥルーエンドの一つだという事実に最高最高最高~~~!!!!!!の気持ちになりました。
■ベンテン
イベント
○空谷に足音・朝の水仕事
初めてイベントの発生条件を知った時、こんな条件なことある!?!?と一番びっくりしたイベントです。自力で見つけようとしても絶対見つけられなかったと思います。ありがとうイベント一覧……。
ずっと部屋に引き籠もっている主人公をベンテンが気にかけてくれるイベントなのですが、「海見たり星見たりしてゆっくりするのも悪くないわよ(=自分がいる甲板に来てもいいよ)」という言葉にベンテンから主人公への愛を感じます。その言葉どおり甲板に行くと待ち人来たりてのイベントが始まるのも好きです。主人公のこと待ってたんだ……そうなんだ……。
このイベントに連なって発生する朝の水仕事イベントで、ベンテンが持ってきてくれたお弁当は彼女が作ったものだったと分かるのも好きです。空谷に足音から始まるおまじないEDまでの一連の物語は、物語を追うごとにベンテンから主人公への愛がどんどん分かっていって、誰にも会わず何も起こらなかった間の静けさが彩られていくような心地になります。
選択肢によって発生するダイコク・ベンテン・主人公の料理対決イベントも好きです。ビシャモンの「おいしい。ふわふわ」三連続には思わず笑ってしまいました。ビシャモンは嘘をつけないひとなので、本当に全部おいしくて全部ふわふわだったんだろうな……とわかり癒されます。
○乙女の夜話
どの選択肢の反応もたまらなく好きなのですが、「忘れたくても忘れられないひとっている?」というベンテンの質問に主人公が「教えない」と返した時の反応が特別かわいくて好きです。初めは近寄りがたい美人さんという雰囲気だったベンテンが、忘れられない人いるんだ?(いるとは言ってない)ふ~~~ん???となっていて、主人公に翻弄されている姿にふたりの関係の深まりが感じられます。そこから更に「ベンテンのことも忘れられないかも」と主人公が告白する選択肢がある両思い具合にもじたばたしてしまいます。
選択肢によって他の神様たちの口まねをするベンテンが見られるのも好きなポイントです。他のイベントでも見られるベンテンの口調ものまねですが、すぐに誰のまねをしているのか分かるあたり、虹の降る海は各キャラクターの口調の書き分けがうまいんだよな~~~とつくづく感じます。このくだりでベンテンが宝船の仲間たちについて「絶妙に気が合わない人ばかりで誰のことも好きにならないのが良い」と思っているのも大好きです。七福神たちの遠過ぎず近過ぎない絶妙な距離感が好きなので……その上で主人公がダイコク↔エビスやフクロクジュ↔ジュロウジンの距離を後押しする話があるのも好きで……。
この話はEDについて書く時にも後述しようと思うのですが、私はベンテンに告白して両思いになると一緒にいられず似た者同士として友情関係を築くと一緒にいられるというのが大好きなので、このイベントで主人公が「ベンテンのことを忘れられないかも」と告白するとベンテンのことを忘れてしまうEDに一歩近づいてしまうのが切なくて好きです。
○奏する
告白する選択肢を選んだ時のベンテンが可愛いのは勿論のこと、個人的に絶対嫌われる間違いの選択肢だと思っていた「ぬいぐるみを投げつける」の選択肢がハチャメチャに面白い選択肢だと気付いてびっくりしたイベントです。ベンテンは自分のことを「人よりも何でもできる」と自称していますが、ふわふわのぬいぐるみを物凄い勢いと強さで投げられる彼女を見るとフカシでも何でもなく万能な神様なんだな……と感じられます。ぬいぐるみ投げを挑んでくる主人公に呆れつつ、神様になったらまた戦いましょうね、と楽しそうに言ってくれるのも合わせて好きなイベントです。
個人的にフラグの条件がなかなか分からず苦戦したのがベンテンの共感回数だったのですが、共感回数が高いと迎えられる双璧EDを見るに、このぬいぐるみを投げる選択肢がベンテンの共感回数を上げる選択肢の一つだったのかなと思います。詳細は双璧EDで話しますが、神様になった主人公とベンテンのぬいぐるみ投げリベンジは絶対に見たいし、そのまま操縦室ごと破壊してダイコクに叱られてるところも絶対に見たい。対戦よろしくお願いします。
○鵜の目蛇の目
こちらのイベント以外にも、余裕イベントや晴れのち雨のちイベントなどがそうですが、ベンテンは嫉妬深い神様という要素を汲み取ってか他のキャラクターと主人公が仲良くしてるとソワソワする系のイベントが多くてキュートだな……となります。あの油揚げを狙う鳶みたいな目見た!?!?とおののくフクロクジュも、自分がベンテンさんに勝てる時ってあんまり無いから新鮮で面白いですねしてるエビスも、ベンテンが主人公のこと好きなのを見透かした上でわざとちょっかいかけてるホテイも、それらに対するベンテンの反応も余すところなく好きです。
その中でもこちらのイベントを特に好きなイベントとして挙げたのは、ベンテンが話す他の神様たちへの所感が非常に興味深いからです。ベンテンは主人公に対して、特に気をつけなければならない相手としてホテイとフクロクジュを挙げるのですが、実際明確に主人公を害してくる展開(苦しくないイベントと掬う手に巣食われED)があるのがこのふたりなので人及び神を見る目があり過ぎる……。ジュロウジンやダイコクはまともだけど地雷(恐らくフクロクジュ周りの話とアンヤテン周りの話)があるからその話題は避けなければならないと言い含めるのも合わせて、キャラクター説明文のとおり鋭い観察眼を持っているひとだなと感じられます。
○贖罪
主人公の来歴はおそらくEDごとに異なっているのだと思いますが、私が初めて「どうして主人公は宝船にいたのか」の経緯を見たのがこのイベントだったため、エエ!?!?そうなんですか!?!?とかなりびっくりしました。そしてここから人外価値観のお姉さんがただの人間に向ける出力でかめのスケール違いの愛が好きな心にベンテンがドカドカ刺さり始めました。この世界線のベンテンが序盤に倉庫から出てきた主人公を初めて見つけた時の心境にいくらでも思いを馳せられます。
水と愛とイベントで「私は自分のことしか信じないし、愛さない」と言うベンテンが、他ならぬ主人公への愛によって自分が消えてしまうイベントがあるのが、なんかもう…….全然自分しか愛さないことないじゃん……!!!!!!!!とやり場の無い愛しさにとらわれます。乙女の夜話イベントで選択肢によっては「すぐひとのことを過剰に好きになっちゃう」と言っていたのでそれはそう…….そして主人公のことを過剰に好きになっちゃった結果がこれなのもそれはそう……。
エンディング
○双璧
先述したとおり共感回数を上げる選択肢がなかなか分からず、最後に回収したEDです。どの選択肢が共感回数を上げられるのか試行錯誤しながら周回するのはとっても楽しかったですし、鵜の目蛇の目イベントで共感回数による差分があると知った後はこのイベントを利用してどの選択肢を選べばいいか確認していました。その度に睨まれていただろうフクロクジュはすまない……。
ベンテンのEDの中で唯一主人公が神様になるEDですが、神になる経緯がベンテンから主人公に「神様になるよう願ってね」とお願いして、主人公がそれに応えたからだと描かれているのが好きです。ベンテンが主人公のことを好きなのはイベントを見てれば分かるけど、主人公もベンテンのことが……好きじゃん……!!を主人公の台詞が無くとも感じられて嬉しくなります。その後流れるように破壊される部屋とダイコクのお説教には笑ってしまいました。あのダイコクが船から放り出すからねって言うほどなんだ……まあ部屋ひとつぶっ壊したらそりゃそうか……。説教を受けてもなお全く懲りてない様子のベンテンと主人公も大好きです。近いうちに操縦室も無事では済まなくなるんだろうな。
各EDで神様になった主人公の姿がそれぞれ違っている中で、双璧EDの主人公はかなりベンテンに近しい見た目になっているのが、正にED名どおり双璧という感じで好きです。ずっと楽しく過ごしていてほしい~~~!
○盲愛
ベンテンのEDのうち初めに見たEDだったのですが、贖罪イベントから引き続き人外価値観でただの人間に向けるにはだいぶ重たい愛を出力する女と相手を想っているからこその別離が好みに刺さり散らかしました。水は血よりもEDに次いで好きなEDです。
双璧EDと見比べると、あらためて似た者同士の友情関係だとずっと一緒にいられるけどベンテンに告白する愛情関係だとお別れになるベンテンのEDの妙にたまらんな……となり、更にどちらもトゥルーエンドなのがこれまたたまらんな……となります。また、神様が消える展開を初めて見たEDでもあったので他の七福神たちにすっかり忘れられたベンテンを見てこ、こんなことある……!?!?と打ちのめされもしました。フクロクジュとジュロウジンは元々同一視されることもある神様なので消える展開も然もありなんですが、ベンテンとホテイは主人公に惹かれて自分から関わってしまった結果消える展開があるのが辛いと思いつついいな……ともなります。
主人公とベンテンの大晦日の会話が端から端まで好きなのですが、主人公に一目惚れした時の思い出を話しながら遠くの星を掴むように手を伸ばすベンテンが特に好きです。ベンテンにとって人間の主人公は決して手の届かない星みたいな存在だったのかもしれない……。ベンテンから幸福になる力を貰って船を降りようとする主人公が「自分はこれから幸福になってしまうんだろうか」と思っているのも好きです。大好きなひとが居なくなった世界でそれでも自分は一番幸せになってしまうの、寂し過ぎんか……!?
そういったEDがあってからの、ベンテンに似た女性と通りすがる主人公の一枚絵も色々と考えさせられて大好きです。贖罪イベントで主人公が一緒に行きたいと言うと「”消える”っていうのは人間の世界に帰るのとは違う」とベンテンから言われますが、主人公がベンテンから授かった幸福パワーでなんかすごく上手くいってどうにか再会してたら……いいな……!!!!と願わずにはいられません。
○おまじない
双璧EDや盲愛EDではベンテンの動的な愛が感じられますが、おまじないEDでは静かな愛が感じられてまた異なる味わいがあるなと思います。それまで誤魔化されてきたベンテンの主人公を気にかけていた本心が、最後にベンテン自身の口から明かされることでより心にきます。
おまじないEDでベンテンはこれから人間の世界で生きていく主人公の力になるような言葉をかけますが、その中でも「人間さんはひとりでも生きられないことはないけど、ほかのひと利用しまくった方が楽なんだから」という言葉が特に心に残っています。今まで人は一人では生きていけないと謳う作品は沢山見たことがあったのですが、人は一人でも生きていられるけど他の人を利用した方が楽と話している作品を見たのが初めてだったからだと思います。どちらの結論が良い悪いというのではなく、ベンテンらしさが詰まっているから好きな言葉です。
その後主人公がどのように生きたかはEDの文章どおり神(ベンテン)のみぞ知るところですが、一枚絵のベンテンの穏やかな表情を見ていると、きっと主人公は幸せに暮らしたんじゃないかなと感じられます。
■ビシャモン
イベント
○信頼の鎖
イベント一覧を見た時に、このイベントで宝珠を盗む選択肢をとることで別EDに分岐するんじゃないかと察した時のマジでこれやるんですか!?!?の驚きが凄かったです。主人公を明確に害してくるイベントがあるのがホテイとフクロクジュという話は前に書いたんですが、逆に主人公が悪意を持って接するイベントがあるのが正直者のビシャモンと優しさ度カンストのジュロウジンなの、ちょっと罪悪感が尋常ではない……。
キッショウテンのことを調べている主人公におかしくね???と全員鋭く疑問を持てるのが流石神様たちだな……と思いますし、すべてのEDを回収した後だと主人公を疑いたくなくてちゃんと信じ切るために宝棒を渡したビシャモンの心境に何かと思いを寄せてしまいます。個人的にいつも優しいジュロウジンが密話イベントでダイコクやベンテンと一緒にちゃんと神の字が読める主人公へ疑いを向けているのが好きなところです。他の神様に比べて主人公を疑いたくない気持ちが強いビシャモンの反応は、キャラクター説明にもある「嘘をつくのも見抜くのも苦手で、どうして他のひとが嘘をつくのかもよくわかっていない」といった性格にも起因しているのかなと思います。
余談ですが、ホテイと一緒に神様たちの嘘を見抜きにいく真っ赤な嘘イベントの差分でビシャモンだけ差分が無いの、ビシャモンがそもそも嘘をつかないから嘘を見抜くも何もないからなんだなと気付いた時のマジで嘘つかないんだこのひと……という驚きと感動が凄かったです。
○護る者を守るもの・後悔先に立たず
ビシャモンと初めて出会う時のイベント名”護る者”を引き継いでいるイベント名がとても好きです。全イベントを回収すると分かるとおりビシャモンは桁違いに強い武神なのですが、そんなビシャモンが傷つくのは敵に攻撃された時ではなく護るべきものを護れなかった時なんだとよく分かります。
そして実際に後悔先に立たずイベントで選択肢によって主人公が攻撃されると、主人公を護れなかった罪悪感にビシャモンが耐えられなくなりEDのフラグがぶち折れると気付いた時は、マジで徹底してるな!?!?とびっくりしました。それと同時に好奇心でフラグぶち折れ差分を見た時の罪悪感がすごかったです。まさにイベント名どおりの”後悔先に立たず”でした。ごめんな……。
○逡巡
全方位にカワイイが詰まっているイベント。
見張り台に上らなくなったけどビシャモンと話がしたい主人公と、主人公に見られていることに気付いたビシャモンのやり取りが可愛い! ビシャモンが書いた手紙が風に流されて、偶然それを拾って見たフクロクジュの「隅におけないなー」の反応が可愛い! ダイコクが作ってくれた料理を台所にいないダイコクに声をかけてから食べるビシャモンの優しさが可愛い! 見張り台に上らないでと言った理由を「あなたが居るとあなたのことが気になって護衛の仕事に支障が出るから」とずっと考えていたんだろう言葉で説明するビシャモンが可愛い! 最初から最後まで笑顔になります。
このあたりのイベントは主人公が人間のままビシャモンとお別れする初御空EDに繋がるのですが、初御空EDに連なるイベントでビシャモンは終始主人公を護るべき弱い人間と見ているように感じます。他のED周りのイベントと見比べるうち、主人公が最後に神になるか人間のままかは神様たちが主人公を神と人間どちらに寄って捉えているのかに関わっているのかな、と思いました。ビシャモンは特に神様たちの中でもEDによってビシャモンから主人公の捉え方が大きく異なるキャラクターなので、そのあたりを考えさせられる機会が多かったです。
○不可逆
全体的に罪悪感を抉ってくることが多い主人公が悪神になるビシャモンのイベントの中でも、一番罪悪感に襲われたイベントです。信頼の鎖イベントで他の神様たちが主人公を疑っているのを信じたくなくて、主人公を信じるために宝棒を渡した結果裏切られ、その日からずっと”本当は主人公が嘘をついてなかった”という悪夢を見続けるビシャモンになんかもう……ごめん………!!!!!!!と後悔先に立たずどころではない後悔に見舞われます。
このイベントは一度宝珠を盗んだ主人公がビシャモンに諫められ一度だけ許されることで見られるイベントですが、表向きは何事も無かったようだけど全てが元通りになったわけではなく、ビシャモンは常に主人公を疑い続けなければならなくなってしまったという二度と戻らない関係性の変化が悲しくも丁寧に描かれていて大好きです。普段言葉少ななビシャモンが、自分の感じている苦しみと二度と戻らない主人公との平穏な日常について言葉を尽くして話してくれる分、ともすれば好意を伝えられる時よりも破壊力のあるイベントだと思います。
○真実を告ぐ
いくつかある主人公の来歴が大きく変わるイベントのうちの一つ。初めて迎えたビシャモンのEDが幸福の女神EDだったので、主人公が実は吉祥天だったってロマンチック過ぎる~!!!!とこのイベント中ずっとはしゃいでいました。いや、そのぶん後に回収したイベントの罪悪感がえげつなかったんですけど……。
宝珠を盗む一連のイベントを見た後だと、このイベントで自ら宝珠を渡してくれるビシャモンにより心が温まります。ビシャモンの大切なものがあるべきところにあるやさしい世界であってくれ……(不可逆イベントで傷を負い過ぎている)。
主人公が最後に神になるか人間のままかは、神様たちが主人公を神と人間どちらに寄って捉えているのかに関わっているのではないかと書きましたが、このEDではビシャモンが主人公とキッショウテンの繋がりを感じて「主人公が神様になったらいいのに」と口にして、それを聞いた主人公が宝珠に願うことで主人公が神様になるという流れになっているのが好きです。ビシャモンひとりの思いで主人公が神様になるのではなく、主人公側からも神様になることを願う必要があるところに、ビシャモンにとって主人公は神になれるかもしれない強い存在ではなくあくまでも弱い人間なんだなという意識を感じます。このあたりはベンテンの各EDからも似たものを感じます。
エンディング
○幸福の女神
憧れのひとであるキッショウテンとビシャモンの再会ということもあって、ED名に違わぬ幸福を感じられます。また、主人公のデフォルトネームが"おふく"なのはキッショウテンが"幸福の女神"であるところにもかかっているのかなと思います。
私がこのEDで特に好きなのは、ビシャモンが主人公に向ける感情について「神だとか人間さんだとかそういうのは関係なくって。俺はキッショウテンさんに憧れていて、(主人公名)が好き」と言うところです。このEDで主人公とビシャモンが結婚するのは主人公がキッショウテンだからというだけではなく、ビシャモンが主人公に向けている好意はあくまでも宝船で主人公と過ごした一年間で培われたものであるというのがいいなと思いました。ビシャモンが主人公に向けている好意はキッショウテン由来ではなく他ならぬ主人公と過ごした時間由来だからこそ、他のEDの寂しさややるせなさが倍増するんだよな……。
昼餐イベント・卓を囲みてイベント・逡巡イベントなどビシャモンはダイコクに次いで主人公と一緒にご飯を食べる描写が多かったので、最後の一枚絵が二人で食卓を囲んでいるイラストなのも嬉しかったです。
○永遠の封印
ゲームを進めるごとに気になっていた「結局鏡の中の主人公って何なの?」の答え合わせにもなっているED。確かに大抵ろくでもない時にしか声かけてこないなコイツとは思ってたけど……思ってたけど……!!!!!! よりにもよってこのくだりをやるのが嘘つかないし人の嘘も見抜けないビシャモンか…….!!!!!!!と全身がちぎれそうになりながら読んでいました。
このEDで、EDによっては主人公に一目惚れして船につれてくるほど主人公を好いているベンテンやいつも優しいダイコクが悪神の主人公に一切の躊躇が無いのが好きです。この純然たる敵意を向けられる結末もトゥルーエンドなの、ムキムキの健康になってしまうな。
前述したとおりビシャモンが主人公に向けている好意はあくまでも主人公と船で過ごした時間に由来しているのが好きなので、ビシャモンが主人公を好きだったのはこのルートでも同じなんだよな……と他のふたりに比べて明らかに傷ついているビシャモンを見ていると強く感じます。そこからの最後の言葉が「好きでいさせてほしかった」なのが、ヴワー!!!!!!と頭を抱えたくなる破壊力がありました。ビシャモンを裏切るイベント周り、ほんとに全部心が苦しいんだけどその分ひときわ胸を締めつけられて心に残るイベントも多いので、めちゃくちゃ辛いけどビシャモンに主人公悪神イベントをあてがってくれてありがとう……の気持ちです。
○初御空
「俺たちはもう、今日を最後に(主人公名)のことを忘れるから。そういうことになってる。だから、寂しいとか思う必要ないんだって。みんなは大丈夫なんだって。どうせ明日には何も覚えてないんだから」の畳みかけでビシャモンの””””寂しい””””の気持ちがいかんなく伝わってきて好きなEDです。寂しいとか思う必要なくてもビシャモンは寂しいし、みんなは大丈夫でもビシャモンは大丈夫じゃないし、明日何も覚えていないことが悲しいんだよな……。
最後の一枚絵でビシャモンの表情が見えないのもたまらなく好きです。ED名どおりの元日の空を見て、どんな顔をしているんだろうか……と想像するだけでこちらまで寂しい気持ちになってしまいます。このEDに連なる平穏無事イベントで話されていますが、ビシャモンにとっていきなり現れた人間の主人公は護るために特別気を配らなくてはならない平穏を乱す存在であると同時に、平穏を乱すのだとしてもなお離れ難い存在であるというのがとてもいいなと思います。
また、ビシャモンは平穏無事イベントで護るため戦うことについて「ほかにできることがあったらやめてたと思う。やめるには、俺は弱すぎるから」と言うのですが、それに対してベンテンは水と愛とイベントで「強さだけを売りにしてるビシャモンみたいなの、ときどき良いなって思う」と言っており、司るものが違う神様たちなりに各々の悩みがあるのが感じられてそこも好きなところです。多分お互いに対してはこういう悩みみたいなの言わないんだろうな~って距離感なのも好き。
■ホテイ
イベント
○空念仏
他のキャラクターのEDを目指しつつ色々と差分を探し回っていた時期に、嘘つきクイズで「嘘がひとつというのが嘘」という差分選択肢がいきなり出てきて、このひともしかしなくても主人公が嘘をついた回数でイベントフラグが管理されてるな!?!?!?と気付いた時の脳汁の出方が半端なかったです。唯一イベント一覧を見ずに全てのイベント条件が分かったキャラクターでもあります。まあイベントとEDを回収すればするほどこ、こいつ……!!!!!!度が跳ね上がっていったんですけど……そこ含めて好きなキャラクターなんですけど……。
嘘をどれか一つ当てるクイズで「主人公のことを可愛いと思っている」という選択肢を入れた上、それが嘘だと指摘されたら「可愛いなんてものじゃなくてすごく可愛いと思ってる」と返すの、性格悪くてたまらないなと思います(褒めています)。
比較的発生しやすいイベントなのもあり、別の周回で違う選択肢を選んでいるうちに「これ三つの選択肢全部嘘じゃん」とプレイヤーが違和感に気付くようになっているフックも含めて上手いなと思います。前述したとおり神様たちが恐らくビシャモン以外全員主人公の嘘を見抜いているだろうことを考えると、嘘をつくシステムは嘘をついて神様に渡り合うというよりホテイとの関係性がどう変化していくかを左右するシステムなのかもしれないな……と感じました。
○疑念を抱け・虚飾
数多あるホテイのこ、こいつ!!!!!!!!度が高まるイベントの一つ。普通に周回していてこのイベントが発生した時はもうだいぶ他のEDやイベントを回収した後だったので、皆が神様じゃないわけないでしょ~!!ガハハ!!と雑に流していたのですが、どうやらこのイベントをきっかけに主人公が神様たちを疑い出す展開があるっぽいな……?と気付いた瞬間にホテイへのこ、こいつ…….度が一気に高まりました。
そしてそこからの虚飾イベントで、「実は自分たちは神様じゃなくて主人公を売り飛ばすために神様のふりしてるだけなんだよね」と言い始めたところで脳味噌がめちゃくちゃになるかと思いました。この時点で七割くらいのイベントを回収していたので、ホテイがなんか盛大に嘘ついてるけどこれどうなるの!?!?という焦りと、プレイヤー目線だとホテイの発言こそがタイトルどおりの虚飾なんだけど何も知らない主人公の立場だったらこんなこと言われたら信じちゃうよなあ~……!!という焦りが混ざって大変でした。ホテイが主人公がこの船にいる現状を”誘拐”と表現したあたりで、ベンテンの盲愛EDを思い出し、切ないほどの愛が伝わってきたベンテンの独白に対してこのイベントの底知れない恐ろしさは何なんだ……と手に汗握ったのを覚えています。
これらのイベントは掬う手に巣食われEDに繋がっていくのですが、一番こわごわ読み進めたイベント兼EDだったな……と回収した当時の気持ちを思い出すと今でもぞわっとします。
○最果てのひと
正直者の主人公と距離を測りかねている嘘つきのホテイが微笑ましいイベント。このイベントは眩むEDに繋がっていくイベントですが、他のED関連のイベントと比べるとホテイが自分の焦りや言葉選びを比較的表に出しているように見えて、本当に微笑ましいです。
ホテイはビシャモンや主人公のような正直者を苦手だと言いますが、無いものねだりイベントやこのイベントを見ていると、そこにあるのはかつて自分が捨てた正直なひとの眩しさへの羨望でもあるのかなと思います。正直者の主人公が苦手だけど嫌いではないというホテイが、主人公の昔の話を聞いた時に「あんたが今話したようなこと、そんなこと思ったこともない」と言う笑顔は、普段胡散臭い(褒めています)笑顔の表情差分から心なしか慈しみを感じられるような気がします。ホテイのイベントは不穏さフルMAXみたいなタイトルも多いのですが、最果てのひと、というイベント名からは優しく照らされるようなあたたかみやかすかな憧憬を感じられる気がして、これがホテイのイベントであることも含めて特に好きなイベント名の一つです。
○実益
虹の降る海は七福神たちと交流するゲームですが、”神と人間”の関係をわかりやすく理解するのにも適したゲームだなと思います。「人間は神様がいなくても生きていけるけど、神様は人間に信仰されなければ生きていけない」といった話は、人間と神様の関係において特に外せない話だと思っているので本作で出てきた時にうれしくなりました。
更にこのゲームでは「七福神が七人集まってグループを組んでいるのは人間から覚えてもらいやすくするため」と七福神について解釈されているのもすごく好きです。サンリオのはぴだんぶい的な感じで集まった七福神、ちょっとかわいいな……。ハンギョドンと一緒にいるエビスは見たいし(?)フクロクジュとジュロウジンは実質リトルツインスターズだし(?)ホテイはなんだかんだ王道でばつ丸くんと一緒にいるところが見たいなと思うので(?)、虹の降る海が覇権をとったらサンリオとコラボしてくれ。本当に何の話?
またこのイベントでは、ホテイが嘘をつき続ける主人公に「鏡に『嘘をつけ』と言われたからといって、賢い主人公が盲目的に従うはずがない」と言っているのですが、裏を返せば疑念を抱けイベントをきっかけに盲目的にホテイの言う事に従って嘘をつくようになった主人公のことをホテイがどう思っているかというと………….はい……………。
○真っ赤な嘘
ホテイのこ、こいつ!!!!!!度が跳ね上がるかつ、ホテイから他の神様たちへの分析が聞いていて楽しいかつ、神様ごとの差分が見ていて楽しい、一番腰が引けつつも一番楽しいイベントです。
ホテイのこいつ!!!!!に関しては今に始まったことではないのですが、他の神様の嘘を見抜けるようになって嘘が赤字で見えるようになっても、嘘八百を並べ立てているホテイの字は一切赤くならないところに頭を抱えたくなります。恐ろしすぎる。
ホテイから他の神様たちへの所感は、どれも周回を重ねるほどわかる~~~~~と頷きまくりたいものばかりなのですが、特にベンテンとエビスは初めの壁を乗り越えたらすぐ懐に入れるから可愛いという人物評にわ、わかる~~~~~~~……と数々のイベントを抱きしめながらわかり手になってしまいました。優しくて穏やかなジュロウジンを「心を開かないで距離を取ろうとしている」と評するのも、ダイコクを「嘘をつかないことを武器にしている」と評するのも全部好きです。わかり手化がとまらん。ダイコクについては壊れることのないEDでアンヤテン周りの事情について主人公に沢山嘘をついたことを後悔している描写があったので尚更沁みます。
神様ごとの差分は語っても語り尽くせないほど大好きなのですが、夢想大黒銀イベントを見た後だとダイコクの事情を知っておいてこの話を主人公の目の前で振るのヤバ過ぎんかこいつ!?!?となったり、釣りを大切に思っていること・親に捨てられたとき雨に打たれた記憶がトラウマになっていること・神になれる強さがある主人公の存在によって自分が劣っていると周りに気付かれるのではないかと恐れていることのエビスの弱点フルコースを的確に突く嘘をお出しするホテイにヤバ過ぎんかこいつ!?!?!?となったり、ベンテンがシンプルに”主人公が好き”の気持ちで嘘にひっかけられるところにちょっとこのひと可愛すぎるな……となったり、ジュロウジンとフクロクジュが嘘をつくような弱点はどうあがいても片割れのことだよな……と再確認したり、ジュロウジンのEDを見てもこのイベントを見てもジュロウジンは本当に主人公が自分の立場を乗っ取ること自体に負の感情は無いんだな……と痛感したり、差分を確認している間色んな意味で暴れ回る化け物になるところでした。ありがとうホテイ。
○酔生夢死
ホテイのED群の好きなところに、ホテイが自分とは程遠い正直者の主人公を好きになる一方で、自分と同じ大嘘つきの主人公も好きになるところがあるのですが、酔生夢死イベントはお互いを好ましく思っているはずなのにお互いのことがわからなくなっていく主人公とホテイの辛さがぎゅっと詰まっていて好きです。どれが嘘でどれが本当かわからなくなっている状態で、好き・嫌いと言い合うふたりの姿は見ているこちらまで傷ついてしまうほどの悲しさがあります。
嘘つきふたりEDに連なるイベントでは、途中からホテイの嘘が赤字で見えるようになるのですが、酔生夢死イベントではそれまでずっと黒い文字で出ていたホテイの言葉が「正月が来たらあんたを忘れられる」と言った瞬間赤文字になるタイミングが絶妙で最高だと思いました。ふと意識から外れた瞬間叩き込まれる赤文字の嘘、ずる過ぎるんだよな……。
正直者の主人公と大嘘つきの主人公に対しては柑橘の香りがする贈り物や真珠の髪飾りを渡してくるホテイ、好きな子に対して結構物を贈りたがるタイプなのかもしれないと思って好きです。こいつ……!!!!!度は常に跳ね上がっていくけどかわいげも高い。隙が無い。
エンディング
○眩む
自分の神様としての力をそのまま主人公に渡してしまったからなのか、正直者の主人公を残して消えてしまうホテイにお前お前お前お前~~~~~!!!!!!!!!とひっくり返りました。主人公がホテイの力を貰ってもホテイほど強い力を持った神にはなれなかったの、主人公がホテイとは程遠い正直者だからだよな……な、なんちゅうことを……。
自分が犠牲になってでも他の人を助けたいと思って人身御供になった主人公を思わず助けてしまったホテイの自分の最果てにいる苦手な正直者をそれでも眩しく好ましいものと思わずにはいられない気持ちや、有言実行で忘れられない香りを残して消えていったホテイに対するマジでやりやがったこいつ…….!!!!!!!の気持ちが嵐を生み、読み終わったあと呆然としてしまいました。そしてその後これを超える呆然具合が次々襲ってくるとは思いもしませんでした。な、なんなんだこいつ…….(好き)。
○掬いの手に巣食われ
ホテイのEDを 眩む→嘘つきふたり→掬う手に巣食われの順番で見たんですが、他のキャラクターのEDを大体回収し終わったタイミングで見たので、まさかの二人一緒に幸せに暮らしましたor年一で出会って思い合いましたEDが無いことに衝撃を受けつつよりにもよってホテイのEDで最後に見たのがこのEDだったのでな……なんだァてめェ……!?!?!?!?とやり場のない感情に巻き込まれました。いや、今までのイベントをちゃんと振り返っていればそりゃホテイの嘘を真に受けて嘘をつきまくるようになった主人公の結末なんて予想できるもんなんですが、それにしたってお前…….お前……!!!!!!!!
数あるイベントの中で、圧倒的に神様たちの上位存在っぷりを浴びられるEDです。これがトゥルーエンドなのちょっとめちゃくちゃたまらないです。何かしらの感情を神様たちと向け合ってきた他のEDに対してこのEDがだいぶ異質。
ホテイに対してずっとこ、こいつ!!!!!と言ってきましたが、ここには自分と程遠い正直者を愛しく思う気持ちも大嘘つきの主人公の本音がわからなくなってしまったことを悲しむ気持ちも持ち合わせた上で、バカな人間オモチャにするの面白~!!!!する気持ちも全部ホテイの側面の一つなんだよをいかんなくわからせられたやり場のない気持ちが詰まっています。逆にこのED周りのイベントを見てから他二つのED周りのイベントを見ると、ホテイって他二つのEDではちゃんと主人公のこと好きなんだな……と分かりやすくなるのでまた味わいがあります。
これは完全に余談ですが、掬う手に巣食われEDを回収するため同時並行で興味度を上げていたのがジュロウジンだったので、文人墨客イベントで主人公が「無意識的にホテイよりジュロウジンを信用している自分に気がついて少し笑ってしまう」と言っているのを見て虚飾イベントや真っ赤な嘘イベントでホテイが大ぼら吹きまくってるけどマジで大丈夫なんか……と不審MAXになっていたプレイヤーの気持ちが反映されているようでちょっと笑ってしまいました。
○嘘つきふたり
EDの文章まで嘘つきの主人公に騙されている演出含めて好きなEDです。一枚絵で主人公が海に落としてしまった髪飾りの代わりみたいに彼岸花で髪飾りを作ってるのも好き。もう二度と会わないのにね……。
このEDに行き着くまでには七福神全員の好感度を上げる必要があり、条件がまあまあ大変なのですが、苦労した分「そこまで完璧に振る舞って嘘をつき通せるからこそ、自分が認めるほどに強いあなたなんだよ」とホテイから言われた言葉の実感が強く感じられました。このEDの主人公はホテイに言われたとおり、人間あがりの神様として損得勘定しつつ他者を騙す嘘を武器に生きていくのかな……。一生会えることこそないけど、ホテイが主人公を忘れられないように神としての生き方に染みついたホテイの存在を主人公もずっと忘れられないだろうなと思います。
このEDに連なるイベントで、ホテイが主人公との出会いを「自分によく似たかわいいタワシが近寄ってきたと思ったら雲丹だった」と表現するのですが、字面の面白さにくすっとしたところで「自分の中身は空っぽで身が無いから自分の方がタワシ」と言われてヴォッ……とダメージボイスが出ました。急に重力をかけてくるな。
☆フクロクジュ
イベント
○満天・催涙雨
改めて見直すと、フクロクジュとジュロウジンの関係性を匂わせどころか嗅がせにきているような内容でヒョーーーー!!!!となるイベントです。肉眼だと近くにいるように見えるのに遠く離れている双子星の話! 願っても願わなくても叶わないフクロクジュの願い事の話! 織姫と牽牛に対する「どうせなら本当に絶対どうやっても出会えないようにしてほしかった」の話! ものすごい香ってくる!!!! 関係性が!!!! フクロクジュはこのイベントで星に詳しいことについて「昔教えてもらった」と零すのですが、教えてくれたのはもしかしなくてもジュロウジンなのではないか……と考えてしまいます。
端々からジュロウジンとの関係性が垣間見えるところは勿論、主人公とフクロクジュの軽やかな掛け合いも大好きです。催涙雨イベントで、一年に一度しか会えない織姫と牽牛について、自分が同じ立場でも一年間相手のことを好きでいると思うと答える主人公を「ひゅー! おっとこまえ!」と持て囃すフクロクジュと、フクロクジュの軽口を適宜受け流す主人公のやり取りがとても好きです。
その他にも、隠す心はイベントで絶対にあり得ないもののたとえとしてフクロクジュが「よく喋るビシャモンさん。朗らかなエビスさん。かわいげのないフクロクジュ」と挙げているのも読み流しそうになってから思わず笑ってしまいました。自分をかわいげのある存在だと思っているフクロクジュ、良い。
○世界の半分・もう半分の世界
「世界の半分」という言葉で、自分の片割れであるジュロウジンがいる書庫と自分の顔半分を隠しているお面の両方が表されていて、秀逸だと感じるイベント名のひとつです。このイベントでの「本当の世界の半分も今度見せる」発言や、ふたりの来ている服の裏地がお揃いの虹色なことや、見るからにジュロウジンと髪型や体格な同じなのをもってしてもなお、素顔を見せてもらうイベントを見るまでふたりが同じ顔ということが分からなかったので私は察しが悪い……。
もう一つこのイベントで注目したいのが、フクロクジュが主人公に他の神様たちへ配るよう渡してくる飴の色です。神様たちに渡す飴はそれぞれ色が決まっており、虹の七色のような色合いになっています。各キャラクターの専用BGMタイトルになっている色と主人公が神様たちに渡す飴の色が一致しているのもあり、恐らく七福神に虹の七色が当てはめられているのだと思うのですが、フクロクジュがジュロウジン宛てに渡すのはフクロクジュに割り当てられた色である黄色の飴なのがいじらしいな……と思います。また、このときジュロウジンが喉の不調からか咳き込んでいる様子なので、フクロクジュは恐らく自分の喉が大声で叫べるほど健康なところからジュロウジンの喉の調子が悪いと察して、治してもらうために適当な理由をつけて飴を渡してくるよう主人公に言ったのだと思います。
更に、フクロクジュは主人公へ何度も透明色で薄荷味の飴を渡します。虹の七色に含まれておらず、何色にもなる可能性を秘めている透明色が主人公に割り当てられた色なのだろうと思うと、薄荷味の飴を何度も「嫌いだからいらない」と言って主人公に渡すフクロクジュの心境を諸々のイベント内容を踏まえながら想像してしまいます。
○苦しくない
初見時、全然普通にフクロクジュとお祭りに行くの楽しみだな♪としか思っていなかったので急転直下の展開にエエ!?!?!?!?と驚かされました。改めて読み直すと、主人公への好意とジュロウジンを大切に思う気持ちとジュロウジンと一緒にいられなくなるかもしれない不安がぐちゃぐちゃになっているのがわかり、複雑な感情に襲われます。
このイベントではエビス・ベンテン・ビシャモンの誰かがフクロクジュを止めに入りますが、全員が主人公を助けようとしつつ「フクロクジュもこんなことをしたら苦しいだろう」と指摘するところがとても好きです。主人公のこともフクロクジュもことも慮っている……。
この差分はどれも好きなのですが、エビスが釣り具に使われている針金で扉の鍵を開けるのに対し、ベンテンとビシャモンは物理的に扉をぶち破るのが後者ふたりの力 is パワーを感じられて好きです。また、エビスが両親に会いに行くお膳立てイベントを終えた後にこのイベントを発生させると、「長旅のために荷物を詰めたのに忘れ物をしてしまいました」と何食わぬ顔で入ってくる台詞差分があって笑ってしまいました。通常だと網をひくための手伝いに来いという体で主人公に呼びかけるのですが、お膳立てイベント後の差分だと「ダイコクに見つかるとうるさいだろうから見張りをしてくれ」と呼びかけてくるのも好きです。虹の降る海、本当に差分がこまやかで助かる。
○南極老人星
イベントの開幕から「ジュ」とジュロウジンの名前を言いかけるフクロクジュにぐじゃぐじゃになるイベントです。初めて見た時はふたりのお互いへの思いやりの深さに、もう…….いいから話し合えよ……!!!! ずっと一緒にいなよ……!!!!と地団駄を踏みたくなっていました。
この次に続く遠の約束イベントに繋がる選択肢は一つだけなのですが、どの選択肢も非常に良いので全部の選択肢を見直したくなります。遠の約束イベントに続かないいくつかの選択肢で、フクロクジュは主人公に「縁結びの神様になってよ」と伝えるのですが、実際に主人公が縁結びの神様になったと明言されるのはこの台詞が出てこない選択肢を選び遠の約束イベントを通過した後なのが……あまりに寂しい……。
フクロクジュが船内の書庫以外のいろんな場所をうろついている理由が「本当は書庫で本だけ読んで過ごしていたいけど、”同じ神様はふたりもいらない”と思われないためジュロウジンと違うように振る舞わないといけないから」なのがこれまた辛いです。フクロクジュとジュロウジン、お互いのイベントでお互いに主人公へ「自分がいなくなるとしてもフクロクジュ/ジュロウジンには残っていてほしい」と言うので、なんかもう、とにかく話し合えーーーーー!!!!!!!!!!!(遠の約束直行)
ちなみに瑠璃も玻璃もイベントで、ジュロウジンは自分とフクロクジュについて「フクとロクとジュの三柱の神様だとされていた時もあった」「主人公はフクに雰囲気が似ている」と話します。主人公のデフォルトネームが”おふく”であることや、主人公の来歴がEDによって異なっていることを思うと、虹の降る空EDに繋がる世界線では主人公が本当にフクと関わりのある存在だったら素敵だな……と感じます。
○遠の約束
いいから話し合えーーーーー!!!!!!!のパワーによってふたりが話し合うイベント。それまで数々のイベントを経てフクロクジュとジュロウジンのお互いを思う心を丁寧になぞってきたからこそ、ふたりの思いやりのぶつかり合いが心を震わせます。
このイベントで特に好きなのは、フクロクジュとジュロウジンが互いを大切に思っているのは痛いほど分かった上で、あらためてふたりが主人公のことも大切に思っていると伝えられる会話です。フクロクジュの「本当に、本当に本当にありがとね。僕、(主人公名)のこと大好きだよ」からも、ジュロウジンの「好きだよ。あいつも、私も。(主人公名)のことが」からも、ふたりの誰かを大切に思う気持ちが伝わってきて大好きなテキストです。同時に、主人公を好きなのと同じようにジュロウジンとフクロクジュもお互いのことが好きなんだからやっぱりふたりで幸せに一緒にいてほしいよ……の気持ちがより強まります。
フクロクジュとジュロウジンの、ふたりの神様と交流をした末に贈られる言葉として大好きな会話です。
エンディング
○虹が降るとき
はじめてED名を見たとき、タイトル回収だーーーー!?!?!?!?とテンションがガン上がりしました。いくつものイベントを超えた末にようやくフクロクジュとジュロウジンがふたりで笑い合っている姿を見られるのもあり、タイトルを冠するに相応しい感動があるEDだと思います。
私は三千光年と八一〇光年EDでジュロウジンが「諦めることを諦めた」と言って主人公との関係に諦念を抱くのではなく前向きに考えるようになる言葉が大好きなのですが、それと重なるようにこのEDではフクロクジュがジュロウジンに「ジュロがどんなに僕のこと嫌いでも僕はジュロのこと諦めてあげない。だから、ジュロが諦めて」と言うのがとても好きです。また、ジュロウジンは他のイベントや自由時間にも書庫から出てこないキャラクターなのですが、このEDではフクロクジュが書庫の天井に穴を空けることでジュロウジンが閉じこもっている書庫の世界と外の世界を繋げるのがとても良いなと思います。
○心
このEDではフクロクジュが人間を傷つけたことによって福の神ではいられないとして消えてしまうのですが、それに関係して人間と神様の関係の話がされます。神様たちはよく人間のことを「人間さん」と呼ぶのですが、それは神様が人間の記憶に留まっていないと存在できず、福の神は人間を「人間さん」と呼ぶくらい大事にして守って信仰されることで人間の記憶に残っているからだとフクロクジュは話します。このあたりはホテイの実益EDと重なるところのある内容ですが、私はこちらのEDを先に見たのもあって、皆が人間を「人間さん」って呼ぶのはそういうことなんだ……!!と驚きました。そんな中で人間から神様になったホテイは「人間さん」という呼び方をしないのもまた味わい深いです。
このEDでフクロクジュは、神様は人間から忘れられると存在が消えてしまうこと・福の神が人間を守り御利益を与えて記憶に残っているのと同じように悪神は人間を傷つけ怒りや悲しみを与えて記憶に残っていることを話しつつ、宝船で自分が主人公を傷つけた記憶すら主人公が忘れてしまうのは悲しいとも話します。主人公が宝船を降りたあと神様たちのことを忘れてしまうEDはいくつかあるのですが、このEDで話されている内容やフクロクジュの反応を見ていると、神様にとって大切な人間から忘れられてしまうことがどれほど辛く重みのあることなのかをより深く理解できます。
フクロクジュが消えたあと船を降りた主人公は、フクロクジュの狐面を持って降りるのですが、そのお面はいつしか部屋の片隅で埃を被ったままになったという終わり方なのがとても好きです。狐のお面は埃を被って忘れられてしまったけど、捨てられてもいないのが沁みます。
○流れ星
フクロクジュとジュロウジンが統合され、フクロクジュ側が消えるED。フクロクジュとジュロウジンはお互いに「自分が消えるとしてもジュロウジン/フクロクジュにだけは残ってほしい」と言うとは前に書いたのですが、実際にどちらかが消えてどちらかが残るEDが両パターン完備されているので福利厚生が厚い!!!!!!!となります。いや、心に傷を負うからこれは福利厚生と呼んでいいものなのか……?
満天イベントや催涙雨イベントではフクロクジュとジュロウジンの関係性がこれでもかというほど香っていると書きましたが、満天イベントでフクロクジュと主人公が星に願ってでも叶えたいことってある?という話をしているところや、催涙雨イベントでどうしたって一生出会えないことが一番の罰だとフクロクジュが話しているのを踏まえると、一生出会えなくなってしまったフクロクジュにもう一度会えますようにと星に願いをかける主人公が見られる流れ星EDにもこのイベント内容は深く関わっていると感じられます。
先述したとおりジュロウジンは自由時間でもイベントでも滅多に書庫から出てこないキャラクターなのですが、このEDではジュロウジンが甲板に出てきて主人公に声をかけます。このジュロウジンらしからぬ行動や、「ごめんね」「ばいばい」という口調を踏まえると、フクロクジュはジュロウジンと同体の神様になったんだな……とEDの文章を見る前から察せられるのが寂しいです。そしてEDの一枚絵で書庫の机の下にフクロクジュの持ち物がしまわれており、ジュロウジンでは絶対にしない表情で笑っているジュロウジンを見て打ちのめされるまでがセットで辛いです。
★ジュロウジン
イベント
○過共感
初めに見た時は「ジュロウジンって優しいひとなんだなあ」と思うくらいのイベントだったのですが、周回を重ねてジュロウジンのEDを回収するごとにダイコクが言う「ジュロはほかの存在の気持ちがわかり過ぎちゃうんだ。俺らのこともわかってるけど、敵対する悪神とかの気持ちもわかっちゃうみたい」の言葉が突き刺さります。ジュロウジンを追い落とそうとしている主人公の気持ちが分かってしまったからこそのあのEDなんだろうなと思うと、広がる……心の傷が……。
このイベントでジュロウジンは、「自分は弱いから敵を作りたくなくて皆に優しく見えるよう振る舞っているけど、主人公のように強いひとが神になったらそんなことをする必要はない」と話します。EDによって主人公が人間のままか神様になるかの違いは、各EDにおける神様から主人公への感じ方によって違っているのではないかと前に書きました。それを踏まえて、三つあるEDのうち全部で主人公が神様になるのがエビスとジュロウジンであることと、ふたりのイベント内容を見ると、エビスとジュロウジンは七福神の中でも殊更主人公に対して「自分と違って強い神になれるほどの能力がある」という意識が強いのではないかと思います。
○和光同塵
ビシャモンの信頼の鎖イベントで宝珠を盗む選択肢からEDが分岐するんじゃないかと気付いた時と同じくらい、このイベントに出てくるジュロウジンに勝てそうだと考える選択肢からEDが分岐するんじゃないかとイベント一覧を見て察した瞬間マジでこれやるんですか!?!?!!?の顔になりました。「ジュロウジンを愛おしいと思った/ジュロウジンに勝てそうだと思った」の選択肢を初めて見たとき、勝てそうだと思ったって失礼だな~!ワハハ!と軽く流していたので、本当にジュロウジンを追い落とすEDが""""ある""""んだなとわかった時の寒気が忘れられません。しかも三分の二がジュロウジンに成り代わるEDなの凄絶過ぎん……!?!? こんなに優しいひとなのに……!?!?(ジュロウジンが優しいからこそこうなっています)
イベント名になっている和光同塵とは、仏様が人間を救うために自分の威光を隠して人間と交流することを意味している言葉なのですが、神様なのはジュロウジンの方なのにジュロウジンからすれば主人公の方が才覚を隠して弱い自分に接している神様のように見えている、というのがイベント名から分かって好きです。このイベントでさらけ出されたジュロウジンの弱さややさしさを、ジュロウジンの言葉を借りるなら「消えてほしい存在」ととるか「愛すべき存在」ととるかによって物語が分岐するのはそれはそう…….それはそうなんですけど……!!!!!!
○文人墨客・疑惑の本の虫
ジュロウジンと主人公がハチャメチャにキュートなイベント。見る度に癒されるのでジュロウジンと全然関係無いEDを回収している時も無駄に何度も発生させてはあら~~~~~~~~^ ^となっていました。
姿を絵に描いて残しておきたいと思うくらい主人公のことが好きなジュロウジンも、絵のモデルになっている間真顔を保とうとするけどジュロウジンと目が合うと照れて笑ってしまう主人公も、「さみしい顔じゃなくて笑っている顔が一番好き」と言いかけて最後まで言えないジュロウジンも、可愛いに満ちあふれていてずっとこの優しい世界であれ……!!!!となります。
余談ですが、空念仏のイベントでホテイは「和室に飾っている絵を自分が描いた」という発言を嘘だと指摘すると「本当はフクロクジュが描いた」と明かすのですが、この文人墨客イベントではジュロウジンが「私が描いた」と話します。初めはホテイが嘘ついたのかな?と思っていたのですが、南極老人星イベントでフクロクジュが「ベンテンにじっと見られてもホテイと長時間話していても自分とジュロウジンはどちらがどちらか見破られなかった」と言っているのを見て、和室の絵はジュロウジンがフクロクジュとして振る舞いながら描いた絵なのかもしれないな……となりました。
同じキュート路線でいくと、疑惑の本の虫イベントもかなり好きです。どの選択肢もジュロウジンの好意が垣間見えて好きなのですが、「他のひとにも『一緒に寝よう』と言っている」と嘘をついた後のジュロウジンの反応にドワーーー!!!!!とひっくり返りました。何度も書いているように、ビシャモン以外の神様は主人公がつく嘘を概ね察している節があるのですが、嘘の判別が一瞬できなくなるほど感情が先走っているジュロウジンに笑顔になります。いい感じの恋のメロディーをかけておきたい。
○御役御免
イベント名を見た瞬間あまりにも辛すぎてい、嫌だーーーーー!!!!と暴れそうになりながら回収したイベントです。ジュロウジンの書庫係を乗っ取るための手助けをしてくるのが鏡の中の自分だったあたりから、永遠の封印EDを見るより前にさてはあの鏡の中の自分ろくでもない存在だな……!?!?と確信を持ち始めました。
過共感イベントの内容や、このイベントで主人公が書庫係の交代を提案せずともジュロウジンから交代を持ちかけてくる選択肢があるのを見るに、ジュロウジンは自分を追い落とそうとしている主人公の気持ちを全部察した上で、共感し過ぎて自ら書庫係を代わろうとしたのではないかと感じます。主人公にとっては全てが思い通りにいっているはずなのに、都合の良い展開が全部ジュロウジンのやさしさの上に成り立っているのを思うと諸手をあげて喜ぶことはできない複雑な気分になります。
○業火
イベント名と自分の生涯が記録された本を取り出したジュロウジンを見たあたりから何が起こるのか大体察してイヤ"""ーーーーーッッッとのたうち回りました。ビシャモンの宝珠を盗んで以降のイベントとジュロウジンの居場所を乗っ取る系のイベント、本当に心が傷つく。
”業火”とは悪業の報いを受けて焼かれる火を意味します。ジュロウジンはイベント名のとおり火に包まれて消えていってしまうのですが、彼にとっての自分の悪業とはフクロクジュと一緒にいられなかったことなのかなと思います。
ジュロウジンとフクロクジュ周りのイベントを見た後に、ジュロウジンがいなくなったことを察して書庫に駆け込んでくるフクロクジュの反応を見ると心臓がみちみちに引き裂かれそうになります。お互いに「自分がいなくなるとしても片割れに残ってほしい」と思うくらい大切に思い合っているふたりの別離が丁寧丁寧丁寧にお出しされるし別離する結末もトゥルーエンドとされているゲーム、感情の揺さぶられ具合がとまらん。
エンディング
○五千年と三一〇光年
シンプルに好き好き大好きなEDです。他のEDで傷を負った時に心を保たせるため見ることが多かったので、回数だけなら一番沢山見てるEDでもあります。十回は多分見てる。何ならこの感想を書く直前にもう一回初めから遊び直して見直した。一番好きなEDはちょっと好みに刺さり過ぎた水は血よりもEDですが、次いで好きな盲愛EDに並ぶくらい好きなEDです。
このEDに繋がる天命イベントからずっと、主人公と一緒にいたいけど一緒にはいられないと色んな理由をつけて諦めようとしているジュロウジンと、どんな理由があってもジュロウジンのことが好きなのでジュロウジンと一緒にいたい!!!!ウオオオオ!!!!!してる主人公のやり取りが好きだったので、ジュロウジンが諦めることを諦めて主人公と共にあろうと決意する流れでガッツポーズが止まりませんでした。それまでずっと様々な諦念と共に書庫に閉じこもっていたジュロウジンが、初めて自分の意思で書庫から甲板に出ていくくだりはジュロウジンの心境の変化を巧みに表していると思います。
ジュロウジンは作中で何度も「優しい」と表現されているだけあって、このEDのやり取りはひときわこちらも優しい気持ちになれる気がします。ジュロウジンの好きなところの一つに、交流を深めていくと自分の弱さを主人公に明かしていくところがあるのですが、このEDでもなお「高天原で様々な神に会ったらあなたは私を忘れてしまうだろう」「再会の約束をしても、主人公は約束を忘れてしまうだろうから叶わない約束に期待し続けるのが辛い」と弱音をさらけ出す姿が主人公の言っていたとおり愛おしく映ります。ジュロウジンがこういった弱音を、感情のまま叫ぶのではなくいつもどおりの穏やかな態度で言うのも好きなところです。
ジュロウジンはそれまで自分は三一〇光年離れた場所にあった星が神になった存在で、そこから五千年生きてきたのだから、時間間隔が違う主人公と一緒に生きるのは無理だと話します。この会話を経て、EDでジュロウジンが話す「私はもう星ではなく神で、(主人公名)も人間さんではなく神で。だから、もう、共にあることを望むよ」「せっかく、私たちの間の五千年と三一〇光年が埋まったのだから」が本当に大好きです。神様と人間の恋としてひとつの百点満点の形を見た気持ちになりましたし、ふたりが出会えてよかったね………….という気持ちでいっぱいになりました。
ジュロウジンはEDで主人公に、恒星に恋をして周りを回る惑星の話が載っている絵本を指し「所詮物語に過ぎない」と話すのですが、EDでは一年かけて廻ってやってくる宝船に高天原にいる主人公が毎年駆けていくという、恋する恒星と惑星のような姿のふたりが描写されています。このEDと虹の降るときEDで主人公は一年に一度神様たちと出会うという結末になるのですが、催涙雨イベントで織姫と彦星の話が出ているのを合わせて、ジュロウジンとフクロクジュのEDに織姫と彦星のように一年に一度再会する主人公と彼らの話があるのがとても好きです。
○優しさの呪い
別のゲームで、キャラクターの一人が悪意を持って主人公を騙し自分が生き残ろうとするが、主人公はキャラクターの嘘に全部気付いた上でわざと騙され続けて相手を生かすという話がありました。その話で、主人公は最後に「あなたが嘘をついていたことは知っていた」と明かし、キャラクターは主人公が自分の想定を超えた優しさで・もしくは自分の想定を超えた好意で自分を生かしてくれたのだと気づき、騙した側であるにもかかわらず非常に驚いたあと悲しそうな顔をします。私はこの話がずっと心に残っているのですが、まさか虹の降る海で逆の立場を経験することになるとは夢にも思わず不意打ちを食らって大泣きしてしまいました。
このEDでジュロウジンの立場を乗っ取った主人公は、神になったことでジュロウジンがどれほど強い力を持っていたのかを知り、書庫で本を読むことでジュロウジンの優しさに触れます。それほど強い力を持っているなら主人公を始末してしまえば良かったのに、主人公に引き継ぎをするための書き置きなんて残さなくていいのに、長い時の中でたった一年を一緒に過ごしただけの人間にどうしてそこまでするのだろうか、と主人公は考えを巡らせるのですが、きっと主人公はその答えが「ジュロウジンが優しくて、たった一年を一緒に過ごしただけの主人公が好きだから、書庫係を譲ってくれたのだ」と内心で気づいているのだと思います。プレイヤーは主人公側の目線でゲームを遊んでいますが、私はジュロウジン側の気持ちが分かり過ぎてこのEDを読んでいる間二倍の破壊力でぐにゃぐにゃになっていました。だって逆の立場だった時、私は相手のことが好きでわざと騙されて利用されて生かしたから……。
相手の優しさを悪意で軽んじて裏切った結果、逆に自分の想定を超えた相手の優しさに呪われる話、本当に大好きです。こちらも五千年と三一〇光年EDと同じく盲愛EDと並び立つくらい好き。別のゲームで逆の立場だったとき、主人公の優しさと好意で傷ついた相手の表情を見た私は、このひと一生主人公のこと引きずってほしい~~~!!!!!と暴れたのですが、虹の降る海では主人公がしっかりジュロウジンのことを一生引きずっていて爆裂笑顔になりました。
このEDで神様になった主人公は黒色を基調にした格好になっていて、その姿がジュロウジンの後を継いで似た色を纏っているようにも、ジュロウジンを追い落とした悪意を表したまるで悪神のような色合いにも見えるのが好きです。
○何かを忘れた世界
優しさの呪いEDとは別ベクトルでジュロウジンに成り代わるイベント。フクロクジュが狐のお面を外していることや書庫守と気兼ねなく出会えていることはとても嬉しいはずなのに、EDを読んでいる間心に空いた穴がずっと埋まらない寂しさがつきまとい続けます。昼と夜に一緒にご飯を食べたり、夜にお酒を持ってきてくれるフクロクジュを見ていると、ジュロウジンが怒ってふたりが断絶する前はジュロウジンとフクロクジュがこんな風に過ごしていたのかな……と想像してしまいまた辛くなります。
まるでジュロウジンの結末を表しているかのような詩集を誰に勧めてもらったのか・どうして神様が消えてしまったのかを忘れてしまった主人公も、ジュロウジンと交流している間に得たのだろう本の知識を使ってフクロクジュの傍にいたい気持ちを恋と定義づける主人公も、端から端までジュロウジンの不在を際立たせていて悲しい。感想を書きながら思ったけどなんだこの米津玄師のドーナツホールがずっと流れっぱなしみたいなEDは……。
EDの一枚絵で、フクロクジュの表情が見えないのも背景に業火が見えるのも好きです。主人公の表情がまるでフクロクジュに恋をしているような笑顔なのも好き。これをジュロウジンのEDとしてお出ししてくるの本当にたまりませんね……。
以上が虹の降る海の感想です。どのEDも心から大好きなんですが、敢えて選ぶなら破壊と創造・水は血よりも・盲愛・五千年と三一〇光年・優しさの呪いあたりが…….好きですね……。水は血よりもはもう好みをぶち抜かれ過ぎて思い出すたび餌を目の前にしたオラウータンみたいな声が出ます。一番衝撃的だったのは間違いなく掬う手に巣食われです。あいつはもう特別賞だろ。
22個のEDすべてがトゥルーエンドという触れ込みを気に入って遊び始めましたが、主人公と神様たちが築いたどの関係性や感情にも優劣が無いこと・プレイヤーのゲームの遊び方に”間違い”が存在しないこと・様々な側面が習合した神様たちの多面性など、多くの要素とこのゲームの魅力が22個のEDすべてがトゥルーエンドという言葉に込められており、本当に楽しかったです。この触れ込みに惹かれる人はこのゲームを余すことなく楽しむ素質があるので本当に遊んでみてほしい……ネタバレだらけの感想の最後に書くことではないが……。
全部のイベントを回収し、steamの実績もすべて回収したのですが、素敵な物語を読みたくなった時またゲームを起動して遊びたいと思える作品でした。


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