深読み【性的という言葉と広告炎上】
今回の記事の目的は、過去10年、多くの*炎上広告が「性的」として問題視されてきたことを踏まえ、定義があいまいである「性的」という言葉について、その解釈には多様性と個人差が存在することを示すことです。なぜそのような多様な解釈が生まれるのか、または、多様な解釈を知ること自体がなぜ必要なのか、整理・分析していきます。イラスト・アニメ表象を使ったたくさんの広告が炎上してきました。(伊勢志摩メグ、日本赤十字社の献血ポスター宇崎ちゃん、ラブタイツなど)
私は、炎上広告分析をするうえで、「性的」という言葉を使うことがあります。この「性的」と言うワードが人によって連想されるものや事象が異なり、定義することなく使うことで、読者それぞれの「性的」の指す範囲によって、わかりにくい記事になってしまうこともありました。
性的の意味
まず辞書を参照します。
性的(せいてき)[形動]男女の性に関するさま。また、性欲に関するさま
本記事では、この「性欲に関するさま」に何が含まれるのかを見ていきます。
性的と指摘された広告事例
性的かどうかが物議を醸して炎上となる事例は、過去10年で萌えキャラを中心に巻き起こってきました。そのパターン分けの分析も学術的に行われてきました。
性的かどうかが物議を醸して炎上となった広告を、過去5年に絞ると、萌えキャラだけでなく、メタファーを使ったもの、かわいらしいイラストも多いです。お菓子のイラスト広告、そして公共交通機関のキャラクターデザイン発表の投稿、赤いきつねの動画広告などがあります。
これらが炎上するのは、「性的だ」というSNSでの広告に対する意見に対して、「性的と思う方がおかしい」と言う指摘が起こり、消費者同士で議論になりやすいからです。
イラスト・アニメ表象を使った広告炎上は、・新しい炎上のパターンだ・気にしすぎな人が「性的だ」と騒いでいるだけの「非実在型炎上」だという意見も多くあります。炎上の在り方については、今回は割愛します。(気になればDIAMOND Onlineの記事を読んでみてください。)
性的の解釈①直接的
現在の社会では、「性的」の意味を、
・アダルトビデオのようなプライバシーゾーンの露出(裸)
・挿入などを含む性行為の描写
・パンチラなどのラッキースケベ
といった意味で直接的な性的表現に関連付けて解釈する人が多いです。
このように、「性的=直接的な性的表現」と解釈した場合は、これらの炎上してきた広告は「性的」には当たらないものも多く、上記の広告を性的と解釈した人間はどんな連想ゲームを頭の中でしているのか、と心配になることでしょう。
因みに、子供への影響の懸念から、規制が叫ばれる「エロ広告」と呼ばれる、アダルトコンテンツへの誘導広告および性的表現を含む広告についての議論でも、「性的」という言葉は、先述のような直接的な性的表現が連想されます(毎日新聞)。
これら上記は、自主規制としての18歳未満満閲覧禁止の表現に該当したり、また、性欲起点の文脈をはらんだ演出であることは明らかです。これは説明なしに多くの方が理解できると思います。
だから、裸が映っていないアニメ、パンチラしていないイラスト広告が「性的」と言われても、「エロくない」「裸じゃない」「性行為してるわけじゃない」と、直接的な性的表現でないからこそ、ピンと来ないという方の意見にも納得できます。
かくいう私も、表象の読み解きを学んだり、女性の表象について考える機会を得たりする前だったら、炎上事例を見ても「性的な文脈」があることを認識できなかっただろうと思います。
性的な解釈②非直接的
一方で、「性的」という言葉で表現される表象の中には、恋愛文脈、異性愛的な表現、性欲起点のまなざしの投影が感じられるものを指すことが多くあるのも事実です。フェチシズムを煽る描写や異性に対する外見や動きへの期待を感じさせる演出といってもよいかもしれません。こちらは直接的な性的表現ではありません。
これらの文脈から、性的と解釈する価値観が社会に存在することについて、分かりやすい例から順にみていきます。
アツギ
例えば、直接的な性的表現でないのに「性的」と指摘されて炎上した事例でわかりやすいものは、2020年のアツギタイツの#ラブタイツキャンペーンの下記のイラストがあります。[このキャンペーンには直接的な性的表現にあたるものも存在しましたが、今回は下記の広告2つに絞って話します]
イラストが、「性的な描写を連想させる」と広告主であるアツギが認めています。詳細をつめれば、ここで広告主が示す「性的」とは、パンツや裸は映ってないものの、異性愛文脈に立ち、男性に女性の足に対するフェチシズムを煽ると認識される事例に当てはまる描写であったと考えられます(もちろん 広告主のアツギと異なり、そうではない、と思う消費者もいます)。
この解釈の背景にあるのは、イラスト&製品使用者の表象が女性だったこと、過去に女性誌で男ウケ&モテるファッションとして、男性にとって「女性の色気あるファッション」として解釈される事例が多々あることがあげられます。
製菓会社イラスト広告
もう少しわかりにくい「性的」とされて炎上した事例が、お菓子のイラスト広告です。
一見、女性向けで胸や股といったプライベートパーツが露出していない女性を映しているために、性的な文脈が感じられそうにないイラストですが、女性の下半身に焦点が当たっており、ポーズや目線は、男性が女性への理想化を投影したイラストと読み取ることもできます。
実際に、SNS上でこのイラストを性的と指摘する声に加え、映画の歴史や技法を研究する教授、いわゆる表象の専門家が、性的と読み取れることを示す分析を過去にしていた事実もあり、このイラストを「直接的ではなくても性的な文脈がある」とする解釈が社会に存在すること自体を否定できません。
つまり、このイラストも一般消費者が「性欲起点のまなざし」「フェチシズムを煽る描写」「異性に対する外見や動きへの期待を感じさせる演出」と感じる人がいてもおかしくありません。その性的さが気になるか、不快かと感じるかはまた別ですが、社会学や表象研究の視点を持った方は、特に、これらの表象に敏感だと察します。
カップ麺のアニメ表象
性的であるという解釈がなぜ為されるのか、最もわかりにくい事例が、最近炎上したカップ麺のアニメ広告です。2つの事例と同様に、「フェチシズムを煽る描写」「異性に対する外見や動きへの期待を感じさせる演出」と捉えた人が多くいました。
食品広告なので、食品にフォーカスする広告表現もできたはずなのですが、顔を傾けて麺をすする描写は、男性にとっての「愛でる対象としてのカワイイ女の子像」として使われる漫画&アニメ表現、描き方とリンクします。この点は、漫画家の方がポリタスTVで分析した内容です。
結果、「男性のまなざし(Male Gaze)=恋愛文脈で女性を見る目」としての性的文脈が感じられました(こちらの詳細分析はこちらをご覧ください)。
male gazeについて、広告などの視覚的表現において、女性を異性愛男性視聴者の性的対象として描くことを論じるために生まれた言葉です。最近では女性視聴者向けに男性を性的対象として描くことを指すFemale gazeという言葉も使われるようになっているそうです。
性的の多義性まとめ
つまり、人々が「性的」という言葉を使うとき、そこで連想されているものには直接的な性的表現と非直接的表現の2パターンがあります。
直接的: アダルトビデオのようなプライバシーゾーンの露出(裸)・挿入を含む性行為の描写・パンチラなどのラッキースケベ
非直接的:恋愛文脈の現れ・異性愛的な表現/性的特徴の誇張・性欲起点のまなざしの投影が感じられるもの・フェチシズムを煽る描写・異性に対する外見や動きへの期待を感じさせる演出
SNSでの「性的か否か」の議論ではこの2つのパターンの片方のみを認識した人同士が議論を勃発させることが多く、私も直接的な性的表現のみを「性的」とする読者にやさしくない投稿をしてしまっていました。
表現におけるコード
そして、もう一歩踏み込みます。漫画家の方がポリタスTVで解説していた、これらの「表現のコード」は一部漫画家などのクリエイター、表象分析の専門家の間では「エロ」「性的」に魅せる描き方/読者へのコード(コミュニケーション手法)として認識されているようです。
手癖で無意識にこのコードを使っているクリエイターもいるようです。
そして三交通機関の炎上キャラクターは「女性が性的に描かれている」「女性がくねくねしている」と指摘されましたが、この表象にも、アニメの性的と解釈できるコードにのっとって描かれたものであることがわかります。このコードから、消費者は女性性の誇張を感じ、非直接的な性的表現ではあるものの「性的である」と解釈されました。
萌え文化の起点は性的文脈?
また、性的、エロ、といった言葉に加え、炎上するアニメ絵やイラストに使われるもう一つの形容詞は「萌え」ですが、この言葉も「性欲起点のまなざし」「フェチシズムを煽る描写」「異性に対する外見や動きへの期待を感じさせる演出」など、いわゆる性的であると解釈される文脈が起点となっています。萌え文化は、ジブリの「風の谷のナウシカ」の登場人物である「ナウシカに対する恋愛的な気持ち」が始まりだと解釈した記述があります。(平成オタク30年史 2018)。
実体験として、私はとあるクールジャパンの波を受けたアニメ関連企業で学生時代インターンし、アニメファンコミュニティの運営とSNS運用をしていたのですが、好きな女性アニメキャラランキングを行うと、「動きがエロい」「足のここがよい」などフェティシズムが刺激されることが理由として上がってくることがありました。また、SNSアカウントを見た、普段アニメを見ない友人からは、「なぜそんなところで働いているのか」と引かれることもありました。
アニメ界隈に属さない人からすると、アニメ文化や「萌え」が異様に感じられることがあります。そして、それは往々にして性的と捉えられる文脈がきっかけとなっています。もちろん、これはアニメ文化だけではありません。異なるコミュニティに対する違和感や嫌悪感は誰もが感じ得るものです。
つまり、アニメ界隈以外も視聴される可能性がある公共物である広告に、”エロく見せる”コードを使ったアニメ表現が含まれる場合、それを「性的」と感じる消費者がいることを認知しておく方が、広告主にとっては安心ということです。
性的で不快なのは女性表象だけでない
炎上するアニメ表象に女性表象のものが多いのですが、問題となりうる男性表象(女性向けの「性的」描写)も存在します。少女漫画、BL(ボーイズラブ)や女性ファンが多い少年漫画発のアニメ、同人誌や夢書に書かれている男性表象や内容なども広告に使われれば、「性的だ」とする消費者からの声で炎上する可能性もあります。
「性的な表現が不快」という声の背景にあるもの
あまりにも女性表象ばかりが取り上げられ、「性的である」とされるのは 本来フェイクであるはずのアニメシーンに近い形での、現実世界での不快な体験を持つ消費者がいるからではないでしょうか。
例えば、女性の場合で言えば、アイスやバナナなど棒状のものを食べる姿を男性から「エロい」と指摘される、元々高い声なのを「アニメ声で萌え」と言われた、などです。これもポリタスTVで紹介されていたと思います。広告の表現が現実のトラウマ体験と繋がってしまって不快感をもたれることを、企業がリスクとして加味するかどうかの判断が必要です。
”客観的”に性的か判断するケーススタディ
さて、日本では、「客観的に文化表象について性的か判断する基準も、権力もない」からこそ、SNSでの論争が巻き起こります。海外で、公的に「広告内容の何を性的とするのか」を客観的に判断した例があるので、ぜひ「なぜとある人がこの表象を性的と捉えるのか」読み解きたいとき、「性的と指摘してるやつが過剰なのではないか」と思った時に、参考にしてみてください。
もちろん、ハイコンテクスト文化が強いに日本社会(Hofstede 2013)において、表象からメッセージを読み取るのは難しく、それを性的かどうか判断するのは大変な苦労を要します。海外と日本で同じ基準で性的か判断するのは議論の余地がありそうですが、多角的に考える姿勢は、海外から学べそうです。
多様な「性的」の解釈を前に広告主はどうすれば?
性的か性的でないか、を議論するのは、「性的」の普遍的な定義がない間は不毛で、ある炎上広告についてなぜ「性的」と指摘されたのかを考えることこそが、次の広告のためのリスク管理及び建設的な議論になります。
「性的と言っているやつがおかしい、気にしすぎ」「性的と言ってる人は少数」というスタンスでは、炎上から学ぶことにつながりません。炎上は異なる価値観のぶつかり合いであり、ゼロにすることはできないからです。
この視点に立つと、性的な描写が気にならないか、不快かは人によって異なるので、企業が広告をつくるときに選び取ることになります。それが、企業態度として消費者に伝わります。日本には性的表現への規制機関や、具体的な広告ガイドラインがないので、消費者個々人の感覚が基準になります。だからこそ炎上に向き合うのが難しいです。私は、広告発表前に消費者の多角的な解釈を網羅することができるようにすることが、「想定していなかった炎上」を回避し、企業にとって炎上に向き合うためのベストな対応、リスク管理だと思います。
私は市民の声を広告業界にやさしい形で届ける、というスタンスで広告分析をしています。弊社は「こういう属性にはこういう理由で不快感が感じられる可能性がある。それでもこの表現を覚悟と説明責任をもって広告にしますか?」という多角的解釈の網羅を提示することで企業向けに広告リスクコンサルティングをしています。
コミュニケーションで誤解を生まぬよう、「性的」と受け取られる可能性があるのか、広告制作過程で誰かが気づけるようにすることがポイントです。
*AD-LAMPではRetweetが 50 回以上されているものを炎上として扱う企業が存在すること[山口 2015]を加味して、該当の広告を炎上広告と呼んでいます。
社会課題にクリエイティブの力で挑戦してきた電通の籠島さんにジェンダーや社会課題企画についてお話を伺う会を設けています。ぜひご登録ください。