彬子女王殿下 オックスフォード大学での博士号取得は、大きな自信に。年に一本は論文を書くことを自分に課して
英国オックスフォード大学で2010年に博士号を取得された彬子女王殿下。ご著書『赤と青のガウン オックスフォード留学記』はベストセラーとなっています。グローバルな視点で日本美術史の研究をされた殿下が今、国内で伝統文化を伝える活動に励まれる思いをうかがいました(構成:山田真理 撮影:三浦憲治) 【写真】彬子女王殿下、幼少のみぎり、寛仁親王殿下とご一緒に * * * * * * * ◆論文を書くのは「やっぱり楽しい」 5年間に及ぶ留学生活を綴られた『赤と青のガウン』が出版されたのは、2015年のことでした。 ——昨年、本を読んでいただいた方のSNSがきっかけで出版から9年を経て文庫化され、多くの方に読んでいただきました。 留学にあたって、父(親王殿下)からは「留学中は成年皇族として公務をすることができないのだから、きちんと国民の皆さんに文章で報告をしなさい」と強く言われておりましたので、その約束が果たせたのではないかとほっとしています。 文庫がベストセラーとなりましたが、ご自身の生活に変化はおありでしたか。 ——取材を受けることが増えたからでしょうか。街で気づかれることが多くなりました。私の場合はいかにも屈強そうな側衛官が必ず近くにおりますので、本人だと確信されるようです(笑)。 勤務する大学のある京都で「京都について書かれたご本を読みました」とお声がけいただくのも、著者として嬉しい限りです。
オックスフォードの留学生活で得られたものは何でしょうか。 ——英国での5年間の留学生活では、海外に流出した日本美術をテーマに調査研究を行いました。300ページ以上におよぶ博士論文を英語で書き上げ、皇族であることと関係なく、「英国の最高学府で博士号を取った」ことは、私にとって大きな自信となりました。 その実績があったからこそ、最初の本を書くよう勧められ、現在の仕事や活動にも繋がっていると思うのです。 ですから今も、「研究者という立場を忘れない」という気持ちは強く持っております。帰国後にさまざまなご公務をいただき、研究する時間を確保しづらい時期もありました。 ですが、依頼された論文をどうにか仕上げた時は「やっぱり楽しい」と感じます。私の原点はここだと痛感し、年に一本は論文を書くことを自分に課しています。
最近では、国内で研究できることや、私の立場を生かしたテーマも増えてまいりました。 たとえば、「女性皇族の衣装の変移について」という論文は、江戸時代まで公家装束しかお召しにならなかった皇族方が、明治の御代に突然、洋装を第一礼装と定められた過程に関しての考察をテーマとしています。 時代ごとにどのような選択と変化を経て、現在の女性皇族が宮中行事で着る衣装となったのか。 幸いにも私は、祖母である三笠宮妃殿下から、実際にお召しになられた衣装や、周りの方々の衣装について貴重な証言をいただくことができましたので、論文に生かすことができました。 (構成=山田真理、撮影=三浦憲治)
彬子女王
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