彬子女王殿下 研究の道に進んだことは、祖父・三笠宮殿下の存在が大きかった。後世に日本文化を伝える活動を通して、父・寛仁親王殿下の教えを引き継ぐ
英国オックスフォード大学で2010年に博士号を取得された彬子女王殿下。ご著書『赤と青のガウン オックスフォード留学記』はベストセラーとなっています。グローバルな視点で日本美術史の研究をされた殿下が今、国内で伝統文化を伝える活動に励まれる思いをうかがいました(構成:山田真理 撮影:三浦憲治) 【写真】心游舎での米作りワークショップ * * * * * * * ◆美術や文化は生活のなかにある 英国から戻られて活動の中心が日本文化に向かわれました。何かきっかけがおありでしょうか。 ——帰国後、京都の大学で仕事を始めたことから、日本文化を担う方々からお話をうかがう機会が増えました。京都には神社仏閣も多いですし、伝統工芸の職人や作家も大勢いらっしゃる。 そうした方々が口をそろえて「工芸品の需要が減って大変だ」「この道具を作る人がいなくなったら続けていけない」とおっしゃるのを聞いて、自分にできることはないかと考えるようになったのです。 海外で日本美術を研究するうちに、自国の文化なのに知らないことがたくさんあると実感していました。また、美術や文化は特別なものとして大切に保存するものではなく、人々の生活のなかに息づく存在であってほしいという思いも持っています。 研究だけではなく、少しでも多くの方にその意味を伝える活動をしていきたい。そう思っていた頃、雑誌での連載のお話をいただきました。
その連載『日本美のこころ』『最後の職人ものがたり』が昨年、一冊の文庫になりました。 ——煎茶や竹工芸、植物染めなど、生活のなかに息づいてきた日本文化をひとつひとつ取り上げて、魅力や思いを綴る。あるいは、伊勢の神宮の御神宝や皇居の盆栽、ボンボニエールなど皇室ゆかりの文物についても書かせていただきました。 『最後の職人ものがたり』では全国に取材し、烏帽子、琵琶、金平糖など、昔ながらの製法でものづくりに励む職人の皆さまからお話をうかがえたことは、私にとって宝物のような体験でした。 文庫化の折に職人の皆さまの現在のご様子を知ることができ、「後継者が見つかった」という知らせを聞いてほっとすることもありました。 日本の伝統文化は「その家の人が継ぐ」というイメージが強いかもしれませんが、まったく違ったところから弟子入りをしたり、偶然の出会いから始めた方も多かったり、豊かな物語にあふれています。