東日本大震災が発生した3月11日の前後に毎年マスメディアは関連報道を行います。今年の朝日新聞の社説は「日本社会は原発事故から何を学んだのか。今も続く福島での苦闘を共有する。原発に依存しない社会をめざす。事故の経験という『出発点』を忘れてはならない」と、原子力の最大限活用を目指すエネルギー計画を批判しました。
福島第1原発事故以来、日本の電力分野は事故に学び、原発の安全性を大きく高めました。火力発電をバックアップ電源とする再エネと比較し、原発が経済性・環境性・安全性の観点で優れていることは、多くのデータが示すところです。この事実を全く無視し、過去の事故を根拠にして脱原発を至上命令とするのは合理性を欠いています。
また朝日新聞は、除染により発生し福島県大熊町と双葉町で中間貯蔵されている除去土壌をめぐり「『ジョセンド』知らぬ電力消費地 東京と福島、二つの顔で生きる葛藤」と題する記事を掲載しました。この除染土については2045年までに同県外で最終処分することが法律で定められています。国は既に実証事業を踏まえたガイドライン案を策定し、年間1mSv(ミリシーベルト)以下という基準で道路の盛土などに利用する方針です。日本人の平均自然被曝(ひばく)線量は年間約2mSv、医療被曝を含めると約5mSvです。除染土の県外処分は安全な復興事業といえます。
しかしながら、この記事では「人の住む他地域には運んでほしくない。無人島に運ぶべきだ」「理解のないまま進めれば、福島と他の地域に分断を生んでしまう」といった俗説を交え、除染土の県外処分が危険であるかのような印象を与えています。「ジョセンド」なる異様なカタカナ表記もALPS処理水の「汚染水」表記と同様、風評被害を生む懸念があります。
ここ数年来、国民は原発事故・豊洲市場・処理水・コロナ禍などの問題を通じ、過剰なゼロリスク志向が社会を大混乱させ、甚大な不利益をうむことを学びました。朝日新聞こそこの経験を忘れています。過去に朝日新聞は原発批判の連載記事で、東京都在住の男の子が原発事故後4カ月の間に鼻血が10回以上出たという事例を紹介し、被曝の恐怖を非科学的にあおりました。原発事故後に9割の所員が命令違反で撤退したとする「吉田調書」報道は、産経新聞の検証などにより誤報であることが判明しました。
朝日新聞には、脱原発を目的化して悪意で原発をおとしめるのではなく、被災地の利益を最優先し善意で復興を進める報道倫理を求める次第です。
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藤原かずえ
ふじわら・かずえ ブロガー。マスメディアの報道や政治家の議論の問題点に関する論考を月刊誌やオピニオンサイトに寄稿している。