タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 獣の槍にツバは吐きませんが初投稿です。



男の友情は美容にも効く。鬼もそう言ってる。

 考える。

 

 増永紅蓮は考える。

 

 乱入してくる小さいムカデ……といっても上体を持ち上げると人間の大人程度にはデカいのだが、とにかくそれらの相手を引き受けたのはいい。だがゲームでもそうであったように、紅蓮はどちらかといえば高火力の単体攻撃を得意としていた。

 つまり、いまのように包囲された状態で味方を守りながら戦うという状況には慣れていない。風魔や大地と背中合わせで戦う、あるいは静流の援護を受けながら“同じ敵”を狙うことならあった。自分ひとりが防衛の要として全てを任せられた経験は無い。

 

 気配でわかるが、静流は弓使いとしての性と本人の性格もあって多少は周囲を気にしている。 

 だが彼方はそうではない、まるで紅蓮がしくじればそれまでと割り切っているかのように自分の役目に集中している。

 

 転生者である彼方にしてみれば“次が約束された死に戻り”なのだから、これでダメなら反省して次に活かす、を勝てるようになるまで繰り返すだけのこと。敗北とは敵に負けることではなく、勝つことを諦めることなのだ。

 そんな事情など知らない、この世界の価値観しか知らない紅蓮はそうは受け取らない。口先だけの無責任な期待とは違う、絶対的な機能としての信頼を自分は試されていると感じていた。無銘彼方は自分の役目を果たす、だから増永紅蓮も己の役目を果たせ……と。

 

(……フッ。朱雀の加護を持つオレを利用しようと考えるヤツは増永の家の連中を含めていくらでもいたが、つべこべ言わずに働けと問答無用で役目を押し付けてきたのは無銘彼方、お前ぐらいなものだ。まったく……退屈する暇が無くなってしまったなッ!)

 

 

 静流の封水結界の効果で範囲攻撃は使えない。

 

 ならばどうする? 

 

 

「朱雀。()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

『応とも。我は炎と生命力の象徴たる朱雀だからなぁ。しかし紅蓮よ、下手をすれば自分自身の力を持て余すかもしれんぞ?』

 

「戦いながら使いこなす。問題ない」

 

『そうか、そうか。ならば我も張り切らねばならんよなぁッ!!』

 

 イメージは、内燃機関が燃料を爆発させてトルクを生み出すように。紅蓮は自分自身の“内側”でエーテルを火属性の霊気に変換して全身に巡らせ、ステータス以上の戦闘力を出力するための糧とした。

 ようは戦うタイプのゲームをプレイする者にとっては当たり前の『能力強化』なのだが、原作とは違いこうした見た目の変化が少ないスキルはあまり好まれない。侍や巫女の活躍があるからこそ迷宮から鬼は出てこないのだ、と民衆にわかりやすくアピールできる派手なスキルを是とする風潮があるからだ。

 

 だがここに余計な観客はいない。

 

 無意味な期待を抱く学園関係者もいない

 

 鬱陶しい増永の一族だっていない。

 

 黄龍の巫女である真白を守護るときとも違うし、風魔や大地と背中合わせで戦うのとも違う。協力して鬼と戦いながらも馴れ合いではない、しかしそれが信頼関係なのかと問われればその通りだと頷くのも難しい。

 

 言語化できない不思議な感覚だが、ひとつだけハッキリしていることがある。迫るムカデどもを残らず斬り伏せねば静流と彼方がそれぞれの役目を果たせない。

 なら、自分はそれを成そう。鬼を斬るのが侍の役目であることも、正々堂々と戦うことが朱雀の侍としての誉れであることも関係ない。ただ、そう。必要なことと、やりたいことが巧く合致しているのだからなにも遠慮などすることはない。

 

 

 真紅の侍が駆ける。

 

 翔ぶが如く。

 

 

「……くッ!? これは、確かにバランスを崩したらタダでは済まんな……ッ!!」

 

 想像以上の加速。一手、間合いを間違えて攻撃を空振りすればそのまま死に戻ることになりかねない。武器の重さと勢いにのまれて岸壁に激突して砕けるか、それとも地面に擦り下ろされて塵となるか。

 だがこの状況を紅蓮は楽しんでいた。余裕などないはずなのに、死力を尽くさねば大ムカデの討伐はままならないはずなのに、状況が不利ならば無理せず離脱して次に備えるほうが賢い選択だと知っているはずなのに。

 

「敵の増援が尽きるのが先か、それともオレがエーテルごと燃え尽きるのが先か……ここから一歩先へ、進めるのかッ! 試させてもらうぞッ!!」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 戦いとは如何にして強力なスキルをぶつけるか。それが常識となっている世界で育った真面目キャラの静流も案の定、動き回りながら逃げ回りながらのスキルの使用には慣れていない。

 だがそんな事情を鬼が考慮してくれるはずもなく。大ムカデはひと噛みで首根っこを千切ってやるぞと言わんばかりに、大顎をガチャンガチャンと鳴らしながら距離を詰めてくる。

 

 だかしかし。動き回りながらのスキル使用に慣れていないというだけで、弓使いとして位置取りや間合いの管理のために身軽な動きそのものは得意分野。

 さらには彼方がなにやら銀色に光る糸のようなモノを巧みに使って炎の瘴気溜まりを誘爆させながら移動している様子を参考に、静流は水の霊気で作った足場で立体的に逃げていた。

 

 

 これでは埒が明かぬ、と。

 

 ならばこれはどうする、と。

 

 

 大ムカデは突撃を控えると、その巨大な身体をぐわんッ! と振り回して岩石をショットガンのように飛ばしてきたッ! 

 

 

 静流が迎撃のために弓を番える。

 

(ひとつひとつ狙っていたのでは間に合わない。ですが、封水結界によって場の水属性が高まっているこの状況であればッ!)

 

 狙えないのなら、()()()()

 

 あえて石礫の隙間を縫うように、渦巻く水の霊気を纏わせた矢を放つ。別に弾き返したり、全てを破壊したりなどしなくていい。自分に命中しそうな石礫の軌道だけをデタラメに逸らすことができればいい。

 

(相手の攻撃はひとまず対処できますね。しかし、この状況は……誰かのサポートに徹することばかりであった私が、この、大ムカデに致命傷を与えなければいけない……というのはッ!)

 

 本人の性格、というのもある。だがステータスや熟練度、得意とする戦法などを考えれば自分との相性はお世辞にも良いとは言えないだろう。火属性に対して水属性で有利を取れはするが、人型から大きく離れた鬼であること、そしてその巨大さに相応しい耐久力を備えているであろうことを考えるなら弓スキルでは火力が心許ない。

 協調性や連携を優先し、強敵が相手のときは他者のサポートばかり引き受けてきた静流には決め手となるスキルがない。喜多の弓術があまり破壊力という部分に力を入れておらず、どちらかといえば儀式的・儀礼的な側面や精神性を磨くことを1番としてきた弊害だろう。だからこそ乙女ゲーの攻略対象として常識的な人物に育ったのだから悪いことばかりではないのだろうが。

 

 

「玄武。この前、彼方さんに誘われて紅蓮さんと一緒にゲームセンターで遊んだときのことを覚えていますか? 銃の形をしたコントローラーでゾンビなどの怪物を撃って倒したりしたアレです」

 

『もちろん覚えているが……あぁ、そういうことか。無銘彼方の説明を聞いた限りでは水の霊気でも再現できるだろう。やってみる価値はあるかもしれんな』

 

「話が早くて助かります。鬼による現世への侵攻が侍や巫女の立場を高めるための建前ではない、となれば……手札は多いに越したことはありません。不都合な状況で戦うこともあるでしょう、いつまでも誰かの後ろに控えているワケにはいきませんからねッ!」

 

『よかろう。兵に常勢無く水に常形無し。喜多静流が自らの意志で勝利を欲するならば、この玄武がそれを支えようッ!!』

 

 

 本格的なミリタリーマニアでなくても、FPSだったりクラフト系サバイバルゲームをプレイしたことがあれば『アーマーピアシング』や『ホローポイント』といった単語を聞いたことがあるだろう。

 比較的柔らかいであろう関節を狙うこともできるが、チマチマとダメージを与えていたのでは場を整えてくれるふたりの負担が増える。ならばどうする? 答えは簡単、頑強なる鎧すら貫く一矢を放てば良い。

 

 

「喜多の教えとは趣が異なりますが……その誇りは、いまは必要ありません。これから放つは喜多の矢でない、玄武の侍が鬼を穿つための金剛の一矢なりッ!!」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「どうやら、オレは喜多静流という侍を侮っていたらしい。まだまだ迷宮の先があるとはいえ、まさかお前ひとりでここまで戦えるとは」

 

「私自身も驚いていますよ。4人で攻略するときはいつも紅蓮さんと大地さんに頼る形になっていますから」

 

 大ムカデ、無事討伐ッ!! ……とは残念ながらならなかった。弓使いひとりで外骨格の一部と顎の片割れを砕いたのであれば上出来と言えるかもしれないが、新たな決意を抱きながらの戦いに熱中していたふたりにとっては不満の残る結末だろう。

 だがそんなことは大ムカデには関係ない。向こうの勝利条件はあくまで自分が生き残ること。奥へ通じる道へ進もうとする侵入者を切断する役目を迷宮の主から任されてはいるが、旗色が怪しくなれば逃げることを躊躇いはしないのだ。人の感性からは無責任と思える行動だが、相手は鬼で虫なのだから大ムカデなりの基準や道理があるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 不完全燃焼ではあるが、心地良い疲労感もある。まずは難局を乗り越えたことを互い喜ぼうと声を掛け合い────そこでこういう場面でこそ賑やかしてきそうな彼方が無言のままであることに、そして愛用している曲刀と短剣を構えたままであることに気付く。

 

 

 

 

 

 

『……我も長生きして耄碌でもしたかなぁ。彼奴の接近を見逃すとは。それとも、向こうも隠行の技にさらなる磨きを掛けたか?』

 

『どちらにせよ言い訳などきかんだろうさ。なにせ無銘彼方は我らよりも早くアレを見付けているのだからな。静流、そして紅蓮よ、構えろ。先の大ムカデとは比較にならん奴が出張ってきたぞ』

 

 

 神霊たちに促されてふたりの侍が小高い岩の上を見る。

 

 

 男がいた。

 

 怪しい色気のある男が、額から一本の角が生えた以外は人間と変わらぬ姿形の鬼がいた。

 

 

「あら、ゴメンなさいね? アナタたちの邪魔をするつもりはなかったんだけど……なんだか面白そうな気配がするんだもの、気になって見にきちゃった♪ アタシ、つい最近までグッスリ眠ってたものだからトキメキが溢れちゃってるのよね〜」

 

「そりゃどうも。観光案内が必要なら承ろうか? 学園からちょっと歩いたところの商業エリアの裏道に美味い蕎麦屋があるんだよ。紅生姜のかき揚げもオススメだね」

 

「あら、いいわねお蕎麦。アタシも好きよ? 美容にも健康にもいいから。それにアナタたち人間が幕末と呼んでいる頃から、どんなふうに変わったのかも興味あるし。それにしてもその若さでシブいチョイスするのね〜?」

 

「それ、よく言われるんだよな〜。別に美味しいものに性別も年齢も……人間も鬼も変わらなくね? でもパクチーだけはどうにも苦手だけどな。苦いのは人生だけで充分だよ」

 

「なんだか若いのに苦労してるみたいねぇ。ま、生きてればそのうち良いコトあるわよ。味覚が変われば美味しく食べられるものだって増えるから、安心しなさい」

 

 

 町中で偶然知り合いと出会ったときのような気軽な調子で、彼方と謎の鬼が世間話を続けている。

 

 だが高いステータスと強力な加護を持つ紅蓮と静流は男の強さを肌で感じ取ってしまったのか、まるで深海の檻に閉じ込められたかのような息苦しさに襲われていた。

 それでもどうにか武器を構え直すことができた。相棒である神霊たちが放つ、いままで一度だって見せたことがない超攻撃的な霊気の波動に護られていること。そしてこの桁違いに異質な妖気を前に平然としている彼方の姿に安心と────男としての意地と矜持を奮い立たされたからだ。

 

 では何故、彼方は平気なのか? それは単に目の前の鬼のことを知識としてしか知らないからである。相手の強さを理解できるのも強さのうち、スキル磨きと死にゲー根性ばかりを鍛えて基礎ステータスの強化を疎かにしていた彼方では目の前の鬼を恐怖することができないのだ。

 

 しかしそんなメタ的な事情を知らない鬼側にしてみれば、彼方は“神霊である朱雀と玄武すら欺く自分の気配遮断が通用しないレベルのエーテル感知能力を持つ侍”ということになる。

 背後で「私が実力を認めました」の品質保証でお馴染みの冥界童女がニヤニヤしているのこともあり、まさか彼方が平均以下のステータスしかない侍だとは想像できるワケがない。

 

 しかも。

 

「こっちは見ての通りの状況でね。できればこのまま見逃してくれると助かるんだけど」

 

「そんなつれないこと言わなくてもイイじゃない? 寝起きの運動にちょうどいいウォーミングアップ相手が欲しいのよ。それに〜、戦いっていうのは……いつでも都合良く起きるとは限らないでしょ?」

 

 妖気を吹き付けてもどこ吹く風といった様子で曲刀を構える彼方の姿に迷いはない。高いエーテル感知能力を持っていても本人の危機管理能力が不足していれば宝の持ち腐れという見本であるが、なにも知らないギャラリーにはただの強キャラムーブにしか見えないという不具合が発生している。

 なんでここまで危機感が足りていないのかと言えば、ゲーム知識が邪魔をしているからである。相手の性格は先ほどの世間話で原作から離れていないことを確認しているし、出現のタイミングから狙いは朱雀の加護を持つ紅蓮、オマケで玄武の加護を持つ静流だろうと思い込んでいる。なんならメインキャラのふたりがいることで油断しているという側面もあるだろう。

 

 

 そう。

 

 無銘彼方はいま、油断している。 

 

 

 自分が敗北してもなんの影響は無い。

 

 メインキャラである紅蓮と静流であればなんかこう、いい感じにこの場を切り抜けてくれるだろう。  

 

 

 

 

 そんなことを考えて完全に油断している彼方は────この戦いを己が死番と心得た。

 

 

 

 

 このアホの頭の中はもう、自分のスキルがどの程度通用するのか試してみたいという欲望で占められている。勝てるかどうか、負けるかどうかすら考えていない。ただ命尽きるまで戦闘を楽しみ、ついでに紅蓮と静流が少しでも攻略のヒントを得られれば儲け物といった様子だ。

 

 完全に俗物根性丸出しだが……自分と死合を始めたくてウズウズしてワクワクしている侍を前にして、自分の欲望に忠実な鬼が我慢などできないのだッ!! 

 

 

 

 

 まるで瞬間移動でもしたかのように距離を詰めた鬼が小太刀を振るう。

 

 それを鍛え抜かれた斬撃見切りと斬撃防御のスキルで彼方が正面から受け止める。

 

 

 

 

 霊気と妖気。ふたつのエーテルが衝突し、侍と鬼の周囲に銀と黒の2色の輝きが飛び散ったッ!! 

 

 

 

 

 

 

「学園所属・無銘彼方。どこにでもいる普通の侍だ。よろしく」

 

「無影拍子・アテルイ。ただの通りすがりの鬼よ。こちらこそ」

 

 

 こんなやり取りをしておきながらも本人の意識はモブキャラから変わる様子は無しである。

 もしかしたら初志貫徹の精神も本人の認識が歪んでいると宝の持ち腐れになるのかもしれない。




 普通の侍と、ただの鬼の戦い。

 なにも特別なことは無いな、ヨシッ!
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