タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
謎のイワナ人気に困惑しつつも初投稿です。
巫女3人が文曲の迷宮で周防道人と対決を始める少し前。
侍3人のパーティーは破軍の迷宮を特に苦も無く攻略している真っ最中であった。本来なら前衛だけが3人というバランスの悪い編成なのだが、近距離を紅蓮が、遠距離を静流が、中間でのサポートを彼方が行っているため戦闘面での問題はなにひとつ起こっていない。
じゃあ人間関係でトラブルがあるのかと言えばそんなことも無く、仮にも未知のエリアを攻略中に悪ふざけをするのもアレだなと彼方が真面目にしていることもあって適度な緊張感で探索できていた。
過去の資料をコピーしたものを静流が確認しながら、幅広いスキル適性を持つ彼方が斥候の役目を果たし、釣り上げた鬼を紅蓮が斬る。このコンビネーションを軸にして、迷宮全体が火属性ということでこまめに休息を取り体力の消耗を抑えつつ順調に前へと進んでいる。
「火属性のトカゲ戦士、装備も充実して嬉しいな〜ってか? 朱雀の加護持ちの紅蓮には火属性スキルは効かないし、それ抜きでも静流の弓矢と水属性スキルで楽に倒せるし、安定感がすげーなすごいですよコイツぁ。ま、それはつまり油断して崩れたら一瞬で終わるってことでもあるけれど……そんとき最初に犠牲なるのは紅蓮だろうし、見てから離脱余裕だろ。紅蓮、無茶しやがって……お前のことは忘れないぜ……ッ!」
「おい」
「まぁまぁ、冗談が言えるぐらいに余裕があるのは事実ですから。しかし彼方さん、サポートに徹してくれるのはとても助かりますが、よろしいのですか? エーテル結晶やドロップアイテムを優先的にお譲りしてはいますが……」
「半端にエーテルを溜め込むよりも、死に戻りしても失わない利益のほうが大事だよ。スキルの熟練度を上げるならあとからいくらでもできるから気にしないの。俺はさ、稼ぎと探索と討伐は別々に分けて考えるタイプだから。……うん? どうしたん?」
「いや。言われてみればお前の言う通りだなと感心していた。鍛錬は鍛錬として、アイテム素材の収集はもちろんだが、迷宮の主を討伐するときも、それだけを目的としたほうが雑念に惑わされないのは当たり前のことだ」
「そりゃあ……。いや、お前なにをいまさらそんなこと────あぁ、そうね。立場が違えばそうなるか。大変だねぇ、期待され過ぎるってのも」
「必要なことである、とは理解しているつもりですよ。鬼による現世への侵攻について、想像すらしていなかった私がこう言ったところで説得力はありませんけどね。もしも、のときに私たちが人々にとって希望となることができれば……と」
「なるほどなるほど。なら、ぼちぼち妖気の雰囲気が変わったからといって足踏みしているワケにはいかないってコトだ。火山の谷間みたいなところを歩かされてきたが、露骨に広いエリア……ま、そういうことだろうな」
「望むところだ。道中の鬼たちも、ザコとまでは言わないが朱雀の加護を持つオレには物足りない相手だったからな。別に自分ひとりの力で戦おうなんて思ってはいないが……強くなるに越したことはないだろう」
3人の侍が、開けた岩場に侵入して強力な妖気の発生源らしき方向に視線を向ければ────高台の上から静かにこちらの様子を伺う巨大なムカデが一匹。
いざ、ボス戦であるッ!! ……と、紅蓮と静流が武器を構えたのだが、ふたりを制するように彼方がひとり前に出る。
「おい、なにをするつもりだ?」
「ちょっと試してみたいことがあってさ。別に危険なことをするつもりはないよ」
「いえ、その。ひとりでエリアの主と対峙する行為は充分危険だと思うのですが……」
「まぁまぁ。さて、上手くいくと面白いことになるが……」
彼方が前に出る。
大ムカデがそれを見る。
そして。
「ひ〜らりひらひら♪ ひひらりら〜♪」
彼方の誘う踊り!
大ムカデはつられて踊りだした!
「「…………は?」」
「うぇい!」
「────」ムクリ
「がるるるるッ!」
「────」キシャー!
「アロ〜ハ♪」
「────」クネクネ
「この腰の動きを見よッ!」
「────」ビッタンビッタンッ!
彼方が聞いたことのない英語の歌らしきものを口ずさみながらタップダンスを始めれば、大ムカデも大量の脚をわきゃわきゃと動かしてリズムを取っている。
あまりにも理解を飛び越えた光景に紅蓮も静流もポカーンとしているが、別に彼方の頭が急にイカれたワケではない。普段のレベリングが奇行みたいなものだから比較してまだマシとかいう話でもなく、彼方なりに考えあっての行動である。
しばらくして。
「やるな。お互いに、正々堂々とした野性の戦いをしよう」
「────」シャキン!
まるで彼方の言葉に対して返事をするかのように鋭い顎を一度だけ鳴らす大ムカデ。紅蓮たちのところに戻るために背中を見せても襲い掛かるようなことはせず、また高台の上に戻ってから静かにこちらの様子を伺っている。
「おい、どういうことか説明しろ。お前、あの鬼のことを知っているのか? いや、仮にそうだったとしても鬼と意思疎通など……」
「上位の鬼は普通に喋るだろ、人間の言葉。その辺りのことを朱雀から聞いてないのか? それに動物だって多少はコミュニケーションが成立するんだ、ムカデと踊ったって不思議はないだろ?」
「いくらなんでもそれで誤魔化されたりはしませんよ? なにかしらの意図があったというのでしたら、ちゃんと説明してください」
「人間と鬼は敵対関係にあるが、そこに憎悪があるかは別ってことだ。必要だから戦うというなら、必要無ければ戦わない選択肢もある。迷宮をテリトリーとしている鬼の全てが現世へ攻め込もうとしているとは限らないとすれば……余計な敵を増やす必要はないだろう? 俺たちにとってはザコ鬼だったとしても、一般人にとっては殺されるかもしれないって恐怖の相手なんだから」
それは鬼を味方として呼び出せる召喚術式のスキルを自分のステータス画面で見つけたときに思いついたことだった。ゲームでは問答無用で戦闘になるが、味方として呼び出せるのであれば案外コミュニケーションが可能なのではないか? と。
本来ならばこれは2代目主人公の女の子が最初の使い手となるスキルであり、初代鬼切姫には存在しないスキルである。だが取得条件を満たせないとしても確かにステータス画面に存在している。なら、シリーズ全てが混ざり合っているこの世界であれば、もしかしたら……と試してみることにしたのだ。
幸いにして大ムカデは実験するには丁度いい相手であった。いくつか条件を満たす必要があるが、精霊として装備することでステータスと属性を強化してくれる。
さらには召喚魔法のように攻撃手段として活用することもできるということで、きっと意思疎通もできるに違いない! と挑戦してみたワケだ。それはそれとして事情を知らない紅蓮と静流からみれば間違いなく頭のイカれた行動だったワケだが。
「なら、あの巨大なムカデとは戦わずに先に進むのですか?」
「え? 倒すけど?」
「……はい?」
「まて。意思疎通とやらは成功したのだろう? だからあんなヘンテコな踊りを踊っていたんじゃないのか?」
「そうだね、いい感じに仲良くはなれたと思うよ。でもそれはそれとして強くなるために奥に進まなきゃいけないし。人間と鬼は敵同士だからね、しょうがないね」
「……わかった。もうお前の行動については深く考えないことにする。とても理解できるとは思えん。とにかく、あのムカデとは戦うということでいいんだな?」
彼方が当たり前のように曲刀を構えたのを見てイロイロと諦めたのか、紅蓮も直剣を構えて臨戦態勢となる。ふたりが戦闘の姿勢になれば、頭の周りが疑問符だらけの静流もそれに続くしかない。
雰囲気の変化を感じ取ったのか、大ムカデが高台から飛び降りる。もしかしたら3人の会話が終わるのを待っていてくれたのかもしれない。さすが後半の迷宮ともなれば、ボスクラスの鬼なら空気も読めるのだろう。
大ムカデの攻撃方法もその巨体を活かした突進が主となるが、問題は通り道に発生する瘴気溜まりが地雷のように爆発することだ。
原作ではよほど反応が遅れない限り、ステップやローリングはもちろん走るだけでも回避できるぐらいの余裕があった。適度に踏んで爆発させて処理させることで安全を確保することができたのだ。
だがそれはダメージの当たり判定が明確に区切られているゲームだからできたこと。爆破の衝撃、散弾のように飛び散る石礫、なにより火属性の渦のようなものが発生してしまうのが脅威となる。
「厄介だな。紅蓮、火属性のスキルで誘爆させられないか?」
「もう試した。どうやらアレは放出された霊気ではなく、あくまでオレたちの中にある霊力に反応しているらしい」
「そいつはいいな、これだけ雑にばら撒いても効果的なワケだ。仕方ない。地雷は俺がどうにかして足場の確保をしてみるから、お前はお客さんたちの相手を頼んでもいいか?」
「お客さん? ……まぁ、これだけデカい親玉がいるなら子分も大勢いて当然か」
(これもゲームには無かった要素だな。人型に近い鬼よりも、本能的な動きを最大限に発揮できる動物型の鬼がここまで面倒になるとは。人間は五分の条件じゃ猫一匹にすら勝てない、なんて話を聞いたことはあるが……ラスダンのこと、あんまり考えたくないな)
「静流ッ! 地雷は俺が、増援は紅蓮が抑えるッ! しばらくの間、本体はお前に任せたッ!! 水属性だからイケるイケるッ!!」
「私ひとりで、ですかッ!?」
「大丈夫だッ! ダメだったらそのときは骨ぐらい拾ってやるッ!!」
「つまり挑むより先に泣き言を言うぐらいなら潔く死ねということですね。────玄武ッ!!」
『楽しそうだな、静流』
「えぇ、楽しいですよ。玄武の侍として期待されることには慣れてしまいましたが、ただの友人として頼りにされるのは初めてですから」
原作知識を使って静流になんらかのアクションを起こしたりはしていない。そんな面倒なことをエンジョイ勢である彼方が自主的にするはずがない。
ただ、せっかくなので青春時代を楽しむノリで接しているだけ。紅蓮から呼び方について好きにしろと言われたのでハムエッグ紅太郎と呼んだらメッチャ睨まれたとか、そんなどうでもいい話ぐらいしかしていない。
しかしそれは、玄武の侍としての生き方しか知らなかった静流にとって恐ろしい
「まずは一矢、この地を私が支配させていただきます。守護方陣・封水結界ッ!!」
ヒュン……と放たれた矢が空に消え、戦場全体に霊気の雨が降る。味方全体のステータスを強化し、体力の継続回復と持久力の消費を軽減してくれる、とりあえず適当に発動しているだけでも役立つ便利なスキルだ。
唯一の難点は火属性スキルの弱体化を味方も受けてしまうことだが、低下するのは攻撃力だけなので朱雀の加護による火耐性までは弱体化しない。もともと破軍の迷宮の敵は火に強いこともあり、剣の熟練度が高く物理スキルも豊富な紅蓮の足枷とはならない。
ガチャン、と大ムカデが顎を鳴らす。
以前の静流であればただの威嚇にしか見えなかったそれは、彼方の話を聞いてしまったせいで「やるな、人間」と面白がっているように感じてしまう。
「────
そこに心優しき玄武の侍はいない。
いま、ここにいるのは。義務感でも使命感でもない、昂る闘争本能のままに強敵に挑まんとするひとりの武人であった。
人間とは敵対しているがそれはそれとしてジョン・H・ボーナム氏のリズムを聞いたらテンションが上がるタイプのムカデ。